第7話 大掃除ですことよ
異臭……はしない。しかし、3LDKの広々とした部屋はゴミの山だった。
いったい何処から手を付ければいいのか? さっぱりわからないのだが、とりあえず玄関から手を付けた。先ずは下駄箱を開けて中の靴やらブーツを出して、ほうきで砂を掃き出す。そして下駄箱に仕舞う。皮のブーツも手入れしなくてはいけないようだがそれは後回しだ。
「私は何したらいいかな?」
「洗濯がたまっているなら洗濯してください」
「うー、自信ないんだよなあ。手伝ってよ」
洗濯に自信がないだと? 僕だって女性の下着をどう洗濯したらいいのかなんて知識は無い。しかし、原理原則は同じだろう。脱衣所に溜まっている高級ランジェリーにドキドキしながらも、ショーツやブラ、シャツやストッキングなどを洗濯ネットに分けて入れてから洗濯機のスイッチを入れる。これは全自動式で乾燥機は上側で別にあるから好都合だ。つまり、洗濯乾燥一体型であれば乾燥が終わるまで次の洗濯はできないが、これなら洗濯しながら乾燥もできる。
「へええ。そんな感じでネットに入れるのね」
「今まで使わなかったの?」
「うん。自分でやると色々凄ーく絡まって大変だったからね。そのネットで絡まなくなるんだ」
「そう。じゃあ、次はお風呂とトイレ掃除」
「わかったよ」
風呂も結構汚れていて、排水溝には髪の毛が浮くほど詰まっていたし、トイレの方も相応に汚かった。
「よくこんな所に住んでたね」
「だってさあ。面倒なんだよね、お掃除」
「気持ちは分かるけど、やらなきゃ汚れる一方」
「だよねえ。次は?」
「キッチン周辺。缶とペットボトル、プラゴミと不燃物と可燃物を分ける」
「うー」
「面倒だけどやらなきゃ」
「そうだね」
結局、ゴミ袋20個分のゴミが出たのだが、それはとりあえず和室に突っ込んでおいた。なんやかやで床に掃除機をかけたのは3時間後だった。
「だいたい終わったかな?」
「ゴミ、出さなきゃですよ。収集日は把握してますか?」
「あれれ?」
「ちょうど冷蔵庫に一覧表が貼ってありますね。可燃物は火曜と金曜、不燃物は第一月曜でプラゴミは第二と第四月曜、第三月曜が資源ゴミで缶、ビン、ペットボトルと古紙」
「そうだった」
「これをよく見て、収集所へ間違いなく出すんですよ」
「清史郎?」
あの、きりりとした顔が不安そうな上目遣いで僕を見つめている。それ……メチャ可愛いんですけど。
「何ですか? 手伝いましょうか?」
「お願いします」
途端に彼女の表情がキラキラと輝いた。現金だなあと思いつつも、この可愛らしさに自分はとても勝てない事に気づく。可愛いは正義だよなあ。
乾燥機から乾いたシーツを取り出し、敷布団と掛け布団……有名メーカー品の羽毛布団……にセットする。シーツの中に布団を入れ込んでいくのって結構難しいのだが、彼女にはとても荷が重そうだった。仕方なく僕が頑張った。ベッドメイクが終わった所でとりあえず部屋の掃除は終了した。
そんな時、部屋の呼び鈴が鳴った。
「あ、出前ね」
「出前?」
「そう。パパが来るときは必ず出前を頼むのよ。お寿司とかピザとか」
「そう……なんだ」
途端に悲しい気持ちになる。
そうだった。彼女はパパ活……いわゆる援助交際をしている。恐らくこの高級マンションはそのパパが手配しているのだと思う。一般人ではとても手が出ない高級物件に住んでいるという事はそうなんだ。
彼女はインタホンで部屋に来るように言った。しばらくしたら部屋の呼び鈴が鳴り、彼女は玄関口でその出前を受け取っていた。
「今日はお寿司だね。四人前くらいあるけど」
「四人前?」
ダイニングテーブルにどさっと置かれた大きな丸い桶は直径が40センチ程。中身は握りずしの盛り合わせで、本当に四~五人前くらいの量だった。
「こんなに食べるの?」
「今夜は多分、4Pだよ」
僕は唖然としてしまった。つまり、男が三人来るって事。さっきまで、新婚みたいなウキウキした気分で掃除した自分が情けなくなってくる。こんな事で苦痛を味わってしまうなら、彼女とは、いくら相思相愛であっても、付き合っていけない。
「清史郎?」
「あ。僕は帰るよ。電話番号は090-××××-××××だから」
キッチンにあったメモ紙に番号を書いて彼女に渡す。
「じゃあ、また連絡ちょうだい」
自分から連絡する事は無い。
そんな気分にはならないと思う。
せっかくできた彼女だと思っていたけど、やはり僕には無理なんだ。パパ活してる女性とのお付き合いなんて。
「待って」
玄関に向かおうとした僕を彼女が呼び止めた。
「私の事をもっと知って欲しい。清史郎に」
「知らない方が良い事もあるよ」
「それでも知って欲しい。清史郎には私の全部を見せてあげる」
彼女に手を引かれ、僕は寝室の横の部屋、書斎となっていたその部屋へと連れて行かれた。
彼女はその場で二台のノートパソコンの電源を入れる。そして監視カメラ映像のようなものを再生し始めた。それは彼女が他の男、恐らくパパ活の相手とセックスしている映像だった。
「これは?」
「パパがね。好きなのよ。もちろん、寝室にもビデオカメラをセットして撮影するよ」
「それも見せてもらえるの?」
「ええ。後でいくらでも見せてあげる」
彼女がどんなセックスしているのかとても興味が沸いてきた。性的な奔放さに嫌悪しつつも、性の興奮はそれに勝るのか。
「じゃあ、清史郎はここで大人しくしててね」
僕は椅子に座ったまま、彼女が何処からか取り出した革製の拘束具で両手を椅子に固定された。
「え? これは何のつもりなの?」
「声は出さないでね。約束して」
「ああ……」
納得はできないのだが、ここは彼女に従うしかない。
「もちろんオナニーも禁止。今はできないでしょうけど」
彼女は笑いながらその場で着替え始めた。赤いレースの派手な下着を身に着け、その上からミニスカートとノースリーブの白いブラウスを身に着けた。赤い下着が透けて見える薄手のものだ。
「じゃあね」
彼女は手を振りながら書斎から出て行った。そしてインタホンが来客を告げた。
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