それはパンドラの箱か 〜side:アイン〜
俺はアイン。
アイスリア王国の第一王子であるグラキエスの婚約者、プリシラ・ガーディーアンを殺せと、闇ギルドから依頼があった。いくら闇ギルド1の実力者の俺でも、未来の王族を襲ったとなれば死ぬだろう。
闇ギルドとは言え、依頼を受けるかは受ける側の意思だ。一応、最低限の人権はある。だから、今回の依頼は断ろうとした。でも、依頼主は俺を虐げた実家だった。
これはチャンスだと思った。母を殺したあいつらを、王族の婚約者を殺した罪で没落はもちろん、公爵と、その直系は殺せるって。
その代わり俺も死ぬだろうけど、それでもよかった。
だから俺は、ギルマスに、この仕事で死ぬことを遠回しに示唆して、他に受けていた依頼を最速でこなしてから、最後の依頼として受けおった。
そして、依頼主の元へ向かった。
一応依頼主だから下手に出たけど、それでもいつもなら俺を知っている奴は怯える。が、ケミサリー公爵は違った。下手に出た態度をこれ幸いに、幼少期と同じように攻撃してきた。その瞬間漏れ出そうになった殺気。でも、我慢して抑えた。変わらない態度に、俺は考えた。一番、苦しむ方法は何かって。
貴族としてのプライドをバキバキにへし折って、痛めつけて、殺す。
だから、王族にこの情報をリークした。ケミサリー公爵家を探ってるのは知ってたから、それはもう盛大にペラペラと。多分、向こうも俺が暗殺者だって知ってる。自分で言うのもなんだけど、闇ギルド一の実力者として有名だったし。
結果はうまくいった。あとは、プリシラ・ガーディーアンを襲撃したあとだ。俺は殺される覚悟はした。でも、あいつらを苦しんだかを見届けたかった。どうやって、それが叶うかだった。ガーディーアン侯爵家は使える人間はなんでも使う人物で、そこに同情はない。正直言ってどうなるかはわからない。だから、ガーディーアン侯爵家と懇意なグラキエス第一王子を調べた。何かないかと、ダメ元で。
隠密スキルと隠蔽スキルを駆使して王宮に潜入できたまではよかった。だけど、王子が気を抜けるような場所、後宮や執務室はさすがに影の護衛があり見つかる可能性があって無理だった。でも、その護衛も手薄になるタイミングがあった。それが、王子が冒険者ギルドに行った時だ。
王族が冒険者とかなんの冗談だと思ったけど、思いの外受け入れられているし、キースと言う人物は少し知っていた。情報を集めようとしなくても耳にするぐらいには有名人だったから。まぁ、俺は興味なかったけど、まさかここで繋がるとは思わない。
とりあえず、キースとしての王子を調べると、とんでもない化け物だった。特にポイズンリザードの情報。ほとんど王子が倒したって話だ。氷魔法の最上級とも言える大規模魔法フローズンフォレストを発動したって。一緒にいた冒険者のサポートを片手間に何匹もポイズンリザードを倒したりエリアヒールも使いこなしたりと、とんでもねぇなおい。噂の一人歩きかと思えば、意外とそうでもなさそうだった。一緒にいたレッド・スカイという冒険者パーティに聞いても噂と同じ反応と同じ言葉。
絶対に敵に回したら死ぬ。真っ向勝負を仕掛けても死ぬ。不意打ち、奇襲を仕掛けても、成功率は極めて低い。なぜかって? ある一定ラインの距離に近づくと見られるんだよ。すぐに隠れるから目視では見つかってないだろうけど、多分気取られてる。
近距離はダメだから遠距離から様子を伺うことにしてしばらく。色々と使える魔法もそうだけど魔力量もでたらめ。完全に人間としては規格外だし、鑑定スキルもある。毒草と薬草の違いを瞬時に見分けられていた。不可能ではないけど、さすがに仕分けるスピードが早すぎたからあると思った。
1ヶ月。色々と調査して、俺は王子と交渉することを決めた。プリシラを襲い、ガーディーアン侯爵家に捕まって王子が来るまで拷問に耐える。使えるものは全て使うガーディーアン侯爵なら、婚約者を溺愛している王子が婚約者の様子を見るために侯爵家へ尋ねるはずだからそのタイミングでついでに鑑定してもらおうと思うはず。俺の侵入方法を解明しないといつの間にか侵入されていたりするから、対策を考えるために。俺ならそうする。拷問より確実性はあるから効率いいしな。その時に、俺のステータス以外の情報を対価に殺すのは後にして欲しいと確約をもらう。正直、分の悪い賭けだと思う。自分でもわざと捕まるのはバカだと思うし、そもそも王子が約束してくれるかもわからないし、王子が来るまで俺が生きてるのかすらわからない。稚拙だと分かってはいるけど、俺が考える限りではこれが一番確実性が高いと思った。それもこれも王子自体が規格外だから近づけないのが悪い(責任転嫁である)。
さて、終焉の幕開けだ。
なんて思ってた時期があった。
今現在、俺は思惑通りに第一王子と話すことができた。ここまではよかった。その後から徐々に計画が狂っていった。
––––俺の部下にならない?––––
そう言った王子の顔は笑顔だった。底が知れない、なんとなく恐怖を覚える、そんな笑顔。でも、なんでかわからないけど、どこか眩しいと感じた。俺は頭のネジがぶっ飛んでると自覚はしてる。
でも、不思議と、
最初は罪悪感もあったけど、徐々に慣れてきて、どんなやつでも命の軽さは皆平等。ついに俺は殺すことになんの躊躇いもなくなった。どんどん実力を上げて、変わり映えのしない毎日。刺激がない日々。
王子についていけば、そんな毎日が覆るんじゃないかって予感。俺らしくもない未来への予感を抱いた。本当に、俺らしくない。
でも、悪くないと思う自分がいたのも事実で……
だから俺は、王子についていくと決めた。
そんな時、予想外の来客があった。俺が襲ったプリシラ・ガーディーアンだ。王子にゾッコンな女だから、俺が部下になるのは反対だと言うと思っていた。説得が難しいかと思いきや、予測とは逆のことを言い出した。
–––––王子の思うままに––––
契約というスキルを使って俺を縛ることが条件だったけど、それでも構わなかった。信じられない気持ちのまま、半信半疑で条件を聞いた。俺に死ねって命令だったら、とも思っていたから。でも、やっぱり予測とは逆のことで、裏切りさえしなければ側にしてもいいと言うものだった。
狂ってる。
王子が見てない時のプリシラ・ガーディーアンの瞳を見た時、王子以上に仄暗かった。王子が見た瞬間に普通の瞳に戻ったから、王子は気付いてないし隠してるんだと思う。似たもの同士かよ。こっわ……
まぁ、ガーディーアン侯爵家の別名を考えれば納得はできるけど。
ガーディーアン侯爵家
表の名前は王家の盾
裏の名前は
––––鮮血の番犬––––
王家を守るためならばどんな手段や方法を使ってでも守る。幼少期の頃からそう教育されていて、裏社会にいるやつなら絶対に、この家に手を出してはならないとほぼ本能で知っている。暗黙の了解というやつだ。だから俺は、この家に手を出す時、死を覚悟していたんだけど……
色々と納得だよ。
この王子様の婚約者ならこういうぶっ飛んだやつの方がいいんだろう。
俺は、運がいいのか悪いのか。
この選択は、俺にとって邪の道か。
掴んでみないとわからないけど、この人たちならいいや。地獄は地獄でも楽しくなりそう。
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