vs紅蓮の魔王


 数分前、王宮で書類仕事をしていたら、城門の門番をしている騎士から連絡が来た。門の窓口がある部屋に俺が持つ通信魔道具に直接繋がっている魔道具からの連絡だった。どんな魔族が来るのかにもよるが、少なく見積もってもAランク以上の冒険者じゃないと、対処が難しい。だから、すぐに俺に連絡をしろと言ってあった。目立つことや、俺を誘き寄せる陽動とかでもない限り、暴れずに入都するなら潜入が目的だろう。その場合、すぐに暴れることはないはずだから、下手に薮を突かないように言ってあった。そうした方が被害が少なくなる可能性が高かった。ちゃんも実行できているみたいだから、後で褒めてやるか。


 んで、実際に来てみたら魔王だった。ふざけるなって言いたかったね。なんでそんな大物が来てんだよ。王都やそこにいる国民への配慮も併せて被害を考えたら頭が痛くなる。

 

 でも、それはそれとして魔王の実力は気になった。


「紅蓮の魔王、お前の目的は俺の暗殺だよな?」


「そうだ。ついでに言うと、この国の近海に存在する赤い魔石だ。」


 やっぱり海紅石が狙いで、それを確保するための潜水艦、か。


「今も狙っている理由は、弱った魔神の回復を早めるためか。」


「全て予測済みか。頭の回る奴がいるな。そりゃあ、馬鹿どもを送ったところで失敗するか。」


 紅蓮の魔王は鼻で笑った。まるで、自分たちの部下の不甲斐なさを嘲笑っているように見えた。


「自分の部下だろう?そういう反応していいのか?」


「他の魔王の部下だ。いや、駒と言ったところか。用済みになったら簡単に切り捨てる。」


 なんとなく想像はしていた。今までに捕らえた魔族は基本殺している。いや、殺されていると言った方が正しい。俺や騎士たちが殺したんじゃない。突然魔族が苦しみ出したと思ったら破裂して絶命する。体の中から破裂しているみたいだから、おそらく何者かが遠隔操作で捕らえた魔族を殺しているんだろう。口封じのために。捕らえられた、もしくは殺されたと疑わしいこの国へ攻め込んでこないのがその証拠だ。

 なぜそんなことをするのか。単純だ。捕らわれた魔族は捨てられた、つまり捨て駒だったわけだ。紅蓮の魔王が来た目的が復讐ではないということが何よりの証拠だろう。


「さて、問答は終いにしようか。」


 魔王の言葉を理解する前に、魔王が右手に魔力を収束させて放った。魔力の玉、魔力弾といったところか。銃弾のような速さと威力で、眉間に迫ってくる。嫌な感覚に従って体を一歩右へとずらせば、顔の横を魔力弾が通り過ぎた。掠ったのか髪が少し散ったけど、まぁ怪我してないし大丈夫だろう。いきなり何をするんだと文句を言いたかったが、魔王が空間から黒い剣を取り出して振り上げていた。


「挨拶代わりだ。」


 そう呟いた魔王の魔力を黒い剣が吸い上げた。嫌な予感がして物理と魔法どちらも防ぐ結界の準備をした。魔王が足を一歩前に踏み出して、剣も振り下げると剣が伸びてきた。しかし、俺の肩が貫かれる直前に結界を張れたので、二つは甲高い音を立ててぶつかった。


「初見でこれを防いだやつは初めてだぜ。」


「光栄だね。だけど、もう少し足元に気を配った方がいい。」


「は?」


 教えてあげた瞬間、魔王が消えた。正確には俺が設置した転移の魔法陣を踏んだからだけど。魔王が飛ばされた場所へ俺自身も飛んだ。場所は、アイスリア王国の北側にある小さな無人島だ。ここはどんな処理をしても飲み水にならなくて人が住めないから、戦いで地形が変わったりしても、何も問題はない。


「どこだ、ここは…?」


「王国の北側の無人島だよ。ここなら俺も全力で戦える。」


 異空間収納から、鍛治師のドルトンとガイザーの合作である打刀を取り出して魔王に斬りかかった。しかし、魔王は予測していたようですぐに受け止めるように黒剣を振ったが、俺はそれを躱して足を狙った。フェイントだと気づいた時には足を斬り落とした。苦痛に歪んだ表情を浮かべた魔王に追撃をしようと首を狙うが体をのけぞらせるとそのままバク転して避けられた。


「危ねぇ危ねぇ。いきなり死ぬところだったぜ。」


 本当に危ないと思ってるのかわからない顔で、切断された足を直した。トカゲの尻尾みたいだな。


「吸血鬼のくせに何言ってやがる。」


「そっちこそ嘘をつくなよ?俺が吸血鬼だと知っていて武器に神聖魔法を纏わせていたくせに。」


「あ、バレた?」


「よく言うぜ。隠す気なかったくせに。」


 本来、魔族が神聖魔法で攻撃されたら再生速度は落ちるか、致命傷を負えば死ぬ。だから、かなり焦る場面なんだけど、魔王はそこまで焦っているようには見えない。


「ったく、一人で魔王級俺らと張り合えるのに、神聖魔法まで使うとかどうなってやがる。お前本当に人間………まさか、半神か?!」


 俺の種族が人間なのかと疑問に思っている途中に、気づいたのだろう。神話の時代で半神と戦ったことがある魔王なら、神聖魔法と強さで推測できるだろう。目の前にいる魔王も、疑問系ではあるがほぼ確信を持っていそうだ。隠す必要も特にないな。


「正解だ。こっちも質問。吸血鬼は灰になるまで燃やしたら死ぬ?」


 魔王が先ほど以上に警戒心をあらわにした。そんな姿に少し愉悦を感じた。これじゃあ、俺の方が魔族だろ。


「教えると思うか?」


 残念、はぐらかされた。真偽眼で判別するのが狙いだったんだがな。このスキルは相手の言葉が偽か真かしかわからないから、はぐらかされると何もわからない。でも、真偽眼と洞察力を合わせればその限りでもないが…


「へぇ……図星か。じゃあ、次の質問。神聖魔法で拘束されたら、いくら魔王でも力は弱まるだろ?」


「どうだかな。」


「オーケー。よくわかった。じゃあ、拘束するな!」


「やれるものならやってみろよ。俺は手加減されて捕まるほど弱くねぇぜ!」


 魔王がブラットアーマーと叫びながら、黒剣で手のひらを切り裂いた。ドバッと大量に血が流れたと思えば、それは魔王の全身にまとわりついた。そして、鎧のように血が硬化した。


「自身の血を鎧にするなんて、吸血鬼の特権だな。」


「ただの血の鎧じゃないぜ。効果は自分で確かめてみろ、よ!」


 魔王が腰を落としたところを認識した次の瞬間には、俺の目の前に魔王が現れた。驚いて結界魔法を使おうとしたが、一歩間に合わず黒剣が肩を掠った。黒剣は地面に突き刺さると地面を割るように斬り裂いた。突き刺ささっているのもお構いなしに、地面を抉りながら二撃目を打ち込もうとしたが、俺はそれが来る直前に、氷魔法で魔王を凍らせようとした。威嚇のようなものだから、魔王は後ろに飛んで避けてしまったが、体制を立て直すには十分だ。一応、距離を取るために後ろに下がって、神聖魔法で肩の傷を治した。


「おいおい、俺は特級の物理攻撃耐性持ってんだぞ……?」


 怪我を直したのはいいが、服に血がついていた。つまり、俺が怪我をしたらしい。魔王には俺の法則操作のような、法則に干渉するスキルのようなものはないから、持っている黒剣が何かしたのか?


「この黒剣はありとあらゆるものを切り裂ける。耐性なんぞ貫通するし、しようと思えば空間も斬り裂ける。」


 流石は魔王。簡単にはいかないか。だけど、それは相手も同じ。たった数合の打ち合いでわかったはずだ。だからこそ、俺は解せない。お互いに一筋縄じゃ行かないというのがわかったのに、ブラッドアーマーとやらをただの血の鎧じゃないと話したことだ。普通、自分の手の内は晒さない方が初見殺しできるし、言わない方が都合がいいだろう。話したところで対処できないなら一応は納得できるが、話すことにメリットがないんだからどちらにしろ言わない方がいい。相手に警戒心を与えるだけだ。たった一言で、魔王の底が知れた。


「はぁ……本当、魔族っつーのはどいつもこいつも……人間舐めすぎ。」 


 どこかでこちらを見下しているとわかる。下等種族だと、自分が負けるわけがないという先入観。神話の時代で誰に封印されたと思っていやがるんだか。


「俺らを封印した半神だぞ? 舐めてなんかいねぇよ。」


「無意識って意味なんだけどわかんないか。まぁ、もういいか。」


 俺が魔力を練り上げると、膨大な魔力で空が変化した。分厚い雲に覆われて、今にも嵐が起こりそうだった。


「な、んだ、この魔力は……っ!」


「吸血鬼の魔王だから生き残れると思うよ。だから安心して、気絶してくれ。」


 頑丈な魔王なら、この魔法を使っても死なないだろうと判断した。上位の雷魔法『天正逆鱗』を。

 魔王が膨大な魔力を感じて危険だと判断したようだけど、半神である俺の天正逆鱗の効果範囲は1キロだ。もちろん、自分を含めた味方を打たないように制御しているし、昔よりもずっと威力を上げることができる。一つ、デメリットがあるとするなら、発動するまでにすこし時間がかかると言うこと。まぁ効果範囲が広いからそんな時間は些細なものだし、俺には並列思考があるからさらに時間など気にしなくていい。

 

 さぁ、準備が終わった。


「『天正逆鱗』」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る