労基は大事…



「というわけで、魔神勢力の情報源、紅蓮の魔王フランマだ。」


「よろしく、半神のガキ共!あと、アイスリア王国の重鎮諸君!」


「「「ゆっる…!」」」


 あのあと、俺はフランマの拘束を解いて王城に連れてきて、いろいろな手続きをしたあとにセスたちと合流したのだ。ちなみにここには氷結の棺フリーズ・コフィンのメンバーと国王、宰相が集まっている。

 ちなみに、声を揃えてツッコミを入れたのはミシェルとフェル、シリアス、アイの四人だ。


「魔王というから、どんな残虐な者が来るのかと…」


 宰相、ゴルドールが拍子抜けしたような顔をしていた。まぁこの緩さじゃ仕方ないか。


「どっちかって言うと、俺は温厚な方だぜ? 例えば闇夜あんやの魔王は冷酷無慈悲で残虐の拷問好きで、水海すいかいの魔王っていう女魔王は好みのタイプがいれば男女問わず洗脳して自分のものにしては飽きると殺す。」


「「うわぁ…」」


 全員がドン引きしたような顔をしてフランマを見ているが、フランマは肩をすくめただけだ。


「気持ちはわかるぜ。俺ですら引いてる。正直言うと、俺は魔王の中でも最弱の部類だ。ご主人なら気づいてたんじゃねぇか?」


 フランマが俺を見ると、この場にいるすべての人間が俺を見た。本当なのかと。


「なんとなくだけどな。」


 俺に地の利があったとは言え、魔王にしては手応えがなかった。勇者が相打ち覚悟で挑む程じゃない、と。どちらかと言えば天神たちが持つ法則操作のスキルさえあれば余裕だ。


「俺は馬鹿正直に正面突破っつーのは他の魔王より苦手だし劣る。だけど、暗殺を生業に隠密行動やらスパイ活動やらで実績を積んできた。」


 フランマは昔から、部下である深鬼たちを束ねてスパイ等で情報収集からの暗殺を主軸に魔神勢力に貢献していたらしい。魔王になってからの仕事成功率は100%。それ以前ですら99%らしい。実力主義力こそ全ての魔族社会では一目置かれるだろう貴重な戦力だ。


「では尚更、こちらにつく意味がわからん。何が目的だ?」


 どうやら父上は、フランマがこちらにつくのは今のところ反対らしい。まぁ、サボりたいから、なんて言われても普通なら嘘としか思えないもんな。俺が真偽を判定できるとはいえ、王としてその辺はきちんと自分の目で見ておきたいんだろう。シェリュー、シェファーたちとは事情が違うしな。


「なぁ、一国の王ならわかるだろう? 休みなく働くことの大変さを。」


「は?」


「俺はかろうじて吸血鬼だがな、部下たちは深鬼なんだよ。隠密行動が大得意なんだ。そんな部下たちが不死身の吸血鬼だからと使い潰されてんだ。見るに耐えないだろ?」


 仰々しく語る言葉はなんとも嘘くさい。嘘じゃないんだろうが、建前な気がする。


「……本音は?」


「俺だって他国を観光したい!!!!その国独自の飯が食いてぇ!!!」


「「…………………………」」


 一同ドン引きだった。「この魔王、部下を思っての発言かと思いきや普通に自身の欲求まみれだ」と思ったはずだ。全員の心の声が聞こえてきた。


「俺は吸血鬼だが、血はほんの少しだけ貰えれば一月は問題なく動ける。深鬼に近い体質で、人間社会に溶け込めるから部下たちをまとめている。部下と同じように仕事もしている。」


 なるほど。深鬼を束ねている理由は、フランマ自身の体質が影響しているのか。深鬼は少数らしいし、必然的に自分たちのことをわかってくれる、理解してくれそうな上司のもとに集まったんだろう。そこで、血をほとんど必要としないフランマの元へ、ってか。その辺の心理は人間とそう変わらないな。

 なんて分析していると、フランマが肩を振るわせた。そして………

  

「それなのに、他の魔王共………っ!俺がそうだと知って情報収集だの暗殺だのクソほど仕事をぶん投げやがってぇ!!六人で大量の仕事を片付けたらどうなると思う?!!余暇の時間なんかねぇんだよクソがぁぁ!それなのに、テメェらは呑気に人間を喰い漁るわ、拷問するのに適した人間を探すだぁ、仕事は丸投げして昼寝するわ、人間のコマが使えないからと俺に仕事を振るわ、マジで死に晒せぇぇ!!!」


 とりあえず、今までの鬱憤が爆発したらしい。頭を掻きむしっている。それだけで相当な心労があったんだろうな………魔族側にも労基、あったほうがいいんじゃね?

 シーラに会えると思って必死に仕事をしたのに、追加の仕事が来た時の俺の爆発ととてもよく似ている気がする……なんて思ってない。


「……なんか、見たことがある光景だな。」


「あぁ、私もだよ。気が合うな息子よ。」


「うふふ。キースと同じ叫び方ですね。」


 人がせっかく触れなかったことなのに。ガーティーアン親子は、あえて触れたな? 俺を揶揄うために。


「そ、そんなに休みがなかったのか?」


 ドン引きしながらも父上がフランマに尋ねた。すると、フランマは父上に顔を寄せるよう手招きした。父上も敵意がないと思ったのか素直に顔を寄せた。フランマが父上の耳元で何かをしばらく囁いていると、父上がみるみるうちに顔色を変えていった。もちろん、悪い方に。かろうじて聞こえてしまった俺と、当事者二人以外は頭上にクエスチョンマークである。

 二人がソファに座り直すと、フランマがため息をつきながら説明した。


「って感じだ。短期間で片付けられる暗殺とは違って、他種族の情勢を把握するのは骨が折れるんだ。昔は全種族の実力が高水準である意味それもめんどくさかったが、現代だと収集範囲がとんでもなく広くなったから、それがキツイ……昔から自他共に認めるサボり魔ではあったが、今では異常な忙しさに雲隠れしようかと本気で思ったね………」


 概要はそんな感じか。それにしてもやべー量をこなしていたんだな……そりゃ逃げ出したくもなるわ。


「キース。本当の、本当に、嘘はついてないんだな?」 


「父上はどう思ったの?」


「嘘じゃないだろうな。全く、ここは魔族の保護場でもないんだが……今更だな。」


 そうだよ、父上。今更だよ。なんか知らないけど部下になっちゃうんだ。いや、今回に関してはダメ元で言ったらこうなっただけで。


「じゃあ、国王陛下のご許可もいただけたことで、部下たち連れてくるわ!明日あたりまたくるわ!」


 そんじゃなーと別れの挨拶をしながら、フランマは立ち上がって虚空に手を添えた。その場所が水面のように歪むと潜り込んで消えた。転移魔法は、歪むような反応はせず一瞬で消える。つまり、これは魔族特有の移動方法だ。


「なんだ、今の……」


「おそらく魔族特有の移動法、アンデルテだろう。転移魔法に似た、高位魔族が使えるっていうあれ。」


 アンデルテとは、魔族が使う転移魔法と似た移動法らしい。しかし、その二つは違いがある。転移魔法は座標から座標に瞬間移動させて、アンデルテは別次元へ続く扉を通り、移動してから別の場所に続く扉を開くと聞いた。だけど、見たことはないんだよな。教えてくれたシェリューたちや捕らえた魔族は全員、アンデルテを使えなかったからな。


「それについてはあとでフランマを質問攻めにするとして……」


 新しい魔族を匿うとなると、また魔道具の調整をしないとならないんだよなぁ……終わった後の仕事を考えると、しばらくは仕事三昧だな……


「憂鬱だ………」


 翌日。宣言通りにフランマは戻ってきたし、部下を五人引きずってきた。


 文字通り、引きずって。


「おっ!ご主人!昨日ぶりだな!」

 

 肩に二人担ぎ、片手で三人、襟首を掴んで引きずって、だ。人攫いかっつー姿をしているのに、テンションはしばらく会ってなかった友人と再会したときのようだった。姿よりも、真っ先に思ったのは砕けた態度だったが……


「お前、少し砕けすぎじゃないか?」


「仕事モードだったからな。今は素だ。」


 仕事とプライベートで切り替えてるタイプ、なのか?それはそれでメリハリがあっていいんだろうが、なんか若干雰囲気が違くて戸惑うな。


「まぁいい。それより、そいつらは?俺の目が腐ってなければ、全員気絶してないか?」


 さっきから一ミリも動かない奴らに、死んでるのかと思ってしまった。だけど、そうすると索敵には引っかからない。死体は物として判定されるからな。引っかかると言うことは生きている証だ。


「あぁ。俺が仕事しなくてよくなったぞーって言った瞬間にぶっ倒れたんだよ。」


「五人揃って?」


「揃いも揃って、だ。それだけ無茶してたんだよ。いや、されてたって言うべきだな。」


 それじゃあ、敵勢力でもいいから逃げ出したいと思うのは納得だ。やっぱり労基は大事だな。


「なら、そいつらが起きるまでに済ませておくか。」


「何を?」


 俺が仕事の手を止めて立ち上がるとフランマが首を傾げた。


「フランマ、お前にはアンデルテについて、洗いざらい話してもらうぞ。」


 ニッコニコ笑顔な俺と、俺の顔を見て口元を引き攣らせたフランマ。嫌な予感ほどよく当たるのだよ、フランマくん。


 力ある騎士たちによってフランマの部下五人は、客室のベッドに運ばれていった。ちなみにフランマに質問攻めをする俺を見て騎士たちが苦笑を浮かべたのは言うまでもない。

 

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