第14話 スワンの日々(1)
金曜日。
午後六時。
喫茶店スワン。
「ん? これは――先?」
パンケーキを皿に乗せ、昴はハッとした顔で夏樹に言う。
「いや、後だ。先にチョコパフェだよ」
コーヒーフロートを片手に夏樹は昴に鋭い視線を送った。
そして、コーヒーフロートをトレイに乗せカウンターに置くと、雪を呼ぶ。
「おー、まじか。あー、まじだ。急いで作るよ」
昴はメニューパネルを確認すると焦った顔をする。
――いかん。
優先順位を把握していなかった。
「いや、それは俺が作るから、お前はそのまま次のパンケーキを作れ」
周囲を見渡し、状況を理解すると夏樹はパフェ用のグラスを食器棚から取り出す。
「うーい」
夏樹の機転の速さに従うことしか出来なかった。
「昴。落ち着けよ? まじで落ち着けよ? おーちーつーけーよー」
チョコパフェを作りながら夏樹はパンケーキを焼く昴にそう言う。
「えっと・・・・・・、なんで夏樹はそんなに連呼しているの?」
パンケーキの焼き加減を見ながら、昴は呆然とした顔をしていた。
声だけでもわかる。
夏樹の機嫌が悪いことに。
「お前の動きが慌てているから言っているんだよ」
さっきまでの声質とは裏腹にあっさりとした声で夏樹は言った。
天井見上げ、夏樹の言葉の理由を考える。
「それは――すまぬ」
無論、視野が狭くなっていた僕が原因だ。
「ほい。たまごサンドイッチ」
昴と夏樹の間にいた秋悟は何食わぬ顔をしていた。
そして、サンドイッチが乗ったトレイをカウンターに乗せ、楓を呼ぶ。
「・・・・・・はや」
思わず口に出していた。
昴は口を半開きにして驚く。
夏樹と話していたから、秋悟の動きが見えていなかった。
と言うより、いつの間にそんなメニューが入っていたのか。
あまりに注文音が鳴り止まなかったから、最後のあたりは見ていなかった。
ドリンクサーバーでチョコパフェを作っていた夏樹も昴と同じような顔をしている。
背後で素早い物音が聞こえていたが、
まさかあの早さでサンドイッチを作っていたとは。
パンケーキを裏返しながらも、昴は考えていた。
今回のパンケーキはチョコ掛けのメニュー。
昴は調理台の下の冷蔵庫からチョコソースを取り出す。
背後にあるメニューパネルから再び注文音が聞こえた。
どうしてか、今日はいつにも増して流れが速い。
「――あ、今日は金曜日か」
顔を上げ、昴は気がついた顔をする。
「ああそうだよ。今日は金曜日。そして、今は金曜ピークだからな」
秋悟は小刻みに動きながらも、そう言った。
金曜ピーク。
スワンの一週間で最も回転率が高く、売り上げがある時間を差す。
「なるほどー」
昴は感心したように頷き、出来たチョコ掛けパンケーキをカウンターに乗せた。
しばらく、会話の無い世界が続く。
無音なはずだが、言葉を交わさなくても感覚的に身体が動いていく。
秋悟が軽食を。
夏樹がドリンクとパフェを。
僕はケーキ類を。
自身の為すべきことを淡々とこなしていく。
――時間を忘れるほど、僕はこの時間に没頭した。
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