準備開始
「みんなをここに呼んだのは他でもない。魔神について、再度確認しようと思ったんだ。」
俺が改まって真剣に言うものだから、みんなに緊張感が出た。
「と、いいたいところだけど、その前に。」
思わせぶりなことを言っておいて違うことを言うとフェルとミシェル嬢がガクッとこけた。
「なんなんですの?!」
「思わせぶり……」
「いやぁ、見事にハマってくれたね。」
あははって笑うと、ジト目で見られた。セスがいつものことだって言って宥めていた。
「で?! さっさと次の話に行ってくださいな!」
痺れを切らすの早いな。仕方ない、行くとするか。
「魔神もそうなんだけどさ、この国の現状も伝えておくよ。」
「他国の私たちに?」
「それ、いいの?」
「平気平気。どうせ知ってるでしょ。このアイスリア王国がアーバン帝国と水面下で争ってるってのはさ。」
3年前、俺が半神になった日。アーバン帝国の策略によって、神獣、フェンリルの子、リーベルティがこの国に密輸されそうになった。助けにきたフェンリルの群れを説得して、どうにか争いは免れた。
アイスリア王国は、アーバン帝国に正式抗議をしようとしていたら、先に向こうから言いがかりをつけてきた。「我が国の商人を入国させないとは何事か!」とね。俺たちは入国するために必要な荷物検査を受けなかったから、入国はできないと当たり前のことを言ったんだけど、ふざけるなと、喧嘩を売られた。周辺諸国もアーバン帝国がバカなことを言っていると思っているけど、アーバンも一応それなりに大国だから表立って味方をしてくれなくてね。まぁそれが、大国に対する小国の立ち回りというものだから、しょうがない。アイスリア王国からしてもアーバン帝国に勝てる自信はあるから、影で物資の支援(必要な時だけ)とかしてくれれば、そこまで帝国に楯突かなくてもいいと思ってる。一応俺たちの味方でいるし、そこまで警戒はしなくても大丈夫。
この周辺諸国には、アーノルドやメトスなどの同盟国たちはもちろん、同盟を結んでいない国でも少し情報を集めればわかることだ。
「あー……まぁ、この国の情報を集めていれば、簡単にわかるよね……」
「それがなんなのですか?」
「アーバン帝国って、今代の皇帝に変わってから、アイスリア王国を潰そうと躍起になってるんだよね。」
先代のアーバン帝国皇帝は常識人で、国の繁栄と平和を願う平凡だけど国民から慕われていた皇帝という感じだった。皇太子も幼い頃は使用人に好かれていたはずなんだが、5年前から徐々に性格が歪んでいったらしい。まるで何かに取り憑かれてしまったかのように……
「まぁ、そうですわね。」
「なんでだと思う?」
「アイスリア王国の軍事力を狙ってるってのが一般的な話だけど……違うんだよね?」
「それもあるよ。けど、本当の狙い、というより正確な狙いは造船技術なんだよ。」
「造船技術……確かに、船はすごい。特に潜水艦。」
「でっしょー? あの技術を作り出した人ほんとすごい。大型造船とか潜水艦とか、超高度技術なのにね〜! って、それは今はどうでもいい。いや、よくはないが、とりあえず置いておく。あいつらはそのすげー技術を狙ってる。」
正確には軍事兵器利用できる海紅石だけど。魔神どもが狙ってる理由は、多分海紅石に含まれる莫大な魔力を手に入れるため、かな。
魔物を倒すとレベルが上がるというシステムが存在する。これは魔物が持っている魔力を浴びて、それを使って体を強化している。魔力を持っている=強い魔物を狩る方が効率がいいのは魔力量が多いからだ。
半神になって魔力をより精密に制御できるようになったことで分かった。魔物は死ぬと持っていた魔力を微量だけど放出するから、近くにいる人間が浴びてレベルが上がり強くなる。後衛のレベルが上がりにくい理由が、攻撃してないからじゃなくて、魔物が死んだ時、遠くにいるから魔力を浴びることができず、魔力を使って体を強化する機会があまりないだけだ。まぁ、浴びた魔力はすぐに使用されるわけじゃないから、魔力を浴びた仲間の近くにいれば、多少は自分にも蓄積されて、いつかはレベルが上がるけど。
「それの使い道が、超有用だから。」
「まぁ、海上戦が楽になりそうですけど……」
「それと魔神の話の何が繋がってるの?」
レベルが上がるシステムで重要なものは魔力だ。試したことはないけど、魔石を砕いて体に振りかければそれだけでレベルが上がるんじゃないかとは思ってるけど、流石に実行に移すわけにはいかないからやってない。同じように、魔族も同じことができるんじゃないか。そうなると狙いが海紅石ってのは、意外と辻褄があう。
そして、なぜ、魔族が海紅石の有用な使い道を知っているのか。
「俺は数年前から侵入者の痕跡や裏切り者の可能性をあたっていた。」
考えたくもないけど、考えなきゃいけない問題だった。もし本当に存在するならば、野放しにしては置けない。特に国を担う幹部にいたら国家機密ダダ漏れだ。それは非常にまずい。だが……
「でも、結果は何も出てこなかった。俺の特級鑑定や、特級真偽眼などありとあらゆるスキルを駆使すると俺は絶対に何かを見つけ出せる自信がある。だけど、見抜けなかった。つまり、裏切り者がいた場合、あり得ないことなんだよ。」
「じゃあ、裏切り者はいなかった?」
「そう。」
「じゃあ、なんでいきなり……?」
「そこで、魔族が出てくるんだよね。」
俺と一緒にいたセスとアイ、シーラは結果だけ聞くと勘付いたし、シリアスは俺が教えてた。それだけ俺と一緒にいたし、機密情報だって知ってるから、余計なんだけど。だけど、調査なんて全く知らないミシェル嬢とフェルに察しろと言うのは無理な話だな。2人は首を傾げてる。
「ミシェル嬢、ゲームで魔神はどうやって死んだ俺を見つけて体に入り込んだんだ?」
「え? 魔神は偶然見つけて使ったって言ってたから、そんな詳しい話はストーリーになんてなかったはずですよ?」
「じゃあ、なんで封印されていた魔神が俺の体を偶然見つけたんだ?」
「そんなの本当に偶然では?」
「偶然と言うのは、思ってもいなかったことが起こったと言うこと。ある目的のために行動していたはずなのに、その行動の途中で、因果関係がないことだったけど必要なものを見つけた時にも使われる。」
———偶然———
しかし、その偶然に遭遇した時、人は何かをしていたはずだ。思考する生き物ならば、な。
「あー、そういうこと。」
「フェルド殿下はどういうことか分かりましたの?」
何かを思いついたフェルにミシェル嬢が首をかしげながら尋ねた。
「多分、何者かがこの王国で造船技術を盗もうとしている。裏切り者もいなかった。それでも、情報が漏れた。なら、外部の人間や種族がこの国に侵入したと見るべきでしょ? それが魔族の可能性があるってこと。昨日教えてもらったゲーム? では、魔神の復活には器となる体が必要。ゲームでキースはたまたま見つけられた。魔族の視点なら、造船技術を盗む過程で、キースの器としての利用価値を見出したって考えられるよね? その魔族たちの行動が、アーバン帝国の動きと重なっているように見える。だから、アーバン帝国のバックには魔族、魔神がいるんじゃないかって。もしくは、魔族たちがアーバン帝国を乗っ取ってるとか。」
さすがフェルさん。祖国でフェルを王太子にと政争が起きそうになっていたのも頷けるほどだ。
「そういうことですか。なんとなく分かりましたわ。」
「そ。まだ妄想の域は出ないけど、あたってるきがす当たってる気がするんだわ。多分魔族がこの国に入り込んでると考えていいと思ってる。そこで、俺は魔族を感知するための結界を張ろうとおもうんだけど、一つだけ、問題が発生した。」
「「問題?」」
「2人はさ、結界魔法ってなんだと思う?」
2人の疑問には答えず、質問を重ねた。戸惑いつつも二人は思案した。
「攻撃を防ぐ手段?」
「対象を指定して、防いだり閉じ込めたりできますね。」
「両方正解。じゃあ、対象をどうやって指定する?」
「え?」
「魔法を通さないなら魔力を遮断すればいいし、人なら種族、特定の人物ならその人物の魔力だったり、特徴だったり。色々とやりようはあるだろ?」
「いや、特定の種族や人物だけを遮断するなんて普通はできませんからね?」
この世界における結界魔法とは、対象を閉じ込める檻の役割と、魔法や剣を弾く盾のような役割があるが、特定のものだけを弾く方法は知られていない。だけど、この世界の魔法はイメージさえあればあとはどうとでもできる。
「キースはできるから、今はツッコむな。」
「本当、化け物ですわね……」
「セスとミシェル嬢は失礼すぎんだろ。とにかく、結界魔法には応用があるんだ。そこで、魔族の話に戻るけど、俺は魔族の死体、できるなら生け捕りした奴が欲しい。」
「「「はい??」」」
「魔族の身体的特徴とか、魔力とかいろいろ調査したいんだよ。そのために実物が必要なんだ。君たちには強くなって俺たちを手伝ってほしい。」
「非人道的なことをするのかと思いましたわ。」
「どうだろ。俺はその辺、意外と躊躇がないからな。」
「え?」
魔族や魔物は人間や多種族を襲うことを本能に刻まれ、そしてそれに快楽を覚える種族だ。その快楽を得るためなら同種族ですら殺すような奴らだ。あいつらは良くも悪くも自分たちの欲に忠実で、俺たち他種族を見下す傾向にある。まぁ、俺は文献とか精霊神兼精霊王のイグニスたちから見聞きしたぐらいだけど。だからこそ、あれを魔物と同じだと思えと言われている。それに、俺は大切な人を守るためなら、どんなことをしてでも実行する。シーラのためならどんなことでも躊躇はしない。その辺、前世の俺とは少し違ってんだよな。この世界に来て、魔物狩りしてる影響か? なんでもいいけど。
「向こうが俺たちをゴミとしてしか見ない以上、こちらが情けをかける必要はない。友好的ならこちらも一考はするけどな。」
「なるほど。そういうこと。俺は協力する。短い付き合いだけど、キースたちのことは好きだもん。友達の役に立ちたい。」
「まぁ、私は死にたくありませんから、協力はしますわ。グラキエス殿下がいるならば、死なないためにいろいろ便宜を図ってくれそうですし。」
おいおい。そういうこと本人に言っちゃうか? まぁ、巻き込むんだから死なないように、それ相応に色々と渡す気ではいたからいいけどさ。
「私は、魔力制御の才能がなくて、何もできないのが悔しいです……」
確かにシーラは魔力制御の才能はあまりない。細かい操作をするのが苦手らしい。が、かと言って凡人以下かというとそうでもない。この3年で、シーラだって鍛えた。本当は危険な目に合わせたくなかったんだけど、守られるだけは嫌。自分の身は自分で守れるようになりたい。その思いに俺が根負けした。反対しても俺のいないところで魔物狩りされるよりはマシだと思ったからともいう。
シーラは、確かに魔力制御は苦手だけど、あくまで俺やセスと比べたらの話だ。俺やセスで隠れてしまってるだけ。例えるなら、結界を一定の魔力量を使って維持するのは苦手だけど、瞬間的に魔力を使う方法なら、めちゃくちゃ強い。殴った瞬間に拳に魔力の衝撃波を乗せるとか。器用なことに、衝撃波のタイミングをずらしたりするんだよ。シンプルだけど、これが結構めんどくさいんだよね。想定していたダメージよりも多くのダメージを喰らうから、並の相手なら何が起きたかわかんない。
教えたの俺だけど……
「シーラはどちらかというと、相手を負かすというより、相手を混乱させて隙を作る役割が大きいからね。卑下することないよ。適材適所。」
隣に座っていたシーラの頭を優しく撫でると、シーラは暗い顔から嬉しそうな顔になった。シーラは笑っていてくれた方がいい。
それに、俺が徹底的に教えたのはそこじゃない。瞬間的に魔力を使うことができるなら、回避能力を上げることもできる。身体強化を瞬間的に使えば、相手はなぜ避けられたのかと混乱する。その混乱した隙に、シーラは逃げる。自分の身を守るとはそういうことだと教えた。倒したいと欲を出すのは、絶対に勝てると確信した時だけ。模擬戦や、魔物狩り(俺たちがいる時のみ無茶OKという環境)での実践訓練で引き際の判断を見極める訓練もした。
過保護じゃないっすか? ってオーレンに言われたけど、俺が暴走してもいいのか? と言ったら首をブンブンと勢いよく横に振られた。つまり、そういうことだ。シーラもそれは重々承知しているからこそ、護身術だけでも習いたいと俺に頼み込んできた。危険に遭わないようにしたいけど、絶対と約束はできないから、準備するだけしておこうということだ。付け焼き刃にならないように俺たちがしっかり訓練したし、ある程度は戦える。
一通り俺が教えた後、シーラの成長を1番知らないアイに模擬戦させた。その時、アイはシーラの回避能力の高さに、え? って顔してた。まぁ、すぐにそういうもんだと割り切られたけど。いつも俺という規格外を相手にしているもんだから切り替え能力が早くなってしまった。つまんねぇって思ったのは仕方ない。
「この中でシーラほど、回避能力が高い子はいないと思うよ。」
「キース様がいますから二番目だと思います。」
「俺の場合は、魔力に物を言わせてるだけだよ。」
俺は結構万能型で、色々できる分、器用貧乏になりがちだ。瞬間的な速度はシーラには負けるし、武器に魔力を纏わせるのもアイの方が上手い。相手の魔法を瞬時に解析し、それを相殺するための魔法を構築する速度は、セスの方が早い。シリアスは複数の魔道具を瞬時に使い分けて、魔力を適切に流し込んで使うのが上手いし、魔道具を壊しにくい。などなど、各々得意分野があり、俺はそれらには負ける。
「その魔力が規格外なんですがねぇ……」
俺がそれぞれに勝っている物。それが魔力量と魔力制御力だ。俺がみんなの得意分野を同程度できるように動いても普通なら魔力がどんどん削られる。だけど、魔力制御をあげればそれだけ魔力は削られなくなる。長い時間戦ってられるようになる。俺の基本戦法はとにかく物量。
「俺はある程度の技術を身につけた後は、もう物量で押し切るだけだから、やってることは大したことないよ。」
「それをどれだけのパターン瞬時に組み上げてると思う?」
シリアスがフェルとミシェル嬢に問いかけた。だけど、意味がわからないようで首を傾げるだけだったので、俺が答えた。
「一度に5個できればいい方じゃない?」
「この人のいう5個ってのは、一度に5個を組み合わせるんじゃなくて、数十個にもなる戦術を同時に5個思いつけばいい方だって意味だからな。」
「はぁ?!」
セスの発言にミシェル嬢が目を剥いた。前世の素であろうものが出てんぞ。いいのか、ご令嬢。俺も人のこと言えないけど。
「だから言っただろ。並列思考がもう規格外レベルなんだよ……」
セスさん、なんかひどいな。三分の二ぐらいは並列思考スキルのおかげだよ。
「いやいやいや、並列思考スキルがなきゃ三つがいいところだろ。」
「多分、この人の頭の中を覗いたら、あまりの情報量の多さに凡人はオーバーヒート起こしますね。」
アイ、それフォローになってねぇ。むしろ、火に油を注いでんぞ。
「アイ……つか、いつのまにか俺の規格外の話になってるんだが? 魔族を捕えるためにフェルとミシェル嬢を鍛えるっつー話だっただろ?」
「じゃあ、今日からやろうぜ! この後みんな暇だろ?」
まさかの、シリアスのビックリ発言に俺は物申したい。
「おい、俺王族。」
「えー、冒険者やってるぐらいだから暇でしょー?」
「暇じゃなくて空き時間作ってんだよ。」
暇だからやってるんじゃなくて、実践経験のためにやってるんだが? 空き時間をわざわざ作ってるんだが? まぁ、書類仕事の息抜きという理由はないとは言わないけどさ。
「じゃあ、今日このあとも時間あるでしょ?」
「あるけどな?! ある前提で話されると複雑なんだが?!」
「ははは! まぁまぁ!」
「まぁまぁじゃねぇんだよ! ったく……」
シリアスはこういう強引なところがある。俺を振り回せる奴はシーラ以外ならこいつぐらいだろう。前世を知っているからか、遠慮がない。いや、元から図太い性格してるから判断はできないが。そう思えばこういうのも新鮮でいいけどさ。
「よっし! 1番忙しそうなキースが暇だっていうんだから、みんなもやろうぜ!」
「暇とは言ってねぇだろうが!」
そんなこんなで俺たちはシリアスにほぼ無理矢理連れ出されて、ギルドに顔を出すことになったのだった。
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