第9話 一進二退

「作戦は改めて確認するとして、とりあえず顔合わせとしましょう」

先ほどまでの街並みとは異なり、殺風景な場所に辿り着いた。

「なんでこんなに……」

「あそこは大名や地位のある商人たちだけが住まう場所。大半はこの通り」

人と見わけがつかない見た目のものから、マリアのようにいかにも機械という見た目のものまで見られる。


「からくり」というのは随分と広義なものらしい。

「おつかれさまです。こちらが兵舎として利用している場所です」

ガタガタと噛み合わない扉をスライドさせると、中から何者かが飛びつく。

「おっそ~い!もうお腹ペコペコだぞ!早く仕事いこ!」

白い胸当てと白いタイツ。凡そ全身が白に包まれた少女。

黒いブーツをバタバタと動かし、次郎にのしかかっている。

美月メイユェ、客人の前です……」

「客人?うちらにそんなのいるわけないじゃん」

そういって、一応確認で見渡す少女と目が合う。

「あ……」

「どうも……」

「に、に、にんげーーーーん!」


・ ・ ・ ・ ・ ・


「あっははははは!なっさけねー!なさけなさすぎるっ!」

機械型のカラクリたちが黙々と作業している中で、笑い声が響く。

「もう!仙月シェンユェ!恥ずかしいからこの話は流してよ!」

美月と対照的に真っ黒でゆったりとした服装の少女・仙月。

元は菊の国の者だったが、訳あってからくりたちの大将を務めているらしい。

「自分で言うのもなんだけど、全然警戒しないんだね」

あぐら、寝そべりとリラックスした体制で話をする二人にソラは笑いかける。

「次郎が連れてきた人間だしな。警戒する必要あるか?」

「うんうん。次郎、見る目だけはあるもんね」

(大将の一人だし、次郎さんってやっぱり強いのかな……)


「「次郎は戦闘でなんの役にも立たないよ!」」


ナチュラルに心を読まれ驚くも、返答に涙が零れた。


「ソラも戦闘ではなんの役にも立ちません!」


こっちの大将も負けていないと言わんばかりに胸を張るクルミ。


「えー、こんなに筋肉質でいい体してるのに……」

「まあ、向き不向きがあるからな。運搬や支給係だったりするのか?」

美月と仙月、それぞれ言いたい放題だが、気さくな様子で安心した。


後2人の大将がいるらしいが、外出中とのこと。

合計5人の大将と機械型カラクリたちによる隊を組み、交代制で戦っていたらしい。

「土曜日と日曜日は休戦日!休みがないと作業になっちゃうからな!」

十分、戦は作業ではないだろうか。というツッコミはしない。

話を聞いている中で、疑問がいくつか出てきた。

「からくりたちに複数人の大将がいるってことは、侍にも大将が他に?」

「……」

無名は下を向いて黙り込んでしまう。

無理に言わなくてもいいよ。そう声をかけようとしたと同時に言葉が出てきた。

「私達にも複数の大将がいました。正確には先導する組織がありました」


「「「新撰組」」」


無名、次郎、美月、仙月。知っている者たちが口を揃えて呟く。


「新撰組って、幕末に江戸幕府の徴募により組織された浪士隊?」

ソラの知り得る限りの情報を訪ねてみると、誰も頷く者はいなかった。

「江戸……?他にいるのかわかりませんが、一人の男によって結成された組織です」

「青いダンダラ模様の法被に、赫き刀を持つ超人集団」

「心無き戦場の鬼。鉄心の生ける嵐。異名は聞けど、いい噂はあんまり聞かないね」

「……」

「その新撰組は……?」


「消えました。ある日、突然として」

話が進む程に暗くなる無名の顔。

「消えた……?」

「詳細は不明ですが。とある戦に出向いた際に、彼らは姿を眩ましました」

「……」

「以降は兵長が繰り上げで大将となり、今の我々を率いて戦っていました」

「まあ、最近やけに勝てるな―とは思ってた」

この話題を続けるのはやめた方が良さそうだ。ソラが話題を変える。

「とりあえず、皆手伝ってくれるってことでいいのかな?」

次郎の方を向き、戦力の確認をする。

「そのつもりではいますが、何せ相手は月光ノ龍。全員とはいかないでしょう」

「箸の持ち方の次に習う事だからね。彼女とは戦うなって」

「そこまでなんだ……」

「いつのことかも思い出せませんが、かつて椿は治安維持を務める程に秩序を重んずる国でした。慎ましく、平和に生きる。それが彼女椿姫の信条だったはず」

「急に変わっちゃったよね」

「決断する日が来たということでしょう。我々は真実を確かめなければならない」

「話をする為にも、まずは戦わなきゃ始まらないしね」

「ソラ殿、これを」

次郎は腹部のシャッターを開き、トランシーバーのようなものを取り出した。

「これは……?」

「通信機です。今日中に兵士たちに話を伝え、明日ここで集合予定ですが、何が起きるかわかりません」

(桃楽龍宮にも電波ってあるんだ……)

「わかりました。では、私たちも一度戻り、侍の皆さんに伝えてきます」

「ええ、そのように」


・ ・ ・ ・ ・ ・


夕暮れ頃、次郎たちと別れ廃寺へと戻る道の途中、ミコトが袖を引っ張る。

「どうしたの?」

「先生にはうちたちが、桃楽龍宮出身ってことは言っとったよね」

「うん」

「ヒトミちゃんたちは訳あって記憶がないんやけど、うちとケイちゃんは、確かにこの学園の終わりを見届けたはずやった」

「はい」

二人で顔を合わせ、事実確認をするも困った表情のまま。

「でも、うちらはここについて何も覚えてない。最初から知らんかったみたいにな」

「どういうこと……?」

「新撰組も、リョウマはんも、シンはんも、全部初めて聞いたことばかり」

「過去に来たと思っていましたが、そんな単純な話ではないかも知れません」

「……」

「力になるどころか、混乱するような事しか言えなくてごめんなさい」

「うちらは……どうしたらええんやろか」


ミコトの肩は震えている。ここまで口数が少なかったのも、このせいだろう。

確かにその話を聞いてもどうする事も出来ない。今はリョウマに言われたようにこの世界を作りだした犯人を見つけ出し、星の核を破壊する。

そうすることで元の世界に帰れると信じるしか、出来る事はないのだから。

「大丈夫、絶対になんとかしてみせる」

強がりかも知れない。でも、今かけれる言葉は精々この程度のものだ。

「ごめんなあ先生。でも、おかげでちょっと元気でたわあ」

「ソラさん、頼もしくなりましたね」

「常に最悪を、だけど希望は捨てない」

「ええ、そうでしたね」


改めて、知らない世界がいかに不安を煽るのか実感した。

無理難題に挑戦しなければならず、どうなるか、どうにか出来るかさえわからないまま、進まなければならない。それは誰にとっても怖いことだ。

自分が守り、導く役目を持つこと。彼女たちがまだ子供であることを刻み込む。


――私がやらなければ


少しでも気が紛れるように、帰り道は明るい話題をするようにした。


・ ・ ・ ・ ・ ・


進展に夢中で色々なことを忘れていた。

桃楽龍宮に来て既に2日。濃厚な毎日で忘れそうになる。

――リョウマの所に戻っていないけど大丈夫だろうか

カエデも常に傍にいるという訳でもなく、夜に消えて、朝に戻ってきているようだ。

「ごめん。探してるんだけど、見つからないんだ」

「ッ!」

「……」

「大丈夫なの……?」

「ああ、リョウマに何かあればわかるようになってる。だけど、何もないのに姿が見えないのも不安だ」

「探しに行っても大丈夫だよ」

「心配ない。何かあれば龍になって駆け付ける。リョウマは私に、ソラたちの助けになれと任されているからな」

「そっか……。じゃあ、引き続きよろしくね、カエデ」


話している内に到着し、大将が出迎えてくれる。

「よう、おつかれさん。その様子じゃ上手くいったみたいだな」

「作戦は明日決行ですよ」

「なにっ……!?お前さん、仕事が早いというか、割と働きものなんだな……」

「一日でも早く、苦しむ人たちが減る為ですから」

――ここの子供たちや民、そして生徒たちの為に根をあげる訳にはいかないのだ

「ははっ。それじゃあ、決戦に備えての景気づけに一杯どうだい?」

「お、お酒は……」

「水臭いこというなよ!今日が最後かもしれないんだぜ!」

「そんなことにはさせませんよ」

笑いながらも、ソラの心は燃え盛っていた。

――絶対にそんなことにはさせない

彼は本気でそう思い、信じ、誓っていた。


ここで終わるわけにはいかない。例え、どんな最悪が待っていようとも


――To be continued.






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