第25話 王族

「王たちを一刻も早く脱出させるのだぁ! 急げっ!」


 おおう、迫真の演技であるな。 最後の演出としては中々なのである。


「はっはっはっ! もう後が無いのである!」

「ちくしょうっ! 何としても王族だけは護ってみせるぞっ!」


 迫真の演技につられて、我もノリノリで台詞せりふを言ってしまうのである。 楽しいであるな。


 態々わざわざ王族役がいるであろう方向で立ち止まり、我の足止めをする演技をするなど芸が細かいのである。


「ほぅ、我の行く手を阻むであるか。 余程に死にたいらしいな」

「時間稼ぎが出来るのであれば、この命すら惜しみはしない!」

「何秒もつであるかな?」

「来いっ!」

「ふん!」

「うぎゃぁぁぁ~っ!」


 おう、切られ役も中々であるな。 悲壮感がビシバシと伝わって来るのである。


「口先だけであったな。 わっはっはっ!」

「もうおしまいだ…」


 ガヤの演技も最高である。 本当に絶望したかの様な演技は見応みごたえがあるな。


 我は後宮のセットへとズカズカと進んでいく。 途中に足止め役が数人現れては消えていくと言う細かな演出を堪能しながら、ついにクライマックスとも言える場面に遭遇した。


 派手な金属鎧いんぞくよろいまとった兵士たちに護られ、王冠らしきモノを頭の上に載せた小太りの男が見える。 王役であろうか? すこし頼りない感じがするのである。


「なっ、名を聞こう」

「アビスである!」


 我の名前を確認するとは、やはり審査で間違っていなかったようであるな。 ならば最後まで演技に付き合うのである。


「もう後が無いのである! あきらめて滅ぶが良い!」

「ふっ、ワシが死んでも息子のレオニダスがいる限り、我が王国は不滅である!」

「ならばその息子とやらも後で黄泉路よみじに送ってやろう」

「やらせはせん! やらせはせんぞぉぉぉ~っ! 者共、奴を打ち倒した者には褒美ほうびは思いのままぞ! 殺してしまえっ!」


 咆哮ほうびを挙げて襲いかかって来る金属鎧たち、おおぅ、目が血走っていて狂気すら感じるのである。 流石さすがはクライマックスであるな。


 だが所詮しょせんは役者達。 見せる演技としては十分なのであろうが、如何いかんせん遅過ぎるのである。


 我はワザと1人ずつ切り伏せて、王役へと近付いて行く。 うむ、絶望に染まっていく演技の迫真であるな。


「くっ、近衛騎士団ですら役には立たぬか。 だがレオニダスが落ち延びる時間はかせがせてもらうぞっ!」

精々せいぜい頑張がんばるのである」

「悪魔めっ!」


 ややもすると、金属鎧は1人もいなくなった。


「もう終わりであるな」

「時間は稼げた、もうワシは逃げも隠れもせん。 いつかは我が息子が、貴様を地獄へと送ってくれるであろうよっ!」

「ならば死ぬのである!」


 そう言って王役を切り捨てて、周囲を見回す。 アレ? 審査員が残っていないのである。


「しまったのである!」


 失敗であるな。 もしかして審査員もぶっ飛ばしてしまったのであろうか?


 いや待て。 そう言えば息子がどうのとか言っていたのである。 ここは追跡イベントの発生であろうか?


 でもどうする? 何処に王子がいるのか判らないのであるな。


「ぬぅ、困ったのである」


 何かヒントを言っていなかってであろうか? そう言えば落ち延びるとか何とか?


 落ち延びると言えば、他の都市や国などに逃げる事であるな。 時間稼ぎがどうのこうのとかも言っていた事であるし。


 ならば、一応この城を吹き飛ばして周囲を確認すべきであろうか? まあ最悪、この都市から脱出する集団を見つければ良いだけであるしな。


「テラ・エクスプロージョン!」


 丁度、城全体を吹き飛ばす程度に威力を制限し、辺りを見回してみる。 うむ、王子役っぽい死体は見つからないのであるな。


「フライ!」


 我は跡形あとかたすら無くなった城のセットの上空に移動し、つぶさに周辺を観察する。 うむ、街は何やら騒ぎになっているみたいであるな。


 まあ当然か、これだけ大掛かりなセットなのである。 誰がエキストラで誰が審査員かは知らないが、雰囲気は伝わってくるのである。


 頭を抱えてうずくまる者。 顔面蒼白になる者。 淡々と店仕舞いをする者。


 いや、待て。 こうなると、この都市を放棄して逃げ出す者たちであふれ返るのではないか?


 ならば同じ様にこの都市から出て行く王子役を見つけるのが困難になるのである。


 最終試験であろうか? 中々の高難易度であるな。


 我は更に高度を上げ、都市を脱出しようとする人々を見守る。 ぬぅ、少しずつであるが門の周囲に人が集まり始めているのである。


 不味まずいであるな。 あんな中に紛れてしまえば、我には見つける自身が無いのである。


 ぬぅ、どうすれば良いのであろうか? 困ったのであるな。


 通常の我であれば、大臣たちに意見を訊くのであるが今の我は1人である。


 いや、いるではないか。 少し無愛想ぶあいそうでも、我に武闘大会の参加方法を教えてくれた人物が。


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