第10話 望まぬ再会

「これは……」

待ち合わせの場所へ向かうと、そこには誰もいなかった。

煙と共に破損部からオイルを流し、力尽きているからくり達。

そこには戦闘の痕跡があった。

「何者かの襲撃……」

「でも!侍とからくり以外に派閥はっ!」

もし、襲撃であったとして。それは誰によるものだというのか。

侍とカラクリたちが手を組んだ以上、それは第3勢力の存在を意味する。

ツクヨでも、侍でもない何者。

何かあれば連絡すると言っていた次郎のトランシーバーが落ちている。

「……」

周りを見渡しても大将たちの姿は見えない。

どうするべきか、迷いが判断能力を損なわせる。

「主様」

真剣な表情でアズキが跪いて口を開く。

「宵の刻、からくりたちは夜襲を受けました」

「一体誰に……?」

「笠で顔を覆い隠し、黒いダンダラ模様の法被を纏う6人組としか……」

「……そんなまさか」

無名だけが、最悪の結論に辿りついた。

しかし、それを知った所で一体何になるというのか。

「アズキ殿、次郎殿たちの行先は」

――どちらにせよ、果てに必ずそれと出会うと無名はわかっていた

「椿城の荷物運搬に使われる倉庫行きの列車があるので、車庫で落ち合おうと」

「ありがとう、アズキ。行こう」


・ ・ ・ ・ ・ ・


車庫までの距離は想像以上のもので、着く頃には日が沈んでいた。

緊迫した空気が離れず、移動しているだけにも関わらず、その疲労は凄まじい。

しかし、誰一人根をあげるものはいなかった。

誰もが、引けぬ所まで進んでいることを自覚していた。

一人で国を管理しているとはいえ、一定数使役している兵士がいるようで、車庫にも見張りがいたのでバレないようにこっそりと、約束の5号車の倉へとたどり着いた。

「よくも裏切ってくれたわね」

美月が槍を向け、警戒の姿勢で立ちふさがる。

「こら、よしなさい。裏切り者がここに来るはずないでしょう」

次郎が美月の槍を下げ、こちらに歩み寄る。

「アズキさんに伝言を頼むことだけとなり申し訳ない。話は伺っているでしょう」

「ええ、夜襲を受けたと」

「はい。それと、大変申し上げにくいのですが。彼らは赫刀を持っていました」

「ええ、そうでしょうとも」

蒼き正義を捨て、秩序と恒久の不変の象徴である黒き誠を背負う者。

「新撰組。噂をすればなんとやらですね」

「椿姫に雇われている……?」

「わかりません。ですが、ですがっ!彼らは……、確かにあの日」

頭を抱えて取り乱す無名の肩に手をかけ、次郎が励ます。

「何故を考えても仕方ありません。今は唯、衝突し得る障害とだけ考えましょう」

「はい……」

「そしてソラ殿、今後の作戦について改めてお話します」


椿姫単騎と戦う為に、攪乱部隊を一つ設け、倉庫を襲撃する事。

これを生き残ったカラクリと侍たちに任せ、主戦力全てを姫にぶつける。

単純であるが、それ以外に方法もない。

「そして、彼女が脅威たる所以の紫電についてですが」

「私たちに任せてもらう」

美月と仙月、それぞれが赤い布を巻いた黒槍を構える。

「では、拙者は忍術で援護させていただきます」

(後はメノたちが援護射撃、無名が決め手に……)

戦法を練っている最中、ミコトに袖を引っ張られる。

「先生、無理も承知の上なんやけど一つええ?」

「どうしたの?」

「うちらは攪乱班の援護に回ってもええやろか」

「うーん……」

どうしたものかと唸っていると、美月たちが代弁する。

「大丈夫、絶対私たちでなんとかするから」

「ああ、攪乱班にも戦力は割いたほうがいい」

口にせずとも、皆頭に浮かべている予想外をわかっていた。

「ソラ殿は私が命に代えても守ります」

「無名はんも死んだらあかんよ。そん時は死ぬ気で逃げや」


・ ・ ・ ・ ・ ・


そうして第一班のソラたちは車両に乗り込み、ミコトたちが見送る。

「いいかいミコト。君もいざとなったらメノたちを連れて逃げるんだよ」

不安そうに拳を握りしめるクルミとメノ。

真剣な表情のケイ、羅生姉妹。

ソラの不安を少しでも減らせるようにミコトは笑い、手を振る。

「命より大事なし。逃げ足の速さならまかせとき~」


汽笛が吹かれ、ついに発車。

蒸気機関の音と車両が揺れる音と共にミコトたちが小さくなっていく。

両手を組み、どこか遠くを見つめたままのソラたち。

間もなくトンネルを通り、城へと着く瞬間に違和感を感じた。

無臭だった車両は、血の匂いで満たされていく。

環境音は次第に小さくなり、暗闇が不安を煽る。

長く、長い暗闇を抜け、車両の奥から点々と灯りが付き始める。

緩急で思わず視界を腕で塞いでしまう。

ソラたち以外に誰もいないはずの車両の奥に人影が写る。

影がなくなっていくにも関わらず、目の前のそれは暗いままである。

ボロボロの笠を深く被り、黒い法被に小豆色の袴。

皆がその存在に気づき、視線をそらさない。

瞬き一つで見失うような気がする。

それは、ゆっくりと笠を外し、一人の人物へと語り掛ける。

「どうしてお前さんがにおるんかのぅ」

「……」

腰に据えた二刀を抜き、片方を肩に乗せ、片方をこちらに向ける。

「どこまで不忠なのやら。まあええ、お前さんと語りあうことはない」

先の車両から金属のぶつかり合う音が聞こえる。

恐らく向こうも交戦中なのだろう。

無名も刀に手を当て、抜刀する。

「語り合う頭の無さが貴方の欠点だ、服部はっとり!」




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