豪華な面子が勢揃い?


 結局、俺はSクラスの関係なかった2人まで巻き込むことにした。最初はアイとミシェル嬢の関係がどうなるかと思ったけど、案外仲良くやれそうだった。ミシェル嬢は記憶が戻った影響で性格まで記憶に引きずられて、なのか、決闘のことはあんまり気にしてないし、アイはミシェル嬢をミシェル嬢として扱ってはいるけど、別の人間と接してるかのように気にしていない。たまに決闘のことで揶揄ってるけど、本人たちは楽しそうだった。

 

 とりあえず2日間は親睦深めるために何もしなかったけど、今日は違う。週末。学園がない日だ。

 

 つまり……

 

 シーラに会える〜!

 

 本当はデートしたかったんだけど、やることがあるので、俺はいつものお忍びスタイル、鳶色の髪に変えて、目の色を誤魔化すメガネをかけて、アイと共に馬車に乗り込み、ガーディーアン侯爵家へと向かう。

 

 馬車を屋敷の前に乗り付けると、セスとシーラがいた。

 

「おはよう、シーラ、セス。」

 

「おはよう。」

 

「おはようございます、キース様!」

 

 3年前より成長して14歳になったシーラは子供らしい可愛いさはまだあるけど、大人の女性としての美しさも少し出てきた。1番変わりやすいのは腰のくびれと少し出てきた胸だろうけど、次にわかりやすいのは、顔の輪郭、かな? もちもちほっぺの感触はそのままだけど、まんまるさが少しなくなった。

 前もよかったけど今のかわいさも、とても魅力的だ。少しずつ、ゲームのプリシラに近づいているけど、ゲームより圧倒的に可愛くなりそう。というか、多分、さらに俺好みになってきたのかもしれんけど。

 

「はぁ、久しぶりのシーラだ。」

 

「ふふ、昨日もお会いしましたよ?」

 

「一瞬言葉を交わすだけなんて、会ったうちに入らないよ……俺はシーラ不足だよ。」

 

 そういうと、シーラはまぁと言ってくすくすと笑った。癒される……

 

「キース様〜? そろそろ行かないと、時間に遅れますよー?」 

 

「わかった。」

 

 なかなか入ってこないから痺れを切らしたらしく、アイが馬車の中から顔を出して声を上げた。その声に従ってシーラが馬車に乗るのに手を貸してから乗り込み、セスも馬車に乗り込んだ。全員乗り込んだのを確認してから御者に合図を送って、走り出した。

 

「これからどこに行くのですか?」

 

「シーラに紹介したい奴らがいるんだ。シリアスの商会で待ち合わせてる。」

 

「なるほど。もしかして、例の件の関連でですか?」

 

 例の件。魔神の封印が解けると言うことを指している。さすがに毎回防音結界を張るのもめんどくさいし、何か聞かれたくない話だと思われて探られるのも嫌だからね。

 

「そう。1人は俺と同じで、俺よりゲームの知識を持っているから無理やり引き込んで、もう1人は信頼できる男だよ。」

 

「キース様が選んだ人物ですから、心配はしておりませんわ。それより……」

 

「?」 

 

「天を見たもの、とは、女性ですか?」

 

 シーラの表情から感情が抜け落ちたように見えた。え、待って、なんで?!

 

「そ、そう、だけど、」

 

「思わぬ伏兵がいたものですね……」

 

「え?! 伏兵?!」 

 

「キース様と同じで、お話ができるのでしょう? 私が知らないお話もできるのです。それに、女性ともなれば、キース様に色目を使う可能性もあるではないですか。」

 

「それはないからね?!」

 

「キース様が浮気するとは思っておりません。しかし、相手のその女性がそうとは限りませんわ!」

 

 あー、そうだった。シーラって意外と独占欲があるんだった。徐々にそれが増している気がする。いや、増していると言うより、表に出すことが多くなったと言うべきかな。それはそれで可愛いけどね。

 

「シーラ以外には優しくしてないから大丈夫だと思うよ?」

 

「いいえ、キース様はなんだかんだ言ってお優しいので、知らぬところで惚れさせてしまうかもしれません。」

 

「少なくとも、俺の知る限りでは誰もキースに惚れていないけどな。」

 

「お兄様、これからがわかりませんわ! その方にはご忠告しませんと。」

 

「誰もお前とキースの間に入ろうと思う女はいないから、安心しろ。」

 

 多分、シーラはそう言うことを言いたいんじゃないと思うけど、これは複雑な女心というものだから、男であるセスに理解してもらうのは大変そうだな。

 

「お兄様って、こういうところは鈍感ですわね、本当に。」

 

 呆れたように肩をすくめたシーラが、そう言うならやっぱりそうなんだろうな……アイもため息をついていた。影は女を落とす方法やハニトラやロミトラも仕込まれるらしいから、その辺は習得させられたんだろうな……

 俺? 俺は洞察力強化や気配察知で色々な感情を感知できるからね……ついでに言うと、これらはシーラがいると超フルに作動されるから、たまに心を読むスキルでもあるのですか? って言われるけど、そんなものはないです。

 

 4人で和やかな話をしていると、マゼンティア大商会がある大通りの一本横の通りに辿り着いた。馬車から降りると、声をかけられた。

 

「あれ? アイがいる。」

 

 気の抜けたような聞き覚えのある声の方を振り返ると、そこにいたのはフェルだった。

 

「フェルか。」

 

「? 誰?」

 

 あ、俺とセスはお忍びスタイルだから、わからないのも当然だった。

 

「俺はキースだよ。」

 

「あ、声がキースだ。そっか、髪と瞳を隠さないとなのか。めんどくさいね?」

 

「おいおい、フェルも国では変装したんじゃねぇの?」

 

「してなかったよ? どうせ俺は自堕落だったから、わざわざ襲う人なんていないし。」

 

「俺はフェルを自堕落だと思えないんだけど?」

 

「そう思わせないと、要らない権力争いがあるからね。」

 

 やっぱり、フェルは頭がいい。自分が優秀だと周りが思うことで起こるだろう争いを推測して、あえて自分の爪を隠した。能ある鷹は爪を隠すとはよく言ったものだよ。

 

「それは、キースと一緒でしょ?」

 

「俺は、結構好き勝手やらせてもらってるけど?」

 

「冒険者やってることを隠してるのは、婚約者のためでしょ?」

 

 やっぱり、キレるやつだな、おい。俺が冒険者キース=第一王子グラキエスって隠してる理由まで推測してやがる。俺は自分が優秀だと自覚せざるを得ない。すると、誰もが、俺の恩恵を受けたがる。そうなると、王妃の座を狙うものが出てくる。すでにそこの席が埋まっていようが、関係ない。シーラの純潔を汚されるか、汚された可能性さえあれば簡単に引き摺り下ろされ、一発アウトだ。だから、俺は有能であることをできる限り隠す必要がある。しかし、無能すぎてもウェスやルナに王位継承権を、という継承争いが出てくるのだから、匙加減がクッソほど難しい。

 

「ったく、どこからどこまで把握してんだ?」

 

「それはわかんない。けど、グラキエスもキースも俺にとってはヒーローだから、ちゃんと味方だよ。」

 

「? それってどういう?」

 

 キースとしてフェルに会ったことあったか? けど、俺は国外には行ってないし、こんな派手な赤髪、一度会えば絶対覚えていられるはず。会ったことないのに、どういうことかと、首を傾げるけど、返答はしてくれない。

 

「それはさておき、そちらの女の子は? 見たところ少し歳が離れてるね。セスに似てるからセスの妹? あ、キースの婚約者ってセスの妹だったよね? ってことは……」

 

「なんで一瞬でそこまで辿り着けるんかね。ご想像の通り、俺の婚約者のプリシラだよ。」

 

「なるほど。キースが過剰に心配する気持ちがわかったかも。」

 

「フェルさん? 惚れるなよ?」

 

 多分シーラの可愛さを見て言っただけだろうけど、一応忠告はしておかないと。

 

「俺、キースを敵に回したくないし、今からプリシラ嬢を好きになっても、それはキースを好きなプリシラ嬢を好きなだけで、キースを好きじゃないプリシラ嬢は果たして俺の好きなプリシラ嬢なのか。そういう話になるでしょ? それに、俺は他人のものを奪う趣味はないし。」

 

「それならいいんだけどね。シーラ、この人はアーノルド王国の第五王子、フェルド・ボッサ・アーノルド。俺と同じクラスで、紹介したいって言った男の方だよ。」

 

 隣で会話を遮らずに居てくれたシーラを紹介した。さすがに待たせすぎた。

 

「初めまして。私はキース様の婚約者、プリシラといいます。お見知りおきくださいませ。」

 

「うん、よろしく。けど、俺に敬語はいらない。畏まられるの苦手だから。」

 

「ですが……」

 

 シーラが困ったように俺を見た。そりゃそうだ。他国とはいえ同盟国の王子。身分が上の人に敬語なしは生粋の貴族であるシーラには結構ハードルが高い。少し助け舟を出すか。

 

「フェル。俺らは同じ歳だしクラスも同じ、そんで結構図太いから敬語抜きで話せるけど、普通は無理だからね?」

 

「む。それもそう。無理言ってごめん。」

 

「あ、いえ、大丈夫です。」

 

「それに、俺より先にフェルに敬語なしで話されると俺が嫉妬する。」

 

 シーラは今だに俺のことを様付け敬語で話してるのに、先越されると複雑なんだよな。

 

「それは嫌だから、そのままでいて。」

 

「え?! あ、はい???」

 

「キース、フェル。あまりシーラを困らせるな。」

 

「「はーい。」」

 

「じゃあ、中に入りましょっか。シリアス殿も待ってますよ。」

 

 確かに、約束の時間まであと少しだ。みんな、もういるかもしれないし、あんまり遅くなると、知らない人たちに囲まれた状態でシリアスが待つ状況ができる。それは嫌だろう。いや、シリアスなら多分持ち前のコミュ力でどうにかしちゃいそうだけど。

 全員で店に入ると、顔見知りの店員がすぐに気づいて奥の部屋まで案内してくれた。中に入るとミシェル嬢がいた。

 

「皆さん、随分と遅い出勤ですこと。」

 

 いきなり皮肉かよ。皮肉を言わないと生きていけねぇのか。

 

「まだ時間前だろ……遅刻したみたいにいうんじゃねぇよ。」

 

「べ、別に1人で寂しかったなんて言ってませんけど?」

 

「まだ何も言ってねぇよ。」

 

 自分から暴露したな。ツンデレかよ。どこに需要あるんだ?

 

「? あなたは誰ですか?」

 

「は? 今更?」

 

 飲んでいた紅茶を置いて、やっと振り向いたと思ったら、「あんた誰?」発言かよ。今更すぎんだろ。

 

「声だけで判断しておりましたが、あなたには会ったことありませんわね?」

 

「俺だよ、キースだ。てめぇと同じクラスのな。」

 

「殿下ですか? 髪とメガネはどうしたんですか?」

 

「変装に決まってんだろ。この国でプラチナブロンドと青い瞳は王族って決まってんだ。お忍びで晒すバカはいねぇよ。」

 

「お忍びじゃなくなりますわね。そういえばこの国はその特徴でしたわね。メトス公国はそういうのはありませんから、忘れておりました。」

 

 メトス公国は独立した国だから、そういう特徴は基本的に出ないからな。それも無理はない。

 

「シーラ。このアホ女が俺と同じ奴。アホだけど一応Sクラス所属。」

 

「なっ! アホアホ言わないでください!!」 

 

「てめぇがアホ以外のなんだってんだ?」

 

「口の悪さは異次元ですわね! 本当に!! こほん。えっと、プリシラ・ガーディーアン様、私はメトス公国ワーグナー侯爵家の長女、ミシェル・ワーグナーと申します。以後、お見知りおきくださいませ。」

 

「私はグラキエス殿下の婚約者、ガーディーアン侯爵家の長女、プリシラ・ガーディーアンです。こちらこそ、よろしくお願いいたします。」

 

 お互いに淑女の礼をして挨拶を終えると、シーラがジトーっとミシェル嬢を見て、見られたミシェル嬢はたじろいだ。

 

「シーラ。大丈夫だよ。」

 

 俺がシーラを宥めるように頭を撫でると、シーラが俺を見て警戒を少し解いた。その一連の流れを見て今度はミシェル嬢が驚いたような顔をした。

 

「なんだよ。」

 

「え、いや、だって、あなた……そんなに優しくできたんですか?」

 

 俺をなんだと思ってんだ? 人に優しくすることはできるんですけど。

 

「は? できるに決まってんだろ。」

 

「私にももう少し優しくしてください!!」

 

 切実な叫びだな。そんなに優しくしてないのか? いや、こんなもんだろ。

 

「あ? 嫌だね。」

 

「ひどいです! この悪魔!」

 

「言っとくがそういう扱いしてみろ? シーラから嫉妬の嵐だぞ。」

 

 さっきのようにジトーっとした目で見られるのがオチだ。そういうと、ミシェル嬢は勢いよく頭を下げた。

 

「それは嫌ですから、そのままでお願いします。」

 

「お前といいフェルといい、なんでそんなに手のひら返し早いの?」

 

「恋バナは好きですが、巻き込まれたくはありませんので。」

 

 なるほど。確かにそれは同意するわ。

 

「なんだか賑やかだね。」

 

 くだらない茶番をしていると扉を開けて入ってきたのは俺が招集した最後の1人、シリアスだった。

 

「おはよ、シリアス。」

 

「おはよー。これでお揃い?」

 

「そうだよ。シリアスが会ったことないのは2人だけだよね。フェルとミシェル嬢だ。」

 

「フェルド・ボッサ・アーノルド。フェルでいいよ。」

 

「ミシェル・ワーグナーです。ミシェルで構いませんわ。」

 

「わかった。フェルとミシェルだね。ミシェルが同郷?」

 

「そういうこと。ゲームの続編を知ってるみたいだから、無理やり巻き込んだ。」

 

「なるほど。災難だねぇ。キースに目をつけられたのが運の尽きだと思って諦めてね〜。」

 

「噂の方はもう少しマシだと期待していましたが、期待外れでしたわ……私に優しくない!」

 

「一体何したの?」 

 

「俺たちはされた側だ。」

 

「すでにやらかしちゃってんのね。それなら仕方ない。」

 

 いつのまにか全員からいじられるキャラという立場をゲットしたミシェル嬢。ドンマイと思いつつ(思ってない)、話を進めるために防音結界を施した。

 

「これは……」

 

「防音結界だ。本題に入るために発動した。さて、みんなをここに呼んだのは他でもない。例の魔神について、再度確認しようと思ったんだ。」

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