第2話 人間界へ

「それでは行ってくるのである」

「お帰りを、お待ちしております」

「うむ。 フライ!」


 我は空を飛んで、人間の領域へと旅立ったのである。 まあ我ほどに風魔術に熟練しておれば、空を飛ぶのも容易である事だしな。


 魔王は徒歩では移動しないのである。 いや、別に歩けないワケでは無いのだが、威厳いげん的な問題であるな。


 その昔魔王は、手下共が担ぐ神輿みこしに乗って移動していたらしいのだが、我の代では廃止したのである。


 うむ、別に担がれてワッショイワッショイ言われるのが恥ずかしかったのではないぞ。


 我の部下への労りであって、決して大人しく運ばれている感を滑稽に感じたワケではないのだ。


 それに地上を移動する場合には、召喚獣を呼べば良いし、この様に空の移動も楽しいモノであるしな。


 むむ? アレは何だ?


 空から地上へと何かが攻撃している。 ん? 確かワイバーンとか呼ばれる飛びトカゲではなかったか?


 まあ良い。 久々に空中戦をするのも、旅の醍醐味だいごみであるな。


「それ、ライトニングランス!」


 GUGYAAAAA~!


 おう、落ちていく落ちていく。 まるで蚊蜻蛉かとんぼの様ではないか。 歯応はごたえの無い事であるな。


 やや? 我に手を降っておるな。 降りて少し、交流でもしておくか。


「魔王様、手助け頂き有り難うございます」

「別人なのである」

「えっ、でも…」

「魔王は魔族なのである。 だが我は人族なのだからして、全く以て別人なのである」

「判りました魔王様、今は人族なので別人と言う事ですね」

「そうなのである。 人族なので別人なのである」

「人族としては色々と限界突破していそうな外見ですが、どのようにお呼びすれば宜しいでしょうか?」

「アビスと呼べば良いのである」

「あのぉ、アビス様。 本名なのでは…」

「問題ないのである」

「…アビス様、何かお礼をしたいのですが…」

「不要なのである。 我は偶々たまたま魔王城から人族への街へ向かう最中に遭遇しただけなのである」

「はぁ、どこから突っ込んで良いやら迷いますが、それでは失礼致します」

「うむ、壮健にするが良いのである!」


 こうやって正体を偽って、旅をするのも楽しいモノであるな。


 おうそうだ、この程度の飛びトカゲでも、人族の街では売れるらしいからな。 路銀の足しになるであろうから、アイテムボックスに収納しておくのである。


 我のアイテムボックスは限界まで鍛えてあるので、容量は無制限であることだしな。 別に売り損ねても問題ないのである。


 では再び空の旅に戻るのである。


「フライ!」


 ユックリと飛ぶ空の旅も楽しいのであるが、今度はどれくらい早く飛べるかを試すのである。


 この時の注意点は、しゃべりながら音よりも早く飛ぼうとすると、破裂音が鳴ってしまう事なのであるな。 詳しい理屈はよく判らないのであるが。


 お口にチャック&加速! ぐぬぬぬぬ、やはりある程度の早さになると、妙に振動するのが気持ち悪い。 まあさらに速度を上げると、振動は収まるのであるが。


 加速、加速、加速、加速! はははははっ! 中々の爽快感なのである。


 飛んでいる鳥が、止まって見えるな。 ってうわっ、衝突したのである。


 うーむ、世界初のバードストライクを経験する事になろうとは思いもしなかったな。 しかもぶつかった鳥の肉片やら血やら羽やらが、こびり付いて気持ち悪いのである。


「ダーククリーン!」


 ふぅ、何とかなったのであるな。 えっ、知らない魔術だと? これは聖魔術が使えない我が開発した新しい魔術であるからな。


 他にも「ダークヒール」や「ダークリカバリー」、「ダークリバイブ」などがあるのである。


 我は新魔術の研究にも余念が無いからな。 その他のオリジナル魔術は、機会があったら紹介するとしよう。


 と、思っていると人間の街に到着した様である。 早速降りるとするか。


「とぅ!」

「うわっ、何だ! 空から人が落ちてきたぞっ!」


 落ちてきたとは、ひどいであるな。 折角、人が少ない広場に降りて来たというのに。


「ちと、ものを尋ねたいのある」

「この大男、喋ったぞっ!」「でけぇ」「違和感がパねぇな」

「言葉くらい話すのである。 それよりも尋ねたい事があるのだが?」

「おっ、おう。 でけぇからって、ビビっているワケじゃねぇからなっ!」

「で、答える気はあるのであるか?」 大胸筋ぴくぴく

「あっ、あるから威圧しないでくれっ!」

「冒険者ギルドとか言う場所を探しているのである」

「あ、ああ。 それならこの道を真っ直ぐだ。 剣と盾の看板が出ているから判るはずだ」

「うむ。 真っ直ぐであるな。 感謝するのである」

「おう、良いって事よ」

「因みに嘘だった場合は、地獄の果てまでも追いかけるのである」

「案内をさせて下さい。 お願いします」


 ふむ、人間にも親切な者もいるのだな。 少し勉強になったのである。


「では先導せよ」

「俺は別に小間使いじゃぁねぇんだがな」

「何か言ったであるか?」

「いえ、こっちです。 誠心誠意案内させて頂きます」


 ふっ、ふっ、ふっ。 強者が集うと言われている冒険者ギルド、実に楽しみなのである。


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