第19話 剣聖

「勇者以外の強者と戦いたいのである!」

「またですかぁ?」


 王都の冒険者ギルド、そこの受付嬢は我の顔を見ると、何か腹を壊した小僧みたいな顔をしたのである。 下剤が必要であろうか?


「トイレなら廊下を行った突き当たりである」

「お腹なんて壊していません! 少し胃が痛い思いをしただけです」

「うむ、養生ようじょうするのである」

「原因の半分は貴方なんですけどね」

「何かあったのであるか?」

「勇者様が何故か世代交代してしまったんですよ。 ちなみに新しい勇者様には会ったのですよね」

「うむ、勇者の卵であった」

「それで何故、先代勇者が遭難してしまったのかを調べるために調査隊を送り込んだのですが、音信不通なのです」

「調査隊がであるか? それは災難であったな」

「念のために聞きますが、先代勇者様には会っていないのですよね」

「うむ、我があのダンジョンで人族に会ったのは、勇者の卵の時だけであるな」


 やっぱりあのダンジョンには先代勇者とやらいたのであろうか? それらしい人物には会わなかったのは運が悪かったのであるな。


 しかし、もしも勇者が1人だけであるならば、勇者の卵に出会った時には、先代勇者とやらは死亡していた事になるのではあるまいか?


「惜しい人物を亡くしたのである」

「まあ惜しいかどうか別として、今は色々と忙しい状況なんですよ。 先代勇者様に依頼していた事が未達成ですし、手続きだけでも手が足りていない状態なんです。 ですから強者の斡旋あっせんなんて出来ませんよ」

「ぬぅ、何とかするのである」

「なりませんよっ! そんなに暇なら剣聖様がやっている道場にでも行けば良いんじゃないですか?」

「剣聖であるか?」

「ええ、剣の達人で王家から剣聖の称号をたまわる程なんですよ」

「道場とやらの場所を教えるのである!」

「いや、道場破りでもするつもりなんですか? 剣聖様だけじゃなくて門下生も沢山いるんですよ! 大怪我おおけがだけじゃ済まない可能性だってありますよ!」

「戦いが我を呼んでいるのである!」

「はぁ、どうなっても知りませんよ。 場所は大通りに面していますから、通行人にでも聞けば良いんじゃないですか?」

「行ってくるのである!」


 剣聖とやらは剣の達人であるか。 我も剣技には自信があるので対戦が楽しみであるな。


 大通りに出て、通行人の男を捕まえる。


「剣聖の道場とやらを教えるのである!」

「ひぇぇぇ~っ! お金は持っていません。 ほら、何ならジャンプしてみてもいいですよ!」


 ぴょんぴょん。 ちゃりちゃりん。


「持っておる様であるな」

「いや、このお金はカミさんからお使いを頼まれた代金で、俺のじゃねぇんだ! 勘弁してくれっ! 殺されちまうよっ!」

「ならば、剣聖の道場まで案内するのである」

「はい、こっちです! ですから案内が済んだら見逃して下さいね」

「うむ、考慮しよう」


 ぬぅ、どうして我が物取り扱いを受けているのであろうか。 せぬ。


 とは言え案内は素直に有難いので、そのまま後を付いていく。


「ここです。 これがご所望の道場です。 もう帰っても良いんですよね?」

「うむ、許す!」

「有り難うございます! それじゃぁ俺はこれで」


 それだけ言うと、男は逃げるように去って行った。 お使いとやらは時間制限でもあったのであろうか?


 だがそんな事は些事さじである。 道場では剣聖との戦いが待っているのだ。


「剣聖を所望するのである!」

「何だ貴様は? 先生への客か?」

「手合わせをしに来たのである!」

「ちっ、また道場破りかよっ。 俺達が相手をしてやるからこっちへ来い!」

「ぬぬぬっ、下っには用が無いのである。 さっさと剣聖のいる場所まで案内するのである」

「うるせぇ! 俺達は先生のお手をわずらわせないために、テメェみたいな奴の相手をする事に決まっているんだよっ! いいからコッチへ来い!」

「ぬぅ、本当に雑魚には用が無いのであるがなぁ」

「言わせておけばいい度胸だ! ここで成敗せいばいしてやる!」


 そう言って、数人の男たちが飛び掛ってきた。 ぬぅ、本当に雑魚である。 遅くて欠伸あくびが出る程であるな。 どうしてくれよう。


 こいつらはどう見ても、ダンジョンにいた暴漢と同等かそれ以下である。 デコピンでもしようモノなら頭がパーンであるな。


 ここで殺してしまっては、剣聖とやらが逃げるかも知れないし、そうでなくてもヘソを曲げられたら面倒臭い。


 仕方がないであるな。 無視して剣聖を探索するとしよう。


「くそうっ、どれだけ木剣を叩きつけてもかすり傷一つ負いやがらねぇ! おい、誰か真剣を持って来い!」

「いや、流石に刃傷沙汰にんじょうざたはマズいんじゃないのか?」

「構うものかっ! 裏庭にでも埋めりゃ分かりゃしねぇよっ!」


 ぬぅ、鬱陶うっとうしいであるな。 木の枝でどれだけペシペシしようが我が傷つく事はない。 鍛えているであるからな。


 だからと言って、視界の中を小蝿こばえがウロチョロするのは流石さすがに不快である。


「石化!」

「ぎやぁぁぁ~っ!」


 この様な場合、古代魔術は便利であるな。 後で石化を解除すれば問題ないのであるから、やりたい放題である。


「こっちであろうか?」

「えっ、てっ、敵襲っ!」

「道場破りである!」

「石化攻撃を仕掛けてくる道場破りなんて、どこのメデューサだよっ!」

「あんなのと一緒にされては不愉快なのである! 石化!」

「ぎゃぁぁぁ~っ!」


 メデューサはヒステリー持ちの蛇女へびおんななのである。 どうやったら男である我と間違えると言うのであろうか?


 どうやらここには、残念な頭の連中しかいないのであろうか?


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