イベントサークル
第16話 同伴出席とは?
「おはよう! 清史郎」
「おはよ。その美女は誰?」
「この大学? 学部は?」
「隅に置けないな。いつの間にそんな美女と付き合ってたんだ?」
「おい。童貞同盟を裏切るつもりか? 見損なったぞ!」
朝っぱらから学友に声を掛けられる。童貞同盟なぞ結んだ覚えはないのだが、どちらかといえば陰キャに属する僕がこんな風に声を掛けられる事も珍しい。やはり隣にいる美女、アザミの存在が大きいのは事実だ。
今はジーンズとパーカーという地味目な衣類だ。上半身はダボダボだが、それでも腰から下の美しいラインは際立っている。きりりとした目元と合わせ、かなりの美形少女に見えるのは間違いない。
そんなアザミが何故だか大学にくっついて来ている。僕の隣に座り、ちゃっかりと講義を受けているのだ。
大講義室で行われる教養課程の講義なら分からないでもない。人数が多いので一々出席など取らないし、部外者が紛れ込んでいても見つかる事は無い。しかし、専門課程の講義にまでくっ付いてくるのはどうなのだろうか。もちろん学生証など持っているはずもなく、彼女の顔を知っている教官もいないのに、学生として馴染んでいるのだ。
「気にしなくても大丈夫だよ。私が部外者だって誰も気づかないから」
「本当なのか?」
「うん。すこーし力を使ってるからね。みんな私の事をここの学生だって思ってるよ」
「力?」
「そうね。
「そんな事が出来るの? いや、そもそもそんな魔法を使ってほしくない。他の奴が君を好きになるなんてのは嫌だよ」
「へえ、嫉妬したりするの?」
「まあね」
他の奴がアザミを好きになったりして絡んで来るなんて考えたくもない。僕はかなり不機嫌な顔をしていたんだと思う。アザミは慌てて弁解を始めた。
「安心して。今使ってるのはそっち系じゃないから」
「え? それはどういう意味なの」
「魅了って、要するに認知を歪ませる力なの。だから、学内で私を見かけた人は私が学生にしか見えないし、それに疑問を挟む事もないって感じかな」
「そうなの?」
「そう。私たちの得意分野です」
そうかもしれない。僕はもう、アザミの虜になっているじゃないか。あんな、悪魔そのものの彼女を受け入れているのがその証拠だ。
僕たちは空き時間を中庭のベンチに座って潰していた。お昼にはちょっと早かったけど、売店でホットドッグを買って二人で食べた。
これがリア充か。非情に感慨深い。
今まで、女性と一緒にお昼を食べるなんて無かった。しかも、ここは学食じゃなくて中庭のベンチだ。これは二人の関係がより親密だと感じる。このまま彼女を押し倒したい。抱いてしまいたい。そんな欲求が沸き上がって来た。しかしここは中庭だ。人目はあるしイチャイチャしていい場所じゃない。
この熱くたぎる性の欲求をどうしたらいい?
トイレとか屋上とか、学内でやってしまうのか? それとも講義をサボって家に帰るとか? リア充とは案外不便なものだと思った。今まではこんな事で悩んだりしなかったからだ。
僕はアザミの手を握って彼女を見つめる。アザミも何だかうるんだ瞳で僕の事を見つめている。今、周りに人はいない。だったらキスするくらいいいんじゃないか。
僕とアザミの距離が縮まる。
お互いの吐息が混ざり合う。
唇が触れるまであと少し。
そんな時、突然背後から声を掛けられた。
「おお、
聞き覚えのある女性の声。振り返るとそこには築山あかねがいた。なるべく出会いたくない人物なのだが、同じ大学なのでこんな風に顔を合わせる事は当然ある。
「大殿大路君の彼女、相変わらず美人さんだよね。ホント、モデルみたいな美女だよ。まったく」
築山あかねはぽっちゃり系で可愛い系の美少女だ。僕が彼女に告白してフラれたのが一か月前。そんな理由で僕の方からは非常に声をかけづらい。しかし彼女は気兼ねなく接してくれている。僕との事が無かったかのように振舞っているのだが、それが大人の対応なのだろう。僕みたいに
「私たち、休講になっちゃって暇なの。ドライブにでも行かない?」
「行きまーす!」
僕の事はそっちのけでアザミが返事をしていた。
「
「
何故だか意気投合した女性二人が固く握手をしている。僕はもちろん、アザミと二人だけの時間を過ごしたかったのだが、そんな意見を言えるような雰囲気ではなかった。
乗り気ではない僕の様子を察したのか、アザミとあかねが僕の両手を引っ張ってベンチから強引に立たされてしまった。
二人に手を引かれてそのまま駐車場へと向かう。黒い大柄なSUVの傍に依然見かけたことがある男が佇んでいた。
この前、ファミレスで茜と一緒にいた男だ。
「あれ?」
「暇そうだったから誘ったの。ドライブしよ」
「いいけど」
彼にとっても寝耳に水だったらしい。
「俺は
体育会系かって感じの立派な体格に短めの茶髪はあからさまな陽キャだ。何か住む世界が違う気がしたのだが、彼の差し出した右手を握って僕も自己紹介をしていた。
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