出会い
週に一度の魔物狩り、それ以外は王太子教育などの勉強と剣術魔法の訓練、1日休みを繰り返して3年。10歳になった。すでに俺は社交会デビューしてるから、毎年パーティーに参加して、年下の子達の顔も見ることになる。
アイスリア王国は、7歳になると社交界デビューの年になる。体の弱い子や体力がない子もいるから、7歳になるまでは社交界に出ることはない。生まれて7年目になりましたというお祝いと、友達を作るために社交デビューをする。それは、王族である俺も例外ではない。誕生日を迎えていない者、迎えている者関係なく今年7歳になる子供は、春に王家主催の社交界デビュー用のパーティーに原則出席する。
すんげー憂鬱だけどな!!! セスもいるけど、顔がいいため女に囲まれるから、当てにできない。俺は……まぁ、うざいくらい群がられるから、途中から撒いてバルコニーか庭園に逃げ込む。
「はぁ……めんどくさいなぁ……」
俺は今現在、パーティに出席するために、服を着替えているところだった。青のジャケットに、俺の象徴として白のガーベラ
-王族は一人一人に、その人にあった花と色がある。父上は赤のカサブランカ、母上が青の薔薇、俺が白のガーベラ、ルナが薄桃色のルリトウワタ、ウェスが黄色のマーガレット-
をモチーフとしたブローチに、白いふわふわスカーフをつけている。いかにもお坊ちゃんですって感じ。服に着られてる感が否めない……
「まぁ、そうおっしゃらず。セスタ様以外にお友達ができるかもしれませんよ。」
俺の服を着替えさせている侍女が苦笑いしていた。でも、こんな固っ苦しい洋装も、注目を浴びるのも嫌だ。
「できると思う? 俺王族だよ?」
「忌憚のない意見を言うならば、難しいでしょう。しかし、全くいないわけではないと思いますよ。セスタ様がそのお一人でしょうし。」
「セスは、まぁそうだと思う。だから、セスには感謝してるさ。」
確かに、セスは友人だ。いや、もう相棒とも言えるぐらい一緒にいるし考えてることもわかる。遠慮なしに接してくれるようにもなった。だけど、そんな存在は、あまりいないとも自覚してる。だからこそ、セスには感謝が絶えない。すると、俺を迎えに来たらしいセスが部屋の隅から声をかけてきた。
「別に感謝などは不要ですよ。私は殿下を尊敬していますし、お側にいたいがために好きで努力をしているだけですから。」
好きで努力、ね。そこまでしてもらうほどの人間じゃないとは思うけど。そういうと怒られるから、言わないけど。
「そう思ってくれて嬉しいよ。俺も、セスに尊敬し続けてもらえるように頑張ろうって思えるし。」
「あなたはそのままで十分ですよ。」
「十分じゃないよ。あ、そういえば、セス。今日は君の妹も参加するんだよね?」
「そうですね。」
ウェスとルナの社交会デビューが今日。つまり、同じ歳のセスの妹、プリシラも参加する。ゲームでとても可愛かったけど、今世ではあったことがない。会ってみたいんだけど、すでにセスが俺の側近だから、ガーディーアンだけを優遇しているとかしてないとか、色々言われるから我慢している。セスもそれはわかっているみたいだけど、未来で悪役令嬢として断罪されると知って、どうしても俺とくっつけたいらしい。直接は言われてないけど、セスのプリシラの推し方がそんな感じだ。確かに、プリシラは俺たち王子の婚約者候補の筆頭だしね。多分、ゴルドールは俺とだったら婚約を認める雰囲気がある。それでいいのか? って思ったっけな。
「会ってみたいなぁ。」
「ついでに妹を攫ってくださいよ。」
「おいおい、お前兄ちゃんだろ、そんなこと言っていいのか?」
「妹の夫となる方はキース様以外認めていませんので。」
「こらこらこら。ちゃんとプリシラ嬢の気持ちも考えてやれよ?」
「もちろんです。」
いつも無表情なセスらしくもなく、ニヤッと何かを企んでいる顔をしている。どういうことだ?
「さて、そろそろお時間です。参りましょう。」
あ、話逸らしたな? ったく……ま、それに乗ってやるか。
「そうだな。いくぞ。」
俺がニコッと笑顔を浮かべて……
「戦場へ……」
すぐに遠くに目をやった。おそらく、死んだ魚の目をしているだろう。
「パーティ会場ですよ。」
「あんなところ、戦場と同じだろ。魔物を相手にしてる方がずっと気が楽だ。」
ほとんどの貴族は王族である俺に媚び諂い、自分の娘を婚約者にどうかと言う。親がそうしなくても積極的な令嬢は、俺の顔を見た途端目の色を変えて私が私がと売り込む……一瞬だけ、冴えない元平民だから初のチヤホヤをされて嬉しく思ったけど、徐々に俺の話を聞いてくれないしグラキエスとしての俺を見てくれないと早々に気づいてから、めんどくさくなった。どいつもこいつも、王族としての俺、顔、才能しか見ない。難しいのはわかってるけど、対等に接してくれない。前世でモテるやつは女を吐いて捨てるクズと、女が苦手な堅物のどちらかが多かったけど、気持ちがわかった……わかりたくもなかったけど……
「それについては否定しませんけどね。」
「それもそれでどうなの?」
俺、女より魔物の方がマシって言ったんだけどね?
「キース様ほどではないにしても、私もまぁまぁ虫は寄ってくるのでね。」
次期宰相に
「虫って……それ俺以外にはいうなよ?」
「言うわけないでしょう。そんなことしたら、いらない敵を作るだけですからね。」
「それもそうだ。」
くだらない話というか、愚痴を言い合っているとパーティ会場に着いた。扉前で警備していた近衛兵二人が頭を下げたので、手を上げて顔を上げさせた。そして、会場への扉を開いて、俺が来たことを声を張り上げて知らせた。
「グラキエス第一王子殿下、ご入場!」
中に入ると、大勢の視線がこちらに向いた。どうやらほとんどの貴族は到着していたようだ。
「ほらご覧になって。グラキエス殿下よ。」
「かっこいいですわ。婚約者になれたら……」
「あれほどの容姿ですもの。きっと、とてもお綺麗な方がお相手になりますわ。」
「とてもご立派ね。本当、10歳とは思えないわ。」
「そういえばあなたはご存知か? 殿下はすでに中級魔法はマスターしたというお話を。」
「あぁ。すでに王国魔法師団の団員たちの訓練に参加しているとか。」
「魔法師団ではなく騎士団だと聞いたが?」
「私は両方だと聞いたぞ。両方の団員が噂していたから、おそらく両方だろう。」
「それはすごい! 我が国も安泰だな!」
様々なところから俺の噂をペラペラと話しているのを横目に、国王陛下や王族のために用意された席へと向かっていく。父上や母上のための一番豪華なニ席の向かって右側、三席分の左側に座った。会場の隅々までじっくりと観察していると、後ろに控えたセスがそっと話しかけてきた。
「注目されてますね、キース様。」
「流石に三年も経験していれば慣れるさ。」
「慣れてはいても、うざったらしいのは変わらないって顔ですよ。」
「俺の心を読むな。つか、顔には出してない。」
「わかりにくいですけど、見るなって不機嫌そうな顔なのはわかりますよ。何年一緒にいると思ってるんですか。」
「お前の洞察力の問題だろ。」
「キース様には負けますよ。」
確かにあれから、洞察力強化のスキル取得しちゃったけどさ……まさか、パーティに出席してるだけで習得できるとは思わないだろ……それだけ、人間観察してるってことなんだろうけど、習得させるほど細かく行動している貴族がおかしいということで。
その時、会場が騒がしくなった。俺が入ってきた時に似たような感じの雰囲気の上がり方だ。誰かが入ってきたようで、そちらに目を向ける。遠くからでもわかる。澄んだ山の水のように綺麗な水色の髪に、後頭部に大きな淡い桃色のリボンとドレス、マゼンタの瞳、幼いがゲームのプリシラの面影がある。そのエスコートにゴルドール、その後ろにセスと似た女性、セスの母親がいた。
「キース様、どうです?」
一際目を引く容姿のプリシラに目を奪われていると、後ろから楽しそうな声のセスが耳元で話しかけてきた。
「っ、な、なにが??」
わかってる。セスが言いたいのは、プリシラを見てどう思ったかって言いたいのだと。俺がプリシラに見惚れてたのには、めざとく気づいてる。思わずすっとぼけるが、絶対ニヤニヤしてる。見なくてもわかる。
「ふっ、私の妹のことですよ。」
「言われなくてもわかってるっての……」
「じゃあ、すっとぼけないでくださいよ。」
「セス、お前今日なんなの??! いつもの無表情どこいった?! ニヤニヤ顔やめろ!!」
周囲の貴族には、何かを話してるけど内容がわからない程度に声を張り上げて?セスに言い返す。
「くすくす、ここまで動揺するキース様は初めて見ましたよ。」
「やめろ、本当に……」
確かにいつもならもう少し取り繕えるけど、今回はまじで動揺した。前世で見惚れるほどの美少女に会ったことない上に、前世+今世の年を合わせると一回り以上年下の子に見惚れるとは思わないから、恥ずかしくて体温が上がった。
それから少しして、母上とルナとウェスが一緒に入場して、少し話をしていると時間になって最後に父上が入場した。挨拶などをして、歓談の時間と7歳になる子息子女が父上に挨拶をするために、爵位順に並び始めた。今年は公爵家の子供はいなく、侯爵家はプリシラ含めて三人。
緊張しつつ父上の前まで来ると、大体の令嬢は俺たちの席をチラッと見てから父上に挨拶をする。しかし、プリシラは全くこっちを見なかった。こっちを見てくれないかなって思っていたんだけど、全くだった。残念になりつつ、次の子供達の挨拶となった。辺境伯、伯爵、子爵、男爵、準男爵、騎士爵、全ての子供の挨拶が終わった。そして、最後に父上のお礼の言葉を述べてダンスが始まるまでは自由時間となった。
「ふぅ……」
俺がため息をつくと、後ろに控えていたセスが声をかけてきた。
「殿下、お飲み物はどういたしますか?」
どうやら、給仕の人間が声をかけてきたようで、セスが対応してくれているらしい。喉乾いたし、もらうか。
「あぁ、頼む。」
「かしこまりました。」
セスがグラスを受け取ると、俺に渡してくれた。セスの手から受け取ると、オレンジの匂いがした。水に見えるのに、オレンジか。セスも同じものを受け取っていた。そういえば、俺が前世の記憶から飲みたいと思っていて、料理長にいったら開発してくれたっけな。
「さすが料理長だな。今日も完璧だったと伝えておいてくれ。」
「かしこまりました。料理長もお喜びになると思います。」
俺が全て飲み終えるとグラスを給仕に渡して、伝言を頼んだ。すぐには伝わらないだろうし、あとで自分からも言っておこう。
「さて、ゴルドールに挨拶をするか。」
「ぜひ。ついでに妹にもお願いします。」
「お前、そっちが本音だろ。」
「殿下には言われたくありませんね。」
「それは否定しない。」
俺が立ち上がり、ルナとウェスを母上に預けてからゴルドールに向かって歩いていく。俺が動き出したことに周囲の貴族が気づく。俺の行動に注目する。一番に挨拶する相手は誰なのかと。今回もまた、女に見向きもしないのか、と。まぁ、いつも通りゴルドールなんだけど。ゴルドールのそばまで行くと、
「やぁ、ゴルドール侯爵。」
「殿下。お疲れ様でございます。息子はお役に立てていますか?」
「もちろんだ。侯爵夫人も久しぶりだな。」
「グラキエス殿下。おひさしゅうございます。しばらく見ぬ間に間に大きくなりましたね。」
「成長期だからな。まだ伸びるだろう。そうだ、今日はとても可愛らしいご令嬢がいますね。よろしければご挨拶しても?」
俺の発言に、周囲がざわッとした。多分俺からご令嬢に挨拶したいと言い出したことがないのを知ってるんだろうな。ゴルドールの顔が少しニヤッとしていたのも見逃さなかったぞ。つか、あんたもか! プリシラは同い年というだけで、俺よりウェスの婚約者の最有力候補だから、未来を知ってるゴルドールとしては断れないなら俺の方がいいとは思ってるんだろう。目で訴えてくるんだもん、わかりやすいな、本当。傍目からはそんなこと思われてないってところがなかなかにいやらしい。
まぁ婚約云々は置いといて、プリシラ嬢とは懇意にしたいとは思ってるから、嫌われない程度に絡みに行く理由が欲しいのも事実だし、好都合かな。
「もちろんです。我が娘、プリシラでございます。」
ゴルドールがニコニコ顔(周囲は気づかれない程度の変化)でプリシラの背を手を添えて、軽く前に押し出した。
「あ、あの、は、初めまして。グラキエス殿下にご挨拶申し上げます。わ、私は、ガーディーアン侯爵家が長女、プリシラ・ガーディーアンと申します。」
さすがゴルドールの娘、セスの妹だな。完璧な淑女の礼をしている。さすがに緊張からか、言葉を噛んでしまっているけど。でも、7歳でこれだけ完璧なら、将来は侯爵夫人のように社交界の花と言われそうだ。おっと、未来を想像する前に、挨拶をし返さないと。
「初めまして。私はグラキエス・ウィン・アイスリアだ。君のことはセスタからよく聞いているよ。」
紳士としての挨拶をするとプリシラ嬢の瞳が俺に定まった。
「へ?」
「とても可愛らしくて優秀な妹がいる、とね。」
「はわ、そ、そんな、私にはもったいなきお言葉ですわ。」
俺の言葉に顔を真っ赤にして、あわあわとしている姿はとても可愛いと思う。
「そんなことはないよ。とても綺麗な挨拶だと思った。優秀だと褒めるセスの気持ちもわかるよ。それに、綺麗な髪と瞳だ。」
「はぅ、あ、ありがとう、ござい、ます。」
「このままプリシラ嬢と話していたい気持ちもあるけれど、あまり長居をしてしまうと、プリシラ嬢にご友人ができなくなってしまう。それはできれば避けたいので、今日はこれで我慢しよう。」
本気でこの子と、もっと話していたい。俺の言葉で恥ずかしそうに頬を染めるのも、嬉しそうにしているのも可愛らしい。もっと違う反応が見たいけど、長居しすぎると周囲の人間の嫉妬がプリシラ嬢に向いてしまう。それはまずい。初の会話はこれぐらいがちょうどいいだろう。その思考を読んだのか、ゴルドールが返事をした。
「お気遣いくださりありがとうございます。」
「あぁ。では、プリシラ嬢。この後のパーティーもぜひ楽しんでくれ。また会おう。」
「は、はい! ありがとうございます!」
ゴルドールから離れて、他の貴族達と挨拶を交わして会話をしていく。やはり他のご令嬢も紹介されたけど、不自然にならない程度に会話して無難に返していく。しばらくそれを繰り返していき、曲調が変わった。各々ファーストダンスを踊るために相手を誘い始めたのに気を取られている人たちに、気付かれないように会場から抜け出して庭にでて、バラ園の中に足を踏み入れた。ちなみにセスは置いてきた。
「はぁぁぁぁーーー……ほんっと、疲れたぁー……」
セスと父上は俺がここに逃げ込んでいるのは知っているだろう。それ以外ならば、このバラ園の中にいても見つからないだろう。このまま部屋に戻りたいが、さすがに早すぎるだろう。また戻れるように、簡単に直せるスカーフだけ緩めて第一ボタンを外した。完全にくつろぎモードである。スカーフ片手に、バラ園の奥にあるベンチを目指して歩を進めた。
「はぁ、んっとに、どいつもこいつも、貴族はめんどく、せ……」
ベンチがある場所に辿り着き、俺は目を見開いた。淡い桃色のドレスに綺麗な水色の髪の小さい子が座っていたのだから。
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