第四章

愚かな転生者 〜side:シルヴィアナ〜



 私は日本という国で死んだ15歳の女だった。体が弱くて病院通いのため、友達とはあまり遊べない生活だったけど、友達は優しかったし楽しかった。その友達が体の弱い私でもできる乙女ゲームを貸してくれた。それが、恋ラブだった。私は恋ラブという沼にハマってハマってハマりまくった。友達との共通の話題ができたこともすごく嬉しかった。推しは誰だとか、こういうところが好きとか、こういうところがダメとか。

 どハマりしてしばらくした後に、続編が出た。聖カレだ。そこに出てきた、魔神に体を乗っ取られた?利用された?第一王子が出てきた。中身は魔神だから性格はとんでもなく酷かったけど、見た目だけは好みドストライクだった。

 弟であるウェスペルルートで、魔神を倒した時にほんの少しだけ、兄であるキースが出てきた。キースは、「俺を止めてくれて、ありがとう」という遺言を残して笑顔で力尽きた。そして、兄が大好きだったウェスは、生きていた頃のキースを思い出して静かに涙を流すというシーンがあった。プレイヤーにも、どういう場面を思い出したのかわかったし、スチルとしてもゲットができたのだ。

 私は、キース様も弟思いの良い人すぎだと分かって、攻略した後に見れるおまけも見て、どういう人かを知ったらもうダメだった。ガチ恋した。何回も見るために、何周もして、この場面ではどういう気持ちだったのかなとか考えたり、妄想で泣いたりした。苦手なバッドエンドもきちんと見て、さまざまなルートをコンプしたし、スチルもコンプ。本当に大好きだった。

 その一年後、キース様の人気が爆増して、続編がまた出ることが決まった。一年後に発売したその続編はもちろん買った。キース様の死因である毒が抜けて生き残った後の話になってた。ヒロインは前作で出てきたヒロインだし、物語開始は学園入学、キース様は四年生という始まりだった。もちろん、何周もやり込んだ。


 そんな私は、死因は覚えてないけど、死んだのは分かったし、転生したのも自覚した。恋ラブの世界だってことも分かって、本当にラッキーだと思った。まぁ、思い出したのは、学園に入ってウェスペルとぶつかった時だったけど。最初、ウェスペルは好きだったから、(死んでるかは知らないけど、とりあえず魔神討伐の時は絶対見られるだろう)キース様に会うために、ゲーム通りに対応しようと思った。キース様にガチ恋してなければウェスペル様と結婚したかったし、物語のように結婚しても良かった。

 

 でも、予想に反して、キース様は生きていた。

 私は思わず逃げてしまったけど、とてもかっこよかったのは分かった。大歓喜して、ifルート通りに過ごそうと思い、イベントの場所で待ち構えていたのだが、悉くからぶった。まさか、ゲームの通りにいかないのかと思ったけど、攻略が簡単な男達のイベントは発生したし、好感度は上がったと思う。やはり、この世界は私のための世界のはずだ。




  


「どういうこと?!」

 

「どういうもなにも、作戦失敗。」


「あんな化け物に勝てるわけないわ。人間の皮を被った魔王だと言われても納得するわね。」


「ふざけないで!! キース様を化け物だなんて! 訂正して!!!!」


 ifルートのキース様は、自身の有能さを自覚していたし、周囲も理解していた。最初は神童と呼ぶほど、みんなは喜んだ。しかし、徐々に人間離れした強さを手に入れ、毒殺の後は毒に耐性がついて毒が効かなくなり、王族としては毒殺される心配がないから(経緯はともかくとして)喜ぶべきなのに、化け物だと言われるようになる。もちろん、側近の人たちは違ったけど、キース様には響かなかった。キース様自身が、化け物だと思っていたし、傷ついていたからだ。

 でも、大丈夫。ヒロインはわかっているわ。キース様は人間だと、ちゃんと知っている。


「キース様はね! 自分で努力したの! すごく努力した上での強さなの!! 何も知らないあなたがあの人を罵らないで!」


 噴火したのかというレベルで怒ったのは久しぶりだなと思った。この世界にきてからはそういうことなかったし。


「はいはい。2度と言わないわよ。それで? 貴方はなんであの男のことに詳しいわけ?」


 なんなのこいつ。今までは何も聞いてこなかったくせに。


「教える義理はないわ。それより、今は機嫌が悪いからさっさと帰ってちょうだい。」

 

「はぁ……ねぇ、貴方。本当に第一王子と結婚できると思ってるわけ?」


 女の片方がため息をついて、頬杖をついた。豊満な胸が机の上に乗っていてイラっとする。前世も今世も絶壁だった私への嫌味かしら。いえ、それより……


「なにがいいたいの?」


「この国の第一王子は、自他共に認めるほどの優秀さであり、国民にも慕われている。それはそうよね。だって自ら同じ生活をした上で改善点を洗い出し、それを実行して助けているのだもの。私ならここの国民が羨ましいわ。」


 それはそうよ。私が好きになった人だもの。そこを褒めたのは嬉しいけど、それだけじゃないわね。


「もったいぶってないで、本題を言いなさいよ。」


「国民にも王にも認められた第一王子は、このまま何もなければ来年には立太子よ。未来の王なの。次期国王様の妻となれば、貴方みたいな男爵令嬢じゃお話にならないわ。」


「平民や低位貴族ならまだしも、上位貴族やガーディーアン侯爵家が黙ってない。下手したら国が荒れる。」

 

 まぁ、最初はそうかもしれないわね。でも、私は聖女よ。このゲームの世界の主人公。ゲームでも聖女に覚醒すればみんなが私を認める。それを知らないんだもの、仕方ないわ。


「そんなことならないわよ。だって、私は聖女なんだもの。」


「「はぁ?」」


「そう。私は聖女よ。愛する人と結ばれれば聖女になれるの。」


 私が教えてあげると、二人が信じられないものを見る目で見てきた。私がそっちの立場ならそうしてるから別に良いわ。その言葉、いつか覆してあげるから。


「……その言葉がもし事実だとして、よ。王子の婚約者であるプリシラ・ガーディーアンはどうする気なの? 王子はプリシラ様を溺愛している。何かあれば王子に殺されるって有名よ?」


 ウェスペル様の婚約者で悪役令嬢であるはずのプリシラは今、キース様の婚約者なのは噂で知っていた。平民でも有名だったわ。記憶を取り戻す前は、へーそうなんだーとしか思わなかったけど、今は違う。その噂はどうせプリシラが流してるデマよ。ゲームでも、プリシラとウェスペルの仲は良いという噂も少しはあったけど、本当はプリシラの嘘だったもの。学園に通えば仲の悪さは有名だったし。それの相手がキース様になっただけよ。

 今回だって、悪女に騙されているキース様を助けるために排除しようと、この女どもを利用したのに…いや、それは今はやめよう。失敗したのなら次よ次。


「うふふ。貴方たちは何も知らないのね。キース様とプリシラは政略結婚よ。無理やり婚約者になっただけ。だって、貴族は政略結婚が当たり前なんだもの。王族ともなれば尚更。」


 いくら第一王子と侯爵令嬢という身分であろうと、貴族は恋愛結婚できないのが当たり前。あぁ、キース様、かわいそう。あの悪女に騙されているんだわ。私が解放して差し上げなくては、ね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る