不死鳥
ドルトン、メリッサの二人を救出した後。
マジックミラーのような結界を張って、下っ端魔族を拷問し、ここで何をしていたのかを聞き出した。概ね、シェファー、シェリュー(これからは双子って呼ぶか。めんどくさい)が言っていた、魔神アクゼスター復活に向けて効率よく魔力を集める研究と、その研究の素体となる人間の捕獲方法を作る場所だった。しかし、最近はそれも含めて、珍しいものを手に入れたとかで、新しいことに手を出したらしい。なんでも、永遠に魔力を生み出す魔物がいる、と。
なんか、要領を得ない言葉だったから、とりあえず屋敷の中に入ってみた。
俺はそのよくわからない魔物を調べるために地下へ、セスは捕らえた魔族の見張り、それ以外はここにある資料や本を片っ端から集めて屋敷の入り口に運ぶように言った。
散会して、俺は一人で地下に向かった。実は屋敷全体を索敵した時に妙な反応を感知していたんだよな。魔族たちの言うそのよくわからん魔物は、俺が感知した妙な反応のやつだと思って薄暗い廊下を迷うことなく進む。隠し通路の入り口(ただの壁に見える隠し扉)は、殴られたように壊されていた。ドルトンとメリッサがとらわれていたのは地下一階で、魔物?は地下二階にとらわれているっぽいから、セスかシリアスが壊したんだろうなと予測をつけて、隠し扉だったものを潜った。薄暗いを通り越して真っ暗な地下へ続く階段を光魔法ライトで照らしながら進む。途中で地下牢を見つけたがスルーして、奥へ向かった。またしても壁に見える隠し扉を発見(索敵魔法で奥が通路なのが丸見え)して、俺は扉を殴ってぶち壊した。開け方なんて知らないもん。また壊した扉を潜って奥へ進む。
やっと到着したと思った瞬間。
「今度は誰じゃ。わしの眠りを妨げるものは…」
思ったよりも明るい室内だったらしい。そして、明るい原因は1.5mぐらいの鳥籠の中にいる、1メートルぐらいの大きさの炎だった。そして、炎はかすかに鳥のような形をしていて、嘴が動いた。つまり、しゃべったんだよ、鳥型の炎が。いや、鳥型と言うより、鳥が燃えてるって方がしっくりくるな。目があるし。燃えてるのに生きてる鳥、そして、喋る……こんな不思議現象を起こせるとしたら……
「今度はどんな魔物かと思ったら、神獣じゃん。それも、世界に一体しか存在しないと言う不死鳥。」
城の書庫にある神獣図鑑に載っているものの中に、青い炎を纏う鳥がいると書いてあった。寿命を迎えると薪を集めて自分の炎で燃やし、その中に飛び込んで死ぬが、燃え尽きた灰から蘇ることから不死鳥と呼ばれた。世界に一体しか存在しないフェニックス族。
前世の不死鳥の伝承とほぼ同じだったけど、青い炎を纏う点は異なっていて会ってみたいと思っていたから、よく覚えていた。しかし、喋るとはなぁ……いや、よくよく考えると竜王族とかフェンリルも喋ってたわ……
「なんじゃお主、博識じゃのう。わしを知っている上に、この姿で不死鳥だと見抜くとはな。慧眼よのぅ。」
「それほどでもないだろ。」
「不死鳥といえば青い炎じゃからな。赤い炎であれば魔物と間違うてもおかしくはない。」
前世だと不死鳥は火の色、赤ってイメージが強いから、燃える鳥といえば不死鳥って思っちゃうだけなんだがな。
「まぁ良い。お主、名はなんと言う?」
納得できない顔をしていると、不死鳥が話を逸らした。会いたかった神獣の一体だし、仲良くできればいいなと思って本名を名乗ることにした。
「グラキエス・ウィン・アイスリアだ。親しい人間はキースって呼ぶ。」
「わしは神獣の一角、フェニックス族のインフェルじゃ。不死鳥という方が人間にはわかりやすいじゃろうが、それは名ではないしのぅ。インフィと呼ぶが良い。それでは、キースよ。わしをここから出してはくれぬか?」
インフェルって、もしかして、インフェルノから来たのか? 地獄とか業火って意味だけど…まぁ、炎自体は強そうだしいっか。そのインフィと言えば、脱出の助けを求めてきた。
「神獣なら自分で出られそうなのに?」
「普通の鳥籠なら朝飯前なのじゃがな。この鳥籠はわしの魔力を勢いよく吸い上げるため、弱体化してしまうんじゃ。わしにとってこの炎は鎧であり、剣なのじゃ。」
ただの鳥籠に見えるけど、実際は魔道具だったわけだ。捕らえた者の魔力を吸い上げる系統の。インフィが纏っている炎は魔力っぽいし、さっきからずっと燃えている。この炎自体が、魔族の言っていた永遠に魔力を生み出すってやつなんだろう。インフィにとっての鎧であり剣ならば、常に魔力を取られて攻撃力が落ちてるということだろう。
「わかった。手を貸すよ。」
「おお。そうかそうか。感謝するぞ。」
インフィはとても嬉しそうに目を細めた。意外と表情豊かだな。俺は、鳥籠に触れる数センチ手前で手をかざして、ウインドカッターで鳥籠を破壊した。もちろんインフィには当てないように、一本一本、鉄格子を切断した。3分の2ほど切断し終えたら、あとは力技で鳥籠の底を下に引っ張った。床に落ちた?降りた?インフィは着地する前に羽を広げて飛び上がり、俺の左肩に乗った。
「羽すら満足に広げられないとは、窮屈なものよのぅ。」
インフィが人間みたいに羽を広げて伸びをした。その羽が俺の頭に当たるけど、全然熱くなかった。熱変動耐性があるとは言え、若干の温度は感じるように調整しているのだ。全てきってしまったら、人肌の温度とか、季節とか感じられなくてつまんないから。風呂とかも気持ちよくないし。だから50度までは感じるはずなのに、インフィからは人肌ぐらいの温度しか感じられない。
「熱くないんだな。」
インフィの頭を撫でてみるけど、全然熱くないし、羽みたいにふさふさしている感触がする。不思議だ。
「わしの纏う炎は、温度を調節可能じゃ。普段は人肌ぐらいじゃが、攻撃する時は温度を上げて燃やすことができるんじゃ。そうでもしないと、周囲の生態系を破壊してしまうからのう。」
確かに、普段から熱かったら休めないし、森に入ったら一発で山火事だ。大惨事になって、討伐以来が出てしまうだろう。できるかはともかくとして。人間の中で、不死鳥は神聖な鳥ではなく、邪悪な鳥として有名になっているだろう。
だけど、そうじゃないってことは、普通に共存可能ってことだ。
「なるほど。」
「そういうことじゃ。そうだ。感謝の印に、わしの加護を与えようぞ。」
インフィがそう宣言すると、お馴染みの契約宣言とともに加護を与えられた。もう、俺は何も突っ込まない。慣れたぞ。本当に慣れたぞ。
「ふむ。すでに熱変動耐性も炎魔法適性も持っておるのか。予想外ではあったが、人獣化スキルは持っていなかったようだな。」
「なにそれ?」
「人獣化スキルとは、擬態スキルと似たスキルじゃな。擬態スキルは全身がその生物とほぼ同じになるじゃろう? 人獣化スキルは、望んだ場所のみ変化させることが可能じゃ。」
とりあえず、右腕を鳥の翼にできるのか、イメージしてみた。そしたら、一瞬で鳥の翼に変わった。
「うわ、すっげ、」
バサバサ降って仰いでみたら、魔法を使わなくても風を起こすことができた。机の上にあった紙が勢いよく飛んで地面に雪崩れていった。同じ容量で左腕を翼、両足を鳥の足のイメージにすると、本当に変化した。
「うん。どんどん人間離れしていくわ……」
「そなた、半神であろう? すでに人間ではないぞ?」
「わかってるけどね?!? 否定されると悲しいんだよ!!」
うがぁ!っと叫んで髪の手をかき乱した。
ズーンと落ち込んだけど、数分後に復活した俺は地下から出て入り口に向かった。
「あ、キース様! お帰りなさい。」
真っ先に気づいたのはシーラで、笑顔で駆け寄ってきてくれた。うむ、とてもかわいい。
「ただいま、シーラ。」
「肩の鳥は、魔族が言っていた魔物、ですか? え、魔物じゃ、ない気が……」
ジーっとインフィを見て、違和感に気づいたようだ。さすがシーラ。
「シーラもわかる?魔物じゃないって。」
「ええ。魔物より、どちらかといえば、フェンリル族と気配が似ています。燃えてる鳥…もしかして不死鳥ですか?」
「この娘も良い子じゃ。気に入ったぞ。契約をしてやろう。」
シーラの意見も聞かずにインフィが左の翼をシーラの額に当てて契約を宣言、しようとして名前を聞き忘れたらしい。俺をチラッと見たので、名前を教えてやると、今度こそ契約をした。
「なんだか、暖かい物に包まれてる気がします。」
「わしの熱を纏ったのじゃろう。わしの庇護下に入るとそうなるのじゃ。」
「俺は?」
契約したけど、全然そんなことなかったぞ? え、俺が鈍感すぎて気づかなかったとか?
「キースはすでに半神じゃ。わしの庇護など必要ない。むしろわしがキースの庇護下に入っておるぞ。」
「まーじでぇぇ???」
確かに半神の序列は最強種を押しのけて、第3位だけどさぁ……実感がないよね。
「マジじゃ。しかし、キースの魔力は心地よいな。氷のように冷たいのじゃが、暖かく感じるぞ。本来、わしにとって氷とは不快なんじゃがな。」
「何それ。」
「キースが得意な魔法は氷じゃろう。その影響で冷たく感じるのじゃ。しかし、優しい気配がするのでな。心地よいのじゃ。」
「その気持ち、わかります。」
「おお。そうか。わかるか。」
「はい。きっと、キース様の心が優しくて暖かいのを、魔力を通して感じられるのでしょう。」
「シーラよ、お主、わかっておるな。」
「もちろんです! 私はキース様のファン第一号ですからね。」
「はっはっは。それは良いのぅ。」
なんかよくわかんないけど、とりあえずシーラとインフィの相性が良かったってことだけはわかった。俺のことで意気投合しているので、インフィはシーラに預けて、俺は屋敷の入り口に溜まった資料や本に向かった。
「キース、さっきシーラが不死鳥と言っていた気がするが、神獣なのか?」
こちらを見ていたセスが、疑問を口にしたので肯定しておいた。
「そう。神獣種 フェニックス族 通称不死鳥のインフェルだ。魔族の言ってた魔物はインフェル、インフィのことだったんだ。」
「なるほど。とりあえず、また最強種の一角をたらし込んだ、と。」
「たらし込んでねぇよ?!」
心外だ!! 少し話しただけなのに!!
「さすが神獣たらしね。」
「獣たらし。」
「最強種たらし。」
「なんでだよ!!!!!」
なぜこんなにもボロカスに言われなきゃならないんだと騒ぎながら、集められた資料や本を異空間収納へぶちこんで行った。
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