第18話 ダンジョンコア

「完全勝利なのである!」


 周囲には、今まさに魔石に変わろうとしているドラゴンたち。 既に動いているモノは存在しない。


「まあ所詮しょせんはトカゲであったな」


 アイテムボックスに魔石を放り込みつつ、辺りを見回す。 うむ、後はあの扉だけであるな。


 全ての魔石を収納した後に、自己主張の強い扉に前に立つ。 そこにはデカデカと挑戦状が書かれていた。


【もしも勇気があるならば、この扉の先に進むが良い】


 ふむ、体は十分に温まった。


 体力や魔力の減りも微々たるものであるし、ここで退く理由は無い。


「では開帳である!」


 ユックリと重たい扉が開き、決戦のフロアの全貌が明らかになる。


 最奥には台座に飾られた、魔力の満ちる宝玉。 ダンジョンコアであろうか?


 天井も非常に高く、空中戦すら出来そうだ。


『挑戦者よ、ようこそいらっしゃいました』

「うむ」


 ダンジョンコアは意志を持つタイプであるか。


『では最終決戦として、次のモノたちを倒して下さい』

「よかろう」


 すると召喚陣が4つ現れ、4体のドラゴンが…。


「なっ、なんだと? アークドラゴン達であるか」

『驚きましたか? 右からファイヤーアークドラゴン、ウインドアークドラゴン、グランドアークドラゴン、ウォーターアークドラゴンです。 今までの様にはいきませんよ』

「くっ、我を、我を舐めるなぁぁぁ~っ!」

『まあ精々頑張りなさい。 強力なドラゴン達に勝利するまで、この部屋から出る事は出来ませんよ』

「ただの雑魚ではないかぁぁぁ~っ!」


 思わず我を忘れて腰の剣を引き抜く。 こいつはアダマンタイト製で、丈夫さだけは折り紙付きであるが魔剣ではない。


 その剣に魔力を存分に込めて一気に振り抜く。 すると、4体のアークドラゴン達は抵抗する間もなく消し飛んだ。 完全勝利である。


「我はエンシェント・ドラゴンを所望するのである!」

『えっ、そんな強力なドラゴンなんて召喚出来るワケないじゃないですかっ!』

「ちっ、使えないであるな。 ならばエルダードラゴン100体で手を打つのである」

『無理ですぅぅぅ~っ! 【真なる勇者】の称号を贈呈しますから、勘弁かんべんして下さいよぉ! ほら、今渡しましたからっ!』

「何だとぉぉぉ~っ!」

『おや? そうでしょうそうでしょう。 【真なる勇者】の称号は千年近く失われていましたからねぇ。 特別ですよぉ!』

「お前は許されない事をしたのである」

『へっ?』


 我は人化を解除して、本来の姿を表す。


 体長は2倍近くになり、頭には魔王に相応ふさわしいつのが2本。


 体全体から吹き出す威圧と、あふれ出す魔力。


 それらで空間をゆがめながら、ダンジョンコアを鷲掴わしづかみにする。


「で、何か言う事はあるか?」

『あっ、えっ、えっと、貴方様は?』

「魔王アビスである!」

『いやぁぁぁ~っ! こーろーさーれーるー!』

「称号を取り消すのである」

『無理ですぅぅぅ~っ! 無理なんですぅぅぅ~! 称号は、追加される事はあっても減る事はないんですぅぅぅ~っ!』


 泣いても許さぬ。


「大体からして、このダンジョンは巫山戯ふざけているのである」

『勇者を鍛えるためのダンジョンなんですぅ! 魔王様には向いてないんですぅ!』

「そう言う問題ではないのである。 マトモな魔物がいないのである」

『勇者は一般人から始まりますから、強力過ぎると死んでしまいますぅ!』

五月蝿うるさいのである!」


 我は、有りったけの魔力を込めて、ダンジョンコアを調教する。


『いやぁぁぁ~っ! そんなに大量に注ぎ込まないでぇぇぇ~っ! 壊れちゃう! 私、壊れちゃう! らめぇぇぇ~っ!』


 嫌がろうが関係ないのである。 問答無用で魔力を込めていると、何だかシクシク泣き始めた。


『私、汚されちゃったぁ。 神様によって作られた聖なるダンジョンコアなのに、黒い魔力で染められちゃったよぉ』

「ほう、まだまだ元気ではないか。 もっと濃密なのを注いでやろう」

『らめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~っ!』


 すると、ダンジョンコアに変化が現れた。


『でへへへへ~っ。 ご主人様の色に染められちゃったぁ♡』


 ふむ、素直になった様である。 ではこのダンジョンを、マトモなモノに改変しよう。


「まずは魔物の数を100倍にするのである!」

『魔力が余っているから余裕だよっ!』

「ついでにセーフティーエリアは廃止して、モンスターハウスにするのである!」

『ご主人様のために、私頑張る!』

「罠を沢山用意して、戦闘に専念出来ない様にするのである!」

『うん、勇者パーティは皆殺しだね☆』


 ふむ、これで勇者に相応しいダンジョンになったであるな。


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