デートと新しい人 

 同じタイミングでセスたちも出てきたので、一緒に食堂から出る。そしてさっきと同じようにセスたちは少しだけ離れて、俺たちは歩いた。

 

「今度はどちらに?」

 

「ちょっと手芸屋にね。」

 

「手芸、ですか?」

 

「うん。ちょっとね。」

 

 俺の今の顔は多分、イタズラを思いついた子供の顔だと思う。それぐらいシーラを驚かせたいと思ったから。不思議そうなシーラについてきてとだけ言って店に向かった。

 近くの手芸屋に到着して中に入る。一度だけしかきたことないけど、レイアウトは変わらないけど売り物が少し違っていた。その中で俺はボビンから好きな長さ分だけ買うことができるリボンコーナーを見る。

 

「リボンですね。」

 

「うん。俺はアクセを作る時は雑貨屋で揃えることが多いんだよね。俺が作るのは大体魔道具だから、おしゃれにする意味はない。けど、シーラが付けるなら話は別。」

 

「私、ですか?」

 

「最初はそこまで大事にしてくれるとは思ってなくてさ。まして初対面の男からのものだし、婚約者ができたら捨てられるか、身に付けずに引き出しの奥底に仕舞われると思ってんだよね。だから、まぁいっかって思ってたんだけど……」

 

 一度言葉を区切ってから、なんのことか分かってないシーラの手首を見た。そこには3年前のパーティで俺たちが出会ったその日に、俺が贈ったブレスレットがあった。

 

「これですか? 大事なものなので……」

 

 俺の視線を追って、なんの話かがわかったようだ。

 一応、あの時の自信作であり試作品の魔道具だったんだけど、まさか3年も付けてくれるとは思わないじゃん? セスの話では肌身に離すことがないとか。パーティに出る時でさえ、ドレスと合わない色だったとしても、外さずにリボンで隠して付けていくらしい。侯爵令嬢ともあろうこの子が、3年前の安物の、有り合わせの材料で作った魔道具を、だ。せめてチェーンの部分だけでも変えようと言っても嫌だの一点張りとか。かなり大事にしてるとのこと。新しいのを贈ることも考えたんだけど、新しいのも古いのも大事にしそうだと思った。だから、せめてもう少し何か加えたいってのが男としての本音だ。

 

「没収なんて言わないよ。少し貸してもらいたいだけ。」

 

 そういうと取り上げられないと安心したのか、ブレスレットを外して渡してくれた。よく見たらアジャスターの一番先端部分に引き輪を着けていたな。アジャスターを追加するか、チェーンを追加するか。似たものはないから、一新したほうが早いか。鑑定すると、後少しで壊れると書いてある。

 

「シーラ。少しだけ作り直していい? このままだとすぐに壊れるかも。」

 

「え、そうなんですか……?」

 

「うん。まぁ、有り合わせで作ったものだから3年も保ったのは長いほうだと思うよ。」 

 

「そう、ですよね……」

 

 寂しそうな顔でブレスレットを見るのだが、そんな顔してもらえると嬉しいものだな。

 

「流石に修繕はできないけど、本体はそのままにチェーンを付け替えるよ。」

 

「わかりました。お願いします。壊れて無くすよりは交換するほうがいいです。」

 

 シーラに了承をもらったので、俺は取り替えるパーツ全てを手芸屋で揃えてから、店外にある机を借りて異空間収納に入れてあったアクセ用工具を取り出し、ブレスレットを分解した。シーラには店内で待ってていいと言ったんだけど、見たいそうで俺の隣に座って手元をガン見されている。見られて手元が狂うほど不器用じゃないから、そのまま気にしないことにした。

 いくつものパーツを付け替えて、魔法を組み込んだ小さな宝石を二つ追加して、元からあったエメラルドの横に配置して、繋ぎ合わせた。

 

「ん、こんなもんか。」

 

「そんなに早くできてしまうんですね。」

 

「慣れてるからね。魔法を込めるのはすでに終わってたし、それもあんまり時間かからないから。」

 

 手直しするのは簡単だし、すぐにできる。ブレスレットなんて一番簡単でしょ。凝らなければ、だけど。今回は、少し女の子向けに可愛く作った。

 

「シーラ、手だして。付けてあげる。」

 

「はい!」

 

 さっきまでつけていた左手を出してくれたので、手首につけた。さっきよりも高価に見えるし、似合うだろう。

 

「うん、似合ってる。」

 

「ありがとうございます。綺麗。」

 

 左手をかざしてうっとりとしていた。そんなに喜んでもらえると、直した甲斐があるよね。それじゃあ、次に行くか。ここでの用事は終わったし。

 

「シーラ、アイス好きだよね。」

 

「はい、冷たくて甘くて好きです。」

 

「じゃ、噴水広場のアイス屋さんに行こう。最近メニューが増えたとか期間限定もあるとか言ってたな。」

 

「そうなんですか? それは気になりますね!」

 

 シーラと一緒に王都のど真ん中にある噴水広場にあるアイス屋さんに向かい、暖簾をくぐった。中はアイス屋というだけあり少し涼しい。

 

「あら、キースちゃんじゃないかい。久しぶりだねぇ。」

 

「おばさん久しぶり。最近は忙しかったからなかなか来れなくてね。セスから新しいメニューが出たって聞いて、気になって来ちゃった。」

 

「そうかいそうかい! ちなみに新商品っていうのはね、アイスを二つ乗せられるようにしたんだ。その分お値段は高いけど、一回で二種類食べれるから、楽しいと思うよ。」

 

 いつもは紙製のカップかアイスクリーム・コーンを選んでアイスの種類を選ぶんだけど、増えたと言うメニューはどうやら、それに追加してもう一個同じアイスか違うアイスを乗せること、らしい。前世での某有名なアイス屋さんみたいなことしてる。俺は好きだから是非とも続けてほしい。

 

「それより、キースちゃん。その可愛い女の子は君の恋人なのかなー?」

 

「え、あ、」

 

「そうだよ。甘いものが好きだからここも好きだと思ってつれて来たんだ。」

 

「あははは! それは嬉しいね! 是非食べてっておくれよ。」

 

「は、はい! ありがとうございます!」

 

 シーラが照れながらお礼を言うとおばさんがうんうんと頷いて満足げな顔をしていた。照れてるシーラも可愛いからね。シーラの可愛さは老若男女全てにおいて発揮されるから少し心配だけど。俺は王道にチョコとバニラ、シーラはストロベリーとクッキーアンドバニラを頼んだ。店の外で待機していたセスたちの分も注文した。

 

 アイスを受け取ると、外に出て二組に別れたあと、シーラと2人で一口ずつ食べさせ合いっこもしました。食べ終わって、シーラのゴミも受け取って一緒に捨てるために、少しだけ離れようとして、俺は立ち止まった。ゴミを握りつぶして異空間収納に放り投げてシーラの元へ戻る。

 

「キース様? どうかなさいました?」

 

 なぜかゴミ捨て場まで行かずに異空間収納にしまった俺の行動を不思議がっている。そう思うのはわかるけど、それをせざるを得なくなった。シーラの耳元に顔を寄せて理由を話した。

 

「シーラを狙ってるやつがいる。」

 

「え?」

 

「索敵魔法に引っかかったんだ。ついてきてるとは思ってたんだけど、ここで感情を表に出すなんてね。」

 

 俺は索敵魔法を使うと悪意を検知するようになった。おそらく洞察力強化のスキルと、気配察知のスキルのどちらかと併用されてるんだと思う。誰が誰に対して悪意を持ってるのかもわかる。ただ、その時に悪意を出した時だけだ。悪意がない時は何も検知されない。今回の奴らは俺に対する悪意がある。だけど、俺を直接狙ってくることはなかった。いい加減うざいと思っていたときに試しにシーラと離れてみたら、シーラを狙う動きをした。俺に悪意を持っていてシーラを狙う。冒険者であるキースに悪意を持つものか、王族であるグラキエスに悪意を持つのか。どっちもありえる話だけど、感情の出し方が暗殺者というより、ど素人の範囲だ。王族のグラキエスを狙うとしたら大体は貴族。貴族なら半端な暗殺者は雇わないだろうから、おそらく冒険者のキース狙いだろう。別に恨みを持つようなことしたつもりはないんだけど、どこで何が引き金になってるのかはわからないから自信はないな。

 

「はぁ、今日は本当に邪魔が入るな……」

 

 感情のこもらない低い声でこぼすと、シーラがびっくりした顔をして、俺を穴が開くほど見つめた。

 

「あ、ごめん、怖がらせちゃったよね。」

 

「え? あ、いえ、キース様が怖いとかではなくて、その……」

 

 怖いわけじゃなかったのか。じゃあ、なんだろうと思ってシーラの様子を観察すると、少し耳が赤い。

 

「キース様の低い声って、あまり聞いたことなくて……その……ど、ドキドキ、してしまいまして……」

 

 え、低い声? 普段から出して……あ、シーラといる時は出してない気がする。シーラの社交界デビューのパーティでたまたま聞かれちゃった時以来、かな? 大体は疲れてる時とか苛立ってる時によく出てるから。シーラといる時は疲れなんて感じないし、むしろ嬉しかったり楽しかったりでテンションが高いから、無意識のうちに声が高くなってるんだと思う。

 

「あ、あの、ごめんなさい。こんな時に、こんなことを……」

 

「ふっ。大丈夫だよ。」

 

 むしろ狙われてる状況で違うことを考えられるのはある意味いいことだと思う。極度の恐怖や緊張は思考を鈍らせる要因だからね。

 

「ねぇ、シーラ。俺が絶対に守るから、少しだけ付き合ってくれる?」

 

「ボコボコにするのなら、お付き合いします!」

  

 侯爵令嬢がボコボコにするって言った。

 

「ふはは、状況によってはそうなるね。」

 

 一本取られちゃったな。でも、一緒にいて楽しいんだから、なんでもいいか。俺は念話魔法を使ってスリアルにつけられてること、シーラを狙ってること、今から対処するから、見えなくなる所にいてくれとお願いした。数分したのち、索敵魔法でセスたちが離れたのを確認した。俺は気づかれないようにシーラと歩き出した。仲睦まじくデートしてるように装いつつ、人気のない裏路地へ曲がる。見つからないように奥の奥までどんどん進んでいき、街の喧騒が遠くて行き止まりの場所まで来た。

 

「キース様、行き止まりですね。」

 

「そうだね。困った困った。」

 

 演技する気もなく棒読みで会話すると、後ろから三人の男が来た道を塞いでいた。

 

「ガキども、迷子か?」

 

「まぁ、そうですね。行き止まりだと思わなくて。すぐに来た道を戻ります。」

 

「なら、好都合ってもんだぜ!!!」

 

 そう言って禿頭の男が抜刀してシーラに襲いかかってきたので、俺はシーラを横抱きにして抱えて、男の攻撃を避けた。

 

「ちっ、外したか。」

 

 他2人の動きを警戒しながらシーラに捕まるように促して、目的を問う。

 

「いきなりなんなのかな。俺の恋人を襲ったんだから、タダじゃ済まさねぇぞ……」

 

「はっ、ガキが粋がるんじゃねぇよ!」

 

 ハゲ男が吠えると他2人の男が俺とシーラを囲い込んで武器を振り下ろした。それに合わせてハゲ男も振り下ろしてきたので、俺は風魔法を足に纏わせ、回し蹴りをして武器を叩き折った。

 

「なっ!」

 

「なんだこいつ! 武器を足でおりやがった!」

 

「今ここで攻撃をやめてお前らの目的を話すなら、命だけは取らねぇでいてやるよ……」

 

「っ、お荷物持ったガキが勝てるとでも思ってんのか?」 

 

「この子がいたぐらいで俺を殺せると思ったら大間違いだ。王国騎士団500人ぐらい連れてくればいい勝負できるんじゃない?」

 

「調子に、乗るなぁ!!」

 

 ハゲ男が激昂して再び襲いかかってきたので、一気に距離を詰めて鳩尾につま先をめり込ませた。

 

「ぐぉっ!」

 

 勢いが強すぎてハゲ男が吹っ飛ぶと、他の2人が二の足を踏んだので、後押しとばかりに睨みつけて怯ませた。2人は完全に心を折ったので、ハゲ男を見据えた。咳き込みつつも、俺を睨みあげた。こっちはまだらしい。

 

「まだやるのかよ。」

 

「こっちは妻の命が掛かってんだよ……」

 

 妻の命? 誰かに無理やりやらされてんのか? だとしたら、誰かの悪意につけ込まれたのか?

 

「妻のために命懸けねぇのは男じゃねぇだろうがぁ!!」

 

「へぇ? 意地でも情報を抜きたくなった。あんたを拘束する。」

 

「やれるもんならやってみがれ!!!」

 

 威勢がいいのはいいことだけど、チェックメイトだ。即座に魔力を込めて、フローズンフロアで三人の首から下全てを凍らせた。

 

「な、に?!」

 

 驚いていたようだけど、俺に喧嘩を打った時点で、この三人の生殺与奪の権は俺のものだ。

 

「さて。これで話ができるかな?」

 

「くっそ……すまねぇ、マリア……」

 

 あらら。完全に殺されると思ってる。まぁ襲っておいて逃げることもできずに全身凍らされたら、普通はそう思うか。

 

「殺ろさねぇよ?」

 

「え?」

 

「なんでこんなことをしたのか、全部吐いてもらった後、解放してやるよ。ただでとは言わねぇけどな。」

 

 さすがにお忍びとは言え俺とシーラは高位貴族だ。ただで返しても、いいことはない。でも、その男はどうにも俺やシーラを恨んでいるようには見えない。妻の命を人質に取られて、やりたくないことをやらされてるように思える。もしそうなら、使い道はある。

 とりあえずセフィたちをここに呼ぼう……かと思ったけど、決着がついたことを察して姿を現した。

 

「キース、どうすんだ?」 

 

「目的を聞いた上でどうするかを決める。」

 

 オーレンの問いに答えてから俺は防音結界と人払いの結界を張った。最近結界魔法を使うことが多いな。そのうち習得しそうだな……

 

「さて、なんでこんなことしたんだ?」

 

 再度問いかけると、諦めたように口を開いた。

 

「俺には病気の妻がいる。半年前に患ったんだが、どんな薬を飲ませても治らない。むしろだんだん悪くなっているんだ。薬剤師に頼んでも原因不明としか言われない。途方に暮れていた所に、どっかの貴族の使いだって言うやつがいったんだ。お前ら2人のどちらかを殺せば、聖属性魔法が使える人間を紹介する、ってな。」

 

 俺らの2人どちらか? ド素人っぽいから、冒険者であるキースに恨みを持っているって決めつけたけど、これは違うだろう。索敵魔法でも、悪意の種類がわからないのだから、決めつけたらダメだとわかっていたのに、こういう場合を選択肢から除外してしまった。これは良くないな。自分から視野を狭くしていた。

 

「お前は俺たちが誰だかわかってたのか。いや、それは問題じゃないな。今日、俺たちが冒険者ギルドに行くことがわかっていたのか?」

 

 俺たちの正体を知ってようが知るまいがセフィもオーレンもいる。つまり、王族を襲った事実は変わらないから、普通に考えて一族郎党極刑ものだ。どうせ黒幕がいるんだし、聞いても無駄。だから、神出鬼没である冒険者のキースが今日現れることを知っていたかで、間者の存在が浮上する。

 

「たまに冒険者ギルドに顔を出すと聞いていたし、今日はポイズンリザードが出現したことを知ったお前が飛び出していったと、情報もあった。」

 

「その情報もどっかの貴族の使いか?」

 

「そうだ。」

 

 なるほどな。その貴族はよっぽど俺に嫌がらせをしたいらしい。

 

「へぇ。ちなみにさ、奥さん、助けてあげようか?」

 

「は?」

 

 セフィとオーレンが深くため息をついたのに対してハゲ男は呆気に取られた。 

 

「重病を直せるかもしれないと言われている聖属性魔法。俺、使えるけど?」

 

「バカを言え。妻の病気を治せるほどの聖属性魔法をお前みたいな子供が使えるわけがない。第一魔法適正がなきゃ不可、」

 

 ものすごく馬鹿にされた気がするから、イラとしながら言葉を遮った。

 

「だからできるっつってんじゃん。俺、聖属性使おうと思えば使えるし、魔力量は莫大だけど。」

 

「え、は? だ、だって、聖属性を使えるのは魔法師団の一部のみだって、」

 

「隠してるって線は考えてないのか、俺が舐められてるのか。」

 

 あるいは両方だな。確かにまだ聖属性魔法は習得してないけど、スリアルがまた呪われても、その呪いを解くために念の為、知識は頭の中にある。スリアルが二度も同じ手にひっかかるほどバカじゃないのはわかってるけど、念のためだ。

 使えなくは無いけど、効果が弱いのは、俺が腹黒で清らかな心がうんちゃらかんちゃらがないからなのか。その辺の関連性は解明されてないから知らないけど。でも使えないわけじゃ無い。上級聖属性魔法もイメージがあれば、魔力量に物を言わせることで行使可能だ。でも、それを証明する手立てはない。呪いがあるわけでも、目の前に病気の人間がいるわけでもないからな。

 しょうがない。物事をスムーズに進めるためにも脅しは必要か。

 

「あー、そうそう。俺さ、お忍びとは言え貴族なんだよねぇ。」

 

 そう言ってから、髪の色を戻しながら色付きメガネを外す。三人の男たちは顔から血の気がなくなり青白くなった。

 

「そ、それ……その色、」

 

「さて、問題です。俺は誰でしょう。流石に顔は知らなくても髪と目の色ぐらいは知ってるよね?」

 

 ブロンド系の髪は王族の色。プラチナブロンドは国王陛下と第一王子、似た色であれば第一王女。だけど、男で子供という特徴は第一王子しかいない。社交デビューはしてるから、俺の特徴を知らない国民はいない、はずだ。多分。

 

「ぐ、グラキエス、第一王子殿下……」

 

「せいかーい。んじゃ、次の質問。王族を襲った場合どうなるでしょうか。」

 

 その瞬間、三人の男は顔を青白いどころか紫色になり始めた。恐怖でガタガタと顎を鳴らしている。

 

「このままだと、多分一族郎党極刑じゃないかな。そこでさ、提案があるんだけど。」

 

「あんたが本当にグラキエス殿下なら俺らの命はない。だけど、実行犯は俺だけ妻は何も関係ない。」

 

 ハゲ男は覚悟を決めた目で、自分の命だけを差し出した。いいね、その潔さ。本当はこんなことしたくなかったんだろうけど、それだけ追い詰められていたってことか。2人の男はハゲ男の言葉に反論した。

 

「「旦那?! それはダメだ!」」

 

 とりあえず、俺としては一族郎党の方は黒幕の貴族にするつもりだから、あんたらの命はいらないんだけど。男たちはそれを知る由はないから仕方ないか。

 

「そうしてあげようとしてるんだけどね。」

 

「「え??」」

 

「どうせ俺は死ぬんだから、どんなものでも受け入れるさ。」

 

「「え???」」

 

 俺とハゲ男の淡々とした言葉のキャッチボールがされるから、2人は逆に困惑しているらしい。

 

「じゃ決まり。君の奥さんの元へ連れてってよ。多分原因ぐらいはわかると思うよ。」

 

「わかった。」

 

「俺が言うのもあれなんだけどさ、素直すぎない?」

 

「妻に俺の尻拭いさせることがないなら、俺は殿下の命令に従うさ。それが妻を助けられることにつながるかもしれないなら、尚更な。」

 

「どうすんのさ、あんたを騙して奥さんを殺したら。」

 

「冗談を言うもんじゃねぇよ。あんたは一度言ったことは曲げない性格と聞いたぞ。」

 

 おい、誰だそんなこと言ったやつ! 確かに曲げたくねぇとは言ったけど、曲げないとは言ってねぇ! 

 曲げるくらいなら約束はしないのは事実だけど……俺はそこまで人間できてねぇ……

 

「俺は曲げないんじゃない。曲げたくねぇから、できない約束はしないだけだ。」

 

「同じじゃねぇか。」

 

「全然ちげぇ。」

 

「同じだろ……」

 

「え?」

 

 言ったことは絶対に曲げないって思ってるやつと、曲げたくないから言わないは全然違うだろうと思って反論したら、後ろからセスの呆れたような声が聞こえてきた。

 

「私もお兄様に同意です。」

 

「右の同じ。」

 

 シーラとセフィまで同意し始めた。嘘でしょ?

 

「殿下。あんたは思ったよりも人間できてると思うぞ。」

 

「やめて! 調子乗るからやめて!」

 

「乗ってもいいぐらいの功績はあるけどな。」

 

 セスが肯定すると、セスの肩にいるスリアルまでうんうんと頷いた。

 

「セス! お前は誰の味方だよ!」

 

「もちろんキースとシーラだ。それより、話が脱線してる。」

 

「あ。」

 

「助けに行くなら、魔法を解除してくれ。このままじゃ何もできない。」

 

「はい……」

 

 まず最初に氷魔法を解除して、氷が無くなった後に髪の色を鳶色にして、メガネもかけて結界を解く。三人に案内してもらい、ハゲ男、名前はバイオスの奥さんの元へ向かった。

 

 結果……バイオスの奥さん、マリアさんの病気の原因は呪いだった。聖魔法のカースレジストを使って解呪すると、奥さんの呼吸が安定した。ヒールも使って体力を戻してあげると、普通に目を覚ました。事情説明をしようとしたら、バイオスが泣きながらマリアさんを抱きしめたので、そっとしといた。しばらくして、バイオスが落ち着いてきたのでマリアさんに今度こそ事情説明すると、マリアさんの大激怒からのお説教、俺とシーラへ土下座。夫と一緒に腹を切るとまで言い出したので、本当、止めるの大変だったぁー……ちょっとしたカオス状態だったけど、家の中だったから周囲の目がなくて助かった。

 ちょっとした色々を終わらせてから、マリアさんとバイオスに呪いだったから、媒体になるものが近くにあると思う、と説明してから家探しさせてもらった。家探しと言うほど家探しをする前に、ベッドの下から10センチくらいの魔石がおいてあったのを見つけたけど。かすかに呪いの気配が残っていると、スリアルも言っていたから間違いはないだろう。とりあえず、持ち帰って解析をしてもらうことになるだろう。なぜ、マリアさんが呪われたのか。呪われた原因は俺を狙わせた貴族なのか。それとも、別勢力なのか。その他諸々、調べる必要が出てきた。

 

 あー、めんどくさい……

 

「あー、めんどくさい……」

 

「声にでてるよ。」

 

「出したくもなるっつの。なんでよりにもよって呪いなんだよ……全く、予想してなかったとは言わないけどさー……」

 

「それだけ、この国は狙われやすいと言うことだろ。」

 

 国家機密の海紅石は抜きにしても、航海技術や造船技術、生活に必要な魔道具、研究機関の情報、この国はほとんどの分野で最先端を行く。今問題になっている南の大陸もそうだけど、同じ大陸の西の島国などもこの国を狙っているだろう。軍事力で負けてるから手を出さないだけで。

 

「ちっ。なぁんで、俺王族なんかな〜……家族丸ごとただの貴族ならよかったのにー……。」 

 

 辺境伯家ぐらいがちょうどいいと思う。パーティとかあっても、王都にはこれませんって口実があれば欠席できるしね……

 

「それは出来ない相談だ。運が悪かったと思うしかないさ。それに、王族じゃなかったら、シーラと婚約できなかったかもしれないぞ。」 

 

「それは嫌だから、王族でよかった。」

 

「手のひら返しはや……」

 

「シーラと結婚できるなら、諸々の面倒は些細なことだよ。」

 

「キース様……!」 

 

 シーラが感極まったように俺の名を呼ぶので、頭を撫でてあげると、嬉しそうにニコニコしていた。

 

「これを些細なことって言っちゃうのがすごいっすね……」 

 

「何言ってんの、オーレン! 好きな人と結ばれることより幸せなことなんてない!」

 

「はいはい、惚気ご馳走さんです……独り身の俺にはその惚気がとても悲しい……」

 

 とほほと泣きそうになっているオーレンをセフィが背中を軽く叩いて励ましていた。

 

「王族や貴族ってのは、裕福なんだと思ってたけど、貴族なりに苦労はあるんだな……」

 

「まぁね。民が税を払い、俺たちは民を守るために、他の貴族や他国の貴族に権威を見せつけて、手を出されないようにする。他にも民の暮らしを良くするために、貴族は動く責任がある。平民も貴族も一長一短だと俺は思うね。」 

 

「まるで経験したみたいな言い方だな。」

 

「俺、一応冒険者なんだけど?」

 

「それもそうか。あれ、でもなんで王族なのに冒険者になろうと思ったんだ? 、いっっっ、おも、ったんですか。」

 

 マリアさんに足を踏んづけられたことで、敬語に言い直した。この2人、意外と仲良いな。

 

「民の暮らしが知りたいってのが、建前。」

 

「建前……」

 

「それも嘘じゃあないんだよ? 楽しそうだからやりたかったとか、レベル上げのために魔物狩りしてたら、ギルドに入る方が効率がいいとか、色々?」

 

 実際、前世で冒険物の小説とか転生無双ものの小説とか、色々読んで冒険者って大変だけど楽しそうだと思った。まぁ、蓋を開けてみれば? 俺は王族、しかも16歳で死ぬモブに転生しちゃったんだけどね。

 

「でも、一番の理由は自分のためだよ。王族ってさぁ、意外と命を狙われる理由が大量にあるんだよ? 超大国の王族ともなれば尚更ね。それを実行するか、実行されるかは別にして。俺は死にたくない。だから強くなる必要があったんだよ。……今はシーラを守るために頑張ってるけどね。」 

 

 シーラが不安そうな顔をしていたので、俺は安心させるために微笑むと、肩の力が少し抜けたように見えた。

 

「さて。俺の身の上話という名の愚痴大会が終わったので、君たちをどうするか決めようか。」

 

「私は反対なのですが、言っても聞かないのでしょう?」

 

「うん。聞かない。男たちは筋が良かったし騎士団にでも入れようかなって思ったんだけど、どう思う?」

 

「雑用係から始めるんなら、いいんじゃねぇか? 俺の推薦ってことで捻じ込められるぞ。多分。……まぁ、裏切ったら俺は叩っ切るし、そのあとはどうなるかしらねぇけど。」

 

 オーレンが鋭い目つきで男たちを睨むと、4人が震え上がって、飛んでいくんじゃないかってぐらい勢いよく首を横に振った。あれだけ脅したんだから、裏切りの線は薄いけど、万が一ってところか。

 

「じゃあ、男たちはそれで。マリアさんはどうするか。」

 

「私はなんでもします。バカなことをした夫の代わりにこの命、差し出すことも覚悟しております。」

 

「マリア……」

 

「んー、別に殺す気はないよ。その代わりさ、ちょっと鑑定してもいい?」 

 

「かんてい? あ、鑑定ですね。大丈夫です。」

 

 平民はあまり自分のステータスを見ることがないから、鑑定という言葉も馴染みがないのだろう。存在自体は知ってそうだけど。許可も出たことだし、鑑定してみるとしますか。鑑定スキルを使い、マリアさんのステータスを見た。

 

 名前:マリア

 年齢:25歳

 種族:人間

 職業:

 二つ名:

 レベル:1

 HP 25/25

 MP 20/20

 能力値:筋力20 敏捷35 守備30 器用さ45 幸運値80 魅力45

 適正魔法属性:火

 スキル: 料理(中級)、裁縫(初級)、掃除(初級)

 称号:焼き菓子屋

 その他:アイスリア王国アイスリア王都マリオス店店長

 

 

 

 マリオス店って、平民の間で有名な焼き菓子屋の名前だ。一度行ってみたいと思ってたから、これはいい。

 

「料理スキルがあるね。マリオス店店長。これはいい人材見つけた。」

 

「あ……」

 

「へ?」 

 

「決めた。俺お抱えのお菓子職人になってもらお。料理長とも息合いそうだし。」

 

「「へ??」」


 こうして俺はなんやかんやあり、お忍びデートをちょこちょこ邪魔され、最終的にいい人材を見つけたのだった。

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