困惑
今回と次回は、最初はグラキエス視点ですが、後半視点が変わります。
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〜サイド:グラキエス〜
それは、突然だった。
いつものように忙しくない日は、全員で朝食を食べていた時だ。
「へ? 父上、今なんと?」
「だから、お前とプリシラ・ガーディーアンとの婚約を結ぶ。今日、プリシラ嬢が登城するから準備しておけよ?」
聞き間違えじゃなかった? プリシラ嬢が婚約者? 今日会いにくる???? ど、え?
「? ?? ????」
「父上、プリシラ嬢とはこの前兄上が話しかけた水色の髪のご令嬢ですか?」
俺が混乱していると、ウェスが父上に尋ねた。父上が肯定した。ウェスが特徴を覚えている。それほど気に入ったの、、、
「わぁ! 兄上! おめでとうございます!」
あれ?
「お兄様! おめでとうございます!」
「へ??」
満面の笑みでおめでとうと言うウェスとルナ。てっきりずるい! とか、いいなぁ、とか……あ、もしかして、我慢してる、とか?
「ふふ、やっと、キースにも気になる子ができたのね。」
「母上?! ちょ、え?! どういうことです?!」
「だって、兄上。あの時真っ先に話しかけたじゃないですか! あの子のこと、気になっているのでしょう??」
あるぇ?? ウェスさん、どう見ても俺に婚約者ができて喜んでるって顔してますが? 確かに自分からご令嬢の紹介をしろと言ったのは初めてだったけど、露骨だったか?? 母上や父上だけでなく、ウェスが気づくほど?? 嘘だろ??
「ちなみに、ゴルドールとセスは泣いて喜んでいたぞ。キースがうちの娘を! お祝いじゃぁ! ってな感じに。」
「………どうしよう、想像できちゃった……」
元から俺とプリシラ嬢をくっつけようと画策してたんだから、そう言う反応になりそうだけど……本人はどうなのか。ゲームの時、ウェスのこと好きじゃなかったっけ? 俺でいいの?
どうにも釈然としないまま、朝食を終わらせて部屋に戻り、扉を閉めた。そして、
「どういうことー?!!」
頭を抱えてしゃがみ込み、人生で一番と言えるほど思考を高速でぶん回した。
いや、婚約はいいんだよ? 正直言ってあの子と結婚できたなら、絶対幸せだろうしな。でもさでもさ! 前世の記憶がある俺がいるとはいえ、まだ確定してないけど16歳で死ぬんだよ?! セスとゴルドールは知ってるよね?! いいの?!
「あー、こういう時に限ってセスはまだ来ないし、今日は来たと同時にプリシラ嬢もいるわけだから……あーー! 混乱するー!!!」
髪がぐしゃぐしゃになるのも構わずに頭をわしゃわしゃと掻き回した。
本当、どうしたら……
ぐるぐるとまとまらない思考を振り払うように、俺は……
「こう言う時は新しい魔法を作るに限る。」
「全く、何事かと思えば……私だって忙しいのですよ?」
現実逃避、つまり、逃げた。新しい魔法を試作していると王国魔法師団副師団長のセフィリスタに見つかったから開き直って、これまでのことを話した。
「ごめんね。けど、ぐるぐるしちゃうんだよ……」
どんな危ない魔法を自重しないで作るのかを監視されているついでに、相談もした。
「つまり、殿下はありもしない未来をぐるぐると考えてひよっているのですね。」
「セフィって、年々遠慮がなくなってきたよね。」
その通りなんだけど、その通りすぎて何も言えない……というか、俺、王族だよね?
「あなたにはこのぐらいがちょうど良いのでしょう?」
「まぁねー。畏まられるの好きじゃないし。」
「王族らしくありませんね、本当に。」
「仕方ないじゃん、あれがあるんだからさぁ。」
演技ではできても、素ではできない。元平民に王族らしく、なんて無理だ。
なんて思っていると、さっきのセフィの言葉が引っかかった。
「ん? ありもしないってどういうこと? 信じてくれてるんだよね?」
セフィは俺の記憶を信じてくれているのだと思っていた。信じてくれてなかったのかと思って、セフィの目を見るが、信じてない人間の目じゃない。
「信じてるからこそですよ。じゃなきゃ、毒に慣れたいなんて言わないでしょう?」
確かに、いくら量を調節してるから死なないとは言え、体調を崩すとわかっている毒を飲むなんて、正気の沙汰じゃない。そんなこと、普通は自分から言わない。
「まぁ、そうだけどさ……」
じゃあ、さっきのはどういう意味での言葉なのか。首を傾げているとセフィがメガネの位置を直して続けた。
「私や陛下、ゴルドール閣下もいらっしゃるんです。前と同じ結果になんてなるわけないでしょう。私たちを信じてくださらないと、何も始まりません。」
セフィの言葉に、俺は金槌で頭をぶん殴られた気がした。
「そっか。そうだよね。すでに婚約者が違うんだから、未来は変えられる。」
物語の強制力とかを気にして、周りが見えてなかった。そうだ、ここには俺を信じてくれる人が何人もいる。しかも、国のトップである
「迷いは晴れましたか?」
「まだ一つ残ってるけど、それ以外は。ありがとう、セフィ。」
気づかせてくれたセフィにお礼を言うと、セフィが少し顔を綻ばせた。鉄面皮の彼が珍しくて、顔をじっとみているとすぐに無表情に戻り、告げた。
「それなら良かったです。それはそうと、昼食のお時間ですよ。」
セフィが懐に入れていた懐中時計を俺に見せると、昼食の時間まであと3分と言う時間だった。ここから食堂までは走らなきゃ間に合わない時間だ。ルナに遅いって怒られる。
「え? あ、あぁ!!! 急がなきゃ!!!! またね、セフィ!」
セフィの返事を聞く前に訓練場を飛び出した。
side〜セフィリスタ〜
前世の記憶というものを持っているせいで子供らしくない10歳の、個人的に忠誠を誓っている主の背中を見送った。
「全く、世話がやける主ですね。だからこそ、支え甲斐があると言えばいいのでしょうか。」
私は、今は王国魔法師団の副師団長として働いているが、キース殿下が王宮の外に出る時は基本的に私が護衛をしている。
その私が、国王陛下から内密の辞令を受けている。
キース殿下が王太子となったとき、私が正式に、殿下の護衛をする、と。
そして、殿下が国王となったあかつきには、国王の護衛である魔法師団総帥になる、と。
正確にいうと、内密の辞令というよりは私が自分で申し出た。陛下も快諾している。
あの方直属になる日を夢見ているのは、私だけでなく、オーレンも同じだろうが。
「いっぱい悩み抜いて成長してくださいね。私たちがフォローしますから。」
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