魔族

  

 

 

 問い:とある国の王太子が、人目も憚らず婚約者であるシーラを口説いていた時の、俺の心情を答えよ。

 

 ※尚、とある国の王太子が、キースが捕まえたいと数年前から思っていた魔族の擬態した姿だったことも踏まえよ。

 

 

 

 

 

 

 解:おいおいおいおい!!!

 なにしてんだ、あいつ?!

 俺のシーラを口説いてるとか、ぶち殺すぞ?

 いや、その前にお前魔族だろ?! 隠蔽と改竄スキル持ってんじゃん!!

 なんでステータスで種族を人間って改竄してないの?!

 

 

 

 

 

 である。

 

 

 

 

 

 目の前で繰り広げられているアホみたいな光景に開いた口が閉じれなくなった。とんでもないアホ魔族が紛れ込んだものだな、と。

 

 ツッコミどころ満載すぎて逆に思考停止した俺は悪くない。

 

「お願い、誰かセフィを呼んできて……」

 

「一応聞くけど、理由は?」 

 

「あの王太子って、前は人間だったよね? それを知ってるのはセフィだけでしょ?」

 

 鑑定スキル持ちはこの国では俺とセフィとシリアスだけ。あいつが前回ここに来たのは四年ぐらい前。その時は人間だったはずなんだけど、俺の記憶違いかを確かめたくてセフィがいて欲しかった。

 

「おそらくな。だが、今セフィは遠征中で王都にいないぞ?」

 

「そうだったぁぁぁあ!!!!! セフィ、早く戻ってきてぇぇ!!!」

 

 俺の絶叫に、話を聞いていなかった周囲の生徒たちが驚いて見られたけど気にしていられない。シーラも俺の存在には気づいているけど助けなくて良いって首を振られてしまったし……動けなくてもどかしいのを叫んで消化したかった。

 

「切実だな。」

 

「でもさ、キース。魔族なことに変わりはないんだし、捕まえちゃえば? セフィさんが帰ってきた時に話を聞けば良いんだし。」

 

 シリアスの言う通りだな。さて、助けなくて良いとは言われたが、それがミズトア王国の王太子ならの話。魔族は別だよね?

 効果範囲と効果対象の設定、この場合は魔族が保有している全てのスキルを……

 

「『レジスト』」 

 

 天海とかいうあるのかすら疑われていた場所に、存在するのかさえもわからないと言われている天使族が生息する。なんて、いう夢物語が、それらを創造した種族神・天神によって実在すると知った去年。天神に加護をもらって手に入れた法則操作のスキルで、魔族のスキルを全て無効化させてもらった。

 

 これは、あらゆる法則を無視して、結果だけを残すことできるスキルだ。例えば、物理法則として、重力があるから人は立っていられるし物も落ちる。だけどこの重力をなくすと人も物も浮く。重力魔法はその重力を増加させたり減少させたりするし、工夫すればあらゆるものを引き寄せることもできる。机の上にあるものをベットまで持っていくいう横や斜めの移動もできるようになるってこと。

 

 これもある意味、魔法で操作してるからある意味法則操作と言えるけど、重力魔法の適性がないと使うのが難しい。これを、法則操作のスキルを使えば簡単にできるようになる。

 

 この二つの違いをあえて挙げるなら、魔法とスキルもあるけど、同じ結果を引き起こすけどその結果に至るまでの過程が違うことだ。重力とはそもそも物体を引きつける力であり、どう足掻いても引き寄せる力とその引き寄せる力を反転させて遠ざける力の二種類しか過程はない。その二つの力の割合をどうにかこうにかしているけどそれは別にどうでも良いな。法則操作は、その過程を全て省略しているため、結果だけを反映させる。

 つまり、重力魔法は『物体を落とす』ために過程が存在しないといけないし、その後に『物体が落ちた』という結果が残るけど、法則操作は『物体が落ちた』という結果だけが残る。

 これを料理でやっちゃうと、どれだけ見た目がグロテスクな品物ができても、味だけは美味しいとか……見た目はめちゃくちゃうまそうなのに、味だけはゲテモノとかね。あ、料理自体を毒に変えることもできるよ? すんごい暗殺向きのスキルだよね!

 

 はい、ふざけるのはやめまーす。と言うわけで、とんでもスキルを手に入れてしまったわけですが、特級まで育てあげると、特殊な瞳に覚醒、つまり目が魔眼に変化(進化)して、原子レベルの緻密な操作ができるようになるんだって。空気から酸素だけを消滅させて人を窒息させたり……ね……

 

 つくづく暗殺向きのスキルだと思ったけど、ツッコむのはやめた。

 

 でね? このトンデモスキルは、スキルで隠蔽・改竄された過程も、全て消滅されられる。

 だから、魔族が隠蔽・改竄したものを無かったことにすることができる。

 

 そのため、

 

「き、きゃあぁぁぁーーーーー!!!!!!」

 

 魔族が隠蔽で隠していたであろう、蝙蝠みたいな羽とトグロを巻いたツノが現れて、それを間近で見ていたシーラとサリナ嬢が悲鳴をあげた。いや、主にサリナ嬢がだけど。

 

「『闇の鎖ダーク・バインド』『×3トリプル』」

 

 魔族に、重ね掛けして強化したダークバインドを発動させて拘束した。

 

「なっ?!」

 

 サリナ嬢の悲鳴を聞き、周囲の生徒がサリナ嬢たちを見たことで、魔族の存在に気づき始めた。そして、魔族を見て動揺が広がった。

 

「あ。やっば。後先考えずにやっちゃった。」

 

「キース……」

 

 ここは学園でちょうど生徒の下校、部活動がある者は部活動に向かう時間だった。今は校舎の入り口にいるため、一番人通りが多い場所とも言える。そんな場所で魔族なんて現れたら、パニックだろう……

 

「まぁいっか。やっちまったもんはしょうがねぇ。」 

 

「切り替え早っ!!」

 

「貴様! 私を拘束するとは何事だ! 無礼であるぞ!!」

 

「お前こそ誰だよ。ミズトア王国の王太子に扮して魔族が入り込んでたなんてな。」

 

「は? 何を言っている! 私は人間であるぞ!」

 

 あれ、スキル解除されたことに気づいてない? とんだバカじゃん。仕方ないから結界魔法と光魔法を使って鏡を作って魔族の姿を映してあげた。

 

「な、なに?! どういうことだ!! 私の隠蔽魔法は完璧だったはず!!」

 

「ステータスも確認してみろよ。」

 

 俺がそう言ってやるとステータスを開いた。そして、改竄されているはずのステータスが元に戻っていたことに気づいたのか、みるみるうちに顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。

 

「貴様、私に何をした?! お前のような矮小な人間風情が失われた魔法、ロスト・マジックを使えるはずはない!」

 

 失われた魔法ロスト・マジックとは、神話の時代に使えていて、今では使うことができない、存在すら忘れ去られた魔法の総称だ。法則操作は魔法じゃないけど、天神が言うには天神以外は、天使と加護を与えた半神しか使うことができないらしい。

 

「んー、微妙に違うけど、まぁ存在すら知られてないからそれでいいか。」

 

 俺、さらっと色々ロスト・マジックを使ってるんだけど、気づくやつあんまりいないんだよね。精霊魔法や、まぁ、俺が気付きにくい物を使ってるからってのもあるけど。

 

「人間ごときが私を舐めるのも良い加減にせよ!! ダークバインドごときで私が拘束されるとでも思ったか!!」

 

 バキンッと音が鳴ったかと思ったら、魔族が闇の鎖を身体強化を使って腕力だけで引きちぎっていた。×3トリプルなんだけど、さすがに無理だったか。まぁでも、魔族の戦闘スタイルを知るいい機会かな。

 

「そうこなくっちゃな。」

 

 俺がワクワクした顔をしていたのだろう。その顔を見て、セスが慌て始めた。

 

「ん? ちょっと待て、キース?」

 

「楽しくなってきた。」

 

 止めたいんだろうけど、俺は止まりたくない。目の前に新しい知識を恵んでくれる奴がいるのに、逃す気も、他人に渡す気もない。やっぱり俺は知識欲の塊らしい。たまに戦闘狂に間違えられるのは心外だけど。

 

「は?! ここで戦う気か?!」

 

 アイさんがとても焦って止めようとした。

 

「結界使うから良いでしょ??」

 

 移動してくれるほど、魔族さんは冷静じゃなさそうだし。

 

「よくねぇっすよ!! ボコる気だろあんた!! グロテスクを衆人環視、特に女に見せるべきじゃない!!」

 

「アイ、お前女性を気遣えたんだな。」

 

 ミシェルには何かとつっかかるけど、グロテスクなものを意外と積極的に見せたりして、いじって楽しんでいるように見えた。アイは気に入ったやつほどいじめるタイプだし。まぁ、気遣うところではしてるけどから、気遣えない鈍感ではないんだけどな。やらないだけで。

 

「失礼っすね!! それぐらいできますよ!!」

 

「はいはい、冗談だよ。ボコるけど、半殺し程度に抑えめておくからさ。」

 

 騎士団や魔法師団連中ならまだしも、こんな学園にいる連中に見せられないようなボコり方はするべきではない。

 

「それなら……いや、それもよくはな、ってあぁー!!!」

 

 アイの言葉を無視して、俺と魔族だけを閉じ込める結界を作ると、アイが叫んだ。ついでに結界はマジックミラーになるようにしたから、魔力感知で動きを感知してないと何をしてるかわからないだろう。一応、声は届くようにしてるけどね?

 

 さて、一応、ステータスを確認してっと。

 

 

 名前:バート

 年齢:280歳

 種族:悪魔

 階級:伯爵三位

 二つ名:血塗れの悪魔

 レベル:98

 HP 700/700

 MP 850/850

 能力値:筋力400 敏捷500 守備300 器用さ200 幸運値250 魅力100

 適正魔法属性:火、風、闇

 スキル: 火魔法(上級)、風魔法(中級)、闇魔法(上級)、隠蔽(上級)、改竄(上級)、隠密(上級)、拳術(上級)、鎌術(上級)

 耐性:眠り耐性(上級)、麻痺耐性(中級)、精神攻撃耐性(下級)、物理攻撃耐性(下級)

 称号:

 その他:

 

 

 

 

 職業欄がなくて階級? ってなんだろ。魔族の中での何かの階級かな。人間の解釈と同じでいいなら、伯爵は真ん中。できればこのアホバートが上位の存在であればいいのに……これ以上強い奴は魔王と魔神だけってなれば意外と楽だからさ。でも、それは無理だろうなぁ……

 

 儚き夢だな。

 

「別れの挨拶は済ませたか?」

 

 今のが別れの挨拶に聞こえたんだとしたら、本物のアホだけど、多分違うんだろうな。意外と冷静になっているし、一対一になって余裕が出たのか?

 

「いやいや、別れって。別に俺は死ぬつもりないけど?」

 

「ふん。下等な人間風情が、仲間と戦わずして、私に勝とうというのか。」

 

「むしろ、お前に負ける方が難しいだろ。」

 

 人間の平均よりは高いステータスではあっても、それ以外に特筆すべき点はなし。確実に格下。これに負けたら半神の名が廃るだろ。

 

「まだほざくか!」

 

「ま、やってみなよ。絶対死なないから。あ、そうだ! 二分間俺は攻撃しないからさ、全力で攻撃してみてくれよ! データ収集は大切だしな!」

 

「おのれぇ! きさまぁ!! その無駄口、二度と叩けぬようにしてくれる!!!」

 

「いいハンデだと思うけどね。」

 

 激昂したバートが、巨大な炎の塊を作り出すと俺に向かって投げた。おーおー、めちゃくちゃでかい。多分直径5メートルぐらい? これを一瞬で作り出せるとはおもってたけど、これ結界張ってなかったら周りの学生が焼かれてたんじゃね?

 

「んな強力な奴をぶっ放すなよな。」

 

 まぁ、それは俺には効かないから、そのまま炎を受けてあげた。ある程度暑いけど、俺にとってはお湯に入ってるぐらい。熱変動耐性特級の効果を試したかったんだけど、これなら全然いける。

 

「んで? これだけ?」

 

 炎が自然と消えるのを待ってから言うと、バートはキョトンとした顔をしてから、目を見開いた。

 

「な、なぜ無傷なのだ!! この私の炎をくらって平然としていられるなど、ありえない!!」

 

「あり得るから生きてるんだけどね?」

 

「くっ、なら、これでも食らえ!」

 

 くらえって、明らかに雑魚敵の言葉じゃん。なんて思いながら見ていると、今度は闇魔法、か? 黒い球体が浮かび出て俺に向かって放たれた。あぁ、これ、ブラックホールみたいなやつね。いろいろなものを吸収してしまうもの。これは流石に受けるだけはまずいなぁ。

 

「『レジスト』」

 

 法則操作でその魔法自体を消し飛ばすと、それはかき消えた。

 

「なっ、いったい何をした!!」

 

「かき消しただけだぜ? このぐらいで狼狽えられると戸惑うじゃん? つか、魔族って、こんなものなの? ちょっと拍子抜け。」

 

「きっさまぁ!」

 

 遠距離が無理だと悟ったのか、距離を詰めてきた。まぁそうくるよね。基本、遠距離ができるやつは近接ができない。人間は寿命が短いから、両方極められるやつは少ないし。その判断は間違ってないよ? 俺だって半神になって寿命は多分伸びたけど20年しか生きてないし。そう判断するのもおかしくない。

 

 俺に向かって拳が振り抜かれて、俺の顔に直撃した。

 

「はっ、やはりな! 大口叩く割には近接は弱い!! 舐めやがっ「なにが?」は?」

 

 全く。舐めるなとか言うくせに、こちらを見下すのはおかしな話だよね。俺は一切よろけてさえいないっていうのに。邪魔だから、顔を離して少し右に体を傾けて魔族の顔を見た。すんごい困惑してる。

 

「君、本当に頭悪いよね。殴られてるのによろけたりしないんだから、効いてるわけないって気づきな?」

 

「な、なぜ、効かない?」

 

「んー、俺、物理攻撃耐性持ってるから?」

 

「なっ、だとしても、私は風魔法も纏わせたのだぞ!!」

 

 あぁ。手の周りで渦巻いてる風のことか。武器に魔法付与するのに似てるなっておもってたんだけど、人間が自分の体に纏わせると腕が吹っ飛ぶんだよな。多分もともとの身体強度の問題だな。籠手を作ってそれに魔法付与をすればいけるだろうけど。お、いい魔道具思いついた。

 

「それは魔法攻撃耐性のせいだな。」

 

「なっ、物理と魔法の両方の耐性を、持つ、だと?! そんな、そんなことはありえない!!」

 

「いや、俺であり得てるんだから、受け入れなよ。」

 

「こっの、化け物め!!!!」

 

 罵倒のバリエーション、少なくない? つか、俺たちからしたら魔族の方が化け物に見えるんだけど

 

「お前ら魔族に言われたくねぇわ。それで? もうネタ切れ?」

 

 まだ攻撃をしてくれないのかと思って待つんだけど、バートはヤケになったのかバカスカと巨大ファイヤーボールだったり、多分ウィンドカッターと同じ性質を持つ魔法を手を纏わせた攻撃を使って俺に右ストレートで殴ったり、右足で蹴ったあげたりと、次々攻撃する。

 その全て、悉く効かないとわかると、魔族の顔にはどんどんと顔に絶望が浮かんだいった。

 

 これ以上見ていても何も出てこなさそうだ。

 

「はぁ。時間切れだな。ちょっと期待外れ。」

 

 俺の言葉を聞いてさらに絶望が深まると、最後の攻撃と言わんばかりに、右拳で顔を狙った。俺はそれが入る前にバートの顎を狙って右足で蹴り上げた。上に吹っ飛んだバートは放物線を描いて地面に落ちて転がった。魔族にも脳はあるはずだから、脳震盪を起こしてるはず。でも、一応拘束として10回分ぐらい重ねがけして強化した闇の鎖を巻きつけて、結界を解除して外にいるセスたちと合流した。

 

 

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