第20話 心が通い始める二人
僕とアザミは舌を絡ませる熱いキスを交わす。アザミは遠慮なく僕の体に手を這わせて愛撫を始めた。昼間の行為で疲れていたにもかかわらず、僕はアザミの優しい愛撫に震え始めた。
疲れて鈍くなっていたせいか、落ち着いてアザミを抱くことができた。僕は性的な経験に乏しい。きっと上手じゃない。でも、そんな僕を相手にアザミは十分に感じてくれたようだ。僕でも彼女が感じていると思うと嬉しくて涙が出そうだった。
セックスとは快楽を貪るものではない。愛と喜びの表現なのだ。そんな話を聞いたことがある。お互いの気持ちが繋がりっているからこそ、セックスがもたらす快楽も至高のものとなるのだろう。
「清ちゃん。気持ち良かったよ」
「僕も」
「うふ。ね、まだする?」
「今日は止めとくよ。またにしよう」
「うん、わかった」
僕はアザミと抱き合ったまま、泥の様な深い眠りに落ちてしまった。
夢なんか見ない、深い深い眠りだった。
翌日は早めに大学へと出かけた。先日、自転車を置きっぱなしにしていたからなのだが、もちろんアザミも一緒だ。
「ねえねえ、清ちゃん。私も自転車が欲しいな。時間が空いたら買いに行こうよ」
「え? 自転車買うの?」
「そうだよ」
「どうしよう? お金に余裕ないから」
「もう、馬鹿。私のお金で買うから、清ちゃんは気にしなくていいの。でもさ、防犯登録とか、そういうのを清ちゃんにやってほしいな」
「わかったよ」
一瞬だが、金銭的な事を考えて断ろうと思った自分が恥ずかしかった。二人で並んで自転車をこいで、川沿いの道を走ったら楽しいだろう。それと、防犯登録なんかを真面目にやろうとしているのは好感が持てる。悪魔のくせに。
講義が終わってから、大学前にある自転車店に寄ってみた。義務化に伴い、店内には多くのヘルメットが展示されていた。また、今話題の電動キックボードも展示されていた。
物珍しさからそれを触っていたのだが、店員から声を掛けられた。
「清史郎。そいつは止めとけ。危なすぎる」
振り向くとそこには、同じ大学に通う女子がいた。名は
「キックボードですか」
「もちろんだよ。清史郎は自動車の免許は持ってるんだよな。だったら普通にスクーターを買え。そっちの方がよっぽど使い勝手がいいし安全だ」
この店でバイトをしていると聞いていたのだが、実際にツナギを着ているのは初めて見た気がする。これはいわゆるギャップ萌えって奴だろう。
「もう、うちの店で売った車両が三台も事故で廃車。転倒したのは数え切れんな。安いし便利だと思ったら大間違いだぞ」
そんなものかもしれない。僕自身もこの電動キックボードの認可には疑問があった。
「ああ、今日は自転車を買いに来たんですよ。彼女用の」
「彼女だって?」
小夜はアザミの事が目に入ってなかったようだ。目を見開いて大仰に驚いていた。
「どっひゃあ! 清史郎に彼女いたんだ」
「いたよ。といっても付き合い始めてまだ一週間だけど」
「ええ。こりゃ寝耳に水だな。あかねにフラれたって聞いてチャンスだって思ってたんだけど先を越されちまったか」
「はあ?」
「いや、ジョークジョーク。ちゃんと知ってた。大学で出会ってないだけだ。噂の彼女ねえ。なあ、清史郎。どこで引っかけた? お前がこんな美女を引っかけるなんて何かの前触れか? 恐怖の大王でも降って来るのか?」
「そんな事はどうでもいいだろ。ノストラダムスの大予言じゃないんだから」
「だよな。彼女の自転車か。お勧めはそこのキックボードだ」
本当に電動キックボードへと指さす女だ。さっき危険だと繰り返し言ってたのに何を考えている。
「冗談はやめてくれ」
「うむ。予算とか聞こうか。こっちに来てよ」
「きゃ、これ可愛い」
「でしょ。でもね、自転車って何年も使うものだから、あまり派手なのは選ばない方がいいぞ」
「そうかも」
「変速付きも便利だけどな。シンプルな方が長持ちするよ」
「うーん。この白いのが可愛い」
「あーそれは有名メーカー品だからね」
「値段? その位なら大丈夫」
「ほほう。このモデルはね。駆動系にベルトを使ってるから給油不要でメンテナンスフリー。だけどちょっとお高いんだぞ」
「いい、これにします。荷台も付けたい」
「任せときな。直ぐ乗りたいの?」
「はい。お支払いは今すぐできます」
「展示車でいいんだね。少し待ってて」
とんとん拍子に商談が進んで行った。店の主人らしきハゲのオッサンが出て来て正式な契約書を交わしていた。支払いはオプションを含めて85000円らしい。僕の自転車の三倍くらいの値段だった。
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