暗殺 

 

 シリアスという攻略対象その6が、俺と同じ転生者だと知ってから、1ヶ月。シーラとは週5ぐらい、その合間に公務と魔道具、ポーション、魔法を勉強と試作作り、シリアスとは週1ぐらいの頻度で会って話すを繰り返し、あっという間に5月となった。

 

 この1ヶ月で変わったことといえば、セスに婚約者ができたことかな。ゲームと違って、幼馴染の婚約者ではない。今世ではセスは幼馴染はいないらしい。多分、俺がいる影響だろう。そういえば、セスは7歳からグラキエスの遊び相手だったはずだ。それが今世では5歳から俺と一緒にいるから、幼馴染を作るほど時間がないのだろう。一言言っておくと、俺はセスに来いって言ってない。ゴルドールですら言ってない。つまり、自分の意思で俺のそばにいるのであって、決して俺が呼んでるわけではない。まぁ、嬉しいから来るなといえない俺も悪いけど。

 あと、ゲームでのセスの婚約者はチカリア・エドワール伯爵令嬢だよって言ったら、今世のセスは顔を顰めていた。どうやら、無礼を通り越して、瞳の色をバカにされたから嫌いなんだって。あーららって思ったけど、今のセスにそれは禁句だから、仕方ない。俺が綺麗だと言った時から、吹っ切れたらしく、瞳に関して悪口をいえば、セスの大嫌いな対象になるらしい。はたして、吹っ切れたのかどうかはわからないが、コンプレックスではないらしいから、吹っ切れたということにする。

 

 肝心のセスの婚約者だが、クリスティーナ・アリアーデ辺境伯令嬢だ。辺境伯という爵位からも分かる通り、アイスリア王国の最東端に位置するアリアーデ家の次女だ。アリアーデ辺境伯は忠誠心が高く、功績も多々。侯爵に陞爵しようという話は出ているけど、それをくるくるっとボールのように丸めていらねぇ! って叫びながら蹴っとばす人物なので、辺境伯におさまっている。本人が言うには、治める領地が広くなるので、それに比例して収める税が上がるし、これ以上仕事が増えたら、俺は死ぬからやめろってことらしい。確かに、アリアーデ辺境伯は、年中忙しそうで、あまり王都へと呼べないんだよね。こっちとしても、本当に忙しいなら、こなくていいって言ってるから、パーティは大体欠席だ。さすがに娘たちの社交界デビューの時はきたけどね。あ、辺境伯と父上は学友だから、結構気安い関係だよ。俺も親戚感覚で話せる人ではあった。

 

 アリアーデ辺境伯領は辺境の地ではあるが、貿易業が中心で、他大陸の商品の輸入や、輸出もやっていて他国と国交をするにはなくてはならない存在でもある。

 外交官大臣は基本的にウェストリア諸島との国交を優先してるし、こっちもこっちでめんどくさいから、他大陸の交易はアリアーデ辺境伯家の仕事なんだって。一応棲み分けはしてるから、この両家はまぁまぁ仲はいい。協力しましょうって感じ。

 

 なんでゲームと婚約者が違うのかって話だけど、セスがチカリア嬢を嫌ってるのもそうだけど、それ以外に大きな理由がある。最近南のバッカー大陸が物騒だから、信頼できる王に近しい貴族と、アリアーデ家で婚約を結ぼうってなったのがいちばんの要因だと思う。クリスティーナ嬢と同じ年頃の男は何人かいて、まだ婚約者がいない男は、セスの他に三人ほど。だけど、大体は伯爵家未満だったから、王家と近しいかと問われるとほんの少しだけ微妙になる。それに、アリアーデ家は上位貴族だから、同じ上位貴族となるとセスしかいくなる。

 と、大人の事情というやつで婚約が決まった。2人とも愛のない結婚でも割り切れるタイプではあったが、普通に恋愛が芽生え始めてるそうだ。あのクールイケメンなセスがふわっとした笑みを浮かべてクリスティーナ嬢の話をする。俺としては最低限の愛情さえあればいいとは思ってるけど、愛が深くなるなら深くすればいい。結局は周りに迷惑かけずに本人たちが幸せならなんでもいいのだ。

 

 そんな感じにどんどんゲームのシナリオから逸脱してきた今日。ついに動き始めたそうだ。

 

「は? 今なんつった??」

 

 セスがいつもより少し早めに登城してきたと思ったら、開口一番に信じられないことを言われた。

 

「昨夜、暗殺者に屋敷を襲撃されて、シーラが暗殺されそうになったけど、持っていた魔道具によって無傷だから、安心してって言った。あと魔力ダダ漏れだ。俺はいいけど、部屋の外にいる騎士がきついから抑えてくれ。」

 

 聞き間違いじゃなかった報告を聞いて、俺は怒りで魔力が漏れだし、部屋の気温を下げる。相当な魔力が高密度なのに制御されず、威圧感として存在していて、部屋の外にまで威圧してしまう。その真っ只中にいるはずのセスは恐れることなく、俺を諌めるだけにとどめた。セスはたまに、こんなふうに俺が暴走しているのを間近で見ているから、経験値が違うけど、外にいる騎士たちはそうじゃないので、気持ちと魔力を落ち着かせるために、息をゆっくりと長く吐き出した。

  

「ふぅ……で? シーラは無事なんだよね?」

 

「あなたが贈ってくれた魔道具が暗殺者の攻撃を防ぎ、その大きな騒音とも言える音で、寝ていた私たちが起きたからね。シーラ本人も、起きた時に魔力を込めたから、より強固な防御結界になって、指一本も触れなかったよ。」

 

「それはよかった。」

 

「よかったですけど、あの魔道具、国宝級では??」

 

 え? シーラにあげたもので、防御系統の魔法陣が刻まれていて、寝てる時もつけていられるアクセは、ブレスレットのはず。あれは10歳の時に作ったもので、物理攻撃無効と魔法攻撃無効の二つしか重ねてないもの。持続時間は宝石が負荷に耐えられるまでで、大体一時間しか効果がない。だから、俺は後から二つ追加した。一つ目は魔道具に魔力を流すための魔石代わりになるもの。魔法陣を刻まなくてもいいんだけど、刻んだ方が効率がいいから使う。前世でいうところのコンセント見たいな? そこに魔力を流せば勝手に魔道具に流れて結界魔法を維持してくれる感じ。二つ目が、もし初撃の攻撃でメインの宝石が負荷に耐えられなくて砕けても、身代わりとなる二つ目の宝石が砕けるというシステムにした。

 理論上は、どんな攻撃もほぼ絶対に一度は防ぐし、二度目以後は、自分で魔力を注いどけば本人の魔力が無くなるまで攻撃し続けないと殺せない。あと、もう一つ隠しシステムがあって、一つ目の魔石代わりになる宝石には、結界を攻撃すると騒音が鳴るっていう魔法陣を刻んである。かなり騒音が鳴り響くから、何度も何度も攻撃してれば周囲が気づかないはずがない。

 

「え、そんなことないと思、い、たい、けど、、」

 

 魔道具とは、核となる魔石に魔法陣を刻むことで、どんな人でも魔法を使えるようになる。ただし、魔石に込められた魔力がなくなると砕けて使えなくなる。使い捨てなのだ。その代わり、核は宝石でもいいんだけど、魔石のように魔力が込められてないものだから、誰でも使えるわけではない。しかし、石が砕けさえしなければ何度でも使えるのが特徴だ。王宮の宝物庫は、人と魔道具で警備をしている。その魔道具の核は宝石で、毎日魔法師団長が魔力を流し込んで、発動させている。毎日じゃなくても3日ぐらいは持つけど念のためだ。

 

 そして、核となる石に刻む魔法陣とは、魔法を発動するための魔法回路のことだ。基本、魔法は魔力と魔力制御とイメージがあれば、発動する。だけど、無機物はイメージと魔力制御なんてものはできない。その代わりとなるのが、魔法回路だ。回路の形の違いで発動する魔法の種類や威力、持続力などが異なる。完成した魔法回路の全体図は、陣のようにも見えるから、魔法陣と名付けられた。

 だが一般的に、三つ以上の魔法効果をだすような魔法陣を刻むことはできない。理由は、魔法陣が複雑になればなるほど、魔法陣が物理的に大きくなる。わざと交差させる回路は別にいいんだけど、わざとじゃない場合は魔法が失敗するか不発する。太い筆で画数が多い漢字を書くと文字が潰れるでしょ? 薔薇っていう漢字とか。魔法陣も同じ。二メートルの魔法陣を手のひらサイズの魔石に刻むなんてそんなことできないでしょ? 国宝級の魔道具って、魔法効果が高いのに大小様々あるのは、魔石の大きさや魔法の効果もあるけど、小さい石に大きい魔法陣を刻むのは難しいから、国宝級なわけだ。

 

 一応、その対策の一つが、一つの魔法陣に色々な魔法効果が出るように回路を作るんじゃなくて、二つや三つの魔石に魔法陣をそれぞれ組み合わせて刻み、段階的に魔法を発動させる。そうすれば、一つの魔石が砕けても、同じ魔法陣を刻んでそれだけ交換すればまた使えるようになる。わざわざどでかい魔石を探しだそうする労力も、その間の魔道具が使えないという不安もなく、安い魔石代だけで済むから、メリットが多い。デメリットとしては安い魔石ほど魔力量が少なくて砕けやすいから、交換の手間が多いってところか。

 

「自覚しろって何度言えばいいのか……あの身代わりになる魔法陣なんて、普通は刻めないはずなんだが? あんな小さな宝石に、そんな複雑で意味不明な魔法陣なんてかけないっての。」

 

 身代わりの石って、守る対象の核との距離を設定するんだけど、身代わりの魔法ってのが既存の魔法にはないんだよね。だから、俺は結界魔法の応用で、半径数センチ以内にある核の負荷を転送するようにした。それなりに魔法陣が大きくなったから、独自の言語を作り出して、回路ではなく本当に魔法陣にしたけど。繋がってる回路もあれば繋がってない回路もあるし、途切れてる回路もある。だけど、日本語を知ってれば、解明できるでしょ。

 

 だって、独自の言語って日本語とか漢字だし、その文字に意味があれば、回路の代わりになるってきづいちゃったんだよね。めんどくさい回路を引いて構築しなくても、文字さえあれば魔法陣できたってね。そう言えば忘れてたや。あれも試しで作っただけなんだけど、思いの外上手くできちゃったんだよね。

 

「あー……そう言えばそうだったね……」

 

「あんたの頭の中は一体どうなってんです? 一度でいいから覗いてみたいよ、本当に。」

 

「あはは……それより、シーラのところに行こう。」

 

 状況とかも詳しく聞きたいしね。

 

「書類仕事はどうするんだ?」

 

「帰ってからやるよ。終わらなければ夕食ギリギリまでやるよ。」

 

「無理はしないように。」

 

「わかってる。」

 

 俺は急いで着替えて、部屋を出た。シーラ、トラウマになってないといいけど……

 

 王宮を出て馬車に乗り込んで、セスが知ってる範囲の情報を全て教えてもらった。

 王都には、平民街と貴族街、商業街などがあるんだけど、商業街の奥の奥の奥まった場所、特殊な手順を踏まないと入れない闇ギルドがある。王家には影がいるけど、他の貴族には影の役目を果たす人がいないので、闇ギルド所属の人間に仄暗い仕事を依頼する。この国では奴隷は禁止しているから、犯罪者は大体鉱山で鉱夫として過ごすけど、重犯罪者は闇ギルドに売られることもある。借金を抱えた人間も大体はこっちに流れる。子供は孤児院もあるけど、そこが合わないと闇ギルドに行く。そこで徹底的に教育されて暗殺者などになるか、使えない時は死ぬか。そんな闇の世界だ。本当はそんなところなくなればいいんだけど、そうも行かないからねぇ……だから、王家は闇ギルドを注意深く監視しつつも存在を見逃しているのだ。

 

 んで、その闇ギルドから雇われた暗殺者がシーラの寝込みを襲い、暗殺しようとした。だけど、俺の魔道具がシーラを守ったことで、騒音が鳴り響き、シーラや屋敷の人間全て飛び起きた。シーラはとりあえず混乱しながらも魔力を流し込んで結界を維持。セスが最初に部屋に駆け込み、捕縛された暗殺者を確認したそうだ。多分影が捕獲したんだろう。一応警備の騎士はいたけど、屋敷の中に忍び込ませない前提の警備だった。かなり厳重な警備だったはずなのに、突破されていたそうだ。その理由がわからないからスキルではないかとのこと。セスがこっちに来るまで、拷問しても白状しなかったそうだ。できれば俺に鑑定してほしいとのこと。そんなもんお安いご用だ。

 

 安全運転ギリギリの速度で急いでもらってゴルドール家の屋敷へとついた。セスをともなって急足でシーラの部屋へ向かった。ノックをすると、すぐに返事が返ってきたので、扉を開けた。

 

「シーラ! 無事??」

 

「キース様! 来てくれたんですね。今すぐお茶を淹れるのでお待ちください。」

 

「え? シーラがいれてくれるの? やったね。」

 

 部屋のソファにくつろいでいたシーラが俺の顔を確認すると、すぐに立ち上がりティーポットから紅茶を入れ始めた。シーラがいれてくれた紅茶とか絶対飲みたい。ルンルンでシーラの元まで行き、隣に座ってから、ハッとなった。

 

「って、違う! 和んでる場合じゃない! シーラ、大丈夫なの?」

 

「襲われた件ですよね? 大丈夫でしたよ?」

 

「怖かったよね?」

 

「怖かったというより、驚いたという方がしっくりきます。」

 

「そうなの?」

 

「はい。私にはキース様にいただいたブレスレットがありましたから。」

 

 確かに、そのブレスレットはセスが言っていたように国宝級かもしれないけど、心は守れないんだけど……? 襲われた事実は怖い、はず……

 キョトンとしていると、シーラは俺の顔を見てくすくす笑った。

 

「なんでって顔してますね。」

 

「え、うん。だって、襲われたことには変わらないし、普通なら怖いと思う。俺がシーラだったら怖いし。」

 

「ふふ。キース様はわかってませんね。」

 

「え?」

 

「私は、キース様が絶対に助けてくれるって信頼しています。だから、この魔道具のことも信じていました。あの男の刃は私には届かないという自信がありました。だから、怖くなかったのです。」

 

 シーラの顔を見るけど、強がっても、俺を納得させるための嘘をついているわけでもなかった。本心から、怖くなかったといっている。

 

「本当に、怖くなかったんだね?」

 

「起きたら知らない男が部屋にいたことは怖かったですけど、それは一瞬でした。私を守るように展開された結界を見たときキース様を思い出して、とてもホッとしたんです。そして、急いで魔力を注がないとと思いました。」

 

 本当、この子はひどい殺し文句を言うよね……その言葉、男がどれだけ喜ぶと思ってんの……? 俺を信頼してくれる、非常事でも冷静になれる度胸、その心の強さに、俺は何回この子に惚れ直せばいいんだろう。

 

「もう、シーラは何回俺を惚れ直させる気なの?? シーラが愛おしすぎて俺は死にそう……」

 

 心臓を射抜かれたように痛くて、バクバクしていて、俺は胸を押さえながらソファに倒れ込んだ。

 

「え?! 死なないでくださいね?!」 

 

「死んじゃうかも……」

 

「私を置いて行かないでくださいね。」 

 

「それはやだから生きる……でも、心臓が苦しい……」

 

「私にできることはないですか?」

 

 ものすごいオロオロしてる気配がするけど、これ以上の供給は致死量です。

 

「したら今度こそキースが死ぬからそっとしておけ。」

 

 見かねたかのようなタイミングでセスがシーラを宥めて、やっと落ち着いたらしい。俺は落ち着けないから、しばらくはソファとお友達である。

 

「お兄様、いたのですね。」

 

「キースと一緒に入ってきたのだがな……全く、我が妹ながらキースに夢中すぎる。いや、我が妹だからこそと言えばいいのか。」

  

「そんなのはどうでもいいよ。それより、シーラの紅茶を飲まなきゃ!」

   

 確かに、お前ら2人は俺に絶対的信頼をしているし、そういうところは似てると思うけど、今はそれどころじゃない。シーラの淹れてくれた紅茶だ。飲まなきゃ人生半分損する。俺の分のティーカップを持って一口飲んだ。

 

「うん。美味しい。すごいね、シーラ。」

 

 紅茶入れるのは難しいんだけど、この紅茶は侍女が出してくれる紅茶と遜色がない上に、俺の好きなアールグレイだった。

 

「アールグレイだけでも淹れられるように練習しました。失敗したものは全部私とお兄様の胃袋です。」

 

「なるほど。もしかして、俺がアールグレイが好きだから?」

 

「え、っと、そう、です。」

 

 シーラが照れながら肯定した。なにこの健気な生き物。可愛い。

 

「本当、可愛い……」

 

 俺がシーラに内心デレデレしていると、ここにきた第二の目的を思い出した。

 

「そうだった。ゴルドールのところに行くんだった。セスよろしく〜。」

 

「はいはい、わかってる。」

 

 貴族の屋敷を訪ねる時は、先触れという連絡方法で今日そちらに行ってもいいかお伺いをする。今日、先触れは出そうとしたんだけど、セスが、俺がすっ飛んでくるだろうと予想して準備してると言った。だから、なんも連絡をしてないから、まだここにいることをゴルドールは知らないはず。いや、来たことは執事が報告していれば知ってるはず。

 お? 廊下から誰かの気配。噂をすれば、だな。

 

「きたか。」

 

 部屋の扉をノックする音と同時に、ゴルドールの声が聞こえた。

 

「シーラ、殿下がいると聞いたのだが、入ってもいいか?」

 

 シーラが俺を見たのでもちろん頷いた。

 

「はい、お父様。どうぞ。」

 

 シーラが許可を出すとすぐにゴルドールが入ってきた。

 

「おはよ。お邪魔してるよ、ゴルドール。セスが先触れはいらないとは言ってたけど、一応、謝っておくね。」

 

「グラキエス殿下、おはようございます。娘を溺愛している殿下のことですから、報告を聞き次第すぐに来ると思っておりました。私がセスにそう言えと伝言もしてありましたし、謝罪は不要です。お気になさらず。」

 

 俺がシーラが心配ですっ飛んでくるのは誰でも予測できるだろうけど、それだけじゃないな。普通に先触れを出しても、忙しくて見ることなく俺たちが来る可能性もあったし、普通に先触れを出す時間と届く時間を逆算しなきゃいけないし、俺が少し待つ時間もあったからその諸々を考えた結果。くるとわかってるのに先触れを出すのも紙と時間の無駄と考えたんだろう。紙は安いから無駄になってもいいとしても、時間を無意味に消費するのは非合理的と言う考えは同感だから、俺としては助かるけど。

 

「そう言ってくれると助かるよ。んで、あれから何かわかった?」

 

「それが、なかなかに口を割らなくて、セスが知っていること以上は何も。」

 

 ゴルドールが面倒だなって顔してる。そこまで口を割らないのも、すごいプロ根性だな。素直に尊敬する。俺だったら拷問される前に速攻口を割ってトンズラする。あ、シーラに危険が及ぶなら、なにも喋らずに死ぬ気で逃げるけど。

 

「ふーん。じゃあ、俺が行くよ。この国に俺以上に鑑定スキルを持ってるやつは多分いないし。」

 

「でしょうな。殿下が力を貸してくれるなら助かります。よろしくお願いします。」

 

「はーい。じゃあ、シーラまたあとでね。」

 

「はい。お気をつけて。私を襲った男は少し違和感を覚えましたので……」

 

 俺が不意打ち以外で死ぬわけないのに、心配してくれるとか、可愛すぎる。でも、シーラの勘は鋭いし、覚えておいて損はないな。

 

「わかった。ありがとね。」

 

 シーラの紅茶を全部飲んでから、セスと一緒にゴルドールの後についていく。シーラの部屋は2階、暗殺者を捉えている場所は地下1階。簡単に逃げられないように、地下に向かう部屋は使用人部屋の奥持った場所。普段から使われていない場所だから、多少大きな音が出ても大丈夫らしい。

 

 しばらく歩くこと数分。仄暗い廊下に差し掛かり、部屋が少なくなった。突き当たりに到着する頃にはその扉以外なにもなくなった。ゴルドールが何か数字が書かれたパネルをぽちぽちと押してから、上のなにも書かれていないパネルに魔力を流し込んだ。パスワードと登録された魔力反応がないと開けられない仕組みなんだろう。

 

「これ、無理やり開けようとしたらどうなるの?」

 

「殿下なら、索敵魔法を使えばわかると思いますよ。」

 

「魔力検知とかの魔道具ってないの?」

 

 高位貴族ともなると、一定以上の魔力を持ったものが入り込むと警報がなる魔道具を設置しているものだ。魔力で姿を隠した人間を見つけるとか。この世界なりのセコムみたいなやつ。

 

「殿下は登録しておりますのでご心配なく。」

 

 それ、いいのか? いつでもこの屋敷に忍び込めるってことなんだけど……いいんだろうな……本当、この家の人たちの俺に対する信頼が怖い……

 とりあえず、ゴルドールの言う通りに索敵魔法を展開すると、その周囲の部屋に違和感を感じた。

 

「え、これって……」

 

 俺はゴルドールを見てから、視線だけでいくつかある違和感の方向へ向けた。

 

「さすがですね。無機物の位置までも把握してしまうのですから。」 

 

 普通の索敵魔法は、魔石や魔物、魔力を持った人間を見つけるために開発されたもの。魔力が別の魔力とぶつかれば強く反応してわかりやすいけど、無機物はわからない。

 それに対して俺の索敵魔法はやり方は同じだけど、イメージの仕方を少し変えた。魔力が別の魔力とぶつかると強く反応するのは変わらないとして、無機物など何かに当たったら反射するようにした。だから、魔力を持ったものだけでなく悪意を持った生物の識別や、魔力を持たないただの無機物の位置もわかる。索敵魔法って魔力を薄く伸ばしていく魔法だし、その魔力の反射とその形がわかれば、それが何かはなんとなくわかる。レーダー反応のようなものだ。

 

 その索敵魔法で周辺を索敵したら、思わず背筋に寒気が走ったのだ。だって、下は深い空間が開いているし、パネルがある場所以外は四方八方から矢が飛んでくる仕様だ。この扉を開けられる人が武器を突きつけられて無理やり扉を開かされる場合も、開ける人間がわざとパスワードを間違えたりパネルを壊したりすれば矢が飛んでくると思う。……壁のそこらじゅうに矢が仕込んであるから超怖い……この人のことだから、絶対矢に毒とか、神経毒とか塗ってんでしょ……

 

「聞かなきゃよかった……」

 

 扉を開けてどこまで続いてるのか目視では分かりにくい真っ暗な扉の先へ、ゴルドールが入った。俺がボソッとつぶやくとゴルドールが奥に進みながら笑った。

 

「あっはっはっは! 触らなければいいのですよ。」 

 

「それはわかってるけどね?」

 

「どうせ殿下には対処されてしまいますから意味はないですけど、それ以外の人間なら多少は弱らせられるでしょう。」

 

「その言い方、俺が化け物みたいだからやめて。」

 

「化け物とは言ってませんよ。規格外とは思っていますが。」

 

 一応ゴルドールも俺のステータスはセスから聞いてるのだろう。別にゴルドールならバラしてもいいとは思ってるけど。

 

「でも、殿下基準で魔道具を作れば即死級の罠になるので、ある意味助かりますけどね。」

 

「俺基準とかあんたは何千人殺す気だ!」

 

「いやですよ、人聞きの悪い。私は別に軍の兵器にしようなどとは思っていませんよ。」

 

 俺は核兵器じゃないと死ねないのか?!……いや、核兵器でもないと死ねないのかもしれない……場合によっては1人その場で生き残ってる可能性すら出てきたぞ……

 

「とりあえず、先に行こう。キースが進まないと後ろがつっかえる。」

 

「ごめんごめん。」

 

 セスに軽く背中を押されたので、薄暗い廊下を進む。少し狭くて、頑張って2人分しか通れなくなっているので、一列で進む。足音が反響していて、少し不気味かもしれない。少し進むと階段があり降っていくと部屋が少し明るくなった。とはいえ、足元が見えるぐらいの光量しかないから薄暗いのは変わらないけど、それでも見える範囲ではいくつかの部屋と鉄格子が見えた。前世でのイメージと同じ薄汚い牢屋に固そうなベッドとトイレがあるって感じ。

 あと、多分腕一本分しか入らない空気孔が何箇所かにあるぐらいか。変幻自在のスライムとか、小さいネズミなら入り込めるだろう。物理法則を無視した変身は基本的には出来ないから、人間が入り込める隙間はないな。

 

 スリアル? あれは別だ。竜王族を基準にしてはならない。

 

 一番奥の牢まで行くと黒装束の人間がいた。

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