第五章
月夜の会議
アイスリア王国の南東、バッカー大陸にある大陸一の大国、アーバン帝国の帝城、会議室に魔神軍の部隊を率いる者たちが集まっていた。大きな丸いテーブルに、等間隔で11個の椅子が配置されている。
ただ上座と、下座の二席は空席のまま、会議は始まった。議題は、下座に座るはずだった紅蓮の魔王のことだった。
「紅蓮が、音信不通??」
真っ先に発言をしたのは、第3部隊を率いる風嵐の魔王だ。カラスの羽が生えた子供のように見える。それに続くように、ほとんどの魔王が半信半疑な顔をしていた。
「バカ言うなよ、エクレール。確かにあいつは魔王の中で最弱だが、暗殺術なら魔神軍一だぜ?」
第四部隊を率いる暗夜の魔王がそれを否定した。しかし、そんなことを言われるのは想定内だったのか、雷鳴の魔王は肩をすくめて、否定し返す。
「私だって、不本意ですが知っていますよ。あれは嫌いですが、実力は認めているつもりです。だから、あれに依頼を出したんですからね。」
苦虫を噛み潰した顔の雷鳴に、第二部隊を率いる水海の魔王が豊満な胸を机に乗せて頬杖をつきながらくすくす笑った。
「めちゃくちゃ不本意そうね〜。」
「もちろんですよ。」
「エクレールがフランマのことを嫌いなのは今に始まったことじゃない。それより、フランマの生死と音信不通の原因だ。」
脱線しそうな話を戻したのは、第五部隊を率いる強岩の魔王だ。筋骨隆々な見た目の真面目な男である。
「妾もそこが気になっておる。」
派手な着物を着崩した花魁のような見た目の女、第八部隊を率いる千手の魔王が、扇子で口元を隠しながら「早よ申せ」と急かした。
「結論から言うと、生死も、音信不通の原因も不明です。まずは順を追って説明します。」
雷鳴が各人の目の前に置いてある資料を見るように言うと、全ての魔王が資料を手に取った。一番最初に、暗殺対象の情報だ。
「アクゼスター様の完全復活を早めるための赤色の魔石が、西の大陸にあるアイスリア王国の近海に大量にあることがわかりました。しかし、アイスリア王国が所持する船以外では採取はほぼ不可能です。そのため部下が船を奪取するためすぐに配下を向かわせましたが、悉く邪魔をされました。」
「お前と、お前の部下がそこまで手こずるとはな。その原因がこのガキか?」
半信半疑で強岩の魔王が問い返し、それに頷いた。
「えぇ。なんでもこの男は全魔法適正を持っている可能性があり、最初はこの男をアクゼスター様復活のための生贄、肉体に考えていたらしいのですが目論見は全て失敗に終わりました。この話を聞き、私は今後の憂いを無くすため、この男を殺すことにしました。」
全属性魔法の適性や、全異常状態耐性を持っていた場合、忌々しい半神に進化する可能性が高い。様々な神に愛される素質があるからだ。
一度でも、女神たち種族神の誰かから加護を与えられた場合、他の種族神はその人物に注目する。各々の評価を持って加護を与える事実は変わらないが、加護を与える基準を満たした人物は"見つけられなかった"と、知っていたけど基準を満たしていないから"与えなかった"では、意味が大きく異なる。知っていれば知っているだけ、他の種族神に伝え、伝えられた種族神はその人物を見るようになる。そして加護を与えることにつながる。
加護を与えられると言うことは、その人物は半神に近づき、おそらく最低三つの加護を所持したあたりで、進化すると考えられている。
「なるほどな。半神を生み出さないための手を打ったが手こずり、紅蓮をと考えたのか。」
「はい。しかし、蓋を開ければ紅蓮は音信不通の生死不明。」
「この可愛い顔をした男の子が、紅蓮ちゃんを
水海の魔王が妖艶な笑みを浮かべながら舌なめずりをした。
「その通りです。もし、本当にこの男が紅蓮を殺したのであれば、すでに半神に進化していると考えても良いでしょう。好みの男だからと安易に手を出さないでください。」
「はぁ〜い。」
不満そうな水海だが、一応冷静な頭はしているため、心配ないだろうと雷鳴が思った時だった。
「ふん。そんなこと、ありえない。」
二人の会話を嘲笑う意味で、鼻で笑ったのは第九部隊を率いる万感の魔王だった。
「なぜです? 私もまだ調査段階なので根拠はありませんが、ありえないと一蹴できる事実もありませんよね。」
「忘れたか。紅蓮は異端だ。あいつはアクゼスター様に忠誠を誓っていない。人間に与したに違いない。」
忌々し気に自信を持って返すと、雷鳴がため息を吐いた。
「確かに忠誠は私たちより薄い。しかし、人間に味方する意味もない。なぜなら、最大戦力である半神がたったの一人では、私たちに蹂躙される未来しかないのだから。女神たちが勝てる未来など、二度と訪れない。」
半神がたったの一人であれば、五人ほど魔王が協力して叩き潰せば済む話だ。多く見積もってもせいぜい三人までが限界だろう。そう簡単に同じ時代に半神になれる器となる人間が存在して良いわけがない。
「着々と準備を進め、戦力を分断しようとする向こうの策に乗らなければ、私たちが負ける道理など万に一つも存在しない。そうでしょう?」
淡々と、事実のみを告げる雷鳴に、魔王たちが頷きを返していった。
「うふふ。エクちゃんに同意〜。」
「そうだな。このガキは来るべき時に、我らが叩き潰せば済む話。」
「人間ごときに警戒しなきゃいけないというのは不服だが、アクゼスター様のためなら致し方なし。」
水海、強岩が返事をすると、今まで黙っていた第六部隊を率いる刹那の魔王が目を瞑って答えた。
しかし、その中で一人、最初の一言以外黙していた千手の魔王が扇子を閉じて立ち上がった。
「何はともあれ、じゃ。妾はフランマの調査を請け負う。フランマを見つけなければ、真実はわからぬからのぅ。」
「……関わるなと言っても貴方は関わるのでしょうね。」
返事は予想しているが念のために聞いた雷鳴。それに、千手は嘲笑を返した。
「愚問じゃの。妾の愛しき人を殺したのであれば、最後は妾の手で縊り殺す。しばらくは連絡せぬ故、其方たちも連絡はしてくれるでないぞ。妾のやることを邪魔されたら敵わぬのでな。」
「わかっていますよ。くれぐれも、この男に接触はしないように。」
「言われんでもわかっておる。」
千手が足早に会議室を出ていったため、会議は終了することになった。
その頃の千手の魔王は、一人きりの廊下で月夜を寂しそうに見上げながら呟いた。
「フランマ……なぜ妾には何も言うてくれなかったのじゃ…?」
フランマが音信不通になったのはこれで2度目だった。幼馴染であり、恋人であるフランマを思い、涙を流したのだった。
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