第26話 護衛

「王子を出すのである!」

「うぎゃぁぁぁ~っ! 王城が消滅して忙しい時だってのにぃ! 消えろ、疫病神やくびょうがみ!」


 冒険者ギルドに戻った我は早速受付嬢に王子の居場所をいたのだが、何故だか逆ギレされてしまったのである。


 初めて会った時には、もっとちゃんとした身なりをしていたのだがな。 今では戦場帰りかの様にボロボロなのである。


 それに目の下にはくまが出来ており、髪もボサボサだ。 何かつらい事でもあったのであろうか?


 しかし我も暇ではないし、なるべく早く王子の居所を確認したいので思案していると、一般のオジサンが受付嬢と会話しだしたのである。


「要人警護を緊急依頼でお願いしたい」

「残念ですが今、王都もこのギルドも混乱しており、依頼を受ける事は出来かねます」

「そこをなんとか!」

「無理なモノは無理なんです。 各所の救援、救助、調査にマトモな人員は出払っており、受ける人が残っていません」


 ふむ、そう言えば王子も都市を脱出する可能性があるのであったな。


「実は大きな声では言えないが、王城から脱出してきた王族が護衛対象なんだ。 報酬は通常の2倍は払う。 だから何としてもお願いしたいのだ」

「そうは言われましても、護衛任務が遂行出来る人材が残っていないんです」


 ふむ、王族であるか。 ならばその対象の中に王子が紛れている可能性もあるな。


「我がその依頼、受けるのである」


「げっ!」

「貴方は一体…?」


「A級冒険者のアビスである!」


「いや、流石にこの人は止めておいた方が良いと思います」

「しかし我々は一刻も早く王都を離れたいのです」

「しかし…」


「受付嬢よ、安心するのである! 我は護衛任務とやらは複数回、経験した事があるのである」

「本当ですかぁ?」

「嘘はいていないのである」


 もっとも、我は護衛される側であったが、護衛と一緒に出掛けた経験は結構あるのである。


 我の経験から言えば、意見が食い違った場合には「五月蝿うるさい脳筋めっ!」とか言ったり、後ろから意識を刈り取ろうとすれば良いのであろう?


 まあ我は意識を失う程弱くはないので、殴り返しておいたのであるが。


「こう見えて我は経験豊富なのである」


「それじゃぁ、お願いする事に…」

「待って下さい。 お気は確かですか? コレですよ! どう見たってトラブル臭しかしませんよ?」

「そうは言っても、他に適任者がいないのでは仕方が無いじゃないですか。 それに取り越し苦労かも知れませんし」


「受付嬢は心配しすぎなのである!」

「黙れ脳筋っ!」


 ひどいであるな。 我が護衛対象を取り逃したりするとでも思っているのであろうか?


 ではハッキリと言っておくべきであるな。


「もしもの場合は、箱詰はこづめにでもして目的地に送り届けるのである!」

「要人をサラッと箱詰めにしようとすんなっ!」


 結局、他に適任者がいなかったので、我が護衛任務をする事になった。 まあ箱詰めは絶対にするなと受付嬢には発狂されたのであるが。


 その後我は、護衛対象に会う事になった。 依頼主には粗相そそうをするなとかグチグチ言われた後であったが。


「僕が護衛対象のレオ…だ。 ウエストポートシティまで宜しくね」

「うむ、任せるのである」


 何ともヒョロい小僧であるな。 思わず握手する時ににぎつぶしそうになったのである。


 そして小僧の隣にはメイド服を着た小娘と、帯剣したせた男、そして依頼を出していたオジサンが付き添っている。


 ふむ、パットしない連中であるな。 コレはレオニダスとか言う王子とは別人かも知れないな。


 どうすべきであろうか。 小僧が本当に王族ならば、レオニダスと密会する可能性もあるので、このまま逃すのは少し惜しいきがする。


 ぬぅ、仕方あるまい。 分散して逃げ延びるにしても、ウエストポートシティに集結する可能性が高い気もするので護衛任務だけはやる事にするか。


「早速、出発するのである」

「ちょっと待って下さい。 我々には馬車すら無いのです」


 依頼を出したオジサンは用意が悪いのであるな。


「空を飛べば良いのである」

「飛べませんよっ!」


 ぬぅ、空を飛ぶのはそんなに難しくないのである。 やっぱりコイツ等は修行不足であるな。


「ならばさっさと馬車を用意するのである」

「どうしてそんなにえらそうなのですかっ!」

「偉そうではない、偉いのである」

「この人、無茶苦茶だぁ!」

五月蝿うるさい脳筋めっ!」


 なるほど、脳筋とはこの様に使えば良いのであるな。 脳筋とは分からず屋の事であろうか?


 結局、レンタル馬車屋に全員で向かい、馬車の選別を行う。


 だが、小僧とメイドはなるべく豪華な箱馬車を選ぼうとし、帯剣した男とオジサンは幌馬車を選ぼうとして意見が対立していた。


 資金不足なのであろうか? だったら我も協力すべきであろう。


「人をたるに詰めて、荷馬車で運べば良いのである。 箱詰めでないのだから問題ないのである」

「「「問題、大アリだぁ!」」」


 ぬぅ、何故か全員に反対されたのである。


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