案外悪くないのかも 〜side:リーベルティ〜
僕は、フェンリル族のリーベルティ。25歳の子供だ。でも、いろいなことを教わってるから、人間の子供よりは賢いつもり。
僕らフェンリルは、人里から離れた森の中に住んでいて、普段は人が入れるような場所じゃない。だけど、なぜか、その日だけ森の中にいたはずの強力な魔物がいなかった。おかしいなと思ったその時、人間に捕まった。
抵抗をしたけど、足に何かがちくっと刺さって、痛いと思ったら意識が途絶えた。
次に目を覚ますと、檻の中にいた。地面はゆっくり、ゆらゆら揺れていた。どうにかして檻を壊そうとしたけど、魔法が使えなくて、逃げられなかった。自分の里の位置はわかるから、自分で逃げることは諦めて里に向かって魔力を流し続けた。
それから数日。どこかに着いたみたいで、床の揺れが少し弱くなった。だけど、いくら待てど外に出ることはできなかった。お腹すいたけど、僕を家族から引き離した人間の食べ物なんて食べたくなかったから、我慢した。
また、数日。なんか、えらい人が来たみたいだけど、同じように威嚇したら短剣を投げられて足を怪我した。痛くて痛くて仕方なかったけど、とにかく近寄られたくなかったから、威嚇しまくった。そしたら、なんか天井の方が騒がしくなった。騒ぎが起きたことで、人間が1人残して全員出て行った。お父さん達の魔力じゃないから、俺を助けに来たわけじゃない。
そう思っていたら、微かな足音が俺のいる部屋の前で止まったのが聞こえた。俺が聞こえるぐらいだから、人間には聞こえてない。どうなるんだろうと思ったら、ブワッと毛がさかだった。今まで感じたこともない魔力の密度だった。いや、薄く伸ばしてただけだけど、それでも、感じた。お父さん以上の、魔力制御量に怖くなった。何があっても勝てないと、本能から逃げたいと感じた次の瞬間。扉が木っ端微塵になり、人が入ってきたと思ったら見張り番の男を気絶させた。すごい強さだった。
精一杯の強がりと威嚇で近寄るなとアピールしたけど、その男は、俺に近寄ってきて、鍵を壊した。一瞬だった。え、何をしたのかと思っていると、目の前に手を差し出された。びっくりして噛んじゃったけど、優しい声がしただけだった。
そして、温かい光に包まれたかと思ったら、足の痛みがなくなった。口を離してその場で歩いてみると、足の痛みが消えていた。治ってることが嬉しくて声に出すと、僕が噛んじゃった人間と、その人間と一緒にやってきた人間が、同時に僕が喋ったことに驚いた。失礼だな。僕だって喋れるんだって怒ると、くすくすと笑いながらごめんって謝られた。なんだろう。このお兄ちゃんは今までの人間と違う。
『怖かったよな。もう、大丈夫だ。』
そう言われたのは、初めてだった。声も、目も、優しくて、なんとなくだけど、信じてみてもいいんじゃないかって思った。その時に、ふと懐かしい匂いがした。匂いの元を辿ると、竜王族のおじさんと同じ匂いがする魔物がいた。おじさんは、人間に擬態して、自分たちが済むための場所を探していると言っていた。つい最近、その場所が見つかったから、ここから出ていくと言って、しばらく会ってないけど。間違いない。魔物に擬態していても、竜王族なのはわかった。
お兄ちゃんの話を聞いてみたけど、ずっと僕に申し訳ないって気持ちがこもっていた。あと、誰かを守りたいって覚悟した目。お父さんが言ってた。
———信念を貫き通すものの目は、なぜだか惹きつけられる。手を貸したいと思う。お前もすぐにわかるよ。自分の直感に従ってみなさい。———
って、言っていた。それが、こういう目なんだって思った。信じてみたいって思ったのは間違いじゃない。だから、僕はお兄ちゃんと一緒に家族を止めるために一緒に船から出た。なんとなく、竜王族のお兄ちゃんみたいに肩に乗りたくて乗ってみた。肩にぶら下がって怒られなかった。楽しくてはしゃいでいてもそのままでいさせてくれた。優しいお兄ちゃん。
外にでると、久しぶりの日差しに眩しく感じた。でも、暖かくて気持ちよかった。
お兄ちゃんと一緒に父さん達のところへ向かう。徐々にピリピリとした空気を感じた。怒りの感情で滲み出た魔力だった。後少しで会えるところで、お兄ちゃんが飛ぶのをやめた。お兄ちゃんとしては、港に被害が出ないように離れた場所で待つつもりだったらしい。
それはいいんだけど、遊んでてもいいの?
海の上に降りたのはいいんだけど、こうかなとか言って魔力を込め始めた。こんな非常事態に新しい魔法を試すとか、どうなってんの? 余裕なのかと思えば、意外とそうでもないみたい。手が震えてるのが視界の隅で見えた。あとは、単純にこれしか方法がないみたいだから、腹括ってるんだと思う。
僕がいた倉庫から、外に出るまでに何人もの人間が倒れていた。そして、騒ぎがあってからほとんど時間をかけずにここまで来たことを考えると、お兄ちゃんは相当強いのがわかる。僕はお兄ちゃんに、直接敵意を向けられたわけじゃなかったけど、お兄ちゃんが扉の前で少し魔力を流しただけで、僕は恐怖に染まった。多分、僕のいた群れ全員でかかっても、お兄ちゃんには敵わないと思う。
自分の価値はわかってるつもりだ。人間にとって極上の素材となることを。
めちゃくちゃ強いお兄ちゃんなのに、僕を素材として扱わず、逃がしてくれるという。僕だけじゃない。国が襲われるというのに、お兄ちゃんは敵が違うんだからと言って、僕を助けに来てくれた群れを殺したくないという。このままじゃ、お兄ちゃんの国が襲われるのにだよ?
この世は弱肉強食の世界だ。弱いのが悪い。だから、僕としては、殺されても文句は言えない。そりゃあ怒りを感じないかと言われると、まったくもって違うし、仇を討つつもりで喰らいつくけどさ。
お兄ちゃんは、優しいんだ。僕たち神獣のことも、素材じゃなくて、ちゃんと一つの個体としてみてくれるんだ。僕、お兄ちゃんになら、素材として扱われて殺されてもいいや。なんとなく、そう思った。
「いよいよ、おでましだな。」
水平線から、何かが見えた。
「父さん達だ……」
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