第2話3年生の夏

うだるような暑さの夏。周りの高校は夏休みだが、O高校普通科の僕は受験生のため、補習と言う名の下、夏休みも登校した。

「おいっ!神田だぁ~」

と、声がするので振り向くと竹川由美だった。

「気安く、オレの名前を呼ぶな!醜女!」

竹川は、バッグの中から貸したCDを返しにきた。

CDは映画「バックドラフト」のサントラだった。「料理の鉄人」で使われる曲だ。

「1週間遅延。ジュース。いちごミルク。ってこい」

「神田の分際で、わたしをパシりにするの?」

「お前、また、鼻血流したいか?」

「……ふん。受験失敗しろ!」

「きっさまぁ~」

竹川は走って、自販機に向かった。


休み時間、真美と話した。

「竹川さん、殴っちゃだめだよ」

「今日は、殴ってない」

「この前、鼻血だしたり、その前は口の中切ったりしてかいわそう」

「アイツは、鉄拳制裁じゃないと理解出来ないんだ」

「ま、そういうけど仲良しだからね」

「んん~中学から一緒だから。何でアイツが特進クラスにいるのか理解出来ないけど」

真美は無印良品のマシュマロを僕に分けてくれた。


「とし君は、やっぱり地元の大学で決まりだよね。わたしも市内の看護学校に決めたから」

僕は、柔らかいマシュマロが真美のおっぱいの柔らかさを連想してしまったが、マシュマロを口の中に放り込んだ。中にチョコレートが入っていた。

「とし君、大学卒業したら同棲しようね。前も言ったけど、わたし、料理が得意なの。毎日、とし君に食べてもらいたいの」

「この前の、ドリア美味しかったなぁ~」

「それが、毎日食べられるんだよ」

「楽しみだね」


キーンコーンカーンコーン


「あっ、次、英語だ。中瀬先生にビンタ食らう前に小テストの予習した?」

「してない。オレは予習しなくても出来るから」

「さすが、法学部志望」

「えへっ」

しかし、僕は小テスト20点満点で7点だったので、中瀬先生からビンタされた。

授業に遅れた、竹川も同罪だった。

真美は呆れていた。

90年代の教育現場は、ビンタは日常茶飯事なのである。

そう、夏までは僕は地元の大学へ進学する事が真美との約束だった。

模試でも、進学先のK大学法学部法律学科はA判定であり自信ありの状態。

そして、将来、真美との結婚は約束されているかのような時期であった。

高校生は純粋だから、世間の世知辛さをまだ理解出来ないのである。

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