第10話 昴と美沙兎(2)


 学校。

 昼休み。


「そう言えば、昴と桜木はいつから幼馴染なんだ?」

 康永は気になったのか昴に聞く。

 今日も僕らは机を囲み、お昼ご飯を食べていた。

「いつから・・・・・・、もう十年は一緒かな?」

 美沙兎との出会いを思い出す。

「十年――? そんなにか」

 目を見開き、康永は意外そうな顔をする。

「うん」

 そんな意外なことなのか。昴は何食わぬ顔で頷いた。

「その・・・・・・前も聞いたが、付き合ってはいないのか?」

「付き合ってはいないよ。――なんで?」

 付き合っているようなことをした記憶は昴には無かった。

「いやー、付き合っているように見えるぞ?」

 腕を組み、康永は解せない顔で言う。

「そ、そう?」

 別に普段から手を繋いでいるわけでもないし、二人っきりで何かしているわけでもない。

 登下校に関しては時間が合えば、一緒にしているわけで必ずしもと言ったわけではなかった。

 まあ、美沙兎が僕の家にいる件については触れないでおこう。

「何というか、もう付き合って数年のような雰囲気だぞ」

 康永は感心した顔で昴を見つめる。

「康永にはそう見えるのか・・・・・・」

 昴も感心したような顔で頷いた。


 考えたことが無かった。

 人からどう見られるなんて。

 

 確かに美沙兎は可愛いから、傍から見れば僕みたいな普通の男子といると勿体無いのかもしれない。

「んにゃ」

 微笑み康永は明るく頷いた。

「――案外、見た目と言うのは、自分が思うものと違うのかもな」

 すると、康永の言葉に何を思ったのか、夏樹が呟くようにそう言った。

 やけに重々しい雰囲気を纏っている。いったいどうしたのだろうか。

 

 自分の思う見た目。

 他人が思う見た目。


 昴は考えていた。

「んー、そう考えると、夏樹と雪って兄弟の雰囲気無いよね」

 見た目と言えば――。ふと思ったことを昴は言葉にする。

「え、そうか? やはり、双子に見えないのか?」

 身に覚えがあるのか、夏樹は途端に暗い顔になった。

「落ち着いて見れば、親族なのかなって思うけど、双子には見えないかもしれない。なんだろうね、雰囲気かな? 昔はあんなに似ていたのに」

 昴はしみじみとした顔で今の二人、昔の二人を思い出していた。

 二人の容姿はだいぶ変わった。それに雰囲気も。

「確かにな・・・・・・。二人で出かけても、兄弟には見られないからな」

「あ、やっぱりそうなの?」

「ああ。子供の頃は兄弟に見られてきたけど、知らない人から言われたことは最近無いなー」

 ため息のように息を吐き、夏樹は腕を伸ばした。

「――え、昔はお前も雪ちゃんみたいだったのか?」

 まじまじと夏樹を見つめ、康永はショックを受けている顔をする。

「ああ。あと、康永。雪を下の名前で馴れ馴れしく呼ぶな」

 睨むような眼差しにワントーン低い声で夏樹は言った。

「――すまん」

 夏樹の視線に康永は怯むように身震いをすると、小さく頭を下げる。

「中学二年生くらいかな? そのくらいから、少しずつ変わっていったよね」

 昴は中学時代の記憶を掘り起こしていた。

 記憶では少なくとも中学の入学式くらいまでは似ていたはず。

「あー、そのくらいなのか・・・・・・」

 思っていた時と違ったのか、夏樹は眉間にしわを寄せている。

「うん。どっちが変わったのかな? 両方ともかな?」

「――両方だと思うぞ」

「・・・・・・そうかもね」

「ん? つまり、夏樹は男に、雪ちゃんは女の子に、と言うことか?」

「・・・・・・康永。いつにも増してはっきり言うね」

 康永の隣で昴は唖然とした顔をする。

 間違ってはいない。だが、それはストレートに言うべきことではないのでは。

「そうなんだよな・・・・・・。雪も女の子――なんだよな」

 康永の言葉に夏樹は何を思い出したのか、大きくため息をついた。

「そうだぞ。雪ちゃんは可愛い可愛い女の子だぞ」

「わかっている。――と言うか、何度も言うが下の名前で呼ぶな」

 夏樹はもう一度低い声でそう言って鋭い眼差しを康永に向ける。

「えー」

 途端に嫌そうな顔で康永は言った。

 康永は女子の名前を下の名前で呼ぶことが多い。

 時々、美沙兎のことも下の名前で呼んでいる。

 不思議と康永が呼ぶと、何とも言えないもやもやした気持ちになった。


「俺も変わらないといけないな・・・・・・」

 天井見上げ、夏樹は思いつめた顔で呟く。


 ――良くも悪くも僕らは変わって行くのだ。


 

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