第4話 お昼前のピロートーク
「私は淫魔のグループに属しているの」
淫魔……インキュバスとかサキュバスとか言われている悪魔……か。そういえば七つの大罪の中にも色欲というのがあった気がする。
「性的に興奮した人間の感情を食べているのよ。それが私の生きる糧。だからセックスが大好き」
精気を吸い取られる……そういう事なのだろうか。寿命が縮んだりすると困る。
「精気と言えばそうなんだけど、私が摂取しているのは人が性的に興奮している時に発散されるエネルギー。大丈夫よ。私とセックスしても寿命が縮む事なんて無い」
なら他の感情はどうなのだろうか。怒りや悲しみなど、人は激しい感情を表すことがある。
「そうね。激しい感情……ほとんどは美味くいただけますが、特に美味しいのが性的興奮。ラブラブエッチも好きだけど、暴力的な強制性の強いのは特に美味しいわ」
レイプされると感じるタイプ……か。
「そうね。大好きよ。でも殴られたり蹴られたりするのは好きじゃないわ。他人が痛めつけられている構図は大好きだけどね」
だから夜の街を徘徊していた。
「そう。強引に迫って来る男って結構いるのよ。昨夜もセックスの相手を物色していただけなんだ。三人いたからかなり満腹になれるって、期待していたんだけどな」
しかし、相手が暴力を振るったため逆上してしまった。
「そうね。だって、私の鼻にグーパンしやがったんだ。アレをやられたら流石に腹立ちますわ」
それで悪魔の姿へと変身した。
「うん。でもアレは単なるお仕置き。ちょっと痛めつけたけど彼等は無事。殺してなんかいない。今はきっとイイ人になってるよ……」
イイ人?
「そうね。毒気が抜けてイイ人になってるわ」
君が感情を食べたから?
「アイツらはレイプの常習犯だった。だから、犯罪を犯して興奮する心を喰った」
心を喰った?
「そう。犯罪者が犯罪者たる部分ね」
それなら、もう犯罪は犯さない?
「多分ね」
外はとっくに明るくなっている。午前10時すぎではなかろうか。それでもまだ、目を瞑ってウトウトとしている僕の思考を読んだアザミが話しかけてきていた。それで会話が成立しているのだから面白い。
狐顔の美女、アザミ・グレイス。最初は日本人かと思っていたのだが、少し西洋の血が混じっているようにも見える。色白の肌と日本人とは比較にならないほどの高い鼻筋だからだ。名前は和洋折衷みたいだが、まあ、悪魔の名前だから国籍なんて関係ないのだと思う。
彼女の説明にたいし、一応は納得したと思う。そもそも悪魔という存在に対する理解というものが自分の中にあるのかどうか、正直わからない。しかし、どうしても納得いかない疑問点があった。悪魔に名前を聞くとヤバイ……とは何なのだろうか。僕は声を出して彼女に質問してみた。
「アザミさん」
「なあに?」
「名前ですけど。どうして躊躇していたんですか?」
「そうね。真の名、
「そんなに大事なんですか?」
「そうね。電話番号みたいなものかな?」
「電話番号?」
「そう、電話番号。念を込めると相手につながってしまうの」
「それは一方通行にはならないの?」
「ならない。非通知設定はできないからね」
「じゃあ繋がったらどうなるの?」
「繋がるのは魔術回路。その状態でどちらが優位に立てるかは力関係に依る」
「それはつまり……」
「私の名を聞いた者は私の支配下となる。私より上位の人間なんて滅多にいないからね」
「だから躊躇してた? 僕を好きに支配できたのに?」
「そうね。だってあなた、可愛いんだもの」
可愛いとか……むず痒いだけであまり嬉しくない。
「でも、僕は名前を聞いてしまった。もう、支配しているの?」
「どうかしら」
怪しく笑うアザミだった。そのとき、キュルルルルっとアザミのお腹が鳴った。
「お腹が空いてきちゃったかも? 何か食べる物はないの?」
「無いと思う」
「何時も外食?」
「外食かコンビニ」
「ふーん。じゃあさ、食べに行こうよ」
賛成と返事をしようとして気付く。僕たちはまだ素っ裸でベッドに潜り込んでいたのだ。そして体中がお互いの体液で汚れている。
「その前にシャワーを浴びましょう。着るものは……どうしますか?」
「清史郎の服を借ります。身長もそう変わらないみたいだし、きっと着れるよ」
そうか。僕は普通の平均的な身長で、彼女は女性としては高身長なんだ。
彼女はさっさと布団から飛び出し、バスルームへと向かった。その白い背と尻に見とれてしまった。勃起しそうになっている自分が情けない。僕は彼女のタオルや下着、といっても僕の使っているものだけど、カーゴパンツとシャツなんかを用意した。
※ここまで読んでいただいてありがとうございます。今後は原則、週一の更新となります。更新した場合は近況ノートでお知らせしますのでよろしくお願いします。
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