ゲームの始まり


 

 いよいよ乙女ゲーム、『恋する学園ラブストーリー〜身分違いの恋〜』略して『恋ラブ』が始まろうとしていた。

 俺が原作とは違う流れを作りまくったせいで、イレギュラーな存在が多くなっているのだが、どうなることやら……

 

 ここで一度、恋ラブをおさらいするとしようか。

 あらすじとしては、男爵家に引き取られた元平民のヒロインは、学園で攻略対象たちに出会い、身分違いの恋に苦悩しながら様々な試練を乗り越えて、相手と結ばれるまでの話になっている。

 攻略対象は、

 アイスリア王国 第二王子 王位継承権一位 ウェスペル・サリマ・アイスリア

 その側近兼次期宰相 セスタ・ガーディーアン

 マゼンティア大商会次期商会長 シリアス・マゼンティア

 次期外交大臣 ジャスパー・ドーレライ

 次期王国魔法師団団長 ベスタ・ドーム

 次期王国騎士団団長 リチャード・ノーマン

 隠しキャラとして、アイスリア王国の同盟国、エンドリス王国王太子 アスタリスク・ミスタ・エンドリス

 

 この七人だ。

 

 最終的なエンドはいくつかあり、結婚ルートと友情ルート、死亡(ヒロインか攻略対象のどっちかまたは両方)ルートor嫌われるルートがあるわけだ。

 キャラによってバッドエンドがメリーバッドエンドになったりと、内容は少しずつ変わるが大まかにはこの三つ。

 

 シリアスと隠しキャラのアスタリスク以外の全ルートだと、彼らと彼らの家の事情を知った上で、色々と攻略対象の心をほぐしていく。悪役令嬢にいじめられてしまうがそれすらも超えて、2人の絆を育んでいく。

 最終的には王国を襲う魔物の大暴走、スタンピードが起きて、それの対処に学園の生徒たちが向かうことになってしまった。その時、逃げ遅れた子供が魔物に襲われていて、攻略対象が庇うのだが、致命傷を負ってしまった。それを目の前で見ていたヒロインが死んじゃいやだと叫び、聖女としての力が覚醒する。そして、国を救った英雄である尊い聖女は、王国を救った報奨として、愛する人と一緒になることを願った。もちろん、国民も貴族も、色々な人が祝福して、願いが叶い、将来は子供を授かり幸せになりました。となる。

 シリアスルートが一番簡単なようでいて、意外と落とし穴がある。シリアスと絆を育むのはもちろん、座学と魔法の勉強を頑張らないといけない。他のキャラで頑張らなくてもよかった勉強をしないといけない。つまり、攻略途中にあるミニゲーム(小テスト)を高得点で収めないとならない。シリアスルートはこれが一番めんどくさい。あと、引っ掛け問題も出てくる。選択肢での好感度は上げやすいけど、ミニゲームが難しくて失敗すると好感度が下がるという大変楽しい(?)ルートである。一応、スタンピードは起きるが聖女として覚醒せず、大商会がサポートに回っていたのでそれの手伝いをすることになる。騎士が倒しそこねた魔物が大商会のテントを襲うが、ヒロインが結界魔法を習得していたことで、テントは守られて、商会長に認められて結婚する。途中で出てくるシリアスの従妹がちょっと意地悪なんだけど、最終的には仲良くなるし、一番胸糞になることが少ないルートでもある。

 隠しルートのアスタリスクは、全員の攻略が終わった後に解放されて、最初はシリアスルートと同じ選択肢をしていく。教室で居残り勉強している時はシリアスと出会うのだが、アスタリスクの場合は図書館で勉強している時という違いがある。出会った2人は、一緒に勉強して絆を育み、アスタリスクは彼女の魔法の腕を見込んで自国エンドリス王国へ招待する。王国ではドラゴンが住み着いてしまい、色々と問題が起こったため協力を取り付けた。そこで出会ったアスタリスクの我儘な義妹のいじめに耐えながらドラゴンへの対抗策を考えて、討伐を果たす。そして、ドラゴンとの戦闘中に開花した聖女としての力と、義妹の犯罪スレスレないじめを追及したあとに、王妃の座に、って感じだ。

 

 なんか色々と悪役令嬢にいじめられるのがスパイス要素としてあるけど、そこはご都合主義だな。考えるだけ無駄である。

 

 んで、この話のほとんどで肝となるのが、最後のスタンピード、なのだが……

 

 

 

 ぶっちゃけるとね?

 起こりません!!

 

 何が?

 

 もちろん、スタンピードが。

 

 は? 頭沸いたかって思っただろ? 俺も正直なところ、信じられない気持ちなんだ。

 

 だけどさ、俺のせいでもあるっていうか??

 

 

 みなさん覚えてます? 数年前に、竜王族が呪われてアイスリア王国にきちゃったってやつ。それを俺がどうにか呪いを解いたら友達になっちゃったやつ。

 

 そのー、ゲームではね? ……スリアルが王都で大暴れする前に、アイスリア王国の騎士団や魔法師団がスリアルを討伐しちゃって、それに怒り狂ったユグドラたちが王都にきちゃってスタンピードが起っちゃったのね?

 

 あは、あははは……

 

 お分かりいただけただろうか。

 

 俺がスタンピードの原因を知らずのうちに阻止しちゃったのよ!!

 だから、俺のせいでもあるっていうか?

 

 というか、そもそもの前提として、スリアルが来たのは去年の話のはずなんだけど、それが早まった理由が、チートな俺のせいっていうか……

 

 うん、はっきりいうわ。スタンピードの原因は、スリアルが呪われたせいなんだけど、そのスリアルを呪った根本的な原因が、俺が優秀すぎることがわかっちゃったせいなんだよね。俺が冒険者としてメキメキと力をつけていったことで、着々とアイスリア王国の次世代が育っていっちゃってると気づいた。アイスリア王国の持つ潜水技術と海紅石がほしいアーバン帝国からしたら、盤石な王国にますます隙が無くなるであろう次世代を相手にはしたくはない、と勝手な憶測をして焦ったわけだ。

 

 セス:あながち間違いでもないのが怖いところだけどな。

 

 じゃあ、次世代になる前に、王国を崩そうと思ったわけで、スリアルを操ったわけだ。

 

 ゲームではそのスタンピードで王都に大きな被害が出て、ごちゃごちゃになったところを狙って魔族が潜入し、技術など様々な情報を盗んで魔神復活に繋がっていただろう。

 

 だけど、現実では、俺がそれを阻止してしまった。

 次の策として、フェルリルのリーベルティをさらって、リーベルティたちの親であるリーズロットたちに、王国の重要な港町であるリンジー港街を襲わせたんだろう。あそこが壊滅すれば貿易がほぼ機能しなくなり、輸出入に莫大な損害が出る。王都に被害が出ることよりは、国としての大混乱は起きないだろうが、それでも、少なからず混乱はするし、魔族ならつけ込む隙が出来る。

 

 まぁ? それも俺が阻止しちゃったんだけどね??

 

 

 

 

 と、まぁ、俺を中心とした様々な要因が、乙女ゲームの筋書きを崩壊させまくったことが判明しました。はい。

 

 本筋以外の、攻略対象ごとに話すと、セスとシリアスの種族が半神なことや、ウェスとセスの婚約者が違うことの他に、エンドリス王国王太子の攻略ルートも潰した可能性がある……。

 多分、エンドリス王国に住み着いたドラゴンって、ユグドラたち竜王族では?? と思い至った。ユグドラたちは北のゼンゼー大陸から移住することを考えていて、色々あり俺たちの国に来たけど、乙女ゲームではエンドリス王国にいた気が……知能が高いドラゴンとしか書かれてなかったし、討伐したドラゴンは会話をしていた描写はないけど……時期が被ってる気がするしね。

 んで、実際に聞いてみたら「そこはアイスリア王国と同じぐらい重要な候補の一つであったぞ。」らしいです。

 

 

 ──七人中、四人が原作と相違点有り──

 

 

 あはは……もう、何がなんだか……

 

 原作崩壊しましたねーこれ。(遠い目)

 

 いや、残り三人はかろうじて残ってる、かな?? うん。はい。そんで、できればめんどくさいから、ヒロインはベスタかリチャードを攻略してくれ……ジャスパーは原作通りの婚約者がいるからね……

 

 

 

 

 現実逃避しながら同じ馬車に婚約者のシーラと側近のアイ、俺の妹であるルナが。違う馬車にセスとクリスティーナ嬢が乗っていて、一緒に学園へ向かっているのだが……

 

 早速と言っていいよね? 

 

 目の前でウェスとヒロインが出会う場面に遭遇した。もちろん、ウェスの横にはシーラではなくサリナ嬢がいる。ウェスは俺より早く出たんだけど、まさかここで遭遇するとはね……

 

「あら。ウェスったら、何をしているのかしら。」

 

 ルナは、小さい頃のお転婆が嘘のように完璧な淑女となった(表面だけなので、思考回路はお転婆のそれ)。

 去年、隣国(海を挟んだ西側のウェストリア島)のトリストリア王国の王太子に一目惚れをして婚約者と好いた女性がいないことを聞きだし、猛アタックした。その結果、見事に王太子の心を射止めてみせたルナは王太子の婚約者となった。ゲームでは政略結婚だった気がしたのだが、俺の自重しない性格に影響されたと父上と母上に言われた。(俺は関係ないと思いたいが、多分俺のせい。)王太子の婚約者となったので、アイスリア王国の学園に通った後はトリストリア王国へ輿入れをする予定だ。

 ルナは結構しっかり怖い女性になったはずなのに、意外とブラコンだから、わかりにくい。あ、シーラも好きだからシスコンでもあるけどな。

 

「多分、ぶつかったんだろう。令嬢がバッグを落としている。」 

 

「それに手を貸した、というところでしょうか。」

 

「ウェスったら、迂闊ですわ。婚約者以外の女性の手に触れるなんて……自分の顔面凶器具合を自覚なさいとあれほど言ったのに……」

 

 前までは俺がウェスを叱っていたんだが、今ではルナがウェスを叱ることが多くなり、俺が仲裁するほどだ。まぁこの2人は、喧嘩するほど仲がいいって言葉が当てはまるのだが。

 

「顔面凶器って……」

 

「お兄様もウェスも、ご自分の顔がご令嬢のお心を射止めやすいことをご自覚ください。シーラお姉様もそう思いますよね?」 

 

「えぇ。ルナ様のおっしゃる通りだと思います……お二人は本当にお顔が綺麗ですもの。女性なら誰もが振り向きます。」

 

「自慢のお兄様と弟ですが、こればっかりは本当に厄介ですわ……ほら、ご覧くださいまし。ウェスが手を貸したご令嬢、頬を染めておりますわ。全く……」 

 

 いくら年下とはいえ、女性2人からそう言われると、どうにも俺は弱いし、そうなんだろう。

 ルナは一言物申さないと気が済まないようで、あの三人に近付いていったので、俺とシーラも後ろからついて行った。

 

「ウェス?? あなた、気軽に女性の手を握らないとあれほど言ったはずよ?」

 

「あ、姉上?! と、兄上! なぜここに?!」

 

「なぜって、私とお兄様も学園の生徒だからよ。それより、話をそらそうなんて魂胆に乗る私ではないわ。」

 

 ウェスがギクっとわかりやすく体を跳ねさせた。本当にそう思ってたこととポーカーフェイスが苦手なあたり、我が弟ながら心配だな。まぁ、これでも正式なパーティとかではしっかりするんだけど…… 

 

「あの、姉上? ですが、私の不注意でぶつかってしまったのです。手を貸さないというのは、そのー……」

 

「サリナ様の制服姿に夢中なのはわかるけれど、周囲も見なくては迷惑をかけてしまうのよ?」

 

 うん。婚約者に夢中な点は本当に、俺に似たと思うぞ。だがな? そのサリナ嬢を見て、ヘニャヘニャと締まりのない顔をしているのは、王族としてどうかと思うんだが……

 

「ウェス? あなた、懲りていないのかしら?」

 

「……以後気をつけます。」

 

 ウェスが叱られた子犬のようにシュンっとしていて、それに苦笑を浮かべているサリナ嬢。ルナは反省しなさいなと言って、ぶつかってしまった令嬢(ヒロイン)に向き直った。

 

「申し訳ありませんわ。私の愚弟が不注意でぶつかってしまったようで……怪我はないかしら?」 

 

「……んで……」

 

「え?」

 

「なんで、第一王子が生きてんの?」

 

 ……あー……

 

「あなた、今なんと?」

 

「あ、いえ! お気になさらず! 失礼します!!」

 

 ヒロインは頭を下げた瞬間、脱兎のごとく逃げていった。

 

「あ、お待ちになって! ……行ってしまいましたわ。色々お聞きしたいことができましたのに……」

 

 ルナには俺が転生者だと言った覚えはないんだが、もしかしたら勘づいているのかもしれない。現に今、めちゃくちゃ黒い笑みが見えたからな。

 

「うふふ……」

 

 すんげー怖い……

 

「キース様……あの方、もしや……」

 

 嫌ってほど、俺のことを知っているシーラにはわかったらしい。

 

「多分、俺たちと転生者同類だ。俺が生きていることになんでって顔をしていた。それだけならミシェルと同じ反応だ。けど。」

 

 ミシェルは心底驚き、心底不思議そうに首を傾げていた。だけど、俺の万能感知スキルであの女は仄暗い感情もあったと感じた。

 

「ちっ、探ってみるか……」

 

「キース様、素が出てます。」

 

「だって、嫌な予感しかしないんだけど?? シーラと話せる時間が少なくなるのも嫌だ……」

 

 でも、魅了スキル持ってたんだよなぁ……無意識か、意識的かはわからんないが、さっきウェスを魅了しようとしてたんだよな。まぁ、ウェス自身、王族として多種多様な美男美女に会っていたからか、いつのまにか魅了耐性、中級ではあるが獲得してたから自分でレジストしてたんだけど。ルナとシーラもね。え? 俺のせいだって? おそらくね?? いや、多分そう。だって身近にいる半神とかいう種族は魅力値が3000以上とかめちゃめちゃ高い奴らがいるんだ。そりゃ、魅了耐性がついてもおかしくないわ……つまり、俺たちのせい。

 まぁ、それは今はどうでもいいか。 

 てきとうに優秀なやつを送ると寝返られるだろうから、それを避けるために、上級の魅了耐性があるやつが、できれば影の中にいないかな……あの女の魅了スキルは中級だから、魅了耐性特級の俺たちがやってもいいんだけど、普通に近づきたくない。セスたち攻略対象はもっとダメ。万が一……ありえないとは思うけど億が一、あの女を好きになってしまったら目も当てられない……俺自身が調べたほうがいいんだけど、多分警戒されるだろう。だから、俺や攻略対象じゃなくて、魅了耐性をもち、なおかつ信頼できるやつ。

 

「あ、いたわ。」

 

「何がですか??」

 

「俺ら以外で上級の魅了耐性があって信頼できるやつ。アイ。」

 

夜猫よねこっすよね。今すぐに連絡しますよ。」

 

 気配を消して後ろに控えていたアイが、俺のそばから離れると校舎裏の方へと向かっていった。

 

 夜猫とは、俺が直々に寝返らせた元ケミサリー公爵家三男で暗殺者だった男、アインのことだ。影は影として王国に存在するけど、あくまで王家に忠誠を誓ってるから、俺が好きに動かせないんだ。動かせる時もあるけど、あまり融通できない。困らせるから、あまりしようとも思わないけど。だから、俺は好きに動かせる駒が欲しかった。そこでアインだ。アインはシーラのスキル、契約で俺の奴隷のようになってしまった(持て余しそうだったっていう理由もあるけど……)。色々あって、影に所属はしてるけど、俺の直属として好き勝手動ける地位を作るようにセバスに頼んだらあっという間に作ってくれた。その時に、別の名前が欲しいと思って、夜猫と名付けた。安直だけど、暗殺者=すばしっこい猫とか、猫=夜行性のイメージがあったからだ。

 

「確かに夜猫なら適任ですね。」 

 

「いまいち私、夜猫さんのこと分かってないのですけれど、とても優秀なんですよね?」

 

「もちろんだ、ルナ。俺が鍛えたからな。」

 

「噂のお兄様監修・地獄の方がまだマシ特訓ですね……?」

 

「なにそのまんまなネーミング。」

 

 俺の特訓は地獄だと色んな奴から言われる。その中で一番ミシェルがうるさい。逆にセスは最初から俺と一緒に鍛えてきたからか、俺と同じぐらい感覚がバグってるけど。

 

「そのままで大変わかりやすいと聞きましたよ? 名前も納得できると、アイから聞きました。」 

 

「アイのやつ、ルナに余計なことを……」

 

 あいつ、機密情報は口が硬いけど、こういうことだと口が軽いんだよな。わざとだろうけど。

 

「俺も兄上の特訓に混ざりましたが、地獄でした……しかし、効果があるのでやめられませんよね。」

 

 そんな、某お菓子のテレビCM、やめられない止まらない、みたいなこと言われてもね。

 

「でも、お兄様のことを知れるので、私は嬉しいです。」

 

「はいはい。煽てても今は飴玉しか持ってないぞ。」

 

 ポケットから新作菓子の飴玉を取り出してルナに渡すと、ルナが目を輝かせた。

 

「飴玉は出てくるところ、お兄様ですわね。」

 

「まぁな。さて、そろそろ教室に向かうか。」

 

 俺とセスとアイみたいなSクラスの生徒は時間を気にする必要はあまりないんだが、Sクラス以外はあと少しで始業時間、前世でいうところのホームルームが始まる。Sクラスは4年生しか存在しないから、俺とセスとアイ、ミシェル、フェル以外の生徒は急いで教室向かわないといけない。まぁ、婚約者を教室まで送るなんて余裕でできるってわけだ。

 

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