同郷 

 さらに数日。今日は俺もシーラも休みの日で、シーラは家族と過ごすと言っていたから、俺はセフィとオーレン、フェネリー姿のスリアルを連れて街に出ていた。人通りの多い場所まで来た。

 

「今日はどこに行くんだ?」

 

「ちょっと商会に用事があってね。」

 

「お兄ちゃん、商会ってなに?」

 

 オーレンの質問に答えていると、肩にいたスリアルが疑問を持ったようだ。

 

「簡単に言うと、色々なものを自分たちで取り寄せたり取引して手に入れて、それを第三者に売る場所のこと、かな?」

 

「へぇ。お兄ちゃんはなんで商会に行くの?」

 

「お目当ては、他国の魔道具だね。」

 

「なぜ他国のなんて見たがるんだ? この国に勝る魔道具はなくね?」

 

「確かにこの国の魔道具は最高品質だと思う。でも、他国でも面白い発想の魔道具がでてこないわけじゃないよ。」

 

 実際、数年前にこの国には無かった発想の魔道具が出てきて、意外と便利だからあっという間に広まった物とか。閃くのは誰にだってある。そういのは大体高額なことが多いから、俺が積極的に探して買いとって、王宮魔法研究機関に流すか、俺が他の魔道具を作った時に組み込めるならその魔道具の技術を組み込む。まぁ、勉強の一種だ。

 今から行くのはアイスリア王国一の大商会、マゼンティア大商会だ。ゲームの主人公たちが商会で買いものをするとき、このマゼンディア大商会でする。そして、この大商会には攻略対象その6、大商会の商会長トップの息子、シリアス・マゼンティアがいる。

 ゲームではシリアス・マゼンティアとグラキエスの接点はない。それに、俺の目的である魔道具は商品説明し慣れたベテランが付くはずだ。俺の一歳下だったから、現在12歳がベテランスタッフとして魔道具コーナーにいるわけが……

 

「ようこそお越しくださいました。キース様。スタッフ一同、歓迎いたします。」

 

 いたよ……

 焦茶色の髪と瞳で成長すれば爽やかイケメンになる男が!!! なんっでいるんだよ!! こいつ、大商会次期トップなのは納得だよってぐらいの腹黒なんだぞ……! 腹黒な上に、人を簡単に丸め込めるぐらい舌が回る回る! 超厄介キャラなんだよな!

 

「えーっと、君は?」

 

「申し遅れました。私はこのマゼンティア大商会商会長の息子、シリアス・マゼンティアでございます。この度は商会長ダリウス・マゼンティアから、キース様のご案内を仰せつかりました。若輩者ですが、精一杯ご案内させていただきます。何かありましたら、すぐにお申し付けつけくださいませ。」

 

 12歳とは思えない言葉遣いに、接客態度。まるで前世のやり手商社のプレゼンを見てるよう……ん???

 

「私の顔に何か?」


 じーっと顔を見ていたらしく、不思議そうな顔をされた。いけないいけない、初対面で人の顔をガン見するのは失礼だと。

 

「あぁ、失礼しました。見たところ俺と同じぐらいなのにご丁寧にありがとうございます。」

 

「そんなことはございません。あの有名なキース様をご案内できるとは史上の喜びです。あなた様をご案内するためのスタッフ枠がなかなか決まらず、父がしびれを切らしたほどですから。」

 

「ご冗談を。」

 

「いえいえ、冗談ではなく。」

 

 ……こやつ、もしや??

 

「では、立ち話はこれくらいにして、奥の部屋へご案内いたします。」

 

 シリアスに案内されていつもの奥の部屋に向かった。中に入ると、2人がけのソファが、テーブルを挟んで二つあるので、いつも通り左側のソファに腰掛けると、シリアスも向かい側に腰掛けた。20歳ぐらいの女性が紅茶が淹れて、部屋を出て行った。中にいるのは俺とシリアス、オーレン、セフィのみ。俺は紅茶を一口飲み、向かいでニコニコしているシリアスに尋ねた。

 

「君、日本人でしょ。」

 

「日本人、とは?」

 

 とぼけるか。いや、惚けられると困る。90%は日本人の転生者もしくは憑依者だと思ってるけど、残り10%は本当に商会長の息子だからってことかもしれない。これで違ったら俺が恥ずかしいんだけど。

 

『どう考えても12歳であんな完璧な接客できるわけないでしょ。他の人なら商会長の息子だからって納得はできても、転生者の俺には誤魔化せないよ。どう考えても社会人経験者の話し方にしか見えん。緊張してないのか、してたとしてもその隠し方が上手いしね。』

 

 日本語で語りかけてから、焦りを誤魔化すためにもう一口紅茶を飲むと、シリアスも紅茶を一口飲んだ。ほうっと息をついてカップをテーブルに置いた。そして、ニコッと微笑んだ。

 

『バレちったかー。てことは、君も日本人なの?』

 

 日本語で肯定の言葉が返ってきた。

 あっぶねーーー!! やっぱりそうだった。よかったぁぁぁ!!!

 さっきとは打って変わって、親しみやすい雰囲気になった。

 

『まぁねー。東京出身。』

 

『わぁお。俺も俺も! まじかー、初めて転生者に出会ったんだけど!』

 

『多分、同じ時代に転生者はいないんじゃないかな。いたとしても片方は隠してたとかさ。』

 

『やっぱそうなのか。それにしてもキース様ももしかしたらって思ってたから予想が合っててよかった!』


 シリアスが嬉しそうにニコニコしていて、ちょっと年相応に見えて可愛げがある。だが、そろそろ後ろの2人になんて言ってるのか聞かれそうだから、普通にこの世界の言葉に戻そう。

 

「キースでいいよ。」

 

「じゃあ、俺もシリアスでいいよ。キースは俺と同じで転生者なんでしょ? いつから記憶があるの?」

 

 ワクワクとした顔で問うシリアスは、犬かなってくらい人懐こくて、見えないはずの尻尾をぶん回しているように見える。しば犬か?

 でも、ちゃんとこっちの意図は汲んでくれるから、助かるよね。

 

「えっと、弟妹が生まれる少し前だから、2歳ごろだよ。」

 

「はや! 俺は4歳だったかな。じゃあ、喋るの苦労した?」

 

「舌ったらずで少しね。でも本を読むのはできたから、魔法書漁ったよ。」

 

「魔法書……王族ならそりゃそうか。」

 

「へぇ、王族って知ってたんだ?」

 

 魔法書は少しお高めのもので、平民がバカスカ買えるものではないけど、貴族なら結構な冊数買うことができる。俺が貴族なのは、商人の肥えた目なら服の素材などでおそらく誤魔化せないとは思っていたけど、王族って確信しているとは思わなかったから、少し驚いた。

 

「そりゃ、今世では商人ですから! 情報は命なんだよ? 突如現れたSランク冒険者の子供2人と大人2人。オーレンさんは王国騎士団の副団長であること、その親戚たち、4人とも数年前からギルドに顔を出していたから子供2人が初日にSランクに上がる実力はわかる。だけど、それ以外謎に包まれた三人の存在。調べたくなるよねぇー? ってことで、しらべちった! ごめんね?」

 

 調べたならわかるだろうけど、親戚設定も全くの嘘なのに、変装もしている俺をグラキエスと結びつけたのは流石だな。

 

「なるほど。別にいいよ。どうせ一部の貴族は知ってるしね。」

 

「普通、そういうのって隠すもんじゃないの?」

 

「隠したかったんだけどさ、さすがに無理じゃない? 俺が言うのもなんだけど、目立ちすぎたし。」

 

 後ろから2人にジトっとした目で見られてるのが気配でわかる。

 

「でもそのおかげで俺は転生者じゃないかって思ったけど。特に去年のドラゴン事件ね。」

 

「あー、あれねぇ……」

 

「王族が普通ドラゴンに突っ込んでいかないから。何か策があったのかなって思って。あと、お菓子ね。」

 

「そこまで調べてんのかい。」

 

「あはは。これでも大商会だからね。独自の情報網も持ってるよ。」

 

「そんな簡単に言っちゃっていいの?」

 

「詳細を話さなきゃいいんだよ。こうやって明言するのも良くはないんだけど、王族の君ならそんなことも知ってるでしょ?」

 

「まぁね。詳細には知らないし知ろうと思わないけど、あるとは思ってた。じゃないと、ここまで大きくならないでしょ?」

 

「まさにその通り! だから、父さんと爺さんはすげーんだよなぁ。」

 

 マゼンティア大商会は何代も前から存在していたが、今のようにアイスリア王国はもちろん、ウェストリア島や南の大陸、中央大陸にまで手を伸ばすほどに大きくなったのは、現在の商会長と前商会長。つまり、目の前にいるシリアスの父親と祖父だ。とんでもないやり手だった祖父がウェストリア島、そのやり方を学んだ父が他大陸へと手を伸ばした。前商会長には会ったことはないけど、現商会長は敵に回したら怖いと思った。かなりの策士だ。いや大商会をまとめるのに頭の回らない人間がなるわけないんだけどさ。

 

「ダリウス商会長、敵に回したくない人だよね。」

 

「父も同じこと言ってたよ? キース様を敵に回したら、うちは潰れるってさ。」 

 

「買い被りすぎじゃない?」

 

「俺さ、父にそんなことを言わせるキースには会いたいと思ってたんだけど、実際に会ってみて父の勘違いじゃないなーって思ったよ?」

 

「えぇ?」

 

「確かに、うちはかなりの大商会だし、武力もある程度はあるつもりだよ? だけど、キースとその友人を敵に回すのは無理だなぁ。」

 

 他大陸へ手を伸ばし、その地位を盤石なものにしたマゼンティア大商会が、いくら超大国といえど、アイスリア王国を敵に回したところで逃げ切られる。独自の情報網とかもそうだけど、色々と上手くやって、かわしてしまうだろうな。

 こっちにだって国境、というより海洋の警備を疎かにできないし、守りを薄くするべきではないから、王族を殺したとかの大きな罪でもない限り、他大陸に逃げた商会を追いかけることは難しい。他国には他国の、他大陸には他大陸の法がある。好き勝手動けるのは自国だけ。物理的にむずかしい。追われる方も追われる方でさまざまなデメリットがあるから、そんな罪も犯さないだろうけど。

 

 でも、それは国の話だ。

 

 シリアスは国ではなく、俺と言った。俺にはさまざまな友人がいる。種族を超えた友人が。シリアスはそれを指しているんだろう。

 

「特に、その子。いや、種族かな?フェネリーに擬態してるけど、絶対君が助けた竜王族の子供でしょ。」

 

「せいかーい。よくわかったね。」

 

 さっき、さりげなくステータスを鑑定したけど、中級の鑑定スキルがあったんだよね。だから、スリアルも鑑定すると思った。

 

「一応、俺も鑑定スキルあるからね。申し訳ないけど、君たちのステータス確認した。けど、怖い数値だよね……キースに至っては、隠蔽改竄されてる部分はわからないけど、絶対そんなもんじゃないでしょ。」

 

 転生してる上に、Sランク冒険者になってるんだから、改竄隠蔽した数値はおかしいと思うだろう。一応、スターレットたち現役Sランク冒険者を参考にして改竄してるんだけど、現役は俺みたいに力技というより長年培ってきた勘や技術があるからね。スキルと技術、というより熟練度は結構違う。できるのと、無駄なくできるのは違う。てきとうに剣を振ってもスキルは習得できるけど、無駄な動きをなくすのはやっぱり自分の動きを分析しながら訓練しないといけない。それと同じで、経験がものをいう場面では、俺は現役Sランク冒険者に劣る。これらはステータスにはわからない部分だ。

 

「あはは。まぁ、そうだね。」

 

「とりあえず、キースがとんでもなくチートってことと、敵に回しても死ぬってことがわかっただけでも収穫だね。元から回る気もないけど。」

 

「それはありがたい。まだ話してたいけど、時間もないことだし、魔道具の案内、頼んでもいい?」

 

「おっと、そうだった。任せて!」

 

 まだまだ話していたいところだけど、あんまりシリアス拘束すると商会の方に申し訳がないから、本来の目的である魔道具を見ることにした。シリアスは部屋の隅に置いてあったいくつかの箱を取り出して、テーブルの上に置いた。

 

「まずはこれね。これは、……」

 

 




 それからシリアスと魔道具議談をしていくつかの魔道具を購入し、王宮に運んでもらう手筈になった。シリアスとは仲良くなり、今度予定が合えばゆっくり話をしようと約束して商会を出た。

 

「お兄ちゃん、嬉しいそうだね〜。」

 

「うん。俺と同じ転生者で、しかも趣味まで一緒とか、楽しくないわけないよね。」

 

 シリアスは前世では、職種は営業でアニメヲタクだったらしく、俺と同じジャンルのアニメとか漫画を見ていたそうだ。そして、そんなのは今世では存在しないのが当たり前。だから、別の趣味になったんだけど、それが魔道具作りとはつくづく俺と気が合う。

 俺も勉強以外でやることと言ったら、魔法の試作と魔道具作り、魔力がない人でも使える魔道具に必要な魔法陣を自分で改造・構築、薬剤作り、もっとまとまった時間があけば、冒険者ギルドで依頼を受けるのどれかだ。

 シリアスは独学で魔法を学んでいたと言っていたから、あまり多種多様な魔道具は作れないらしい。今度魔法と魔法陣構築の理論とかの参考書、持っていって教えてあげようかな?

 

「今度の魔道具作り、楽しみだなぁ。」


 そのためには、一日分の空き時間作らないとね。シーラとのお茶会の時間の後はいつも空き時間だったけど、その時間に書類仕事を回すかな。シーラが登城しない週末に予定を組めば今まで通りシーラとも会えるし、問題はないだろう。


「身分を知ってても仲良くしてくれる友だち、できてよかったっすね。キース様。」


「うん。」


 俺が王族だと知っていて、対等に接してくれる人はいなかった。冒険者ギルドにいるガレットやスカーレット、エレアさんは知ってはいるけど、友達かと問われると微妙な関係だ。なんとなく俺の前世の記憶のせいか、上司の分類に入るし、相手も友人というよりは生意気な後輩って感じだろう。

 今ではセスが砕けた口調になってくれたし、友人と言えるけど、セスだけだった。前世とは別の意味で友人が作りにくい立場になってしまった……悲しくなってきた…

 だから、本当の意味で対等な友人、しかも王族から最も身分が離れている平民の人で増えてくれて、本当に嬉しい。

 

 ニコニコと頬が緩んでいるのを自覚しながら、王宮へと続く道を歩いた。途中シーラへのお土産も買って。シリアスのことも早く話したいと思った。

 

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