規格外 〜side:セフィリスタ〜

数日前。

 

 なぜ私がグラキエス殿下と宰相の息子セスタ様に魔法の指導をしなくてはならないんだ。ただでさえ師団長がサボって忙しいのに子供のお守りなんて……

 

 私は子供が苦手だ。純粋だからこそ、悪意なく人を傷つけてしまうこともある。親がすごいからと言って身分をかさに来て、傲慢に振る舞う子供もいる。純粋だからこそたちが悪い。

 かと言って大人が得意というわけじゃない。大人も大人で自分が偉いことを分かった上で振る舞うし、騙し討ちも平気でする。でも、悪意が感じ取れる分、子供よりマシなだけ。

 

 グラキエス殿下とセスタ様は王妃陛下に変わって、小さい双子の殿下たちのお世話をしているという噂はあるが、私みたいな下級貴族にはどう振る舞うかは分からない。

 

「憂鬱だ……」

 

 

 



 だが、私の心配は杞憂に終わった。

 

 殿下たちの元に赴き、挨拶をすると、二人はきちんと頭を下げて「よろしくお願いします」と言った。よろしく、なんて言われるとすら思わなかったから驚いた。私が二人にどれくらい魔法の知識を持っているのかを確認したくて質問しても、嫌そうにせずにちゃんと答えてくれるし、知っている事柄があっても最後まで話を聞いてくれる。質問される時も5歳を相手にしているとは思えないほど、二人は賢かった。

 この二人ならば、何がなんでも私が育て上げたいと思ってしまった。

 

 しかし、この後私はぶっ倒れるほどの衝撃受けることになる。ただでさえ座学で、優秀だった二人。ステータスはどうなのだろうと思って、鑑定する許可をもらったら、二人して魔力量であるMPが三桁……レベル1で三桁はおかしい。魔法師団一般兵の魔力は平均値130前後。副師団長である私は399、師団長は495。もちろん、レベルは低くても20以上。ある程度経験を積んだ上での数値なのに対して、魔物討伐どころか、魔法を使ったことすらない子供が私に匹敵するほどの魔力量。実戦経験させたらどうなるのか、どういう戦法を取るのかを予想するために、魔法適正に目を向けると……

 セスタ様が炎と氷の上位魔法適正持ち……殿下に至っては全属性って……ぶっ飛びすぎだろ?! どうなってんだこの二人!!!

 嬉しさ半分、悔しさ半分……

 とりあえず、陛下たちへの報告は授業が終わってからにして、二人に魔法を使ってもらうために魔法を見せた。座学で見せた年齢不相応な真剣な顔とは反対に、5歳の子供らしい、目をキラキラさせた表情をした。

 まさか、初回から的にあたりそうなほど威力が高い魔法が出てくるとは思わなかったけど、褒めると、ものすごい嬉しそうにしていた。その後のどっちが先に的に当てるかの競争も、子供らしさがあった。普段は立場があるから、子供らしくはしゃげないんだろう。魔法を使うこの時間、立場関係なくはしゃげるなら、見守ろう。

 

 師団長が娘を溺愛する気持ちがちょっと分かってしまったのが複雑だけど。

 

 たったの数時間で、二人に絆されてしまったが、悪い気はしなかった。

 

 さて、陛下にご報告しなければ。

 

 今日は、魔法を教えるためでもあるが、一番は将来国を支えるであろう殿下たちの能力を鑑定するためだった。鑑定スキルは万能ではない。自分より相手の方がレベルが高かったり、隠蔽スキルが上位だったりすると鑑定ができない。レベルが同じぐらいでも、鑑定されたくないと相手が思えば、鑑定するのは難しくなる。抵抗された力の強さの分だけ、スキルを発動させなくてはならないから気疲れしてしまう。あまりに抵抗が激しいと痛みを伴う時もある。逆に、相手が怖がらずに鑑定させてくれれば、すんなり行使できて楽なのだ。

 

 殿下たちを騙すような形にはなってしまったが、仕方がない。国を治めるのはステータスだけじゃないけど、参考程度にはしておきたいってところだろう。

 

「ま、この結果を見たら、陛下たちの考えは吹き飛んでしまうだろうがな。」

 

 案の定、陛下と宰相だけに報告をしたら、二人は驚愕に目を見開いた。

 

「これは……キースの記憶力が良いのはスキルかもしれないとは思っていたが、特級完全記憶か……」

 

 完全記憶とはその名の通り、記憶力が高まるスキルだ。初級だった場合は、何回か見たり聞いたりすれば覚えていられる程度で完全とは言えないが、特級はその名の通り一度見たもの、聞いたものは一生忘れないというものだ。他にも、魔法創造、レベルアップ時に上がる能力値を大幅にあげる能力値上昇、武術体術の技術が特級、全属性の魔法に適性があったりと……ツッコミどころ満載だろうなぁ。気持ちわかりますよ、お二方。

 

「アルバレスト……セスタはともかく、殿下のこれは隠すべきでしょう。今はまだ。」 

 

「魔法の訓練で魔力量が多いのは悟られるだろうが、スキルは隠さなくては……幸い、初級とはいえ隠蔽を持っている。使わせたほうがいいだろうな。あの子にステータスの見かたを教えなくてよかったような……教えておいて自分で隠蔽させておくべきだったのか……」

 

 初級の隠蔽スキルに上級の鑑定スキルが負けるわけないんだが、黙っとこ。誰でもわかることだし、それを思いつかないお二人ではない。つまり、現実逃避している証拠だ。

 

「ま、しかたなかろう。知ってしまった以上はな。」

 

「そうだな。あとでキースと話をしよう。」

 

 

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