決意を新たに


 

 精霊神兼精霊王のイグニスに精霊魔法を一通り見せてもらってから、1番習得しなきゃいけない弱体魔法、ディテリオレイションを教えてもらった。これは、全ステータスを一時的に弱体化させる精霊魔法らしい。本来はデバフとして相手にかけるのだが、対象を変えれば自分にも施せる。そもそも、自分にかけて練習するのが普通らしい。

 精霊魔法とディテリオレイションを30分かけて教わり、もう1時間を様々な精霊魔法の習得に使った。精霊魔法は上級まで上がったまではいいんだけど、もうすでに夕方を過ぎて夜になろうという時間になっていた。

 

「さすがにこの時間だと迷惑か……」

 

「そうだな。シーラに連絡を入れておけばいいと思う。持ってるんだろ?」 

 

 なんで俺が開発したことバレてんのかね。小型の遠距離通信装置。念話魔法を習得した後に開発して最近シーラと俺の対になった片耳ピアス型の試作魔道具を使っている。

 

「いや、シーラが嬉しそうに新しいピアスを眺めていたんだし、キースだって同じの持ってるでしょ。誰でも気づくっての。」

 

 ダダ漏れだったらしい。そんなにわかりやすいんだ。

 

「あはは……モロバレですか。」

 

「モロバレですわ。」 

 

 仕方ない。気づかれているなら、目の前で魔道具を起動しよう。つけている右耳につけていた魔道具に魔力を通す。すると、すぐにシーラの声が聞こえてきた。

 

『キース様? どうかなさいましたか?』

 

「シーラ。ごめんね、今まで連絡しなくて……」

 

『大丈夫ですわ。スリアルから大体の事情はお聞きしています。今王宮にいるのですよね?』

 

「そう。あれから色々あってさ、新しい魔法を習得しないとアリアーデ辺境伯の屋敷を壊しちゃうから、頑張ってたの。」

 

『壊す? とりあえず、魔法を習得しないといけなかったのですね?』

 

「そうそう。事情は後で話すよ。そのせいで、この時間まで外に出れなくて……だから、今日はこっちで寝泊まりして朝1番にそっちに向かうつもり。」

 

『あの、キース様。目の前にアリアーデ辺境伯がいらっしゃるのですが、今からでも構わないとのことですよ?』

 

「え? でも、迷惑じゃない?」

 

『元からこちらで寝泊まりする予定でしたから、こちらの準備は整っている、とのことです。こちらに来れるほど魔力がないとか体力がないとかなら、そちらでも構いませんが、もし、キース様がこちらに来たいと思っているのであれば、歓迎します、とのことですよ?』

 

「そんなこと言ってると本当に行くけど、いいの?」

 

『ニコニコで構わないとおっしゃっています。むしろ、港を救ってくれたので、せめてものお礼にお夕食を豪華にしたいとも言っています。』

 

 ニコニコ、ねぇ。もしかして、料理作ってたりするのか?

 

「じゃあ、そういうことなら今から向かうね。多分一時間後には着くから。」

 

『はい。お待ちしております。お気をつけて』

 

「ありがとう。」

 

 軽いな。ノリが前世の友人が今から飲みにこいよって、いきなり誘ってくる感じ。けど、まぁいいか。

 

「さて、そういうことで、今から向かうけど、セスはいい?」

 

「どうせキースの魔法頼りだから俺は疲れないし、平気だ。」

 

「はいよ。じゃあ、行きますか。イグニス、そういうことだから、俺はもう行くね。魔法教えてくれてありがとう。」

 

「いいよ〜。封印については後で詳しく話すから、今は楽しんでおいで。」

 

 イグニスに見送られて訓練場を後にして、父上の執務室に向かった。話はまとまっていたようで、結局リーズロットたちフェンリルが、王宮に来ることになった。部屋が余っているから、竜王族たちと一緒に住むとかで、離宮の用意はしなくていいらしい。本当に仲がいい。

 あと、リーベルティをさらった人間は俺たちの処理が済めばリーズロットたちが殺すってさ。本当はアーバン帝国に抗議するために、生捕しなきゃ行けなかったんだけど、神獣に手を出したあっちが悪い。こちらの言い分は、入国審査を通っているならまだしも、通っていない船員のことまで面倒は見切れないと言うことにした。神獣への対応なんてそんなものだ。神獣から全員を助けられるほど人間は強くない。入国審査を通らないなんてほとんどあり得ないけど、検問を渋ったお前らが悪いってことで、こちらは命の保証まではできないということだ。

 実際、入国審査してたけど、検問の必要性があったのに渋ったと報告書も上がっているしな。仕方なく調査すると、沖に神獣たちが現れて、その原因を調査したらその船に神獣がいたっていうことも言うつもりだ。被害? そんなもん、全部海に沈んだ。政治なんてそんなもんよ。駆け引きと丸め込みだ。それに、他国の近海で大々的に調査なんてできないからね。言ったもん勝ちだ。

 ま、あっちは神獣に手を出したという醜聞は認めたくないだろうから、船員たちの独断だったと切り捨てるでしょ。こっちに正式に抗議すれば、神獣に手を出しましたって認めたようなもんだから、世間からのバッシングを受けるのはアーバン帝国だ。

 

 色々あったけど、俺はセスとオーレン、セフィ、リーベルティ、リーズロットを連れてアリアーデ辺境伯の屋敷へと戻ってきた。

 屋敷の中に入ると、シーラが玄関で待っていてくれた。俺を見ると満面の笑みを浮かべて出迎えてくれた。

 

「キース様! おかえりなさい。お疲れ様でした。」

 

 あー……可愛い。この笑顔を見ると、俺は帰ってきたんだって実感する。

 

「ただいま、シーラ。」

 

 今すぐ抱きしめたい衝動に駆られたけど、さすがに自重した。人目があるから手を出そうとして、それもやめた。いくらディテリオレイションを重ね掛けしまくって全ステータスを20分の1にまで落とし込めたとしても、あっさりと壊れたあのティーカップの存在が頭から離れなくて、触れるのが怖い。

 

「? どうかしましたか?」

 

 いつもなら抱きしめはせずとも、頭を撫でたりするんだけど、俺が手を引っ込めたから、躊躇したのを見抜かれてしまった。

 

「あー、その……ステータスが異常に高くなっちゃって、触れるのが怖い……」

 

「そうなのですか?」

 

「そのために弱体化魔法をかけたんだから、平気だろ?」

 

 俺の横でセスがふっと笑った。バカにしたというより、俺が慎重になったのが面白かったんだろう。

 

「そうはいっても、怖いものは怖いんだ。セスだって見ただろ、あのティーカップを……」

 

「いちごを握りつぶすかのように、あっさりと砕けたよな」

 

 クスクスと笑う。多分、俺がバケモノステータスなのを気にしないように、わざとそう振る舞ってくれてるんだろう。

 

「笑うなよ!」

 

「お兄様。私のわからないお話ばっかりずるいです。」

 

 多分シーラも察してくれて、それでも教えろと言うのだ。どんな俺でも受け入れる覚悟をしているからこそ、プリプリとヤキモチを焼けるのだろう。

 

「キース様! 私にも教えてくださいませ!」

 

「もちろんだよ。シーラは相変わらずセスにヤキモチをやくね。」

 

「当然ですわ。お慕いしている方のことはどこまでも知りたいと思うのが女というものですから。」

 

 あぁ、絶対この子だけは手離したくないな。

 愛おしさが募って、頭を撫でようと無意識に出した手を止めた。俺は普段からこんなにも無意識に頭を撫でていたのだと気づいた。引っ込めようと手を下ろす前に、シーラは一歩前に踏み出して、俺の手を自分の頬に当てた。

 

「そんなに怯えなくても大丈夫ですわ。キース様が私を傷つけるわけありませんもの。」

 

 手のひらから感じる体温と、シーラの笑顔に、俺は無意識のうちに入っていた肩の力を抜いた。苦笑しながら、シーラの頬を親指で撫でた。シーラはくすぐったそうにしていたのを見て、俺は不安が消えていくようだった。

 

「大人の情事ですわ……」

 

 横から聞こえてきたピンクの声に、我に帰ってシーラから手を離した。ほぼ同時にシーラも俺から離れた。顔を真っ赤にしていたから、恥ずかしいのだろう。俺も地味に恥ずかしい。ここ、部屋とかじゃなくて、アリアーデ辺境伯家の玄関だ。俺たちを出迎えようとした、イライザ嬢とクリスティーナ嬢、そして使用人まで見ていた。

 

「さて、キース殿たちが2人の世界から帰ってきたところで、食堂、もしくはお部屋へ案内しようと思うのだが、良いか?」

 

「申し訳ありません、お願いします……」

 

 アリアーデ辺境伯の案内を従い、外に出ていた俺たち4人は部屋で着替えを済ませてから、食堂へと向かった。

 とりあえず俺のステータスについて聞かれることなく、昨日よりも豪華な食事を出してくれて、盛大に感謝され、腹一杯食べたのだった。

 

 

 部屋に戻り、風呂などの支度を終えて、セスを伴ってシーラの元へ向かった。いくら婚約者とはいえ夜に2人っきりになるのは良くない。シーラ、セス、ゴルドールは気にするなというけど、俺が気にする。シーラの部屋の扉をノックして声をかけると、すぐに返事が返ってきて中に入った。

 

「シーラ、夜にごめ、ん……」

 

 シーラは夜着を着用していた。白いワンピースで胸元に大きなリボンがあるタイプ。清楚で可憐な印象でとても似合っていた。

 

「? あっ! こんな格好で申し訳ありません!」

 

 俺が不自然に言葉を切ってしまったから、夜着だったのがダメだったのだと勘違いさせてしまった。確かにそうかもしれないけど、俺客じゃないし、むしろこんな時間に突撃訪問した俺が悪い。

 

「違う違う! えっと、初めてその姿を見たから動揺しただけ。とても似合ってるから、そのままでいいよ。」

 

「そ、そうですか?」

 

「うん。むしろ見れて嬉しいよ。」

 

 普段俺以外には警戒心高いけど、こんな無防備な姿も、俺を信用してもらえてるってことだから、婚約者としては嬉しいよね。男心? んなもんは考慮に入れてない。入れたら複雑になるからな。つか、まだそんな年齢じゃねぇ。……14の俺はそうかもしれないが、11のシーラにはまだ早い。

 

「そ、それならよかったです。あ、今お茶を入れますね。」

 

 部屋においてあったらしい、茶器セットを持って俺とセス含めて三人分のお茶を入れてくれた。俺の部屋にも備え付けてある水が入ってればお湯を沸かせる魔道具があった。さすが貿易業が盛んなアリアーデ家だ。全部屋、もしくは今貸し出している部屋に湯沸魔道具があるなんてな。王宮でもそんなに数を揃えられねぇぞ。

 シーラの家にもあるらしく、慣れた手つきで紅茶を入れていた。三人それぞれに湯気が上るカップをおいてくれた。

 

「ありがとう。」

 

「はい。今回は寝る前ですので、カモミールティーにしました。お口に合えばいいのですが。」

 

 シーラの話を聞きながら一口飲む。侍女たちが入れてくれる紅茶と同じ味がする。うまい。

 

「うん。美味しいよ。」

 

「よかったです! それで、どうしてこちらにきてくださったのですか?」

 

 シーラが俺たちがここにきたことを尋ねた。俺は昼に起こったフェンリルたちの対応と、今後について。そして、俺が半神になったこととその経緯。近々魔神アクゼスターたちの封印が解けること、それに協力すること、全て話した。これはあの場で聞いていた父上、俺、ゴルドール、セス、オーレン、セフィ、ユグドラ、リーズロットしか知らない。リーベルティはあのうるさい環境の中でも寝ていた。その場にいた人たち全員に緘口令が敷かれ、俺が口外していいのはシーラのみだ。なんで子供のシーラに言っていいのかって? 未来の王妃であることと、俺が隠し事したくないから。父上も王族に連なるものだとシーラを認めているから許可もしてくれた。

 おそらく、これを新たに知ることになるのは、王妃である俺の母上と王国魔法師団 師団長と、王国騎士団 団長たちトップクラスの幹部の中でも一部のみだろう。あと、影たち。父上の独断でもう少し増えるかもしれないけど。

 

「魔神、ですか……」

 

「本当、どうなってんだろうね、この世界、というより今の時代というべきかな。」 

 

 今まで魔神の封印が解けたとか、魔族の脅威とかなかったよな? なんでよりによって俺が生きている時代なのかね……

 

「そうですね。あまり実感が湧きませんが、非常事態ということはわかりました。いつ、封印が解けるのでしょうか。」

 

「まだ5年は保つみたいだけど、それ以上となると保証はできないってさ。」

 

「その時、俺とキースが20シーラが17になる年だな。」

 

「はぁぁ……ったく、女神とやらも随分とめんどくせぇ役目を押し付けてくれたもんだよ……」

 

 実際には押し付けられるかもってイグニスに言われただけだけど、ほぼ確実だからなぁ……今のところ俺しか半神いないらしいし……

 

「でもさ、この世界には勇者もいるんだろ?」

 

 そういえば、イグニスから精霊魔法を教えてもらってる時に言っていたな。この世界には勇者と呼ばれる人間がいて、かなりの強さだと。過去の英雄の中に、勇者という職業の人間はいたそうだ。

 

「言ってたな。けど、人間という枠から出ないから、超良いとこ魔王と五分らしいじゃん。魔神に当たらせんのは見殺しにするようなもんだろ。」

 

 魔王とは、魔神が自分の莫大な魔力を使って作り上げたもの。魔王は少し弱い魔神の分身みたいなものだ。

 

 世界の強さの序列はこう。

 

 1、創造神(女神)イーストリアラ

 2、各種族神

 3、半神

 4、竜王族

 5、フェンリル族

 6、フェニックス

 :

 10、精霊族

 :

 ? 人間族

 

 基本的に種族として見た時の強さを元に簡易に書き出してみた。1番初めに神がきて、その次にSSSランク相当の最強種たち、神獣、精霊ときて、間に色々あり、人間がくる。何番目か知らないけど、最下位だぞ、最下位。最も弱い種族だ。条件次第で順位は変動するけど、これが変動するのはあまりない。

 

 魔王なんて、人間が敵うわけがない。ソロで敵うかはもう勇者の力量次第、パーティならやりようはあるけど人間のみの編成ならものすごく運が良くて、強くなれて、戦術も嵌められれば、良くて五分。それでも、パーティー全滅覚悟で一体倒せるかもってところらしい。んな低確率当てにできん。神獣やら竜王族やらの最強種を味方につけられるかが鍵となるとか。理不尽の権化じゃん。

 

「となると、やっぱり半神のキースがどうにかしないとな。」

 

「だよなぁ……こうなったら、シリアスも巻き込もうかな。同じ転生者だし、やりようはある。」

 

「まぁ、できなくはないよな。」 

 

「言っとくが、セスも巻き込むつもりだかんな?」

 

「自分から首を突っ込むのでご心配なく。」

 

 そんな奇特なやつお前ぐらいだって言いたいけど、シーラもそんな感じだからなぁ……今もセスの言葉にうなづいてるし……

 

「ほどほどにしないと死ぬぞ?」

 

「キースはトラブルメーカーだから、その分俺が引き際を見誤るわけにはいかないだろ。」

 

「おい。」

 

「ふっ、安心しろ。甥っ子姪っ子を見るまでは絶対に死なないからな。」

 

「そこは自分の子供を見るまではって言えよ。」

 

 フイーっと目を逸らすなよ。全く。その発言聞いたらクリスティーナ嬢が泣くぞ。

 

「まぁ、とにかく。学園入るまでは俺もセスも冒険者活動を今より力を入れていくぞ。場合によっては、ダンジョン攻略も視野に入れないとか?」

 

 魔神に対抗するため、俺自身の戦闘能力もそうだけど、信用できる人材を育てていきたい。セスはまぁまぁ育っているけど、レベルはお互い二桁だ。地道に強くなってきたけど、早急に強くならないといけない事情が出てきた。

 ユグドラやリーズロットのレベルは400代。俺たちにもまだ上がる余地はあるはずだ。人間は他の種族より、半神になれる可能性が高いんだからな。

 父上とも相談して、俺の信頼できるやつの戦闘力強化といきますかね。猶予は5年だ。なんとかなんだろ。いや、なるようにしないといけないんだ。シーラも守るために。

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