第4話 特別昇格試験

「うわぁぁぁ~っ、逃げろーっ!」


 我がオーラと魔力を開放すると、冒険者ギルドは阿鼻叫喚あびきょうかんの地獄になった。


 飛び散る書類、中から外へといずり回る冒険者達。 ふむ、これが冒険者の真の姿か。 正直に言って失望したのである。


 だがそんな状況を無視し、我は受付嬢へと歩みを進める。 失禁せんばかりに引きっているが、容赦ようしゃはせぬ。


「受付嬢よ、我に草むしりをさせるとは、如何いかな理由によるものか」

「ひぃぃぃ~っ、きっ、規則なんですぅ。 別にはずかしめる意図なんて無かったんですぅ。 信じて下さいっ!」

「ほぅ、つまりは冒険者ギルド全体が、我の敵であると言う事なのであるな?」

「ちっ、違うんですぅ。 実力の無い新人冒険者を死なせないための措置そちでぇ、決してバカにしたワケではないんです!」

「つまり貴様は、我が実力の無い無能であると判断したと?」

「まっ、待って下さいっ! そう言えば忘れていた事があるんですが、アビスさんの様な実力者のために、特別昇格試験があります! その手配を致しますから、殺さないで下さいっ!」

ぐに行うのである」

「すっ、スミマセン。 只今、手続きを行いますので、お怒りを静めて下さいっ!」


 ふっ、凡ミスであったか。 思わずバカにされたと思って、周辺一帯を吹き飛ばすところであったわ。


「訓練場にお越し下さい。 今より特別昇格試験を行います」

案内あないせよ」

「はっ、只今」


 何とか落ち着きを取り戻した受付嬢の後に続き、訓練場に移動する。 うむ、意外と狭いのであるな。


 そこには、やや筋肉質な男が待ち構えていた。 だが我の目は節穴ではないのである。 アレは見せかけの筋肉だ。


「俺がギルドの試験管である、バッシュだ。 貴様の実力を見てやろう」


 何だか生意気そうな男であるな。


「ほう、つまりは軟弱そうな貴様をブチのめせば、我の実力が証明されると言う事であるか?」

「なっ、軟弱だとっ! よかろう。 づらをかかせてやる。 そこにある武器の中から好きな物を選べ。 この俺が相手をしてやる」

「不要である」

「早速、臆病風おくびょうかぜか? 泣いてびるなら許してやらん事もないぞ」

「貴様相手には武器は不要であると言ったのだ」

「ほう、死にたいらしいな」

「御託はよいのである。 最初の一発は、好きに打ってこい。 反撃しないでいてやるのである」

「貴様ぁぁぁ~っ、めるなぁぁぁ~っ!」


 そう言って、手に持った木刀で打ち込んでくる男。 うむ、遅いな。 しかも全然痛くないのである。


「今のが攻撃であるか? でられたかと思ったぞ」

「くそがぁぁぁ~っ!」

「根性が足らんのである」


 少し鬱陶うっとうしいので、平手で武器を持っている手をはたく。


 パキッ!


「うぎゃぁぁぁ~っ! 俺の手がぁぁぁ~っ!」

「おぃ、アレを見ろよ。 腕が原型を失ってやがる」

「複雑骨折か? ひでぇな」


 外野が五月蝿うるさいのである。


「骨折など牛乳を飲んで、つばを着ければ治るのである。 さぁ、特別昇格試験とやらを始めるのである」

「ひっ、俺が悪かった。 だからこれ以上は止めてくれっ」

「職務放棄であるか? 人間としても腐っているのである!」


 ちょっとイラついたので、ケツを蹴り上げる。 すると壁にぶつかってから数回バウンドし、ピクピクとしていた。


 なっていないのであるな。 本当に職務放棄をするつもりの様である。


「受付嬢よ、試験管とやらが職務放棄をしている様だが、この場合はどうなる?」

「はっ、ハイ! 試験は合格です! 今回は特別にCランクに昇格です!」

「何? Cランクであるか? 確か家畜の屠殺とさつが仕事だったかと思うが?」

「これ以上は本当に無理なんですぅ! 決してバカにしているワケではないんですぅ!」

「ふっ、まあ草むしりよりはマシであるな。 今回だけは特別に許してつかわそう」

「有り難うございますっ!」


 まあ良いのである。 多少の下積みは必要であろうし、寛大な心で許すのが大人の対応と言うものであろう。


「で、次の昇格試験はいつであるか?」

「へっ? 次ですか? それは実績を積んでからだと思います」

「その実績とはどのくらいなのであるか?」

「おっ、オーク換算なら20匹くらいだと思います」

「オーク20匹であるな、ちょっと狩ってくるのである」

「えっ、アビス様? ちょっと待って下さい。 ねぇ、お願いですから話を聞いて下さい! アビス様ぁーっ!」


 何だか受付嬢が騒いでいる様だが、我はそこまでひまではないのである。


 この街の物価も判らない事であるし、軍資金は必要であろうからな。 それに早く一人前になっておきたいとも思っているのである。


 早速、依頼ボードの前にまで行き、オーク屠殺の依頼用紙を引っぺがす。 何々、北西の森であるか。 でも調査と可能であれば討伐?


 家畜の調査とは、数でも調べれば良いのであろうか? うむ、イマイチよく判らんな。


「受付嬢よっ!」

「はっ、ココに」

「これはどう言う意味であるか?」

「今回は、近くにオークの集落があるかどうかの確認ですので、出現場所の確認などです」

「つまりは、オークの集落とやらを見つけた場合は、全滅させれば良いワケだな」

「サーイエッサー!」

「行ってくるのである」


 つまりはアレだな。 オークを沢山収穫するために、群れを狩れば良いワケか。 簡単過ぎて拍子抜ひょうしぬけであるな。


 だがまぁ、下積みの仕事としては、この程度が妥当なのであろう。


 折角冒険者になったのであるから、一人前になって、ドラゴン程度は狩りたいものである。


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