第11話 王族

「あのぉ、助太刀のお礼をさせて下さい」

「断るのである!」


 何故かお礼を断ったら微妙な顔をされたのである。 そんなに渡したい物があるのであろうか?


「いえ、そうおっしゃらずに是非ぜひともお礼を!」

「いらないのである!」


 もしかして処分に困った呪いのツボ的な何かであろうか?


「どうしても?」

「どうしてもである!」


「ならせめて、王都まで送らせて貰えませんか?」

「飛んだ方が早いのである」

「いや、ほら、飛んだら疲れるじゃないですかぁ」

「修行しているので疲れないのである」

「じゃぁ飲み物なんてどうですか?」

「酒はあるであるか?」

「ええ、勿論ありますよ」

「なら、ご馳走になるのである」

「じゃぁ、馬車の中においで下さい」


 まあ酒くらいならご馳走になるのである。 もしも毒が入っていたとしても、我には効かぬしな。


 そう言われて一番豪華な4頭引きの馬車に近づいたのであるが、我には小さい様である。


「ぬぅ、小さいであるな。 我は外で飲むのである」

「いえいえお待ち下さい。 座って飲まないと、お酒の味が判りませんよ」

「馬車の中は屈まないと座れないので、立つよりもしんどいのである」

「いや、それなら馬車の上なんてどうですか? クッションを増設して簡易座席を作りますからっ!」

「うむ、もしかして一緒に行って欲しいのであるか?」

「うっ、どうしてそれを…」

「目が泳いでいるのである!」


 うむ、我の審美眼は今日も有能であるな。


「お願いします。 襲撃がさっきのだけとは限らないんですぅ! 私たちピンチなんですぅ!」

「とは言っても、襲撃者は次も雑魚なのであろう?」

「雑魚? いえ、さっきのは我が国でも名のある武将で、強かったのでは?」

「いや、武器以外は見るべき点など無かったのである」


 まあ本人は修行不足を感じさせる弱さであったしな。


「そんな…いや、次の襲撃は、我が国最強の将軍が攻めてくる気がします!」

「ぬぅ、将軍であるか? 人族の将軍は命令するのが得意で、戦いは苦手なのが多かった気がするのである」

「いや、もしかしたら襲撃者に我が国最強の剣士が含まれる予感がします!」

「ぬぬっ、剣士であるか?」

「そうです、ついでに我が国最強の魔導士とかも参戦してくる予感もします!」

「ぬぬぬっ、盛りだくさんであるな」

「はい、盛りだくさんなんですぅ!」


 ところで、そんな大勢に狙われるコイツは誰なのであろうか?


「のう、そんなに色々な人物から恨みを買っているお主は誰であるか?」

「はっ、申し遅れました。 私は第二王女のマリンヌと申します」

「ほう、王族であるか」

「はい、王族です」

「ならば我も名乗ろう。 我はアビス・マーなのである!」

「どちらの貴族で御座いましょうか?」

「マー王国なのである」

「もしかして王族?」

「その様なモノである」


 あんまり嘘だらけだと、話が破綻はたんしかねないであるからな。 マー王国の設定を使うのである。


「それでアビス様はどうして王都へ?」

「勇者に会いに来たのである」

「まぁ、勇者様に? それならご紹介できますが」

「そうであるか?」

「ええ、勇者と言えど平民ですので、呼び付ける事が可能なのですよ。 何かご依頼でしょうか?」

「手合わせを望んでいるのである」

「まぁ、手合わせですか。 それならセッティングいたしますわよ」

よろしく頼むのである」


 おおぅ、自分で探す手間が省けたのであるな。


「それはそうと、どうして狙われているのであるか?」

「はぁ、それは聞くも涙、語るも涙の話で御座います」

「長いのであるか?」

「そう、あれは春先の事でした。 私は春はらしい新色のドレスが欲しかったのですが、お父様に断られてしまったのです。 同じ様なモノがあるだろうと」

「長くなるなら、酒とツマミを用意するのである」


 話の腰を折られたのが不服なのか、部下のものたちに酒とツマミを用意させて、話を強制的に再開したのである。 何だか面倒臭そうな性格であるな。


「で、断られた理由なのですが、予算が無いとか色々言って、ノロリクラリとかわすばかり」

「それならあきらめれば良いのではないか? 財務大臣はゴネると面倒臭いのである」

「そんな事は出来ません。 だって私の新しいドレスを皆が期待して待っているんですよ」

「そう言うモノであるか」

「そう言うモノなんですぅ!」


 あっ、これはアレであるな。 昔出て行った嫁が、重箱じゅうばこすみつつく雰囲気と同じモノである。


 こう言った場合は、とにかく黙って聞くのが得策であるな。


「ちょっとぉアビス様ぁ、聞いてますぅ?」

「勿論、聞いているのである」

「じゃぁちゃんと聞いて下さいね」


 ぬぅ、逃げるのに失敗したのである。 コレは強敵ではあるが、我は違うのが良いのである!


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