修行し過ぎた魔王、世界を漫遊する

第12話 着服

「で、結局どうしたのであるか？」

「それで兵士を着飾る鎧（よろい）なんかを買うお金があるなら私に回せって事でぇ」

「いや、あれは着飾っているのでは…」

「軍事費から衣装代を捻出したのですぅ」

　何を言っているのか全く判らないのである。

「それで軍部にでも睨（にら）まれたであるか？」

「いやぁ、衣装が手に入ったら当然アクセサリーが欲しくなるなるじゃぁないですかぁ」

「ほう」

「外国に贈り物をするお金があるなら私に回せって事でぇ」

「ほうほう」

「外交費からアクセサリー代を捻出したのですぅ」

　結局、着服しまくっているのではあるまいか？

「外務省からも睨まれたであるか？」

「いや、気が付いたら見方がいなくなっていたのですぅ」

「そっ、それは不運であるな」

「でしょう？　ちょっと着飾るお金を工面しただけなのに、酷（ひど）いと思いませんかぁ？」

「まっ、まぁ、そうであるな」

「でしょう？」

　うむ、これは助太刀したのは間違いであったかも知れん。

　いや、それ以前に早々に逃げた方が良さそうな気がしてきたのである。

「そう言えば、急用を思い出したのである」

「どうやら私を狙う者は政府中枢（せいふちゅうすう）にいるようなのです」

「しかも我の助けを待っている気がするのである」

「ですから、国中の強者が襲ってくる可能性があるのですよ。　宮廷魔術師なんかも来るかもですよ」

「ほう、詳しく話を聴くのである」

　まぁ、アレであるな。　か弱い女性は助けるべきであるとかなんとか。

　別に、国中の強者などに興味を引かれたワケではないのである。　ただ最近、魔術師などとは戦った事が無かった事を思い出しただけなのである。

「姫様、次の襲撃者がやって来た様です」

「それで、どの部署でしょうか？」

「アレは宮廷魔術師かと思われますので、魔法省ではないかと」

「アビス様、お望みの魔術師で御座います」

「出るのである！」

　そう言えば、宮廷魔術師と戦うのは初めてであるな。　少し楽しみなのである。

「誰じゃ！　見ない顔じゃな」

「臨時の用心棒なのである！」

「くっ、まだあの放蕩姫（ほうとうひめ）の見方がいたとは計算外じゃが、まあ良い。　お主に恨みは無いが、コッチには研究費を使い込まれた恨みがあるでの。　悪いがここで倒させて貰おおう」

「来るのである！」

「ギガフレイム・ボンバー！」

　ぬっ、始めてみる魔術なのである。　ここは敢えて無防備で喰らってみるのも面白そうなのであるな。

　おおぅ、目の前に広がる炎の壁は中々壮観であるな。

「っ、やったか？」

「それはフラグなのである」

「なにぃぃぃ～っ！　ワシの上級魔術を喰らって無傷じゃとぉぉぉ～っ！」

「ふっ、魔力の練り込みが甘い、修行不足なのである！」

「それならぁぁぁ～っ、ギガフロスト・エクスプロージョン！」

　ぬぉぅ、目の前が真っ白になったのである。　コレがホワイトアウトと言うものであるか。

　火照った体には心地良いのであるな。　まるでサウナの様な持て成しを受けるとは幸運であるな。

「かっ、かっ、かっ。　炎で熱せられた体を急速に冷凍されるのは堪（こた）えたじゃろう？　ワシの必殺コンボを喰らって今まで立っていた者はいないのじゃ！」

「ぬっ？　我には、ちょうど良い温度変化であったのだが？」

「何じゃとぉぉぉ～っ！　あり得ん、ドラゴンの鱗（うろこ）すらも砕く必殺技じゃぞ？　一体どうやって防いだと言うのじゃ？」

「ふっ、我の鍛え抜かれた筋肉には、サウナ攻撃など効かないのである！」　大胸筋ぴくぴく

「そっ、そんな馬鹿な…」

「修行の成果である！」

　さて、どうしようであるか。

　我も最近は物理ばかりで戦っていたので、そろそろ魔術を使うべきであろうな。

　そうだ、アレを使うか。　暗黒魔術の秘奥義を。

「【深淵（しんえん）よりもなお昏きもの、常夜よりもなお静かなものよ、アビスの王よ、我と汝の力もて、全てに滅びを与えん事を】、テラ・スレイブ！」

　深淵から溢れ出してきた闇が、全てを黒く染めていく。

　形ある物は崩れ去り、時の流れを生きる者は朽ち果てていく。

　ふふふっ、最高であるな、滅びの力は。

　この闇の前では、全ての防御は意味を失い、ただ単に消え行くのみ。

　我の名前、アビスの由来となったこの技こそ深淵の魔術、テラ・スレイブ。

　まあちょーっとばかりクレーターが出来るであるとか、気候変動が起こってしまうとか、地殻にヒビが入るとか、一節によると地軸が傾くなんて話もあるが、全て仮説である。

　何故なら被害規模が大きすぎて使えない魔術であるし、歴史上使った者がいなかった魔術だからであるな。

　だから一度は使ってみたかった魔術であったのだが、今回の魔術戦では、我の知らなかった魔術が使われたのである。

　この程度の返礼は必要であろう。

　とっ、あれれ？　崩壊が止まらないのであるな。　あっ、遠くで赤く見えるのはマントルであるかな？

　あれ？　もしかして、この星の危機であろうか？　いや、我は悪くないぞ。　これは不幸な事故なのである。