第9話 王都へ

きたのである!」

「イキナリ何を?」


 受付蟯が何やら騒いでいるのであるが、オーク狩りにもウンザリした事でもあるし、ちょっと不満を言ってみただけである。


「と言うワケで、最低でもドラゴンを我に狩らせるのである!」

「そんな依頼なんて、ポンポンあってたまるかっ!」

「何か言ったであるか?」

「いえ、残念ながらそのような依頼は御座いません」


 何だと、冒険者の仕事であるドラゴン狩りの依頼が無いだと! そんなバカな事があるのであろうか?


「では強き者を紹介するのである」

「紹介してどうするのでしょうか?」

「勿論、戦うのである!」

「迷惑だなっ!」


 もう家畜や弱い者なんてりなのである。


「それなら勇者にでも会いに行ったらどうでしょうか?」

「勇者だと? この近くに存在するのであるか?」

「いえ、この近くには存在しませんが、王都の冒険者ギルドに問い合わせれば分かると思います」

「ふむ、王都であるか」


 そうか勇者かであるか。 そう言えば、この旅の目的も勇者であったな。


「では勇者狩りである!」

「アビス様はもしかして、魔王様でしょうか?」

「ちっ、違うのである! 魔王は魔族であって、我は人族なのである」

「ではどうして魔王城にいた事があるような発言をしたのでしょうか?」

「かっ、観光で訪れたのである!」

「そう言えば、国のトップだとか仰っていませんでしたか?」

「我は人族の国のトップなのである!」

「因みに国の名前は?」

「まっ、まっ、マー王国である」

「つまりはマー王様?」

「そうである。 我の名は、アビス・マーなのである!」

「今、思いつきましたよね?」

「何であるか? このアビス・マーの言うことが信じられないと?」

「いえ、魔王様」

「うむ。 それで良いのである。 ん? いま魔王とか言ったか?」

「いえ、違いますよ。 マー王様」

「ふむ、少しビックリしたのである」


 危なかったのである。 危うく魔王だとバレるところだったのである。


 だがしかし、バレる可能性が出てきたのであるから、早く退散するのが正解なのであるな。


「それでは、我は今から王都に向かうのである!」

「行ってらっしゃいませ、魔王様」

「うむ、達者でなっ!」


 ふう、何とかバレずに済んだのである。 あの受付蟯、意外と鋭いであるな。 まあ我の咄嗟とっさのアドリブに誤魔化ごまかされたのであるから、まだまだではあるがな。


 では王都まで飛んでいくとするか。 いや待つのである。 王都とは何処にあるのであろうか? 仕方がないのであるな。


 危険ではあるが、もう一度受付嬢に会って、王都までの道を聞く必要があるのであるな。


「うっ、受付嬢よ」

「何ですか、魔王様」

「うむ。 王都までの道を聞きたいのである」

「それなら中央広場から、王都行きの馬車が出ておりますので、そちらに乗車して下さい」

「いや、飛んでいきたいのでな、地図などがあれば、見せてもらいたいのだ」

「地図ですか? それなら銀貨5枚で販売しております」

「うむ、買うのである」


 まあ地図があるのであれば、役に立ちそうであるな。 我は金貨で払い、地図とお釣りを受け取った。


 そう言えば買い物なんて何時いつ以来であろうか。 少々感慨深くもあるのであるな。


「その地図で、侵略には役立ちますか?」

「しっ、侵略であるか? 我は部下達にも侵略よりも修行を推奨する平和主義者なのである! なので、侵略には使わないのである!」

「そうですか、単なる脳筋ではなかったのですね」

「何か言ったか?」

「いえ、被害が勇者だけ…とは限りませんが、無駄な犠牲者が出なさそうでほっとしているのですよ」

「被害とは酷い言い分なのである。 我は魔王と双璧をなすと言われている勇者に興味があるだけで、戦争をする気などないのである」

「でも、強き者が見つかれば」

「手合わせをするのである!」

「ですよねー」


 旅の道楽としての武者修行むしゃしゅぎょうは当然なのである。 それは道場が見つかれば、道場破りをするのがマナーであるのと同じなのである。


 では、今度こそ出発であるな。


「魔王様、一般市民には手を出してはいけませんよ」

「我は弱い者には興味が無いのである」

「ならば旅の幸運をお祈りしています。 きっと有名人は苦労するのでしょうが、まあ有名税みたいなモノですからね」

「うむ、ならば今度こそ行ってくるのである」

「行ってらっしゃいませ、魔王様」


 そして我はギルドを後にして、空の旅に移行した。


 ふぅ、短い間であったが、悪くない街であったな。


 まさか我が冒険者になるとは思いもしなかったが、一人前にもなれた事だし、十分であろう。


 それに王都の冒険者ギルドに行けば、勇者にも会えると言うではないか。


 果たして今の我が、どの程度勇者相手に戦えるかは知らないが、心踊る事であるな。


 さぁ勇者よ、存分に死合おうではないかっ!


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