トップシークレット 

 ポイズンリザード大量発生の討伐終了後。俺は必要分の素材のみを回収し、浮遊魔法と風魔法を駆使して急いで冒険者ギルドに帰ってきた。扉を開けてシーラを探すとすぐに見つかった。椅子に座っていて、どうやらお茶を飲んで待っていたらしい。スリアルが俺に気づくと、シーラの膝から降りてトトトっと走ってきて俺の肩に乗って、頬ずりしてきた。

 

『おかえり〜』

 

「ただいま。」

 

 くすぐったいと思いつつシーラのそばに行こうとしたら、すでに立ち上がっていて、駆け寄ってきてくれた。

 

「キース様、おかえりなさい!」

 

「ただいま、シーラ。ごめんね、置いていって……」

 

「大丈夫です。オーレンさんとスリアルも一緒でしたから。」

 

 改めて謝罪すると、シーラは首を横に振って否定してくれた。健気すぎて嬉し泣きしそうになっていると、受付のミリアさんが俺に気づいた。

 

「あれ、キースくんたち? どうしてここに? ポイズンリザードの大群は?」

 

「殲滅してきたよ。」

 

「なるほど、殲滅……殲滅?!! もう終わったってことですか?! まだ一時間しか経ってませんよ?!」

 

 ポイズンリザードは一体でも討伐から解体終了まで一時間はかかる。ポイズンリザードは全身に毒を持つわけじゃなくて、人間で言うところの喉仏あたりに毒を生成する毒胞をもつ。毒霧吐息で対象を殺し捕食するという性質を持つから毒耐性を持つけど、それ以外は普通のリザード系の魔物と同じ生態だ。解体作業はこの毒胞のみ気をつけなきゃいけないんだけど、この毒胞がめんどくさい。楕円形の形で長径は50センチとデカくて傷つきやすく、一度傷付いたら全身に毒が回るから、解体するのに集中力がいるし慎重にしなきゃいけない。なんでそうまでして解体するのか。理由は毒胞が高級解毒ポーションの材料だから。毒も正しい使い方をすれば薬になる。毒と薬は紙一重ってね。だから、みんな慎重なんだよ。それ以外の体の部分は普通に食材になるし。しかも王都だと、新鮮なポイズンリザードの肉は手に入りずらいから自然と結構高くつくしね。

 

「と言われてもね。みんなもそのうち戻ってくるよ。」 

 

「五十体くらいで済んだ、わけないですよね??」

 

「済んでないね。多分二百体はいたと思うよ。」

 

「そんなにいたのに、一時間で討伐……は、はは……キースくんたちが居たからだと思いましょう……それなら納得ですし……」

 

 なぜか納得された。……いや、それもそうだな……セスも意外と規格外に成長しちゃったから……俺のせいで……

 

「とりあえず、素材はどうしますか? 少しくらいは持ってきたのでしょう? 受付しますよ。」

 

「ありがとう。よろしく。」

 

 ミリアさんは気を取り直したのか、受付仕事に戻ったので、俺たちもそれに習う。素材買取の金銭受け取りは後日にして、持ってきた素材を預けた。ちなみにセフィがいくつか毒胞を俺に持たせたままなので、多分後で俺に解毒ポーションを作らせる気だと思う。最近俺に調合スキルを習得させようとしてるからね。戦闘スキルはまぁまぁ習得できたから今度はポーション系の調合をしようということか。おそらく俺の毒殺を防ごうと予定してたってところだろう。さすがに毒耐性特級からの毒吸収なんてものを獲得するなんて思わなかったけど。でも、暗殺に使用するのは毒だけとは限らないし、自分でポーションを作れるようになれば金になるし、依頼中に自分でも使えるし持ってなければその場で作れるから、一石二鳥どころか色々とメリットしかないから、習得するのはやぶさかではないけど。

 

 とりあえず、俺は冒険者ギルドの奥の部屋を借りて、異空間収納(容量莫大すぎて上限がわからない)から替えの服を取り出して、着替えた。さすがに毒霧吐息を食らった服でデートはしたくない。ついでにお金も払ってシャワーも借りたので、シーラには10分くらいギルドで待ちぼうけをさせてしまった。魔法で髪の色を変えるのも忘れずに、急いでシーラの元に戻った。

 

「シーラ。お待たせ。」

 

「本当に良いのですか? みなさん、お疲れではないですか?」

 

 少し申し訳なさそうな顔をしていた。もしかしてポイズンリザードの大群討伐で疲れていると思ったのだろう。俺としては別に大丈夫。むしろシーラとデートすれば疲れなんて吹き飛ぶし、むしろ邪魔された悔しさがあるから今すぐしたい。

 

「俺はむしろ、シーラと過ごす方が癒されるよ。それに、セスとセフィがデートの続きをしろって言ってきたんだから大丈夫。」

 

 セスは魔力をギリギリまで使ったみたいだけど、魔力切れの症状は出てないらしく、疲れてはないみたいだから、大丈夫らしい。行き帰りを浮遊魔法で浮かされてただけだからいつもより疲れてないそうだ。むしろ買い物すれば書類仕事などのストレスが発散されるみたいで行きたいんだって。セフィも魔法師団なのか怪しいぐらい体力はあるし……俺が言えたことじゃないけど、2人ともバケモノかってツッコみたくなった。俺という化け物ステータスがいるから、ツッコんでないけど。無理はしてなさそうだったから、お言葉に甘えることにした。というか、襲われても俺だけで対処できるから自分達は戦闘できなくても平気だろって思ってそう……思われてていいけど。ついでに2人っきりにしてくれてもいいけど(それは対面的に無理な話である)。

 

「本当にいいのでしょうか。」

 

 ちらっとシーラがセスとセフィを見るが、2人は首を横に振っていた。

 

「何かあったらすぐに帰るようにするから大丈夫だ。」

 

「私もこれぐらいなら全然平気なので。あの人が仕事をサボった時よりはマシだ。」

 

 セフィのあの人って、絶対 パズラン魔法師団長のことじゃん。あの人、仕事をサボって脱走するのは城内では有名だからな……

 

 ということで、俺とシーラ。少し離れた場所にセス、その肩にスリアル、オーレンとセフィが付いてくる形でデート再開だ。

 

 お昼ご飯の時間が少しすぎたあたりだったので、まず最初に俺おすすめの食堂に来た。この食堂は日本食が多いから、多分転生者が広めたんだろう。個室もあって落ちつける場所なのだ。さすがに王宮とか侯爵家のお抱え料理人と比べたら料理は劣るだろうけど、家庭的で俺はめちゃくちゃ好きなんだよな。シーラも俺のお菓子は好きみたいだから、多分口に合うんじゃないかと思う。多分。

 

 お店に入ると、店員さんに一番奥の席に案内されたので、シーラと2人で席に座った。空いてたみたいだからセスたちは隣の席に座った。ここの店は前世でいうファストフードみたいな感じだから、席に置いてあるメニューから料理を選んで注文して食べる流れだ。シーラに説明しながらメニュー表を手渡した。

 

「どれも美味しそうですね。悩んでしまいます。」

 

「ゆっくり選ぶといいよ。俺と一緒じゃないとあまり来れないだろうし。」

 

「はい。……んー……」

 

 普通侯爵令嬢が城下町に来る場合、貴族ご用達のところだろう。そっちの方が警備も万全だしね。こんなところに連れてきた俺が言えたことじゃないけど、普通じゃない。襲われても絶対に守れると自信がある俺とじゃないとゴルドールもセスも許可してくれなさそうだ。だから、食べるものは大いに悩んで欲しい。

 

「あ、あの、キース様。」

 

「ん? どうかした?」


「キース様のおすすめとかありますか? どれも美味しそうで迷ってしまって。」

 

「んー、俺が好きなのはオムライスとか唐揚げ定食、魚だったらサーモームニエルかな。」

 

 オムライスはもちろん、コカトリスの肉を唐揚げにしたものはお気に入りだし、サーモーフィッシャーという魔物は鮭に似た魚らしく、味も鮭そのもの。それのムニエルも好きで美味いからおすすめしてみた。三つも提示されてどうしようとまた悩み始めたので、一つ提案をしてみた。

 

「シーラはどの料理と悩んでるの?」

 

「オムライスとサーモームニエルまでは絞れたんですけど……」

 

 確かに女の子だったから冒険者向けのコカトリスの唐揚げ定食は量が多い上にカロリーが高いか。でも、二種類まで絞れたなら、ちょうどいいな。

 

「じゃあさ、2人で半分こしよっか。その方がどっちもたべれるでしょ?」 

 

「いいのですか?! あ、でもそれだとキース様の食べたいものが食べれなくなってしまいます……」

 

 俺のことを気にするとは本当健気すぎる。可愛い。 

 

「俺はどっちも好きだし、シーラが決まってから、違うものを頼んで一口あげようとしてたから大丈夫。」

 

 なんとなくどれを食べようか迷うんじゃないかと思ってたから、決めてなくてよかった。決めててもシーラのためなら喜んで変更するけど。

 

「そうなのですか?」

 

「うん。だから、遠慮しなくていいよ。」

 

「ありがとうございます、キース様!」

 

 シーラのお礼を受け取ってから、店員さんを呼んで注文した。店員さんが部屋から出て行くとシーラが何かを思い出したようだ。

 

「そういえば、ポイズンリザードの討伐はどうなったのですか? 詳しく聞いてみたいです。」

 

「さっきの?」

 

「はい。差し支えなければ。」

 

 できるだけ食欲がなくなるような話は避けて、掻い摘んでさっきの話をした。キラキラした目で話を聞いているシーラは可愛いと思う。

 

「そんなにも沢山いたんですね……」

 

「そう。原因は多分これから調査されると思うよ。今回の大量発生、ちょっときな臭いしね。」

 

 スリアルの件があるから呪いの気配を探ったんだけど、感じられなかった。多分呪いじゃなくて自然発生の類だとは思うんだけど、その自然発生の方法がよくわからない。近年の気候は安定していたし、ポイズンリザードは一度に大産卵するような魔物じゃない。どう考えても、あいつらの生態的に自然発生するにしてもあそこまで大量に出てくるほど冒険者たちが気づかないとは思えない。だから、王宮魔物生態研究機関という(王国騎士団や王国魔法師団とは別の王国が作った王国の組織)組織を派遣して調査されるはずだ。

 

「きな臭い、ですか?」

 

「うん。あ、ちょっと待ってね。」

 

 こんこんと扉がノックされたので、返事をすると店員さんが料理を持ってきてくれたようで、テーブルの上に置いてくれた。出て行ってから、索敵魔法と結界魔法を使って、盗聴用の魔道具の検知及び防音結界を部屋に張った。魔法を行使すると魔力が少し光るのだが、結界魔法はそれがわかりやすく見えるので、それをみたシーラが目をまんまるにした。外の音が遮断されたことを確認して効果を察した。

 

「よし、これでOK。」

 

「これは防音の結界魔法ですか? 初めてみました。」

 

「そうだよ。食べながら話そっか。」

 

 取り皿にオムライスを半分乗せかえて、シーラに渡すと目をキラキラと輝かせながら、サーモームニエルを半分に切り分けて渡してくれた。いただきますと言ってから、オムライスを食べた。とろっとろの卵にケチャップライスがいいぐらいに絡んでお互いに引き立てる。やっぱオムライスは最強だと思う。その後にサーモームニエルも口に含んだ。当たり前だけど毒はないので安心だ。

 

「あー、うっま。シーラはどうかな?」

 

 尋ねると、鮭のムニエルを口に運んでいたようだ。小さな口でもぐもぐと噛み、飲みこみ終わってから笑顔で答えてくれた。

 

「ん、どちらも美味しいです! とっても!」

 

「それはよかった。」

 

 ナイフを使わずにスプーンかフォークだけで食べるのは慣れてなさそうだけど、幸せそうにもぐもぐと食べるシーラは本当に可愛らしい。あと、頬袋を作らないように食べるのは貴族としてのマナーが染み付いてんだろうな。お行儀がいいのに対して、俺はテーブルマナーとかめんどくさくて、ついつい大口開けちゃうよね。

 

「シーラは偉いね。テーブルマナーを守ろうとするところ。」

 

「そうでしょうか? 何も考えずにしてましたけど……」

 

「体に染み付いてるんだね。いいことだと思う。俺なんか前世の記憶のせいでテーブルマナーはめんどくさいって思っちゃうからね。」 

 

「確かに貴族として生きていなかったのであれば大変かもしれませんね。でも、キース様はとても綺麗にお召し上がりになりますよね?」

 

「そりゃあ、13年も王族として生きてるんだもん、多少は慣れるよ? 慣れとめんどくさいと思う気持ちは別だけど。」

 

「ふふ。それもそうですね。」

 

「俺としては和食は箸で食べたいね。」

 

「和食はさきほどの唐揚げ定食とかなのはわかるのですが、箸ですか?」 


 この国、米を使った和食は一般に知られているけど、フォークとスプーンの文化が根強くて和食を食べる時でもその二つを使う。箸は、言えば場所によっては出てくるけど……って聞いたことある。和食を広めた人は箸の文化を広め忘れたんだろうな。多分。

 

「そう。2本の細い棒みたいなものを使って挟んだりして食べるんだけど、慣れないと難しいと思う。イメージわかない?」

 

「ちょっと難しいです。」

 

「今度作って見本見せるね。見た方が早そうだし。」

 

 この前生産魔法でフォークとナイフを作れた。まだスキルとして習得はできてないけど、箸ぐらいは作れるはずだ。

 

「楽しみです。」

 

 それから、日常の話や料理の話などをしてお昼ご飯を全て食べ終えた。

 

「さて、きな臭いって話だったね。」

 

「はい。どんなものなんですか?」

 

「現段階ではただの俺の妄想なんだけどね。」

 

 そう前置きをしてから話し始めた。

 

「シーラは国王直属の影という隠密部隊があるのは知ってるよね?」

 

「はい。宰相の娘であり将来は王家に嫁ぐことが決まっている身ですので、教えていただきました。」

 

 影とは。その名が表す通り、裏仕事をする部隊だ。国王直属で、王族または王族の婚約者を影から護衛したり情報入手、間者、はたまた暗殺を専門としている。俺にもシーラにも影の護衛がいる。忍者と言えばわかりやすいだろう。 

 アイスリア王国がまだ王国じゃなかった時、瞳の色が赤い人は悪魔の眷属として差別されていたことがある。その時、当時のアイスリア王国の初代国王はそんなものは出鱈目だと言い、助けたそうだ。色々逸話もあるけど、簡単にいうとそんな感じ。助けられたその一族は王家に忠誠を誓い、今の影となったとか。ちなみにこれは機密情報で、公にしている物語としては、助けられた一族は王家に忠誠を誓って、今の騎士団の原型を作ったと伝わっている。

 これもある意味事実だ。本人の意思と、隠密部隊としての才能がないものは、大体騎士団や海洋警備隊、頭が良ければ研究機関に入るので、王宮でたまに瞳が赤い人を見かけるから信じられている。

 

「その影をね? 去年から南の大陸に間者として紛れ込ませたんだけど、どうやらこの大陸、正確に言えばアイスリア王国しか取れない海洋資源を求めているらしい。」

 

「海洋資源というと、海紅石ですか?」

 

 海紅石とは、深海一万メートル以深の、海底火山がある場所に存在する。深海には鉱石となる物質と魔力が豊富に存在して、火山などの高熱、後は長い年月をかけていろいろな条件があってできたのではないかと言われている、珍しくて赤い鉱物資源だ。この海紅石に含まれた魔力量はとても高く、それでいて現時点でもどんなものなのかは解析できていない未知の魔力が秘められている。魔物から取れる魔石の20倍ぐらいの魔力量がある。使用方法は偶然見つけられたみたいだから、高水圧に長時間耐えられ潜航できる潜水艦の動力用に使われている。

 ただ、それを知ってるのは一部の信頼できる上位貴族と海紅石の研究者、潜水艦の動力部を作ってる一部の技術者だけだ。ま、その研究者や技術者はほとんど上位貴族出身なんだけどね。

 

「そう。どこで海紅石の存在を知ったのかは知らないけどそれを狙ってるみたい。海紅石を実用化させることができるのは我が国だけ。自分たちで研究しようとしても、海紅石ははるか深い海の底だ。我が国の発達した潜水艦技術が無ければ入手は実質不可能。たとえ、海紅石を入手できたとしても、高精度な精密機械がなければ解析不能。と、くれば、我が国を落として我が物にしたい、もしくは盗みたいとなるわけだ。色々重なったみたいだね。」

 

 それに、海紅石は超強力な軍事兵器ができてしまう。おそらく核爆弾か、魔法がある分それ以上の兵器が……

 我が国はそれを分かった上で、日常生活にしか使わないと硬く誓っている。作ることもしていない。研究者たちにも情報を流さないこと、作成もしないこと、した場合一族郎党極刑にされると契約している。王族を害した時と同じ処罰をされるのだ。ある意味この情報が流れれば国を揺るがすしね。

 

 だから、海紅石も潜水艦技術も完全に超国家機密。トップシークレット。公開などされるわけがない。偶然手に入った海紅石があったから、潜水艦ができて、深海だけにある海紅石以外の鉱物や資源を入手できて、国の発展に一役買っているのだ。

 

「その海紅石と今回の魔物討伐にはなんの関係があるのですか?」

 

 一見、海紅石を狙ってるのと、今回の魔物大発生は関係がないように思える。だから、シーラのような反応になるのもわかる。でも、なんとなく無関係とは思えない。ついにスカーレットみたいに第六感でも鋭くなったか? ……はい、ふざけるのは後にしよう。

 

「去年、スリアルが呪われたのは知ってるよね?」

 

「はい。緘口令が発令していたために呪われたという事実を知るのは一部の貴族だけです。」

 

 多分、俺が呪いの杭を抜くところを見ていた一部の騎士と情報収集に長けた貴族たちだけ。国民には迷子のドラゴンを保護したこと、国を襲うことはないので安心して欲しいとだけ言ってある。人為的だと知られたら国民の不安をイタズラに煽るだけだしね。

 

「スリアルは、子供とは言え様々な耐性を持つ竜王族だ。もちろん、呪い耐性だって高い。だけど、呪われた。そんな竜王族を操るほどの呪術魔法を使えるのは……」

 

 呪いが弱かったんじゃない。高い耐性があったからこそ、スリアルは術者から完全に操られずに抵抗ができた。王都の被害がなかったのは竜王族たちの高い耐性のおかげなだけだ。シーラは頭がいいから、すぐに思い至ったようだ。

 

「あ……呪術大陸……」

 

 南のバッカー大陸は呪術魔法が発達したいくつかの国で形成された大国の集まりで、呪いに関する知識は全大陸一と言っても過言じゃない。呪術大陸と呼ばれることもある。

 呪いが危険なものなのは知られているから情報はほとんど秘匿されている。ただ、魔物や人間にあだなす存在である魔族という人間とは違う種族を殺すことには長けているため、禁止にはされていない。

 

「一番可能性が高いよね。アイスリア王国を狙うあの大陸なら、今回の不可解な魔物の大量発生も、無関係とは言えないんじゃないかなって。ここからが俺の妄想なんだけど、もしかしたら今日のは何かの呪いなんじゃないかと思うんだ。」

 

 今回俺たちがいなきゃ、冒険者たちはかなり亡くなっていたと思う。

 SSランクのスカーレットとSランクのエレアは王国の最西端の街かはの魔物討伐の依頼、他のSランクとAランクの、王都に滞在している冒険者たちはダンジョンに向かっていた。ダンジョンとは迷宮を形成する魔物の一種で、数年かけて一層ずつ増えていく。魔力の溜まり場であるダンジョンでは魔物が生まれるんだけど、10階層ごとにダンジョンボスが存在する。ダンジョンボスは10、20、30、と10の倍数の階層にいるんだけど、それ以外の階層に強いボス、イレギュラーボスが稀に出現する。出現する原因は不明。大体は下階層にいるような強い魔物と同レベルの魔物だから、早急に討伐隊を組む必要がある。王都から西に3日行ったところにあるダンジョンでイレギュラーボスが出現したからその対処にAランクたちが行ってしまった。しかも一昨日出発していたはずだから、戻ってくるのは早くて一週間後。その頃にはポイズンリザードの大群は王都へと来ていただろう。俺たち4人は数日前を抜けば半年以上もギルドに来ていなかった。魔法が得意なSランクの俺たちがギルドに居なかったら、かなり被害が大きくなっていたと思う。本当、運がいい人がいたもんだ。俺の幸運値は働いていないのかと思ったが、実際は調合スキルを習得するための素材集めができてラッキー、という認識でいいだろう……シーラとのデートを邪魔されたタイミングなので素直に喜べない。

 

「呪い……」

 

 シーラが少し考えいたのか、小声でつぶやいた。Aランク以上が不在のこのタイミング、あれこれ邪推してくれって言ってるようなものだと思うんだよね。


「俺たちは呪いについての知識が乏しい。感知しにくい呪いが存在するのかしないのかすらわからない。その弱点をうまく突かれてるんじゃないかってね。」

 

「そうなるととても厄介ですね。」

 

 無知とは怖いもので、何も知らなければ何もできない。後手に回らざるを得なくなる。呪いについては何も知らない。条件次第では被呪者はもちろん、第三者にさえ気づかせない呪いもあるかもしれない。それこそ妄想だとは理解してる。これが本当に俺の妄想で終わればそれでいい。だけど、シーラに話してすっきりしたことと、不安になってる顔を見て冷静になった。シーラを不必要に不安がらせることになるって、少し考えればわかるはずなのに、やらかした。

 

「まぁ、あくまで俺の妄想だから誰にも言わないでね。この話が広まって大事になったら、外交問題を起こした首謀者として俺の首が飛んじゃうから。」

 

 笑えるブラックジョークを言ったはずなのに、余計にシーラが怖がってしまった。俺のおバカ……

 

「っ、絶対いいません!! あ、だから防音結界なんですね。」

 

 防音結界は、俺の妄想を聴かせないというより、国家機密の海紅石の話を聞かせたくなかったんだけど……ここは素直に謝っておこう。

 

「そういうこと。……ごめんね、怖がらせること言って。」

 

「いえ、キース様のお考えを知ることができて嬉しいので、大丈夫です。」

 

 俺の妄想を聞いた上でそう思えるなんて、俺が考えてるよりシーラは強い子なのかも。俺のステータスを見ても強くて良かったという子だもんね。弱いわけなかったな。

 

「ありがとう。じゃあ、結界を解くね。」 

 

 一応声をかけてから結界を解いて、部屋から出た。

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