魅了スキルの被害者
津波を全て凍結させたことで、海が北極みたいに凍っちゃったけど、津波は止められた。後からくる津波は凍った津波に阻まれて港には来なかった。これでしばらくは保つだろう。
念のため、3回目が来てもいいように、シリアスを氷の上で監視させて、俺は地震で崩れてしまった建物の下敷きになっている人たちを救出していき、1時間かけて全ての瓦礫を他の場所に移した。かなりの人数、即死してしまっていて助けられなかったが、エリアヒールを施して他の人は助けた。
津波警戒中のシリアスのところに行き、2時間は待機したが、津波は来なかったので、王都に転移して戻った。
それから数日間は、国中を回って国民の救出を手伝った。終わった後に、魔力切れを起こしてぶっ倒れてしまったけど。まぁ、転移魔法を使いまくった上に、瓦礫の撤去方法は転移と重力と、風などの魔法にばかり頼っていたから、仕方ないけど。魔法って便利だよねぇ…?
「それで3日も寝込んでシーラを心配させてたら、本末転倒だな……」
俺が、というより、俺たち半神がぶっ倒れた。全員魔法の使いすぎで。まぁ俺たちが必死こいて働いたから、普通なら死ぬような重体でも、救出された時点で息があったやつは俺の神聖魔法で治してやれたから、他国と比べれば被害者数は少ないはずだ。
「キース様もですが、お兄様もですわ!! みなさま、無茶しすぎです!! いくら半神で魔力がたくさんあるとは言え、半神だって無茶をすれば死んでしまうんですよ!!」
「はい、反省してます……」
「もう! 国民も大事ですが、あなた方がいなくなってしまっては世界が終わるんですよ?!自覚してくださいませ!」
「「「「以後気をつけます……」」」」
「今度約束を破りましたら、無茶しないと契約を結ばせていただきますからね!」
俺たちも、無茶したくてしたわけではない……よ? 半神になって全力を出したことないから、自分の魔力残量を見誤ってしまっただけで……まぁ、結果的には無茶してるから、シーラのお説教は甘んじて受けるのだった。
将来、国を背負う子息たちが、年下の令嬢にお説教をされている図は苦笑を引き出すのだった。
シーラのお説教も終了する頃、父上にもお小言をもらったが、国民を助けるために走り回ったことには感謝された。今後2度と無茶するなって言われたけど……
二人からのお説教も終わって、翌日には学園に通うことになった。学園生は王都にいたからか、幸いにも大怪我をしていた者はいなかった。
代わりに、「王都の被害が極端に少なかったのは女神様のご加護があったからだ」なんていう根も葉もない噂が広がってた。俺は速攻で目を逸らしたくなった。女神の加護なんかじゃなくて、法則操作のせいですよーなんて言っても信じられないだろうけど。
「はぁ……なんか、ドッと疲れた………なんだよ女神の加護って………」
「商人の発言が元になったらしいっすよ。」
「だとしても、だろ…」
「あと、何かよくないことの前兆ではないかって。」
「その通り過ぎていっそ笑う。」
噂を流したやつは鋭いな。大当たりだ。魔王が復活するぜ…ははは…
遠い目をしていると、第一王子直属の影であるアインが天井裏に来たのを感知した。アインは現在、乙女ゲームのヒロインであるシルヴィアナの監視を頼んでいた。いつもなら俺が寝る前、つまり夜に定期報告にくれるのだが、今は学園の食堂だ。昼である。何か進捗があったのか?
「どうした、アイン。」
天井を見上げれば、巧妙に隠された天井板を外して黒の装束を着たアインが床に降りてきた。この部屋は王族を護衛する影が王族と話したいと思った時、堂々と侵入するわけにはいかないからと特別に作られた場所だ。それ以外にも造られた目的はあるけど、まぁそれはいいとして…もちろん、アインは知っていた。セバスかアイあたりに教わったんだろう。
「ご報告です。例の小娘が、『女神様は私こそが世界を魔神から救う大聖女であると教えてくださいました。』などという戯言を言い始めました。」
「は??」
なんて?
「そして、魔神を倒すためにはグラキエス殿下と結ばれる必要があるのです。グラキエス殿下と結ばれて初めて、私は大聖女として覚醒するのです、と。」
「は???」
頭の中は疑問符でいっぱいである。転生者だから、あの女が魔神が復活することを知っていたとしても不思議じゃない。でも、ゲームではウェスペルと一緒に魔神討伐に向かえってだけだったはずだ。ちょっと話を盛って、ウェスペル殿下と結ばれたら大聖女として目覚める、なんて言い出してもおかしくはないけど、相手は俺らしい。どういうことだ? あの小娘はとち狂ったか? まさか、ミシェルの記憶違いか? そうだとしたら締めるけど??
「ミシェル?」
「私は絶対に記憶間違いなんて起こしていません。プリシラ様と契約をして発言しても構いませんわ。」
シーラの持つ契約のスキルは、本人がしたいと思えば口約束を交わすだけで発動する。契約を違えたら命を落としてしまうので、慎重にならないといけない強力なスキルだ。それをわかっているミシェルは、命を天秤にかけたも同然のことをした。それほど自信があるなら、契約スキルを使うまでもないし、嘘もついてないのはわかる。
「まぁいい。アイン、続きはあるか?」
「はい。それを信じるものが数名おりますが、それはごくわずか。しかし、その中に厄介な人物が一人います。神官長の息子であるゼーリアです。」
「あいつか…」
この前王宮に着た神官長の息子(血は繋がってない)であり、神官でもあるゼーリア。たしか小娘と同じクラスらしいと聞いた。
ゼーリアなら、白銀の王子と紅玉の少女が結ばれし時、大聖女が目覚めるというお告げを知っていてもおかしくはない。逆に言えば、神官の人間と国の上層部しか知らないのに、お告げの内容を小娘は知っていた。小娘が女神のお告げを聞ける人間なのかと、神官たちは思……ん? 待てよ?
「まさか、ゼーリアが小娘と接触した後から、小娘が言い出した、なんて言わないよな……?」
神官長と聖女以外に、一部の神官がお告げを知っていたとしてもおかしくはない。父上が緘口令を出す前に知っていた場合もあるし。でも、神官長なら部下たちの口止めをするぐらい、すぐに実行するだろう。神官長の息子なら、尚更、約束は守らないといけない。
「そのまさかです。」
「何やってんだ、あいつ。」
まじかよ……父上の緘口令前ならまだしも、いや、一般人にこんな重大事項を漏らしちゃダメなんだけど、まだマシだ。それなのに、父上の緘口令後で漏洩するなよな……普通に王家へ叛意ありと見做されるぞ……いや、されてもおかしくない…
「おそらくですが、ゼーリア殿は紅玉の少女があの娘だと思ったからだと愚考します。」
「ま、それしかねぇよな。小娘はわかりやすく赤いし。」
小娘の髪と目は鮮やかな赤色だから、神官がそう思っても何もおかしくないし、実際にゲームなら小娘のことだったしな。
「アイン……魅了スキルは?」
「おそらく、ゼーリア殿も含めて、その術中かと。」
「はぁ……だよなぁ。ゼーリアは真面目だから、機密情報を漏洩させるようなやつじゃないし。」
ちょっと、真面目すぎて融通が効かなくてめんどくさいところはあるが、その辺は規則に厳しい教会で育ったからだろう。他の神官たちの評判もいいから、ちょうどいいのかもな。
そんな男が、機密を漏らすとは…魅了スキルでやったというならば、ある意味納得はできる。恋は盲目というぐらいだし。
「どういたしますか?」
「ゼーリアの目を覚させたところで、すでに広がった信ぴょう性のある話を訂正しても、意味がないだろう。誰も納得しない。」
紅玉を強く連想できる外見、あたかも『私も女神の声が聞こえるのです』と言う小娘の妄言は、女神のお告げを聞くことができる神官長の息子が後押ししたことで、信ぴょう性があると思わせてしまった。
それを覆すとするなら、それ以上の話題で話を逸らすしかない。だが、その話題をどうするかって話だよなぁ…
「大聖女が現れれば一気に解決しますわね。」
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