突拍子もない大人たち



 ユリンを戦力として数えると約束した日から数日後。俺たちは久しぶりに学園に行った。実は俺とシーラの結婚発表をした日から、俺たちは学園に行っていなかった。理由は、魅了スキルを持つあの小娘の処遇や、ユリンから聞かされた魔族たちの戦力や特徴、対策会議でセコセコ働きまくったのだ。シーラも協力すると言って聞かなかったので、手伝ってもらっていた。まぁ、シーラの交友関係は元から広いし、数日通わなかったぐらいで地位は揺るがないから安心だ。

 それに甘えてしまっているのは事実だし、断ろうとも思ったんだけど、私も仲間に入れてという視線には負けるしかないだろ? 多分、俺が勝手にいつの間にかフランマやユリンを連れてきたことを根に持っているんだろう。私も連れて行ってくれなかったって。蚊帳の外にしたわけじゃなかったんだけど、そう感じてしまったのなら、100パーセント俺が悪い。

 その埋め合わせも兼ねて、甘えさせてもらった。


 そんな数日を過ごして、学園に来たわけだが、やはりと言うべきか………


「魔神が復活したって噂、本当なのかな?」


「この前の大地震、どうやら他大陸でも相当な被害だったそうよ。」


「南のバッカー大陸が発生地点って話だろ?」


「あながち、あのシルヴィアナとかいう女の話も間違ってないんじゃないか?」


「大聖女は復活した魔神に対抗するためなんじゃないか?」


「怖いわ、世界が滅亡なんてことに……」


「しっ! 滅多な事をいわないの!」


 あーあー、あのクソ女が口を滑らせたせいで、いろいろなことが結びついちまってんなぁ……。

 噂におひれはひれ付いたんだろうが、あながち間違いじゃないところが、厄介なところなんだよなぁ。大人の貴族と比べれば、外の世界に疎めの学園でこの調子だと、おそらくもう国中で出回ってんだろうな。


「これは、酷い有様ですね。キース。」 


「本当にな。あの小娘の言葉だけならここまで広まらないはず。おそらく、この前の大地震と大聖女の覚醒、そして学園に潜入していた魔族の存在、少なくともこの三つは絡んでるだろうな。」


 魔族が何度も関わってくれば、察する奴は察する。不必要な混乱を民に招かぬよう口を閉ざし、必要であれば秘密裏に処理するのも貴族の役目なんだが……貴族としての自覚がない奴らばかりだな……


「大聖女の公表はまだの方が良かったでしょうか。」


 シーラが首を傾げている。でも、俺はそれは違う気がしている。


「いや、それは結果論にすぎないと思う。きっかけは公表だったかもしれないけど、いずれはこうなってたよ。」


 魔族が学園に出た時点で微かな火種はできていて、教会に所属しているものが口を滑らせただけで、もしかして…と、静かに裏で推測はされていた。大聖女が目覚めたという公表は、公に出てくるきっかけにすぎない。

 これは、俺らに対して何らかの意見が飛んでくるだろうな。どう思いますかって。父上から正式な発表がいつになるかわからないし、それまではどうやり過ごすか……







 放課後、シーラと一緒に王宮へ帰れば、父上に呼び出された。何があったんだろうなーと軽く考えながら執務室に向かうと、ゴルドールは当たり前だけど、なぜかリーズロットとユグドラ、インフィという、神獣の長?が勢揃いしていた。


「ユグドラたちはどうしてここに?」


「少々相談事があってな。アルバレストとは結論は出たので、キースを待っていたのだよ。」


 父上と話がついたのに、最終的な判断は俺に任せているということか。俺の許可が必要なのは仕事の内容だけで、それ以外は俺には神獣たちの行動を制限する権利はないし、改まって言われるとほんの少し緊張するな。


「なんだよ、改まって。」


「うむ。我ら二人、少々アーバン帝国とやらに偵察に行こうかと思ってな。」


「なるほど、偵察に……はぁぁぁあ??!!!」

 

 最近、驚くことが減ったなと思っていたのにそんなことはなかった。二人というこは、リーズロットとユグドラが行くのだろう。だが、アーバン帝国は今やもう魔族たちの巣になっている。魔神たちの領域だ。

 

「私はバッカー大陸に住んでいたため、案内できると思うてな。」


 確かにリーズロットたちはバッカー大陸に住処を移していたらしいから、一度も行ったことがない俺らより詳しいとは思う。思うが……

 

「いやいや何言ってんだよ!あそこはすでに魔神の巣だってフランマたちが言ってただろ?!危険すぎる!」


 こいつらは普段遊んでいる部分が目立つが、頼んだ仕事は120%の成果を出してくれるし、こいつらの作った報告書を見たことがある奴はちゃんと理解している。それに、正真正銘の神獣だから、脆弱な人間よりずっと強い。だけど相手は魔族であり、まだ封印前より弱いとはいえ、すでに復活も遂げている魔神のお膝元だ。


「本当に、行く気か?」

 

「安心せよ、キース。ユグドラもリーズロットも、魔王に匹敵するほどの強さである。そうそう遅れは取らぬ。」


 確認をしようとかけた言葉に、インフィが返した。なぜ、インフィがその事実を知っているのか。ユリンは騎士団の訓練にちょこちょこ混じっているらしいが本気なんか出してないし、フランマに限ってはここにきてから人前では一度も剣を握っていない。インフィが力強く評価するほどのことじゃないはずだ。


「その根拠は?」


 信じてないわけではない。インフィは嘘をついていないからな。でも、それもそれとは別だ。俺が行かせてもいいと思える情報がないと、"無理やり納得させて送り出す"なんて最低限のことも、できやしない。


「そういえば、言っておらんかったな。儂は十人の魔王のうち、四人の魔王を知っているのだ。数千年前に戦ったことがあるのでな。」


 不死鳥は不死の鳥とは言っているが、実際は五百年前後生きて死に、数年後に不死鳥の核が置いている場所で復活するらしい。長時間空を飛べる上に、生存困難な特殊領域で生き残れる生物でないと辿り着けない場所らしいから、復活の瞬間に殺されることも基本的にはない。その上、全ての記憶を引き継ぐから、生き返った後に知り合いと出会うことも稀にあるんだと、前に聞いた。転生みたいだなと思った。本人の認識としては、数年単位の冬眠感覚みたいだが。

 そんな生態であるインフィが、神話の時代に封印された人物を知っていてもおかしくはない。


「……さすが不死鳥…俺は驚かねぇぞ…」


「なんだ、つまらんの。」


 本当につまらないと思ってるらしく、ため息を吐いて紅茶を飲んだ。ったく、長命種はなんでこうも子供を揶揄うんだか。


「はぁ……わかったよ。インフィまで二人の味方するなら、俺に勝ち目はねぇよ。」


 俺が反対したのは二人が死ぬ気なのかと思っていただけだ。命を捨てない覚悟があるなら、送り出すのも俺の役目だろう。そもそも父上が許可を出している時点で、生半可な説得では二人の行動を止められない。ため息を吐くと、ユグドラが苦笑交じりに問いかけた。


「もっとごねると思っていたぞ?」


「あのなぁ、俺だって一国の王子だぞ?多少は部下を死地に送る覚悟はしてるつもりだ。」


 俺は腐ってもアイスリア王国の次期国王だ。そして、魔神に対抗できる戦力の一人。これから来る魔神との戦争に参加するのは、確実にアイスリア王国の騎士や魔法師たち、そして、知り合いである神獣や竜王族を含めた他種族だ。仲間を危険な目に合わせたくはないが、俺一人で魔神を倒せるかと問われるとわからない。仲間の力が必要だから、俺は仲間を巻き込む覚悟と、仲間を守る覚悟を決めなくてはならない。そして、その覚悟はとうの昔に決めていた。


「その割には狼狽えておったな。」


「当たり前だろ。お前らはもう俺の家族だ。家族を心配して何が悪い。」


 俺の手の届かない範囲で危険な目に遭わせるのは、気が気じゃないのは事実だ。でも、インフィが無茶しなければ帰って来れるっていうなら、信用しないと二人に対する侮辱になる。それは嫌だ。それに、俺の前世を含めた年齢の何倍もの人生を生きている二人は、ちゃんと大人で線引きは俺より上手いはずだ。人生経験が違うのだ。心配するだけ無駄かもしれない。


「キースのそういうところが獣たらしなんじゃぞ。」


 インフィがジト目で睨んでくるんですが、そんなのは俺の知ったこっちゃないね。


「はいはい。そんじゃ、俺はスリアルとリーベルティのために人肌脱ぎますかねぇ。」


「なぜ子供達が?」


 三人が首を傾げている。本気でわからないらしい。全く、俺を誰だと思ってんだか。俺が、何もせずに送り出す薄情者だと思われているのは侵害だ。


「お前らが死んだら二人が悲しむだろ?ついでに俺も嫌だ。だから、作ってやるよ。お前らが死なないための魔道具を、な?」


「え??」


「だから、出発は俺が魔道具を完成させるまで待ってろよー。」


 背を向けて手をヒラヒラさせながら国王の執務室を出た。さて、超特急で作らないとな。シーラも持っている、どんな攻撃でも一度だけ弾き返すことができるやつと、ここに帰ってくるための転移石を。

 シリアスも誘った方が、楽しそうだし早く完成しそうだな。












 悪巧みをしている時の顔をして、今後とのことを考えているキースを見送った大人たちは……

 

「……ははっ、これは一本取られたな、ユグドラよ。」


「本当だな、リズロ。」


「全く、わしらの命まで手放さないとは、欲張りなやつじゃ。」


「あれがキースの本質なのだろう。懐に入れたものにはとことん甘い男だ。いい息子を持ったな、アルバレスト。」


「ちょっと手に負えんがな。」

 

「はっはっは。その方が良い。男はいつの時代も、親の手に負えんぐらい曲者であるほうが、色々と発展する。」


 

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