半神(デミゴッド)
「過去に類を見ない大厄災が来る。」
突然現れた精霊王からもたらされた情報は、信じられない言葉だった。
「は?」
「って、俺の母であるこの世界の女神が言ってたよ。」
「女神って、女神イーストリアラ? いやいや、規模デカすぎ……つか、大厄災って本気で言ってんの?」
女神イーストリアラとはこの世界を作った女性の神で、竜神、人神、精霊神、神獣神など、この世に存在するありとあらゆる種族の神を作り出したと言われる創造神だ。んで、その種族神は俺たち種族を作り出したと言われている。だから、精霊王=精霊神のイグニスが女神イーストリアラを母さんって呼ぶのもおかしくはない。
けどさ、創造神って本当にいたの? 俺、無神論者だから正直いるとは思わなかっ……あー、信じられない転生というものを体験した時点でいるのかもしれないけど、会ったことがないから、半信半疑だよね。そんな存在に大厄災が来るって言われても、はいそうですかって簡単には信じられない。
「大真面目だよ。魔神の封印が解けるんだって。」
「魔族でも悪魔でもなく、魔神の封印が解ける?!」
「そもそも悪魔も魔族の一つだよ。魔神っていうのは、俺たちの種族神の末弟なんだけど、神話時代に色々あって危険思想を持っちゃったから、魔神アクゼスターは封印したの。だけど、その封印が弱り始めちゃってね……」
そういえば授業で言ってたな。神話の時代という遥か昔。魔神アクゼスターは配下である魔族や魔物を作り出し、この世界を支配しようとした。そして、創造神イーストリアラ含めた種族神がすでに作り出していた配下(自分と同じ種族)と協力して魔神たちに抵抗し、魔神アクゼスターを封印したと。封印しきれずに残った魔族や魔物は討伐していくことになったのだが、いまだに残っているというのが俺たちの知るこの世界の歴史だ。
「……あのさ、封印って俺が知る限り、魔神直属の配下である魔王十体もいるって聞いたことあるんだけど……」
そう。封印されたのは魔神だけじゃない。神から作り出された最初の種族は力が強いと聞く。と言っても何人も作り出せば力が分散するから、魔神以外の種族神は20体以上で力を分散させたとか。
それを知った魔神は、種族神たちに勝つため少数精鋭を作り出した。何人いようが負けないような強さを持つ魔王を。そのせいで種族神、めんどくさいから女神勢力でいいや。女神勢力は数が多いにも関わらず、魔神勢力に遅れをとった。討伐は困難と判断し、魔神と魔王十体を封印したと。
「その通りだよ! キースくん!」
「その通りって……というか、種族神でその解けかけた封印をもう一度すればいいんじゃないの?」
解けるってわかってるなら、再度封印を施せばいいのに……そうしたら俺がしなくてもよくない?
「それができたらこんなこと言わないんだよね〜。」
「えぇ……なんで神様ができないのに俺にやらせようとするの? 俺、封印魔法とか知らないんだけど?」
「エルフ神フィーニアがそう思って封印をしようとしたんだけど、魔神のあまりの魔力の多さに、自分1人じゃ封印しきれなくて無理だって言ってたんだ。」
おいおいおいおい! 神が1人じゃ無理ってどゆこと?!
「明らかに俺じゃ無理じゃん!!」
「俺たちは魔力は貸せるけど、封印の手助けはできないんだよねー。」
尚更俺には無理なんじゃないの? 本当、どゆこと?
「??」
「何千何万という月日をかけて、魔神は魔力量を少しずつ上げていった。俺たちに気づかれないようにね。そして、エルフ神フィーニアの手に負えない段階まで力をつけた。こうなると、今の封印じゃ封印し直せないのよ。できたとしても一年後とか短期間で破られる。」
なにそれ、詰みじゃん。
「そもそもさー、封印ってフィーニアだけでほどこしたわけじゃないんだよー?」
「そうなの?!」
てっきり封印し直そうとしたって言ってたから、エルフ神フィーニアだけだと思っていた。封印をかけ直すなら、力をつけてなければ1人でも大丈夫だったってことかな?
「そうそう! 魔神アクゼスターの双子の兄である人神ジーニアスはさ、他の種族より脆弱だけど繁殖能力が高い人間という種族しか作れなかったんだけど、その分、他の種族よりも進化しやすかった。そこで、
進化、しやすい?? しやすいなら、数千年で何人か進化してね? あー、でも、他の種族よりはって話なのか?
「はぁ……もしかして、その
「そう! 当時三人いたかな。今はいないんだけど。」
当時三人って……俺以上の人間が三人も同時に存在してたの? えぐ……ん? まって、いないの?
「いないの?! 死後は神になるとか聞いたけど。」
「神になるけど、この世界の神にしてないから、干渉ができないんだ。」
「うっそーん……」
「あ、今はいないって嘘。」
「どっちだよ!」
「数分前まではいなかった!」
数分前……ってことは……
恐る恐るステータスを確認すると……
名前:グラキエス・ウィン・アイスリア
年齢:14歳
種族:
ここまで見て、一度ステータスを閉じた。
「うん。きっと見間違いだよね。うん。」
「見間違いじゃないよ〜」
「うん。きっとそう。見間違い……」
イグニスの言葉を無視して、暗示をかけた。ついでに目を擦ってから、もう一度ステータス開いた。
名前:グラキエス・ウィン・アイスリア
年齢:14歳
種族:
職業:王族 Sランク冒険者
二つ名:氷雪の魔剣士
レベル:80
HP 101,120/101,120
MP 200,000/200,000(+200)
能力値:筋力3,000 敏捷5,200(+200) 守備6,000(+200) 器用さ3,960 幸運値8,000 魅力3,920
適正魔法属性:全属性
スキル:鑑定(特級)、隠蔽(特級)、改竄(特級)、擬態(特級)、完全記憶(特級)、能力値上昇(特級)、並列思考(特級)、洞察力強化(特級)、気配察知(特級)、危険察知(特級)、調合(特級)、五感強化(特級)、魔力探知(特級)、真偽眼(特級)、第六感(特級)
魔法創造(特級)、火魔法(特級)、水魔法(特級)、風魔法(特級)、土魔法(特級)、光魔法(特級)、闇魔法(特級)、索敵魔法(特級)
炎魔法(特級)、氷魔法(特級)、嵐魔法(特級)、大地魔法(特級)、雷魔法(上級)、重力魔法(特級)、念話魔法(特級)、精霊魔法(初級)
武術技能(特級)、剣術(上級)、双剣(上級)、大剣(中級)、短剣(中級)、弓術(中級)、槍術(中級)、棒術(中級)、馬術(中級)、柔術(中級)
耐性:毒耐性(特級)、毒吸収(特級)、魅了耐性(特級)、麻痺耐性(特級)、石化耐性(特級)、物理攻撃耐性(特級)、魔法攻撃耐性(特級)、眠り耐性(特級)、呪い耐性(特級)、封印耐性(特級)、病耐性(特級)、疲労耐性(特級)
加護:竜神の加護(守備力上昇)、竜王族の加護(疲労耐性)、神獣神の加護(敏捷上昇)、フェンリル族の加護(嗅覚、魔力探知)、精霊神の加護(魔力量上昇)、精霊王の加護(精霊魔法)
称号:[転生者]、受け入れられし者、毒人間、竜を手懐けた者、竜王族の仲間、竜王族族長の友人、竜を統べる者、フェンリル族の同胞、フェンリル族族長の友人、最強種たらし、ペットたらし、精霊王の友人、精霊たらし
その他:アイスリア王国 第一王子 王位継承権第一位
※[]内は特級鑑定スキルでも見られない。高レベルの完全鑑定魔眼持ちでやっと文字化けする。
「……」
「……俺、幻覚が見えた。」
「幻覚じゃないってばー。」
「ステータスが4倍ぐらいに跳ね上がったかもー、なんて思ってないよ。」
「跳ね上がってるな。」
「んなわけない……」
セスの言葉は無視だ。一旦、落ち着け。うん。落ち着こう。俺はいつのまにか用意されていたティーカップに手を伸ばして、摘んだ。
ガシャッ
「ん?」
不穏な音がして恐る恐る手元を見ると、ティーカップの持ち手がバキッと潰れて悲惨なことになっていた。幸いと言うべきか、持ち上げる前だったから、器の部分は無事で中身も溢れていない。
「……」
「……俺、触っただけなんだけど……」
「力加減ができてないね!」
思わず呟いた弁解は、残酷なイグニスの言葉に後押しされる形となって、現実を見せつけた。
「うわぁぁぁぁぁん!! もういやだぁぁぁー!!!!」
俺の大絶叫は城中に響いたが、
「あ、殿下の声だ。」
「いつものですね。」
「また何かしたんですね。」
「問題はないな。」
と、流されていたのだった。
「このままでは日常生活に影響があるな。」
「かと言って殿下に質素なものを使わせるわけにもいきません。」
父上とゴルドールはさすがと言うべきか……切り替えが早い。もう俺の怪力で、想定される影響を考え始めた。
「しかし、とんでもない硬さの家具を揃えるとなるとドワーフの国にしかないであろう? キースは金を派手に使わんから貯金はあるが、さすがに材料を揃えるのが厳しい。」
陶器は硬いはずなのに、摘むだけであっさりと割れた。つまり、陶器は俺にとって紙切れ同然ということ。まぁ、土を焼いたものだから、脆いっちゃー脆い部類に入るんだろうけど。それより硬度のあるものといえば、合金、ダイヤモンド、ミスリル、オリハルコンなどだろう。かと言って、そういうものほど加工できる人間は少ない。けど、器用な職人であるドワーフなら加工できる人は多い。まぁ、ドワーフは偏屈とかいうし客は選ぶという噂だ。百歩譲って作ってくれたとしても相当金がかかるし、金以前にレア金属だから素材調達の段階で苦労する。現実的じゃない。俺のためだけに調達させるのも、なんか、俺が嫌だ。食器とかのために希少金属使うの? 贅沢通り越すだろ。恐れ多いわ……というか、日常生活するのに怪力なんていらない!!
「誰か……俺に弱体魔法かけて……」
「そんな魔法聞いたことありませんよ?」
そうなんだよね。俺も聞いたことない。試しにティーカップのソーサーを持ってみ、ようとして、ピシッと音が鳴ったのですぐに離した。
「だよねー、そんなものあるわけ、」
「それなら、精霊魔法を使えばいいよ。」
ん? 精霊、魔法?
「え?」
「精霊魔法は自然にある魔力の素である魔素を使って魔法を使うんだけど、その中に相手のステータスを弱体化させる魔法があるんだよ。それを自分に向ければいいだけ。やり方は俺が教えてあげる。」
もし、本当にそれができるようになるなら、いつもと同じ暮らしができる。つまり、食器など一新する必要もない。
「……マジ?」
「マジ!」
「今すぐ、それ教えて!!!」
今すぐ速攻で習得する!
「いーよー!」
「「「かる!」」」
「じゃ! 今すぐ速攻で教わるから父上たちはリーズロットたちと話し合いしててね! セス行くぞ!」
「はいはい。」
新しい魔法を使えるようになることと、怪力がなくなる嬉しさに、勢い余って執務室のドアノブを掴んだ。掴んでしまった。
「「「「あ。」」」」
バキャッという音がした。手のひらにはドアノブの残骸が……
「……一刻も早く弱体魔法を習得してやるっ!」
「弱体魔法を習得したがるのも変な話ですね。」
「セスは黙って。あと、俺の代わりにドア開けて。」
「はいはい。どうぞ。」
まだ壊れていない方のドアノブを掴んで開いてくれたので、俺はセスとイグニスを連れて訓練場へ向かった。
〜side:アルバレスト〜
その頃の国王執務室では……
「なんともまぁ、不便な体になったものだな。」
「ですね。強ければ強いほどいいとは思っていましたが、強すぎるのも考えものですね。」
「そうだな。さて、リーズロット殿。フェンリル族がここに来るということは、移住すると思ってもいいのですね?」
「そうだ。どうせ今住んでいる所も住んでいられる環境ではないのでな。リーベルティが信用したあの男に賭けてみることにしたのだ。」
「キースの友人というのであれば、こちらもできる限りのことはしたいと思います。しかし、この国も絶対安全とはいえません。そのあたりは了承していただきたい。」
「構わない。なんなら、山や森のどこかだけ貸してくれれば勝手に移り住むのでな。」
「我らと同じところに住めばいいのでは? 皆も喜ぶぞ。」
「私たちはそれでもいいが、王宮なのだろう? そこまで世話をさせるのは迷惑というものだろう。」
「いえ、キースの収拾癖は今に始まった事ではないので。二種族いようがあまり変わりませんよ。」
「だそうだ。」
「では、その言葉に甘えるとしよう。」
まさか、竜王族と神獣、精霊王をこの目で見られるとはな……
しかも、その内二種族は王宮に住むのだ。
この国はどうなることやら……
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