手のひら返し
シーラが攫われたあと。俺は左耳につけているピアスに魔力を込めた。一見しただけだと普通のアクセサリーに見えるだろうけど俺の作った魔道具で、対になっている。魔力を流せば、もう片方のピアスがある場所を教えてくれるようになっている。もうわかっただろうけど、右のピアスはシーラがつけていて、居場所を教えることはもちろん、殺傷力のある魔法を弾き返せることができるようになっている優れものだ
幼少期にプレゼントしたピアス型の魔道具よりも、強化してあるやつ。
だから、攫われたと聞かされても用意していた魔道具とシーラの実力を考えて、ある程度は焦ることなく対応できた。
んだが、これは予想外だぞ……
確かに悪意ある攻撃や殺傷力のある魔法を一回は絶対に弾くから危険はほぼないし、もしそんな魔法や攻撃を弾いたのなら、対になっている俺のピアスも反応する。
だから、攻撃されていないと思っていた。とはいえ、シーラは無事どころかもてなされていたのだが?? なんで、最高級でもないけど最低品質でもない、まぁちょっとした金持ちなら持っててもおかしくない程度の茶器が、いまここに?? んで、あったかい紅茶が????
とりあえず、見た感じシーラに怪我はなさそうだし、本人もないと言っているので、安心はしたけど。
「さて、これ、どういう状況? よく見れば、シーラが高待遇に見えんだけど。」
「彼女たちに敵意はありません。というより、キース様にして欲しいことがあるそうです。」
「俺に?」
「お話だけでも聞いてあげてくれませんか?」
本気で頼みたい時のシーラは上目遣いでうるうるとした顔をするんだけど、今回はそこまでではないらしい。だけど、
「……俺はシーラの頼みには弱いんだけど?」
好きな女の子に頼まれたとあっては、受けないわけにはいかないんだよなぁ。婚約者としての沽券に関わる。
「ふふ、それは存じております。」
まぁ、シーラもそれはわかっている上で、俺に頼んできたというのだから、俺たちにも利になる可能性があるということだろう。
「ったく、セス、アイ。離してやれ。」
仕方なく、擬態した魔族たちを離すように命じると、2人は離れた。
「シーラの頼みだから、話ぐらいは聞いてやる。それから引き受けるか決める。だが、言葉には気をつけろよ。」
軽く威圧をして脅すと、2人は怯えながらも頷き、その場に正座をした。とりあえず、あちらに敵意はないということだ。威圧を解くと、2人がほっとしたように肩の力を抜いた。
「わたくしは悪魔族のシェファーリエ、こっちが吸血鬼族のシェリュニアですわ。種族は違いますが、悪魔族の両親に引き取られた姉妹ですの。」
2人が擬態を解くとシェファーリエには羽とツノが、シェリュニアには牙が生えた。情報通り、種族特有の見た目をしてるな。
「ふーん。それで?」
「私たちには同じく両親に引き取られた弟がいる。だけど、ある計画に私たち姉妹を使うため、弟と弟の婚約者が人質に取られた。」
なるほどな。自分たちじゃ無理だから俺に助けろって話か。
「その弟たちを助けろって?」
「わたくしたちは戦闘向きではありませんので、助けることはできません。」
2人を鑑定してみた。
名前:シェファーリエ
年齢:350歳
種族:悪魔
階級:子爵三位
二つ名:解析者
レベル:50
HP 500/500
MP 650/650
能力値:筋力300 敏捷450 守備250 器用さ500 幸運値300 魅力160
適正魔法属性:火、水、風、土、闇
スキル: 火魔法(中級)、水魔法(中級)、風魔法(中級)、土魔法(中級)、闇魔法(中級)
並列思考(中級)、隠密(上級)、道具製作(上級)、魔法解析(上級)、鑑定(上級)、擬態(上級)
剣術(上級)、拳術(中級)、鎌術(中級)
耐性:眠り耐性(中級)、麻痺耐性(中級)、精神攻撃耐性(下級)、物理攻撃耐性(下級)
称号:家族思い、人間好き、魔族嫌い
その他:
名前:シェリュニア
年齢:350歳
種族:吸血鬼
階級:子爵二位
二つ名:毒使い
レベル:51
HP 550/550
MP 620/620
能力値:筋力320 敏捷400 守備300 器用さ498 幸運値300 魅力150
適正魔法属性:火、水、風、土、転移
スキル: 火魔法(中級)、水魔法(中級)、風魔法(中級)、土魔法(中級)、転移魔法(上級)
隠蔽(上級)、調合(上級)
剣術(中級)、拳術(中級)、鎌術(上級)
耐性:眠り耐性(中級)、麻痺耐性(中級)、呪い耐性(下級)、疲労耐性(下級)、精神攻撃耐性(下級)、物理攻撃耐性(下級)
称号:家族思い、人間好き、魔族嫌い
その他:
なるほど。人間と比べたらダメだけど、魔族の中って考えれば戦闘向きじゃなく、サポート向きだな。主にシェファーリエが魔道具作成をして、シェリュニアが毒の調合。
しかも、気になるのが、2人して家族思いと人間好き、魔族嫌いってところだな。称号になるぐらい、想いが強いんだろう。嘘もついてないし、ひとまず信用はして良さそうだな。
「俺は慈善活動はしない。有益なものじゃないと、動かないぞ。」
「っ、なんでもします! この命でも拷問でも人体実験でもこの体を抱くことでも! 本当になんでもしますわ! 馬車馬のように働かせていただきますし、永遠の忠誠だって誓います! お願いします!」
「シェファーと同じ、です。お願いします。」
2人が、その場で土下座して懇願した。鼻を啜る音も聞こえるから、泣いてるのだろう。それだけ、弟と婚約者が好きで助けたいということか。
「俺に忠誠を誓うとなると、魔族を裏切ることになるぞ? 人間たちに白い目で見られることもある。それでも俺に、人間側につくのか?」
「死ぬことも、モルモットになることも覚悟の上。」
「そのような些事で逃げ出す軽い覚悟で、わたくしたちはこのようなことはしませんわ。」
あー……もうやだ……こいつらアインと似すぎだろ……
なんで、命を捨てる覚悟をした奴は、こういう真っ直ぐな目をするかな……俺、この顔をしたやつのこと嫌いじゃないんだよなぁ……助けたくなる……
「はぁぁぁ………囚われた2人の特徴と居場所、監視人数とそいつらの戦闘力、罠の数や守りの強固さ、知ってるだけ全部吐け。」
この2人がどのくらい使えるかはわからないが、人間よりは頑丈な魔族だし、魔族のことは詳しいだろう。
「で、では!!」
「俺たちだけでやれるなら、その2人を助けてやる。その代わり、お前らは一生俺の部下だからな。」
「「はいっ!!! 喜んでお仕えします!!! あなた様に永遠の忠誠を!!」」
ものすごく喜んでるのはいいが、絶対とは言えない。俺より強いやつとか、長期化する可能性など、ありとあらゆる要因を考えて、無駄だと思ったら協力しない。あくまで、取引だ。慈善活動じゃない。それができる立場じゃないのだから。
「いいか? できないと思ったら取引は即破棄だ。」
「大丈夫ですわ。あなた様なら絶対にできます。」
「多分、あなたにとっては雑魚だと思う、ます。一番上が伯爵一位だし。」
一番上が伯爵一位なら簡単か。油断して死ぬことになったらダサいからしないけどさ。
「いいんですか〜? キース様。」
「また陛下に呆れられるぞ。」
それ、考えてなかったなぁ……父上の遠い目……想像できるなぁ……王宮は保護場所じゃないとか言われそう……言われたことあるし……
「まぁ、それは後でにしましょう。今は弟さんたちのことですね。なんか特徴とかないんすか?」
「弟は、ドワーフで、「ドワーフ?!」」
思わず言葉を遮ってしまった。
俺はこの数年ずっと、ドワーフを探していた。正確には、竜王族の牙を加工できる凄腕の武器鍛治職人なんだが、それほどの腕前になると、ドワーフしかいない。だが、ドワーフの中での凄腕ともなると、そう簡単には見つからない。ドワーフの国がある東の大陸にでも行ったほうが見つかる。でも、俺は長期間国を空けられないから、半ば諦めていたんだが……
「へ?! あ、はい。ドワーフですの。結構器用で、わたくしたちの武器も作ってくれたんですわ。」
武器を作った?!
「え、ちょ、見せてくれないか??」
遠目からでもわかる武器の良さなのだ。近くで見たらどう見えるのか、気にならない男はいない。
「キース様、目が爛々としてますわ。」
「あ、あの、顔が近いのですが……」
シェファーリエの頬が少し赤く染まり、顔を逸らした。そして、シーラの呆れた視線を受けて、顔を近づけすぎたことに気づいた。
「おっと、失礼。で、見せてくれないか??」
俺が目を輝かせながら、頼むと2人が各々の武器である、ロングソードと鎌を取り出して見せてくれた。かなりの業物だとわかる。
「試しに振りますか?」
シェファーリエからの思わぬ提案に、俺は面食らった。大切な弟から貰った武器を、今日出会ったばかりの人間に渡すとは思わなかったからだ。だからこそ、俺は貸してくれとは言わなかった。
「いいのか?」
「大切なものですから、壊さないでくださいましたら。」
「流石にそんなことする外道じゃねぇわ。じゃお言葉に甘えて、ちょっと貸してくれ。」
いやぁ、貸してもいいっていうなら借りるよな! ここで遠慮するほど、俺は人間できてない。武器を受け取って、柄を握ってみた。他人が長年使ってるものだし、しっくりは来ないが、少し刃に指を添えてみた。普通ならバカなことをするなと怒鳴られるし、怒鳴られはしなくても焦って止めに入るところだ。実際、シェファーリエが焦ったように動いているけど、俺は視線一つでとどめた。シェファーリエとシェリュニアが戸惑いながらも待機をするのをみて、俺はもう一度武器をみた。すっと、指を走らせると、ほんの少しだけ指が切れた。
「おぉ! 切れた! セス見てみろ! 俺の指切れたぞ!」
「怪我したのにはしゃぐな……」
紙で指を切った程度の浅い傷。だけど、傷は傷だ。俺の、半神の肌を切れたのだ。物理攻撃耐性持ちの俺に! これがどれだけすごいことか!
鑑定もしてみるけど強度はAランクだから、魔力を注ぎ込んだらどうなるだろうか。
「なぁ、魔力流していい?」
「え? えぇ、かまいませんわ。」
ご許可もいただいたことで、ちょっと魔力を流してみますか。壊さないよう慎重に、少しずつ魔力を流していく。流す量を増やしていくが、一向に限界を迎える気配がない。まぁ、悪魔族が使っていたなら人間の扱うものよりは頑丈だろうと思い直して、また増やす。40%ぐらい増やしたところで嫌な予感がしたから流すのをやめて、異空間収納からまぁまぁな耐久力がある魔道具を取り出し、それを切り刻んだ。一切の刃こぼれなく、粉々に切り刻めた。
「げっ、キース様の魔道具が木っ端微塵じゃないっすか! どんだけ魔力流したんすか?」
「んー、4割ぐらい?」
「あれで半分以下なんですの??」
魔道具の強度はわからなくとも、見ているだけで威力が高いのはわかったのだろう。2人が引いたような目で俺を見ていた。
「キース様たちは半神ですから、あり得なくはありませんわ。」
シーラが俺たちの正体を告げると2人は目を剥いた。
「「で、半神?!」」
「それは知らなかったんだな。」
「人間界のトップには立てそうだとは思いましたけど、まさか半神だとは思いませんわ……ただでさえ伝説の存在ですし……」
まぁ、それについては同意する。俺もこの時代初の半神だったらしいし。伝説化しても無理はない。
「まぁ、そういうことだから、弟たちの救出は任せろよ。」
「手のひら返しはや。」
「絶対武器に目が眩んでますよ。」
「うるせーぞお前ら。」
仕方ないだろ。半神の指を傷つけられるほどの武器を作れる職人なんだぞ。ずっと探していた竜王族の牙を加工できるやつかもしれないんだからさ。期待に胸を躍らせて何が悪い。
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