女神からのお告げ

お知らせします。

この小説についているセルフレイティング「性描写有り」を追加しました。

この章からほんの少し匂わせる言語が出てきますが、身構えなくても大丈夫だと思います。

近況ノートを見た方はもう知ってるでしょうが、見てない方のために、お知らせしておきます。

それでは、引き続きよろしくお願いします。



───────────────────








 さて、いろいろあって、俺の部下にフェニックスと、悪魔、吸血鬼、ドワーフ、エルフが加わった。四人とも竜王族やフェンリル達の族長たち数名が住む離宮に住むことになった。それは良い。3日に1回、自分の稼いだ金で酒をしこたま飲むのも別に良い。不満はない。不満はないけど……


「あのさぁ、セフィとオーレンを酔いつぶすのだけはやめてくれる?」


「殿下……私は今、召されます………御前、失礼……」


 セフィが変なこと言ってるし。天使が迎えにきた幻覚でも見えてんの? それとも鎌持った死神?


「本当に、人間は酒に弱いのぅ。」


 なんか70代後半のおじいちゃんみたいなやつがジョッキ持って長いヒゲ撫でてるんだが? この離宮にいて、見たことない人間がいるわけがない。でも、一つだけ例外がある。誰かが人間に擬態できる場合だ。この場でそれが当てはまりそうなのは………


「インフィの場合は人型になれることを黙ってたな?」

  

「さすがキースじゃ。一目でわしを見抜くとはのぅ。」


「それはもう良いから! セフィとオーレン返してもらうぞ。」


 俺が二人を浮かせて運べば、ユグドラとリーズロットが残念そうにしていたけど、そんなことは関係ない。二人にだって仕事はあるんだ。


「殿下……助かりました…」


「うぷっ、吐きそう……」


「はいはい。今神聖魔法使ってやっから待ってろ。」


 神聖魔法とは聖属性魔法の上位属性とも言われているぐらいには強い魔法だ。聖属性は怪我や呪いを治療できるが、神聖魔法は聖魔法の効果に加えて病や全ての状態異常を治すことができる。聖魔法は病を治せるという噂があるが、あれはちょっと違う。人は聖魔法と神聖魔法の違いを見分けられないから、熟練の聖魔法使いが病を治してると思われてるだけ。見分けられるとしたら、鑑定スキルか魔眼持ちのどっちかだろう。俺みたいな半神を含めなければの話だけど。


「はぁ……助かった……」


「ったく、神聖魔法は酔っ払いのためにある魔法じゃねぇんだぞ?」


 酒酔いも一応状態異常の一種だから、神聖魔法は効く。効くけども、って話だ。本来は毒や麻痺、石化などを解くための魔法なんだぞ。


「耳が痛いですね……」


 まぁ、聖魔法を極めまくって、創造神イーストリアラから加護を得るか半神に至るかのどちらかで神聖魔法を習得するしな。俺は半神になってから聖魔法を極めたからなのか、聖魔法を使う人間とイメージが違った影響かはわからないけど、いつのまにか神聖魔法を習得していた。創造神イーストリアラからもらった加護の内容は取捨選択と構築・分解のスキル、二つだけだから、俺の場合は後者だと思う。多分。


「とにかく、神官長たちが来るから、さっさと準備しろってさ。」


「了解ですよ。」


 


 30分後。俺は玉座の間に入った。この国の幹部がたくさんいるなと思っていれば、父上とゴルドールも入ってきた。父上が玉座に座り、俺とゴルドールは入り口から見て左側に待機した。俺の右隣には弟のウェスペルと、ルナミリアがいた。二人と目を合わせれば、ルナが瞬きを2回して、笑みを浮かべた。「楽しみだ」と言うことだろう。我が妹は肝が座ってるな…

 呆れたように肩だけを軽く上に上げれば、小声でふふっと笑った。それと同時に、扉の前にいた騎士が、「キリト神官長、ユーリア聖女、ご入場です。」というまぁまぁ大きな声が響き渡った。そして、扉が開かれると、50歳ぐらいの白い神官服を着ている男と、男の斜め後ろで控えるように白い聖女服を着ている25歳前後の女が入ってきた。二人が玉座から7、8メートルの位置まで進むと、その場に膝をついて、最敬礼をした。


「アイスリア王国、国王陛下にご挨拶を申し上げます。イースト教会神官長キリト、同じく聖女のユーリア、参上いたしました。」


「表をあげよ。」


 こっからは少しダラダラと挨拶を交わしていく。公の場だと色々と手順がめんどくさいんだよね……あー、これを俺もやらなきゃいけないと思うと、嫌になるなぁ……

 憂鬱になりながら話を進ませていくと、やっと本題に入った。


「して、女神からお告げがあったと言っておったな。何があったのだ?」


「はい。女神イーストリアラ様は3日前、こうおっしゃいました。『数日後、大厄災が目覚めます。』」


 神官長の一言に周囲がざわめいた。そりゃそうだ、大厄災とは魔神のことだから。それが復活するんだからな。初耳な貴族たちは、狼狽えるが俺としては、遂に来たかって感じだ……予定通りっちゃあ、予定通りだけど、まだまだ眠っててほしいもんだよ……フェルとミシェルの半神育成計画はまだ終わってねぇし。


「『氷を操る強き勇者とその仲間たちに助力を求めなさい。』と。」


 ため息をつきそうになっているのを堪えていると、神官長が言葉を続けた。

 

「氷を操る強い勇者??」


「はい。何度も考えましたが、この国で氷を操る強いものは、冒険者に一人います。」


「SSランク冒険者、氷雪の魔剣士、キースだな?」


 俺じゃん。ここで表情には出さないけど、ため息をつきたくなった。確かに創造神イーストリアラは、精霊王イグニス経由で俺に頼むとは言っていたけどね? わざわざお告げとして言わなくても良いのに………まぁ、俺はイーストリアラのお告げは聞こえないから仕方ないけど。こうして後少しで封印が解けるって言ってくれて、助かったよ。


「はい。そして、女神イーストリアラ様のお告げにはまだ続きがあります。」


「話してみよ。」


「『白銀の王子と紅玉の少女が結ばれし時、大聖女が目覚める。そして、二人が揃いし時、魔神の討伐が叶うでしょう。』と。」


「白銀の王子……」


 父上が呟くと、俺を見た。それに続くようにその場にいた人間が俺を見た。この国でとなると、俺しかいない…王子はもう一人、ウェスがいるけど、ウェスはどっちかと言うと黄金だしな。 

 つか、紅玉の少女と結ばれしときぃぃ???誰だよおい。俺の婚約者であるシーラは青薔薇の姫って言われてるから違う、のか??

 女神といえば愛の象徴で、結婚式とかで愛を誓うのは女神に対してだ。だから、結ばれるとなると、結婚とか、あとはやっぱり、肌を合わせるってことになる、、よな?? 俺の常識があってれば…………

 え、シーラ以外の女と結婚しろって? もしくは、一線超えろってこと??


 は? 


「……陛下、この場で断言しておきます。絶っ、………………対に嫌だ!!」 


「タメ長……私はまだ何も言っておらん。」


 父上が俺たちの仲を知らないはずはないし、引き裂こうとするとは思えないけど、あくまで父上はこの国の王だ。王は国の奴隷だ。そして、俺は王族、次期国王だ。国を守るためには……なんて言い出す可能性もなくはない。でも、それを俺が許容すると思ったら大間違いだ。

 絶対に無理。シーラ以外の女に触れる? そんな血反吐吐きそうなこと、できるわけないだろ。無理、下半身が反応するどころか、一生機能しなくなる自信がある。想像しただけで吐きそう。今すぐ吐いて良いかな?


「俺はシーラ……ガーディーアン侯爵令嬢以外と結婚する気はないです。死んでも嫌だ。婚約者を裏切るくらいなら、心中するか国を出る。いっそ俺と冒険者キースだけで魔神を討伐してやる。」


 真っ青を通り越して紫色の顔色になってるだろうことは自覚してる。けど、それぐらい嫌だ。公の場?で素を出す俺はかなり珍しいため、素を知らない人間は呆気に取られていた。


「本気でやりかねないあたり、キースの怖いところだな………」


 素を知ってる父上は予想通りという顔で肩をすくめた。それに、神官長が我にかえった。


「し、しかし……神話の伝承では、大聖女は魔神を抑えこめる唯一の女性です。大聖女と勇者がいなくして、大厄災を止めるのは……」


 この国に伝わる神話の伝承とは、ざっくりいうと、女神勢力に現れた強い人間である勇者、そして神聖魔法を扱う女性である大聖女によって、大厄災を率いる魔神勢力の勢いを減退させて、魔神と魔王を封印したとある。

 人間とは思えない強さを持つ勇者も、神聖魔法と呼ばれる聖魔法の上位魔法を扱う女性も、魔神勢力に対抗するためには必要。それはわかってる。わかってるけど、俺はどちらもクリアしている。精霊王兼精霊神イグニスが言うには伝承で伝えられている勇者も大聖女も半神だったし、神聖魔法を使えるのはである必要もない。つか、俺も使えるから、どっちみちお告げ通りに動かなくてもいい。父上だってそれを知ってるはずだ。助けを求めるように父上を見たら、頷かれた。


「女神様の最後のお告げは気になるが、神聖魔法の使い手には少し心当たりがある。大厄災の目覚めは時が来たら王家から通告する。今日の話は決して外部に漏らすでないぞ。ここにいるすべての人間がだ。良いな。」


「「はっ!陛下の御心のままに!」」


 ゴルドールが解散を命じれば、神官長と聖女が出ていく。最後に廊下に出た後、もう一度聖女が振り返って、恨めしそうに俺を見ていた。王族なら国を守るためにわがままを言うなって言いたいんだろう。けど、事情をしらない奴がしゃしゃり出てくることほど、煩わしいことはないのだ。だから俺は、瞬きを三回して右手の親指を立ててから下に向けてやった。元公爵令嬢ならわかるだろう。この意味が。

 前世なら地獄に堕ちろってジェスチャーなんだけどね。


 俺の言いたいことが正確にわかったようで、聖女は息を飲んだ後、気まずそうにふいっと顔を逸らした。わかったようで何よりだよ。






 


 〜side:ユーリア〜

 

 女神様からのお告げは、神官長と二人で授かった。最後の言葉も全て。白銀の王子と紅玉の少女が結ばれると言うお告げを伝えれば、ガーディーアン侯爵家と王家が荒れるだろうと思った。けれど、神官である私にとって、女神様のお告げに叛くことはありえない。

 女神様に代わって民を守るのが私の責務。王族も、民を守るのがお仕事。大厄災を抑えるために、第一王子と紅玉の少女が結ばれることは必須。ちゃんと説明すれば、国王はわかってくれるはず。ガーディーアン侯爵家と遺恨は残ってしまうでしょうけれど、それは後で修復できることでもあるわ。だからこそ、私たちは伝えることを選んだ。


 しかし、王子は嫌だとわがままを言った。


 私は怒りに近い感情を抱いたわ。第一王子は民のために尽力する方だと思っていたのに。それを、あっさりと。悩むことなく拒否した。確かに、婚約者との仲を引き裂くようで悪いとは思ったわ。でも、あの方からは、絶対に曲げないと言う意思を感じた。ふざけないでほしい。大勢の民の命を見殺しにするつもりなのかと。陛下はそんなことしないと思っていた。それなのに、うやむやにしてしまった。国王なら、さっさと決断しなさいと思ったけど、解散となってしまった。私は最後に恨めし気に殿下を睨んでやったわ。しかし、殿下から帰ってきた返事は、瞬き3回と、右手の親指を立ててそれを下に向けただけ。

 

 公爵家はそのほとんどが昔、王族が降嫁(婿)したか、王子が爵位をもらったかのどちらかである場合が多い。そのため、瞬きなどの小さな仕草のみで会話ができるよう教育されることもある。私の祖母は第三王女だったため、私も自然と覚えたわ。聖女になる前は、祖母や母とそれで会話をすることもあった。それは聖女になった今でも覚えている。


 殿下の言葉を要約すると……


 部外者は黙ってろ。だった。


 たしかに、私は俗世から離れているから、俗世のことに口は出せない部外者ね。けれど、口を出すなとはひどい言いがかりでは、、、待って。もしかして、殿下は大厄災が目覚めることを知っていた?

 普通なら、驚いて狼狽えるわ。周りの貴族たちのように。でも、王族と宰相は全く狼狽えていなかった。それだけなら大貴族だから、ポーカーフェイスが上手いのだと思うでしょう。しかし、大貴族であろうと多少は驚きが前に来るはず。ポーカーフェイスが苦手だと噂のウェスペル殿下でさえ、何も狼狽えた様子がなかった。もしそうなら、私は邪魔ということになる。無知なものほど恥なものはない。

 

 そう思えば思うほど、殿下たちの態度や、陛下の心当たりについて辻褄も合う。私は殿下たちのことを考えもせずに、決めつけて行動した自分を恥じたのだった。

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