第11話 赫き焔

狭い車両の中で始まった戦闘。

無名と服部の戦いは、無名が防戦一方。

長刀を弾き、攻勢に回ろうとするも二本目の短刀が隙を埋める。


本来、二刀流とは究極の攻め。攻撃に特化し、防御を捨てる技。

しかし、目の前の男は二本目を攻撃の為ではなく守りの為に使っている。


「法被はどうした!誇りさえ手放したのか!?」


冷静な立ち回りとは裏腹に、荒れた声音で問い詰める服部。

弾き、防ぐのやっとの無名は言葉を返す事さえ叶わない。


「どうしたァ!赤き誠を背負った覚悟はその程度なのか!」

「くっ……」


二刀での攻撃が繰り出された際に、みかわしながら反撃を狙う。

一刀目をかわし、二撃目を弾き反撃を狙う。

数多の方法で転ずる機会をうかがうも、それらは全てあしらわれる。


――まるで、全て見透かされているように


「ああ、ああ!全部わかってる!お前のそういう剣が大嫌いだったからな!」


戦いが長引く程に服部の声音は裏返り、熱くなっていく。

目の前で繰り広げられる戦いは間違いなく達人の域。

技と技の読み合い。決め手を作る為の攻防。命のやり取りを鮮明に感じる激闘。

ヴァリアスで見てきた超人的戦いではない、人と人の命の取り合い。

このまま決着がつかないのではないかと思う程に、拮抗した戦い。

しかし、先に限界がきたのは無名の方だった。

振り上げから繰り出される峰の叩きつけ、そのまま足を挫いた無名は抑え込まれる。


「やはりなあ!もう使えないのだろう秘儀は!?」


無名の力量を測りきったのか、服部は距離を取り、二刀を交差して構える。


「我が技を持って、決別としよう」

刀が赫く染まり、猛き炎が太陽のように踊る。


「さらば旧友ともよ、今度こそ戦いの中で散るが良い!」


――双撃一束そうげきいっそく 


確かに二刀より繰り出された攻撃、それは無名に届く頃に一つとなった。

確かに受けとめたはずの無名の刀からすり抜け、肩へと刃は届いた。

――しまっ

刃は体を切り裂き、無名は血を吹き出す。


「うあぁッ!」

倒れそうになる体、それでも無名は力強く一歩を踏みしめる。

「鈍ったな」

一つに束ねられたはずの一撃が遅れてもう一つ。

無名の胸にはXの字に切り傷がついていた。


言葉無く、口から塊となった血を吹き出し無名は倒れる。

「仕事は仕事だ。道を違えたからにはきちんと殺さねえとな」


服部が刀を掲げ、とどめと振り下ろす。

「やめろ!」

それがどれだけ愚かな行為か、ソラ自身もわかっていた。

しかし、ただ見ているだけも、逃げる事も叶わない。

――やらねば

手を伸ばし、突き飛ばそうと伸ばしている事に気づかぬはずもなく。

空いていた左手の短刀を逆手でソラへと振り上げる。

――くそっ、止まらない

このままでは手を切り落とされる。手はもう止まらない。

恐怖に思わず目を閉じる。いつもこうだ。何も出来ない自分が憎い。

しかし、その一撃が腕を切り裂くことはなかった。

目を開くと、クナイで刀を抑えこむアズキの姿が見えた。


「痴れ者。技を極めておきながら、見境なく殺すか」

「何もんだお前……」

持ち上げる力と振り下ろす力。男と女。

生物として、世界に生きるものとしての法則を無視した力関係。

服部の刀が見る見ると持ち上げられ、果てには宙へと弾かれる。

右手の刀がアズキに届く。しかし、アズキから血が出ることはなく、煙と消える。

列車内に充満した花の香りと視界の悪さでようやく気付く。

――術か……

初手を防がれた瞬間に、空いた手で印を結ばれていたのだ。

「やるじゃねえか」


奥から二人が現れ、服部と合流する。

「こちらも逃げられた。予想外の参入者だ」

「狐の?」

「ああ、桜模様の入った制服に、狐の面の女だった」

「集団か?」

「いや、恐らくは魔術の類だろう。まんまとやられたな」

やがて、列車内の光景は塗り替えられていく。

列車から降ろされ、レールと暗い夜の空が見える。


「次は負けねえぞっと」

刀を鞘に納め、レールの上でバランスを取りながら歩く服部。

それに続く2人の男たち。

気が付けば男たちの姿はなく、溶け込んだ黒い水溜まりのようなものだけが残る。







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