救出
不法入国がバレないようにミシェルの顔パスは使わず、仮面をつけさせて、卒業旅行に来たんですーと門番に言い、ヘブリーの街へ入った。門番はミシェルの仮面に目がいっていたけど、ミシェルが自分で「顔の傷が酷くて恥ずかしいんです。」と大嘘をついて門番の同情を誘い、不躾に見たことに対する罪悪感も植え付けたため、怪しまれなかった。
ミシェルの案内に従って人数分(シェファーたちの弟たちの分含め)の黒いマントを買い込み、別の門から街を出た。人目がなくなったところで、全員でマントを着て、空を飛行した。
シェファーたちの話を聞きながら、目的地に使うこと30分。
「あれがそうか?」
眼下、というか、足元っていうか。下にはまぁまぁな屋敷が建っていた。ちょっと金持ちの下級貴族が使う屋敷ぐらいの大きさの屋敷があった。青い屋根っぽいけど、風化していて塗装が禿げまくっているから、今は使われてなさそうだと勘違いする。しかし、よく見れば、庭の草木が屋敷に向かって道のように、踏み倒されている場所があるから、最近誰かが通ったってわかる。
「うん。間違いない、です。」
シェリューはどうにも敬語が苦手なようだから辞めてもいいと言ったんだけど、頑なに辞めなかったんだよなぁ。まぁ、聞き苦しいわけじゃないし、本人がやりたいというならと放置することにした。
「さて、どうするか。」
これからどうやってあの屋敷を制圧するか考えて、ニヤリと口角をあげたら、アイに肩を掴まれた。
「ちょっとちょっと、キース様??」
「え、なに?」
「何、じゃないっす。いい加減、俺にも暴れさせてもらいますからね。あと、フェルも連れて行きます。」
セスに背負われているフェルが、いきなり名前を呼ばれて困惑顔だ。
「え、俺も?」
「そのために連れてきたんだぞ。」
確かに、戦闘要員として念のために連れてきたよ?けどさ、二人で行くのも舐めすぎな気がする。
「そもそも、キースだけでよくない?俺たちなんで連れてこられたの?」
「暴れたいから。」
あれーーー??
「俺関係ないじゃん。まぁいいけど。今の俺でどのくらい魔族に通じるのか気になるし。」
どうしよう。緊張感なさすぎるんだけど…え、俺が警戒しすぎ?
「フェルが、だんだんと戦闘狂に染まってきてますわ……まぁ、私も試したいことがあるし、行ってみようかしら。」
ミシェルさんまで、なんか言ってる?
「ミシェルも染まってきてねぇか?」
「はっ、慣れてきてしまっている私が怖いわ!!」
いきなり大声出すなよな。まぁ、魔族たちに気づかれないように音量は下げたっぽいけど。
「じゃあ、俺もいこーっと。」
「ミシェルとフェルたちだけでは心配だから、俺も行く。キースとシーラ、シェファー、シェリューは留守番で。」
シリアスとセスも名乗りをあげたことで、まぁまぁな人数が突入することになった。
まぁ、屋敷にいるのはシェファーたち二人よりはまぁまぁ強い魔族たちだけど、一体一体はミシェルやフェルが油断さえしなければ、死なない相手だろう。人数が多いから、セスとアイ、シリアスがいれば安心か。
「セス、実はお前も暴れたかったのか?」
「そうとも言えるな。じゃあ、アイとフェルとミシェルが陽動、俺とシリアスは潜入して弟たちを助ける。そのあとは各自の判断で、臨機応変に。」
「いつもながら思うけどさ、本当、このパーティーって作戦とかは大筋しか考えないよねぇ!」
シリアスがニコニコ楽しそうに言うと、陽動組と潜入組が一瞬で目の前からいなくなった。実際には俺が重力魔法をきって、落下していったんだけど。五人はは自分でなんなく地面に着地しているので、オーケーだ。
「そ、それでいいのですか?」
俺の隣でオロオロしているシェファーが問うが、いつものことなんだよなぁ。
「あれこれ考えるとさ、不測の事態になった時に色々狂ってかえって混乱する。だから、臨機応変に対応する方が俺たちの場合は良いんだよ。こう言う制圧作戦の場合はな。とりあえず、見ておけ。」
俺はシェファーとシェリューに安心しろと言う意味で見ておけといえば、陽動組が魔族たちに見つかった。魔法やら剣やらで応戦していると、どんどん人間に擬態した魔族が屋敷の中から溢れ出てきた。
「やぁっと暴れられるぜー!!覚悟してろよ、魔族どもぉぉ!!!」
なんか、テンションがヒャッハーと限界突破してるやつが若干一名?半神?いるけど……無視だ無視。フェルとミシェルの表情がスンって抜け落ちているのも気にしない。
多分、あれは、知らぬふりしてる方がいい。
屋敷の中にいた魔族がほとんど外に出たのを確認して、セスとシリアスが裏口から侵入した。俺が教えた索敵魔法を使ってるから、屋敷の構造とかも把握してるだろう。迷うことなく進んで行くのがわかる。スタコラサッサーと地下まで行くと、二人の人間と接触した。二、三分話してから四人で行動し始めたのを見るに、やっぱり地下にいたのは人質かと納得した。
ちなみに、その間もずっと、アイはヒャッハーしてたので、次々と魔族を気絶させていく。ミシェルとフェルが倒した魔族で小山を作るのに対して、アイはその3倍ほどの大山を使っていたので、ミシェルとフェルがドン引きしていたのは言うまでもない。気絶させた魔族で小さいとはいえ山を作るミシェルとフェルも色々とイカれてるんだけどね? 多分、俺たちのせいで感覚麻痺ってるよ?
しばらくして、アイとシリアスのその他二名が屋敷から出てきた。しかし、今までよりは随分と強そうな個体を連れていた。
「よくも人間ごとき下等種族がやってくれたなぁ! ぶっ殺してやらぁ!!」
特大の火球を作り出そうとしている正面にはセスが真顔で、シリアスが笑顔で俺を見た。シリアスに至っては手を振ってる。
「キース〜! たーすーけーてー!」
おい、棒読みすぎる上に、きゃっきゃっとはしゃいでんじゃねぇか。誰がどう見たって絶対助けなんて必要ねぇだろ。
と、思うけど、仕方ないから、助けてやろう。
「ほいっとな。」
俺は法則操作のスキルを使って、特大の火球に使われている魔力を乱した。陽炎のようにゆらめくと火球が霧散していった。かき消されたことで、動揺した魔族に、お得意の魔道具を複数取り出して風と火の魔法を掛け合わせて魔族にぶつけた。魔法は小さかったのに、威力はとんでもなかったために爆炎が上り、熱風が地上5mにいる俺たちまで届いた。耐熱結界を展開したから、俺たちに暑さは届かないが、俺がいなかったら普通の人間は火傷してんじゃね?
「シリアス、威力考えろよー。」
「キースがいれば平気じゃん!」
それはそうなんだけど、限度があるだろう……
「フレンドリーファイヤ、ダメ、絶対。」
「サーセンっした!!」
意味がわかると速攻で手のひら返しなのはどうなのよ。
「そんなこと言ってる場合ではないわよね?! まだ生きてるわ!」
ミシェルの警告があたりに響くと、爆炎がおさまり、煙の中心から魔族が出てきた。んー、まぁまぁ火傷してるっぽいけど、戦闘不能ってレベルではないな。
「人間ごときに傷を負わされるとは……なんという屈辱! 死んだ方がマシだと言うほどの苦痛を与えてから殺す!!」
大激怒しちゃった魔族が、シリアスに向かって踏み込んだ。一足で距離をつめるのはさすがと言えるけど、俺たちは一人でここに来ていない。
「俺を忘れてもらっちゃぁ、困るぜ!」
アイがシリアスと魔族の間に滑り込み、魔族の剣を剣で受け流した。魔族の剣はアイの剣を滑るようにスライドして、地面に叩きつけられた。かなりの威力だったため、小さな土塊が飛び散った。シリアスが新しい魔道具を取り出して結界を作り出し、土塊を防いだため、二人には当たらない。
憤怒の形相である魔族はそれに苛立ち、魔法を使うために魔力を込め始めた。しかし、魔法が形になる前にセスが重ね掛けした
魔族がぐわんぐわんも顔を揺らしたと思ったらガクッと頭が下を向いた。操り人形がいきなりカクンと操られなくなったみたいだ。
「す、すごい…」
「あのダクネを傷一つ負うことなく、三人で…」
あぁ。そういえば、あの魔族、ダクネっていう名前だったっけ。シェファーたちの弟を人質にしていた集団の中で一番強いっていう魔族、だっけ。
「ま、半神なんだから、これぐらいはできなくちゃな。俺たちの最終目標は魔神アクゼスターの封印、もしくは討伐だし。」
「なっ、魔神アクゼスターを封印か討伐?!」
「そ。種族神経由で創造神から頼まれてんの。」
深いため息を吐くと、シェファーとシェリューの「ええぇぇぇーーーーー?!?!」という、大混乱を含んだ叫び声が上がった。それに首を傾げる陽動組と潜入組だった。
めんどくさいけど、二人を宥めていると、潜入組が連れてきた二人、男のドワーフと女のエルフが俺たちに近寄ってきた。
「シェファー、シェリュー……」
「ドルトン」
「メリッサ…」
ドワーフの男が二人を呼び、二人はそれぞれの名前を呼ぶ。エルフの女は肩を振るわせて…
「お姉さまぁぁぁぁ!!!!」
大号泣からの、二人に飛びついた。二人は予想していたのかエルフの女、メリッサを受け止めた。
「ご無事で、よがっだでずぅぅぅ!!!!」
わーんと号泣するメリッサを宥める二人は、普通に姉だなとは思う。意外な一面を見たなと思った。
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