魔神勢力
「さて、尋問を始めようか。」
壁に固定された枷に両手両足を拘束された魔族、バートに対してニコッと笑った。それを見てバートは鼻で笑った。
「ふん! 誰が下等な種族の人間に口を割るものか!!」
よくもまぁ、囚われの身でそんな口が叩けたものだなー。拷問なんかするとめんどくさいから、優しくしてやろうと思ったのに。俺は、セスとアイ以外の人払いを済ませてから、常時発動している
「な、え、あ、??」
「大丈夫だよ。法則操作というスキルで、君はまだ生かしてあるから。でも、痛みはあると思うけどね。」
俺の言葉で、自分がどのようなことになったのかを理解すると同時に叫び声を上げた。汚い叫び声に、こちらは不快極まりないんだけど。
「き、きき、きさまぁ、、私にっ、屈辱を与えたこと、後悔させ、」
言い終わる前にバートの頭を踏みにじってやる。地面と俺の足からかかる圧力に痛みを感じるのか、下から呻き声を上げる。
「るっせぇよ……テメェのことなんかどうでもいい。まずは、シーラを口説いていたことで蹴り殺される覚悟はできてんだろうな。」
「誰が、あんな小娘なんか、」
その後に続くはずだった言葉は、異空間収納から取り出した短剣で、鼻先ギリギリを狙って地面に突き刺したことで止めた。
「シーラを侮辱する言葉は死を意味する。それを踏まえた上で、もう一度言ってみろ。」
「っぐ、なんでも、ありません。」
「殊勝な回答だな。じゃあ、最初の質問。お前は魔神アクゼスターから生み出された種族だよな。他に何がいる? ついでに、各種族の特徴と固有能力だったりスキルだったり。知ってるやつ全部吐け。」
一応、精霊神兼精霊王のイグニスに色々聞いたけど、あいつらは神話の時代のことしか知らないからな。最新の情報は魔族側から聞くのが1番だよな。
「種族は……」
「ってことで、魔神勢力の種族は、吸血鬼と悪魔、そして深鬼の三種族だ。」
現在、尋問を終えたあと、俺たちはバートから得た情報をまとめて父上とセスの父、宰相ゴルドールに報告をした。難しい顔をした二人が、すぐに関係各所の責任者を集められるだけ集めて会議を開いた。
あ、今は法則操作のスキルを使って体をバラバラにした後、拘束具でまとめてガチガチにしている。もちろん、生命維持はできるようにしているが、どんな手を隠しているかわからないから、念には念を入れた。慎重にならなかったことで、見張りをしている騎士を無駄に犠牲にするなんて馬鹿なこと、したくないしな。二人の騎士を檻の前に見張りとして配置し、地下牢の入り口に二人、地下牢に続く長い階段を登った先にも二人配置した。いつもは、檻の前に配置はしないけど、魔族だから一応な。二人には特別手当を渡す予定だ。魔族という人外がどんな手を使うかわからないし、なんの対策も無しに1番最初に被害に遭うのはこの二人だからだ。あと、こうでもしないと、モチベあがんないしね。って、これは別にいいか。
「吸血鬼と悪魔は両方とも有名だから特徴は一般的に伝えられている通り、吸血鬼は牙が鋭く、人間などの生き血が主食。悪魔はゆるくとぐろを巻いたようなツノと羽があり、肌色は紫かそれに近くなっているが、擬態できる。吸血鬼も牙以外は人間に近いから、外見で見分けるのは困難だろう。」
俺みたいな特級か上級の鑑定スキル持ち、鑑定眼、または真実を見抜く系統のスキルでも持ってないと困難だろうな。と言っても、人間族だと中級はともかく、上級鑑定スキル持ちは数が少ない。超大国であるアイスリアでも俺ら半神以外となると、今の所セフィのみだ。全国民のスキルなんて把握してないから、他にもいる可能性はあるが、いたら多分噂になってるはずだ。
「グラキエス殿下、深鬼、というのは?」
宰相ゴルドールが、全員が疑問に思っていることを代表して口に出した。質問があればすぐに教えろって言ってあるし特に問題はない。あとでにしようとして忘れられてもお互いに困るしな。
「吸血鬼の進化したやつらしい。生き血がなくとも生きることができるそうだ。深鬼によっては人の生活に馴染んでいるとかで、諜報員になりやすいと魔族側で噂されてる。」
「噂、ですか? 曖昧ですね。」
「吸血鬼以上に強いから、もし噂が本当だったとして、そんな優秀なやつらに下っ端が会えるわけないと言っていた。」
本当に深鬼が諜報員をしていたと仮定する。アイスリア王国の諜報員、影は顔が割れるのに抵抗があるから、魔族側も同じだとして、その存在を隠すのも理解できる。
「なるほど」
「殿下、よろしいですか?」
その時、王国騎士団団長のイスタルト・ノーマンだ。
「どうした? イスタルト。」
「副団長から、
「いい質問だ。鬼族の特徴は、人間族に1本か2本のまっすぐなツノが額から生えていること。固有スキルは自身の体を鋼鉄化する身体硬化。鬼によっては触れた対象を硬化されることもできる。性格は、戦いが好きな戦闘種族。んー、騎士団大隊長ドルマーレ・オースターが何人もいると思っていいと思う。」
精霊王イグニスが出したわかりやすい例えを俺も出すと一部の人が「げっ」て顔をしていた。王国騎士団大隊長ドルマーレ・オースターは、とんでもない戦闘狂だ。強いやつがいれば一騎打ちを申し込み、逃げたら受けてくれるまで追いかけ回すため、その被害にあった奴が王宮に何人もいる。ちなみに、俺やセスたちも追い回された経験がある。まぁ、仕事はちゃんとやる真面目(?)なやつだから、まだマシなんだけど……
「んで、深鬼はあくまで魔族の中での噂なんだけど、吸血鬼から進化したからか見た目は同じ。生きるのには必要ないけど血を吸えば吸うほどステータスが上昇するとか、血を自由自在に操れるとか、血さえ飲めば心臓を貫かれてもすぐに治せるとか、不死身だとか色々憶測が飛び交ってるらしい。」
「噂はだいたいは尾鰭がついて回るものですが、どれか一つでも厄介ですね。」
俺が毒を吸収すればするほどステータスが上昇するのと同じなら普通にめんどくさいし、心臓貫かれてもって、急所どこだよ。頭か?? 首と胴体を離す? 殺し方が限られてるのはめんどくさいし、不死身だった場合、とにかくめんどい。あ、全部めんどくさいじゃん。そうじゃないな。半神視点じゃないなら、厄介ってやつだ。封印するしか方法ないかもな。
「数が少ないとはいえ、女神勢力に対抗できただけはありますね……」
王国魔法師団 師団長パズラン・ドームが遠い目をしてつぶやいた。まぁ、それには同意するけど。
「それは言っても詮無いことだろう。対策を考えるしかあるまい。キース、自ら尋問を申し出たのだ。何か掴めたのだろう?」
父上が不適な笑みを浮かべて俺を見た。俺がこの会議にくる前にしていたことはバレバレか。ま、隠してなかったけどね。俺もニヤリと口角を上げて返した。
「もちろん。
海紅石とは、アイスリア王国近海で採取できる鉱石のことで、石にもよるが、内包された魔力は魔物から取れる魔石の約20倍。
魔神アクゼスターは古くなった自身の封印の綻びを、魔力によって無理やりこじ開けていて、その封印を手っ取り早く解除するために、魔力が豊富に含まれている海紅石に目をつけたというわけだ。その海紅石をありったけ欲しいが、海紅石のありかや採掘方法がわからないため、アイスリア王国から情報を盗む、もしくは国を乗っ取ろうとしていたらしい。その目的を達成するため、手段の一つとして利用しやすかったバカ王子と入れ替わったそうだ。ただ、捕らえた悪魔は下っ端で、情報集めのために来たので、他の計画やこれからの計画は詳しくは知らないらしい。
「これからも狙われるだろうから、その対策としてシリアスと魔道具を作成中。今はまだ設計図の段階だけど、3日、遅くとも一週間以内に試作品1号ができると思う。」
俺の言葉に周囲の人間が「おぉ!」と感嘆の声を上げた。一般的に、新しい魔道具を作成する場合、どんなに早くても二週間、普通なら1カ月以上かかる。新しい魔法陣を組むならもっと長くなる。試行錯誤しまくってやっと試作品ができる。そこから調整して作り直して、なんてしてれば完成品はもっと長い時間かかる。でも、俺とシリアスは半神だから、基本的に作業のスピードが常人より数倍も早いし、俺には並列思考スキルがあるから、ある程度工程の時間短縮ができるのだ。
「まだ何もできてないから喜ぶのは早いけどね。」
「ご謙遜を。殿下が一週間といえば必ず一週間以内に、完成品に近いものを作り上げるじゃないですか。数年前、徹夜で作った魔道具が、寝ずに作り上げられた事実を知ったセバスに追い回されていたのを覚えていますよ。」
「その話今持ち出さないでくれないかな?!」
まさか、黒歴史をここで言われるとは思わなくて声を荒げると、そこかしこから笑われた。まじでやめてほしい。知ってる人もいるけどさー、あれはまじでセバスが怖かったんだから仕方ないだろ。そのあとのシーラの方が怖かったとは予想外だったけども。
みんなの笑い声が収まり始めてきたタイミングで、父上がわざとらしい咳払いをした。全員の視線が集まったことで口を開いた。
「キース、魔道具については試作品が出来次第、報告してくれ。」
「わかった。」
「キースたちの作る魔道具が出来次第、再度会議を開く。諸君らはすぐに集まれるよう、重要または可及の仕事以外は王宮にて待機。その間、キースたちがまとめた資料をよく読み、考えをまとめてきてくれ。次回の会議で本格的な対策を練ろう。資料の内容についてはまだ極秘事項とする。皆、頼んだぞ。」
「「陛下の御心のままに!」」
「うむ。では、これにて解散とする。」
父上の指示に全員が返事をすると、扉の近くにいる人から順に部屋を出て行った。俺も部屋から出て、王宮にある俺専用の研究室に向かった。魔道具を作ったりしていると部屋が魔道具で手狭になるし、俺の部屋に出入りする侍女が誤って触れては危険だからという理由で余ってる部屋を俺専用の部屋にした。だいたいは、魔道具作ったり保管したりする場所だ。鍵は俺しか持ってないし、出入りできるのは俺が許可した一部の人間だけだ。
今日はシリアス、俺らの手伝いとしてセスとアイもそこにいる。これからみんなで仲良く新作魔道具の作成としゃれこむのだ。名付けて「地獄の魔道具作り」(アイザリード考案)である。この名前になったのは、たまに徹夜しまくるから、そのせいだろうな。
3日後……
「でっきたぁー!!!」
「いぇー……い……」
「「おー……」」
試行錯誤の末、試作品第一号が完成した。と言っても、精度や使用回数など、どのくらいなのかはまだ試してないんだけど。
完成した喜びに万歳をして叫ぶと、弱々しい声が返ってきた。後ろを振り返ると、いつのまにか部屋の床に屍が三体転がっていた。屍じゃなくてシリアスとセスとアイなんだけど。アイなんか、血文字で三徹とか書いてる。新手のダイイングメッセージだな。
「お前ら、大丈夫か?」
「「「死ぬ……」」」
食い気味で3人の声が重なった。それだけ疲れているということなんだろうが……
「返事できてるから大丈夫だな。」
「三徹して、なんでそんなに元気なの……?」
シリアスは数時間前までは深夜テンションでハイになってたのに、今は朝だから力尽きたって感じか。反対に俺は、見た目は元気ピンピン丸だから、それが不思議だったんだろう。
「俺は疲労耐性あるし?」
疲労耐性があるから、体はそこまで疲れてないけど、精神的にきてる気はする。
「俺らもあるんだけどねぇ……やっぱ、キースは俺以上に規格外だなぁ……」
「いやいや、流石に俺も疲れたんだけど?」
同じ転生者なのに、なんでここまで差がでるのかはわからないが、シリアスもシリアスで別のところでチートだしあんまり変わらないだろ。一応、セスもアイも規格外なんだがな……
「疲れただけで終わってる時点で規格外なんすよね……」
「えぇ? あ、俺には精神攻撃耐性があるからか?」
「あぁ、それもありそう。」
「それ、関係あるのか? まぁいいか。それじゃ、父上や陛下にこの書類と魔道具を提出してくる。おそらく午後から会議だから、朝食を食べて寝よう。」
「「「りょーかい(です)。」」」
セスがフラフラっと、研究室から出て行った。向かう先は、国王の執務室だろう。手っ取り早く報告できるしな……
しばらくしてセスが帰ってくると、俺たちは全員で、食堂で朝食を軽くつまんで自室もしくは客室で数時間の睡眠をとった。俺は自室だけど、ベッドは使わずソファで寝た。数時間で起きない自信があるからである……
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