第8話 昇格

「アビス様、お目出度うございます。 Aランクに昇格です」

「うむ、苦しゅう無い。 以後も励むようにするのである」

「あっ、有り難うございます?」


 ふむ、我のいたわりの言葉によって、萎縮しているのであるな。 まあ若者とはこう言った事もあるので、広い心で見るのである。


「おい、アレ…」

「なぁ、なんでアイツはあんなにえらそうなんだ?」

「この前登録したのに、もうAランクかよ」

「やめろ、見ているとウザがらみされるぞ」


 ガヤガヤ


 まぁ、我の実力を持ってすれば、一人前になるのは直ぐであったな。


「ところで報奨金について相談なのですが、全額用意出来なかったので、分割で許して頂けますか?」

「ふっ、仕方が無いヤツであるな。 今回だけであるぞ?」

「有り難うございます。 次回からは事前に資金を用意しておきます。 それで、今回の分はコチラで御座います」

「ぬっ、少なくないか?」

「そっ、そんな事は御座いません! 中身を確認してみて下さい! 全て白金貨ですから!」

「ほう、白いな。 さては用意が間に合わなくて、偽物でも作ったか?」

「違います! 白金貨1枚で、金貨10枚分の価値があるんですぅ!」

「つまりは、引換券みたいなモノであるな」

「…あのぉ、白金貨をご存知ないのですか?」

「金は全て、お付きの者が払っていたのである」

「はぁ、通りで世間知らずなワケですね」

「何か言ったであるか?」

「いえ、何でも御座いません」


 金勘定など、財務長官に任せておったからな。 我はチマチマした事は苦手なのである。


 さて、金も入った事だし、飯でも食べて寝るとするか。


「で、受付嬢よ。 飯を食べるので、ともをするのである」

「えっ、私は受付嬢なんですけど…」

「心配するでない。 其方そなたの分は、我が払うのである」

「いや、そう言う事ではなくてですね…」

「はっはっはっ。 若いのは遠慮しなくて良いのであるぞ」

「もう嫌だ、このオッサン」

「何か言ったであるか?」

「いえ、何でも御座いません。 ご相伴しょうばんに預かります」


 まあたまにはおごってやるくらいの気概は見せる必要もあるのであるな。


「おぅ、そうである。 解体屋も来るのである」

「えっ、俺っちもですか? でもまだ勤務中なんすけど…」

「我が許す! お前も一緒に食べるのである」

「いや、上司かよっ!」

「何か言ったであるか?」

「ゴチになるっす!」


 そう言って、ギルド内の飲食スペースへ2人を連れて向かった。 まあ日はまだ高いが、我の昇格祝いだ。 酒を飲んでも許されるであろうよ。


「給仕よ、取りえず酒である。 それと我にはオススメを10人前持ってくるのである! そして受付嬢と解体屋よ、其方らも好きなモノを頼むのである」

「はぁ、じゃあ私は、紅茶とクッキーを」

「じゃぁ俺っちは、コーヒーとサンドイッチを頼むっす」

「ぬぅ、少食なのであるな。 それに酒を飲んでも構わないのだぞ」

「構います!」「構うっす!」

「我が許す、存分に酔うが良い」

「勤務中ですからっ!」「勤務中っす!」

「若いのに堅苦しいのであるな。 今日は無礼講であるぞ?」


 最近の若者は、飲み会に参加しないと聞いていたが、コレがそうであろうか?


「我が若い頃は、飲み会は強制参加であったのだがな。 コレが時代の流れか」

「うわっ、何だか面倒臭いモードに入りそうっす」


「お待たせしましたぁ。 こちらがお飲み物になります」

「さらに最悪のタイミングで酒が登場したっす!」


 まあのども乾いていたので、一口でジョッキを飲み干す。 うむ、ぬるい。


「げげっ、秒で飲み干したっす」


「オカワリなのである」

「かっ、かしこまりましたぁ」

「待て、面倒であるから、たるごと持ってくるのである」

「持てませんよぉ!」

「ならば我も付いていくのある」

「いや、厨房は部外者は立ち入り禁止なんですぅ。 勘弁かんべんして下さい」

「ならば持てるだけ持って来るがよい」

「判りましたぁ」


 給仕は非力なのであるな。 修行が足りていないのではあるまいか? 魔王城なら樽くらい誰でも持ち運べるぞ。


「お待たせしましたぁ。 追加のお飲み物をお持ちしましたぁ」

「うむ、もう少しきたえた方が良いのではないか?」

「えっ、何を言っているんですか?」

「魔王城ではな。 給仕でも2樽くらいは余裕で運べるのだ」 くいっ、からん。

「魔王城…」「今、魔王城って言ったっす…」「私は何も聞いていない…魔王城なんて聞いていない…」

「そんな非力では、十分な仕事は出来はすまい」 くいっ、からん。

「いや、そんな事はないですよ?」

「大体からして、腕とか腰とか細すぎるのである」 くいっ、からん。

「太りたくも筋肉質にもなりたくはないんです!」

「いやいや、もしもいた男がいたとして、そいつが浮気をした場合、どうやって取り押さえるのであるか?」 くいっ、からん。

「浮気性な相手は、好きじゃないんです!」

「古来男とは、浮気をするモノである」 くいっ、からん。

「私の彼氏は、そんなんじゃありません!」

「そやつは隠れてやっているだけであるな」 くいっ、からん。

「そんな事はありません!」

「ふっ、若いのであるな」 くいっ、からん。

「いいかげんにしろよ、オッサン!」

「オカワリである」

「ジョッキはショットグラスじゃねぇよっ!」


 こうして楽しい時間は過ぎていったのである。



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