第19話 熱々の同棲カップルとは少し違う
僕もアザミも築山あかねも疲れ切っていたのだが、何故か
「あーみんな疲れてるね。俺だって疲れてちょっと眠いんだけど責任感ってやつ? まあ、居眠りしないよう頑張るから、みんなは寝ちゃっていいよ」
こういうところが陽キャらしい振舞いだろう。あかねは助手席でうたた寝をしていたし、アザミも僕の膝枕ですやすやと眠っている。僕もお言葉に甘えて少し寝入ってしまった。
強烈な体験は繰り返し追体験するものらしい。アザミとあかね、二人の女性と絡み合う映像が何度も再生された。夢だと分かっていても、何度も求めていたし、夢だからか衰える事もなく、何度も何度も行為を続けていた。
「清ちゃん。ついたよ」
アザミの声で目が覚めた。功の運転しているランドクルーザーは、川沿いの僕が住んでいるアパートの横に停車していた。
「大学よりはアパートの方がいいと思ったんだ。場所は奈々ちゃんに教えてもらった」
そうかもしれない。一旦大学へ戻るよりは、自室でゆっくりした方がいい。自転車はそのままにして、明日は徒歩で大学まで行くことにしよう。
「ねえねえ清ちゃん。ごはんにする? お風呂にする? それとも、ワタシ?」
どこで覚えたんだって疑念しか湧かない台詞を唱えながら、アザミが抱き付いて来た。そして舌を絡めてくる。
彼女はまだセックスできるのか。いや、そういう欲求があるのか。悪魔、サキュバスは無限の性欲を持っているのか。
そうとしか思えない。そしてアザミを抱いた瞬間に、性欲が再び沸き上がって来たのを自覚した。彼女に触れるだけで官能を揺さぶられるのは間違いない。
「ああ、先に食事をすませよう。次に風呂。それから二人でイチャイチャしよう」
「うん、わかった。じゃあ私はお風呂の準備をするね」
アザミは締まった尻を左右に振りながら、嬉しそうに風呂場へと向かう。僕はその見事な尻に見とれつつも気を取り直し、冷蔵庫の中を物色した。買い置きの冷凍ピラフがあったのでそれを準備する。ちょうど二人前だ。大皿に二人前を盛り付けてラップをかけてから電子レンジに放り込む。そしてタイマーを5分に設定してからスイッチを押した。そしてヤカンに水を入れて火にかける。
いつものカップスープと麦茶を用意したところでアザミが戻って来た。
「うーん。いい匂いがする。今日は何?」
「冷凍のエビピラフとカップスープ」
「いいじゃん。美味しそう」
嬉しそうにクンカクンカと周囲の匂いを嗅いでいる。アザミの良い所は、お金をかけていない適当なメニューでも、嫌な顔をするどころか喜んで食べてしまう事だ。特に小食という訳でもなく、一人前をきちんと食べるところも好感が持てる。
レンジから出した山盛りのピラフを、座卓の真ん中に置く。マグカップにお湯を注いでカップスープを作るが一人分だ。グラスに麦茶を注ぐのだがこれも一つ。そして、二人で食べる。一つの皿に盛った二人分の食事を二人で突いて食べるのは何とも言えない幸福感があった。
「ねえ、清ちゃん」
「何?」
「私ね。清ちゃんとね。ずっとこうしていたい」
「僕もだよ」
熱々の同棲カップルみたいだ。いや、大体はそうなんだろうけど、僕たちの場合はちょっと違う。アザミが人ではない事と、他の男とセックスする事だ。先程の行為、車の中でアザミと功のセックスが脳裏によみがえる。嫉妬の炎がチリチリと胸の奥を焼いているのを感じる。僕は寛容じゃない。そのくせ、他の女の子ともセックスしたいという欲求もあるし、実際にアザミの前であかねを何度も抱いた。
脳裏によみがえるあかねの裸体。
そして絡み合うアザミと功。
嫉妬と羞恥で胸が痛い。
この痛みを消したい。
でも、どうしたらいいのか僕にはわからない。
そんな僕を気遣っているのか、アザミは僕の手を引いて風呂場へと向かった。
衣類を脱ぎ去り、先ずはシャワーを浴びる。そして石鹸とタオルでお互いの体を洗った。乾いてこびりついていた体液は、水にぬれて元の粘りを取り戻すのだが、それも石鹸で洗い流した。
ぬるりとした感触を全て洗い流すとスッキリする。でも、僕はアザミを抱きたくなっていた。
「あれれ? 清ちゃん元気になったね。へへ」
ニヤリと笑いながらアザミが僕のに手を触れる。
「ねえ、ここでする? 湯船に浸かってする?」
返事もせずに、僕はアザミを抱きしめた。そして彼女の手を引いて風呂場から出る。バスタオルでアザミの体を大雑把に拭いて、自分の体も大雑把に拭いて、そのままベッドまで行って倒れ込んだ。
抱き合って見つめ合う。アザミが遠慮がちに口を開いた。
「清ちゃん、ごめんね。私、大食いなんだよ」
そんなに食べないじゃないか……と言いそうになって口をつぐむ。
そうか。そういう事か。
彼女のセックスは恋人同士のセックスとは少し違う。
悪魔……サキュバスなんだから、人の感情、心を喰うと言っていたじゃないか。彼女は特に、神に背く背徳の精神が好みだと。
「清ちゃんは良い人だからね。私はもっと、悪い心を食べちゃいたいんだ。だから、功君の誘いに乗ったら……ね。わかるでしょ」
「そう……だね」
アザミの言葉に頷きつつも、僕の官能は膨れ上がった。それを下腹部で感じたアザミは怪しく笑いながら、彼女の腹をそれに擦り付けた。
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