結界の外側 〜side:アイザリード〜
キースが、魔族と戦闘を開始した直後の結界の外では……
俺が叫び声を上げた。
「ってあぁぁー!!! セスタ様!! 今の見た?! キース様ガン無視しましたよ!!」
「見てた見てた。だから、声のトーンを落とせ。うるさい。」
セスタ様に文句を言われた。俺の声が響いて何があったか知らない学生たちが俺たちの周りに集まり始めたから、落とすけどさ。
「だってぇーー」
「あの人の知識欲を知ってるなら、止められないってわかってただろ?」
「わかってましたけどー……」
「ま、大人しく待っておけばいいだろ。」
本来なら俺たちがあの人を守らないといけないし、今も俺たちが対処しなきゃいけないはずなんだが……あの人の知りたいという欲求に抗うのは非効率的だ。それに、鑑定スキルを使えるあの人が1人で行ったんだから、俺たちが手を出すと、あとでぐちぐち文句を言われるのは目に見えている。そんなのめんどくさい。それをわかっているのか、俺もセスタ様も、何も言わないことにした。
「お兄様、中ですごい魔力が渦巻いているのですけれど……」
俺の隣に来たあの人の婚約者であるプリシラお嬢様が心配そうに中の様子を伺っていた。それにセスタ様が答えた。
「大丈夫だ。あの人に教わった索敵魔法で確認はしているが、キースは余裕そうだ。むしろ楽しそうにしている。」
俺もセスタ様に同意見だ。あの人が結界を張った瞬間から索敵魔法を発動してる。セスタ様も同じだったらしい。
俺は半神になって、あの人のできることが出来るようになった。その一つが索敵魔法だ。魔力の反射である程度の感情がわかるようになる。何を言ってるのかわからなかったけど、出来るようになって納得した。あの人の魔力制御力とその量、そして魔力受容の感度に。本来人間でも、索敵魔法より精度は格段に落ちるものの、魔力を微力に感じることはできる。だから、索敵魔法を使わずとも、近くで魔法が行使されれば少しなら感じ取れる。
だけど、あの人は一般人よりも魔力を感知できる体質みたいだった。半神になる前からできていたのだから、おそらくそうだろう。シリアスにも聞いたが、それはキースが規格外だからじゃない? と言われた。転生者特有の体質とかスキルというわけではない。
よく普通に生活できていたものだ。普通なら人の感情の機微だけで変化する魔力に酔ってまともに人間と交流できなかったはず。それこそ、閉じこもったり。
それをしなかったのは、無意識のうちに自らの魔力を使って自身を囲い、他人の魔力から守っていたからだろう。本人は今だに気づいていないようだけど、俺は半神になって気づいた。多分、他の半神に至った奴らも気づいてる。あの人の規格外さには舌を巻く思いだけど、同時に憧れもするのだから、あの人には困ったものだ。でも、前よりあの人の感情がわかって嬉しくも思っている。
「それなら良いのですけれど。私も、早くキース様と同じところに行きたいです。」
「今度の週末、ダンジョン行くか? キースも誘って。最近はフェルとミシェルばかり構っていたのだし、少しぐらいはいいだろう。な?」
お嬢様にもこの感覚を味わってもらいたいのは、セスタ様も俺も同じだ。毎回お嬢様から嫉妬されるのも、ちょっと罪悪感がある。早くレベルを上げられるように協力は惜しまない。そう思っていたのかセスタ様が提案しているとお嬢様は目を輝かせた。
「キース様のご迷惑にならなければ、ぜひ。」
今だにあの人のことをわかっていないな。あの人が溺愛しているお嬢様を放って仕事をするとは思えない。むしろ、しつこいぐらい会いに行くために、仕事を超速で終わらせる男だ。そして、婚約者だと発表する以前から男に対して牽制する思いの強さ。あの人、気づいてるかな。最近、お嬢様と会う時、絶対に2人きりにさせること。影とか俺を伴っていて本当の2人きりになるのは避けていたのに、今ではセスタ様や宰相様からやめても良いぞ、とか言われてるもん。あの人がお嬢様を襲わないからっていう信頼もあるけど、もし襲って、子供ができてしまっても構わないとさえ思っているんだろうな。ま、あの人に限ってそんなことあり得ないだろうけど。もし、仮にしてしまってもって話だ。
「お前のことを迷惑だなんて、キースは思わないよ。むしろほったらかしてごめんとか言い始めるぞ。」
「ふふ。たしかに、言いそうです。」
びっくりするぐらい、あの人はお嬢様に会いに行く時間を作る。ダンジョンでも、フェルとミシェルにかかりきりになっても、お嬢様から絶対に半径5メートル以内から離れないほど。2人を指導しつつもお嬢様の手を握っているときもある。それが無意識なんだから、あの人のお嬢様限定女ったらしぶり&俺が守るって感じがすごいんだよな。羨ましい限りだよ。俺は両思いにすらなれないのにさ。
「あら? 騒がしいと思いましたら、アイたちではありませんの。どうかしまして?」
学園の校舎の方から来て、俺に気安く話しかけてきたのは、同じクラスのミシェル・ワーグナーだ。あの人と同じ天を見たものの1人で、記憶を取り戻す前の彼女と俺が決闘なんてものをした後、突如として前世の記憶を取り戻したメトス公国のワーグナー侯爵家長女。今こんなふうにすましてるが、すっかり俺にいじられキャラとして定着している。そして、俺が思いを寄せる相手でもある。身分なんか違うからやめておけば良いのにさー。
「その中でキースと魔族が戦ってる。」
セスタ様が指で結界を指差すと、ミシェルが視線を追って結界を見て、口をあんぐりと開けた。令嬢にあるまじき行為だぞ。まぁ可愛いけど。
「な、な、なんですかこれは!! いえ、これというより、この中どうなってますの?!」
「魔族がいるって言っただろー? ミシェルちゃんは本当に驚くと人の話聞かなくなるよね?」
ニヤニヤといつも通りからかってやると、ミシェルは顔を真っ赤にして俺に噛みついてきた。
「うるさいですわよ、アイ!! これが落ち着いていられますか!! というか、グラキエスは何をしてますの?! あんた王太子だろ!!!」
貴族の仮面が剥がれてきてんなぁ……俺たちがいないとマシなんだけど……つまり、俺らのせい! ちょっと嬉しいとか、拗らせてる自覚はある。でも、貴族の仮面が剥がれたミシェルは楽しそうで、心の底から笑ってると思うし、その顔が可愛いから、今の心地よい関係のままでいたい。無理だろうけど。俺はどこまで行っても影の一族、平民であり、ミシェルはメトス公国の侯爵家の長女だ。ミシェルはいつか国に帰って結婚するだろう。いつまでも、なんて無理だ。だから、せめて、その時までお前のそばに居させてくれと願うだけ。願うだけは許せよ。ちゃんと諦めるから。
なんて、こんなこと考えてるとは微塵も思ってない隣の女に、正確な殿下の立場を伝えてみた。
「次期だけどな。」
「次期も何も王太子まで秒読みではないですか!!」
「それはそうだけどな。」
「あなたたちも何を呑気にしてますの?! 魔族と王太子を2人っきりなんて!!!」
「いや、どうせ無事にぶん殴って帰ってくるよ。」
「無事にぶん殴って帰ってくるって、すんごいパワーワードですわね!! ほんとっ! あの人はバケモノですか!!」
お前も着実にその仲間入りしてるぞ、とは言わないでおこう。どうせ否定するし。
「あ、そろそろ終わりそうだぜ?」
キース様からつまんなそうな感情が出てきていた。魔族がキース様に迫り、蹴られたせいで宙を舞った。ドサっと落ちたそれを強化した闇の鎖で巻いて拘束していた。そして、結界を解いて出てきたのは、つまらなさそうにしてるキース様と、地面に伸びてる拘束された魔族だった。
「あーあ、弱すぎて話にならなかった。」
「いつから戦闘狂になったんすか。」
「アイには言われたくねぇな。」
それはそうだな。俺もなんだかんだ戦闘が好きだし。軽口を言い合っていると、ミシェルに呆れられていた気配を感じたが、気にしないことにした。そのあとは、アストリー先生に引き渡して騎士団へ渡される予定だ。念のため俺たちもあの魔族の監視をするために着いていくけど。どうやら
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