第21話 僕らの日々


 日曜日。朝。


 バイトは休み。

 昴は自室で寝ていた。

 

 普段のアラームを止め、久しぶりの二度寝タイム。

 ゴロゴロと寝返りを打ちながら、現実と夢の狭間を行き来する。

 

 すると、左腕に何かが当たったような感触を覚えた。


「夢・・・・・・?」

 寝ぼけながらもゆっくりと左側を振り向く。

 振り向くと、美沙兎が横で寝ていた。

 何なら僕の左腕を抱き枕のようにしている。


「あー、何だ夢か・・・・・・」

 瞬きしながらもあくびをして昴は寝返りを打ち、二度寝タイムに再び入った。


 昨日、あんなことを考えていたから夢にも出てきてしまったのか。

 昴は夢で美沙兎がいる訳を理解した。


 数分後、背中に感じる柔らかい感触。


「・・・・・・」

 昴はゆっくりと息を飲みこんだ。


 夢にしては感触が現実的だ。

 昴は次第に現実へと戻されてしまう。


 恐る恐る首だけ振り向くと、美沙兎が寄り添うように抱きついていた。


 ――これはどう言うことだろう。


 何故か僕のベッドに美沙兎がいる。

 しかも、これは一緒に寝ていると言っても過言じゃなかった。


 昴は必死に経緯を思い出そうとするが、記憶に無い出来事。


「まあ・・・・・・いいや」

 訳がわからない。でも、それ以上に眠い。

 昴は気にせず寝ることにした。



 ―――



 午前九時。

 昴はふと目が覚めた。


「・・・・・・」

 振り向くと変わらず。

 僕の左には美沙兎がいる。


 違和感なく僕の隣で愛らしい顔で寝ていた。

 それもパジャマ姿で――。


 うずくまる美沙兎は僕の胴体くらいの長さしかない。

 こう見ると本当に美沙兎は小柄な容姿をしていた。

 もしかしたら、体重は僕の半分以下なのかもしれない。


「ふぁ・・・・・・?」

 気配を感じたのか美沙兎はゆっくりと瞼を開け、瞬きをしながら昴を見つめる。

「おはよう、美沙兎」

 よくわからない気持ちを抑え、昴は何食わぬ顔で言った。

「ん。おはよう、昴」

 寝ぼけながらもゆっくりと頷く。

 ふらふらと頭を揺らす美沙兎は実に愛らしかった。

「その・・・・・・どうして?」

 不思議そうに周囲を見渡し、美沙兎は首を傾げる。

「どうしてって?」

「どうして、私と昴は寝ているの?」

 起き上がり、女の子座りをして美沙兎は言った。


 乱れた髪に少しはだけたパジャマ。

 所謂、寝起きの姿だ。


「――え?」

 さて、どういうことか。

 昴は一瞬、理解出来ずにいた。


 ――どうして、僕らは寝ているのか。


 それは僕も聞きたいよ、美沙兎。


「その・・・・・・もしかして――?」

 何を思ったのか、美沙兎は自身の身体を見つめて顔を赤くし俯く。

「いや、何も無いよ? 無かったよね――?」

 記憶に無い。良くも悪くも記憶に無いのだ。

「たぶん・・・・・・。でも、なんで私はここにいるの?」

「それは僕が聞きたいんだけど」

 本当にわからない。見当もつかない。

「んー、パジャマだし・・・・・・。間違ったかな・・・・・・?」

 右手を口に当てると、一瞬だけ美沙兎は身に覚えのある顔をする。

「間違った――って?」

 もしかして、自分の部屋と僕の部屋を間違えたとか――な訳無いか。

「――いや、何でもない」

 ハッとした顔で美沙兎は首を左右に振った。

「そう? でもまあ、久しぶりに見たよ、美沙兎のパジャマ姿」

 彼女のパジャマ姿が見ることが出来て良かったのは事実だ。

「――嬉しいの?」

 上目遣いで美沙兎は昴を見つめる。

「うん、正直」

 嘘をつく必要は無いだろう。

 これが素直な僕の気持ちなのだ。


 昴の言葉に美沙兎は驚いた。


 その後、自身の身体をまじまじと見つめる。


「・・・・・・なら、毎日見る?」

 不思議と出たその言葉。

 美沙兎は呟くように言った。


「――へ?」

 予想外の言葉。

 昴は思わず声が裏返る。 

 昴の反応に美沙兎は自身が何を言ったのかようやく気付いた。

「何でも無い。――忘れて」

 咄嗟に俯き、美沙兎は強い口調でさっきの言葉を無かったことにしようとする。

「あ、うん」

 そんな口調の美沙兎は珍しく、昴は自然と頷いてしまった。

「昴は今日、休み・・・・・・だね」

 しばらくして、美沙兎はベッドにある置き時計の時刻を見てそう言った。


 美沙兎も休みだ。

 出なければ、こんなのんびりはしていないだろう。


「そうだよ」

「・・・・・・そっか」

 どこか安心したようにホッとした顔をする。

「・・・・・・ふあぁ」

 眠たそうに昴はあくびをする。まだ眠かった。

「・・・・・・ふぁ」

 昴のあくびを見たからか、美沙兎もあくびをする。

「あ、ごめんね」

 あくびが移ってしまった。

「昴の・・・・・・移っちゃった」

 物欲しそうな顔で笑みを浮かべる美沙兎。


 すると、昴に寄りかかるように美沙兎は隣で横たわる。


「ん? 美沙兎?」

「まだ寝たりない。昴も――でしょ?」

 見上げるように美沙兎は昴を見つめていた。

「うん、まあ――」

 あくびが出るし、まだ眠い。

 美沙兎の言うことは正しかった。


 でも、僕が寝れば、必然的に美沙兎と寝ることになる。

 特に何も無いし、ただ寝るだけのはずだ。

 だが、ひどく緊張している。


「それじゃ、おやすみ昴」

 そう言うと美沙兎は目を瞑った。

「あ、おやすみ・・・・・・」

 呆気に取られた顔で美沙兎の寝顔を見つめる。

「寝るか・・・・・・」

 昴はそう言うと小さくため息をついた。


 そして、昴は大きくあくびをして眠りにつく。


 僕らの日々は、少しだけ変化していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る