不法入国



 シェファーリエことシェファと、シェリュニアのシェリューに依頼されて、2人の義理の弟とその婚約者を助けることにした。一応、第一王子だから無断で遠くまで行くのはまずい。殿下がいないぃぃ!!!! なんてことになれば、大捜索隊が組まれるからな(アイ:多分、組まれないだろうなぁ。キース様が1番強いし何かあるとは思えない。あと俺たち側近もいないから悪巧みしてると思われる気がする)。

 だから、ふざけた絵文字付きの一言「人助けしてくる(・ω<) テヘペロ」と書いた紙を、王宮にいる顔見知りの騎士に「父上に渡しといて〜」と押し付けて来た。騎士に首を傾げられたけど、今頃父上に渡して、父上がため息をついてる頃だろう。

 あと、ついでにシリアスとフェルドとミシェルをとっ捕まえてきた。弟たちが監禁されている場所はメトス公国のワーグナー領らしいから、ミシェルに道案内を頼もうかと思って。ほか2人は普通に戦闘要員。あ、ミシェルも戦闘要員だけどな。

 

「んじゃ、早速。いざゆかん! 武器鍛治を申し込みに!」

 

 拳を空に向かって突き上げて宣言すると、ミシェルに呆れた目で見られた。

 

「目的変わってますわよね?」

 

「変わってない! 武器を作ってもらうのは俺の悲願だ!」

 

 本当に、武器が欲しい! 壊れない武器が!! 切実に!! ほしい!! 半神になってからずっと、ずーーーっと!! 剣を本気で振れていない! 楽しい楽しい剣術ができないとかどんな拷問だ! 

 魔法開発や魔道具開発、ポーション作り、そしてシーラを愛でることで騙し騙し来たが、最近はそれも限界になっていた。

 そろそろ本格的に武器を振りたい! それが、叶いそうなんだぞ?! 俺の器用さを持ってしても、俺の力に耐えられる武器どころか、シェファーやシェリューが扱えるほどの武器を作ることはできなかったんだ。少なくとも鍛治師としての高いスキルと、長年の職人としての勘が絶対に必須のはずだ。俺はどちらも欠けている。俺にはできるわけがないとわかったからこそ、すごい武器を作れる職人に会えそうなんだから、テンション上がるに決まってんだろうが。

 

「目が刀になってるキース様、可愛い。」

 

 ふふっと見守るように微笑む可愛いシーラに、俺は気づかない。そのシーラを見て、俺以外が全員ドン引きしていらしいことも気づいてない。

 メラメラと気合を入れて俺は魔力を練った。シェファーやシェリューの弟たちが拘束されている場所まで、転移魔法で一っ飛びしたいところだが、あれは一度行ったことがないと難しい。明確な場所のイメージができないからだ。できなくはないが、座標がうんたらと死ぬほどめんどい。ま、行ったことがある場所に転移してから飛行すればいいんだけどさ。どこが近いかなーと思って候補地をイメージしていく。

 そのそばで、俺の邪魔をしないようにシェファーがアイに尋ねた。

 

「ごしゅ、主様あるじさまはそんなにも武器が欲しいのですか?」

 

 ちなみに、シェファーとシェリューは、少し前に俺ををご主人様と呼んだのだが、断固拒否したことで主様あるじさまと決まった。

 

「キース様が本気で武器を扱うとすーぐ壊れるんだよ。1番得意な近距離攻撃ができる武器が欲しい。素材は竜王族の牙っていういいやつを持ってるけどそれを加工できるやつがいない。」

 

 アイが説明すると、2人は竜王族という言葉に驚いていた。

 

「キースは半神になってからの数年、全力で戦ったことがない。」

 

 しかし、それ以上に、セスが細くした言葉の方が衝撃が大きいらしく、あんぐりと口を開けていた。

 

「キース様は戦闘狂ではなく知識欲の塊だと言っておりますが、実際は戦闘狂です。認めたくないだけで。」

 

 俺だって自覚はしてるさ。ただ、この世界の戦闘狂はちょっとイカれてすぎてて、それと同じカテゴリーにされたくないだけだ。

 

「そのため、本気を出す相手や武器を求めているんですが、なかなか出会えないんです。特に武器の点は。最近は色々とストレスになっているようで、よく私を撫で回しておりますわ。」

 

 やっぱりバレてるし。流石に有象無象がいる公の場所でシーラの威厳がなくなるようなことはしてないけど、人目がない場所や、見られても平気な口の固い俺の側近たちぐらいのときに、シーラを膝に乗せて世話を焼きまくり、頭や髪を撫で回して癒されている。王族がすること、侯爵令嬢がされることじゃないが、俺の精神安定のためにシーラには犠牲になってもらっている。まぁ、されているシーラ本人は恥ずかしいけど嬉しいから別にいいやって放置してくれてるけど。シーラって意外と構われるのが好きだよなって言ったら、セスとシーラに「お前(キース様)のせいだ。」とじろっとした目で見られた。納得はいかないが、俺のせいらしいというのは理解した。

 

「「な、撫で回す……?」」

 

「キース様、前から私のことを愛でてくれますが、最近は非公式の場ではほとんど私をそのお膝に座らせて何かを食べさせてくるのです。私を太らせる気なのかと言わんばかりに。」

 

 別に太らせようとはしてない……けど、普通ならとっくに体重が増えてる。でも、シーラにやめろとは言われてないな?

 

「シーラは太らない体質だろうに、体型維持に苦労してるんだという空気を出すな。実際は苦労してないんだからな。」 

 

「あら嫌ですわ、お兄様。私はこれでも毎日運動は欠かしておりません。」

 

 なるほど。太らない体質な上に毎日運動してると。そりゃ太らないか。まぁ、シーラが太ったとしても絶対可愛いだけだけど。

 

「ただの習慣だろう。」

 

「そうとも言いますわね。」

 

「おい。」

 

 兄のツッコミを冷静に受け流す妹。ある意味いつも通りである仲良し兄妹の会話だ。聞いてて楽しいからもっとやれと言いたいところだけど、転移の準備ができてしまった。

 

「ほら、兄妹漫才やってないで、そろそろ飛ぶぞー。」

 

「もう準備ができたんですか?」

 

「できたよ。おいで。」

 

 シーラに手を差し出すと、俺の手に手を重ねて近づいてくれた。俺は腰に手を添えてシーラを支えると、慣れたように体を預けてくれた。その後ろからセスやアイたちが並び、前の人間の肩に手を乗せた。理解できてないシェファー、シェリューにとりあえず同じことをセスがさせたので、全員が直接ないし間接的に俺に触れたことになった。俺はそれを確認して、魔法を発動させた。

 

 到着した場所は、王国の最西端、ベルヴァンの森を抜けた先だ。


「よし。全員いるな。こっからは重力魔法で飛行する。俺が浮かしてやるから、風魔法が使えるやつは自分で姿勢制御と進行方向に進め。使えないやつは誰かに背負ってもらえ。以上。」


 俺は癒しという名の下心でシーラを、セスが風魔法の使えないフェルを、アイが風魔法は使えるけど道案内のための体力を残すためにミシェルを抱える、もしくは背負うことに自然となった。ので、余ったシリアスがシェファーとシェリューの二人と、仲良く手を繋いで、慣れるまで誘導しようという感じに決まった。

 全員準備完了となったので、手を繋がれてよくわかってない二人は無視して、重力魔法で全員の体を浮かせた。海より100メートルほど高い位置をキープしてウェストリア島に向かう。俺の後ろを風魔法で前進する3組を見てから速度を徐々に上げた。時速20キロを超えると空気抵抗がひどくなってきたので、ついでにその辺も風魔法でなくなるようにして速度を上げた。おそらく時速100キロを超えたと思うが、俺が空気抵抗をなくしたことで前世の車ぐらいには心地よいと思う。姿勢は考慮しなければの話だけどな。空を飛べるんだから喜べ。


「すごい速度だわ…」


 シェファーが手を繋がれながら呟いた。


「車みたいだよね!」


 シリアスさん、車ネタがわかるのは転生者である俺とミシェルだけだぞ。


「ずっと同じ景色で飽きましたわ…」


「ミシェルは我儘言うんじゃねぇ。国に帰れるんだから少しは喜べ。」


「喜んでますけど、海ばっかりでつまらないんですもの…」


「アイに姫抱きされてドキドキしてたやつがなんかほざいてるぞ。」


「なっ、そんなことしてませんわ!!」


「顔を真っ赤にして抵抗してたやつはどこのドイツだろうなぁ。俺の見間違いだったかなー?シーラはどう思うー?」


 完全に棒読みで言うと、俺の腕の中で大人しくしていたシーラがくすくすと笑った。


「私もそう思いましたわ。」


 シーラは俺の味方である。


「そ、そそ、そんなことありませんわ!! 別に、アイにお姫様抱っこなんて、憧れてませんからね!!」


 自分から聞いてないことまで吐いたぞ。反論することに必死でアイがめちゃくちゃ顔を赤くしてるのに気づいてねぇな。本当、つくづくこの二人はもったいねぇよなぁ。もだもだしやがって…アイはさっさと告っちまえばいいのに。まぁでも、身分差でそうも言ってられないんだろうから、部外者が口を挟むべきじゃない。でも、アイならすぐに爵位をもらえるぐらい活躍するだろうから、あと少しの辛抱だな。


「お。なんだかんだ言って、そろそろ着くぞ。島が見えてきた。」


 今は夕方だから、堂々と飛行していれば不法入国がバレるな。だけど、流石に何もせずに空中に止まるのも面倒だし、島が見えてるなら向こうも俺らを見つけられる可能性がある。深淵をのぞいている時俺らも見られているってな。


「よし。転移魔法で不法入国すっか。」


「転移魔法って、一度行った場所でなくては無理なのでは?」


「シェファーの言う通りだけど、明確に場所のイメージができるなら、見たことある場所でもいいんだ。つまり、あの街の奥にある森の真上に転移して、重力魔法で地面に降りることもできる。」


「なるほど。それなら不法入国がバレませんわね。」


「そういうこと。全員俺に直接的か間接的に触れー。転移するぞー。」


 すすすっと全員が俺の肩に触れたので、転移魔法で街の奥にある森の真上に転移した。やっくりと高度を落として地面に降り立つ。


「ふぅ。やっと一休みできるな。とりあえず夜まで待ってから行こう。」


「なぜ夜なのですか?」


「アイスリア王国なら細かい地図は頭に入ってるし、人目を避けて飛ぶことができる。けど、ここは俺にとって未知の場所だ。見つからないように高度を上げるとはいえ、夜の方が都合がいい。」


一応、ウェストリア島の地図は見たし記憶してあるけど、細かい地形については軍事利用されないために秘匿されているのでよくわからない。地図で平坦に見えても実際は一万メートルの山がありましたとか、高低差が激しい渓谷がありましたとか、ウェストリア島ならザラにあるらしい。飛行するから地形問題は山脈を気にするだけになるけど、今はまだ明るく人に見つかる可能性があるので、無闇矢鱈と飛行していくわけにもいかない。でも、飛行した方が移動は楽。じゃあ、どうするかってなれば、夜という闇に紛れて飛ぶ方が良い。方角がわかれば、ざっとした地図でも、目的地付近に近づける。


「ついでに言うと、人数分の黒いマントでもあれば……」


「近くにあるヘブリーの街でお買い物をしましょう。あの街は私の実家の領地の一つですので、顔が聞きますわ。」


「んー、いや、顔パスはやめとこう。不法入国がばれるぞ。」


「あー、そうでしたわ。ではどうするのですか?」


「普通に卒業旅行に来ましたーとかいえば良いんだよ。飯が美味いと聞いてはるばるやってきたんですーってな。」


「絶対初犯じゃないよね、キース?」


「まぁな。似たようなことはやってるし。」


 冒険者としてのキースは、よくこういうことしてる。流石に不法入国は初めてだけど、キースとしてばれないために擬態して、無垢な少年を演じるのは得意だぞ。王都でよくやってる。擬態スキル様々なんだよな。情報収集には最適ってな。酔った男どもは口が軽いぜ。


「んじゃ、いくぞー。」

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